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ロボスの娘で行ってみよう!

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第14話 コーヒーよりも紅茶が良い


ヤンの出会いです
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第14話 コーヒーよりも紅茶が良い

宇宙暦788年5月16日

■自由惑星同盟 エル・ファシル 同盟軍駐屯基地

 艦隊決戦で四散した残存兵力を最後まで収容していたリンチ司令官が基地へ降り立ったのは22時を越えていた。その間に地上基地と旗艦グメイヤからは宇宙艦隊司令部や近隣星域に連絡が図られたが、帝国軍の妨害電波により連絡が不能になった。

既に駐屯地周辺には恐怖に駆られた市民が集まり始めていた。帝国に捕まると、民主主義の迷いから解放するためと称して辺境の惑星で死ぬまで農奴としてこき使われるからである。

リンチ司令官は、このままであると、300万人の市民が農奴として攫われると認識していたため、何とかして増援か脱出を図らなければと考えていたが、旗艦での話し合いでは良いアイデアが出てこなかった為に何かいい手はないかと考えながら司令部へと到着した。
喧噪の中、司令部ですぐさま検討を始めるべく幕僚達を集めて始めた。

其所へ待っていた、ラップ中尉がヤン中尉を連れて話しかけてきた。
「司令官閣下、宜しいでしょうか?」
リンチ司令官は、ラップ中尉と共に来たヤン中尉を見て、こんな時にエル・ファシルへ来るとは何と運が悪い中尉なんだろうと些か同情していた。

「ラップ中尉、どうかしたのか?」
「エル・ファシルからの脱出に付いてであります」
渡りに船である。

「ラップ中尉には良い案があるのか?」
「小官ではなく、ヤン中尉の今回の出張の目的がエル・ファシル危機についての論文の考査でありました」

「ヤン中尉、それは本当かね?」
「はっ、士官学校で作成され、統合作戦本部と宇宙艦隊司令部で検証された資料であります」
ヤンはそう言ってリーファが作った資料であるが、リーファの名前は何処にも書いてない資料をリンチ司令官に渡した。

それを食い入るように見るリンチ司令官、時折頷いたり、驚いたりしている。
周りの幕僚が気にならないほど集中して10分ほどで読み終わったリンチ指令官の顔は、
今までの焦燥が嘘のように、ほっとした表情に成っていた。

「ヤン中尉、この作戦は確かに素晴らしい、勝算もかなりなモノだ」
「はい、制作者及び小官とラップ中尉の状況判断を入れた結果ですが、勝算は90%を超えます」
「うむ、この方法以外には案が出てこないのであれば、実行するしかないな。ヤン中尉、ラップ中尉貴官らが此所にいる者達に説明を頼む」

リンチ司令官の命により、ディスプレイにエル・ファシル脱出作戦の細評が表示されると、司令室の空気が一変した。

最初に残存艦隊200隻を囮として反対方向へ自動操縦で逃がして敵艦隊を誘引し注意を引きつけるというのである。その後300万人を船に乗せて、レーダー透過装置も付けずに悠々とエル・ファシルから脱出すると言うのである、敵の心理を利用して隕石群と思わせて逃げるというのである。あまりの運頼みに呆れる者が続出したのである。

参謀長が怒った口調でしゃべり出す。
「閣下、無茶です運頼みの作戦など、統合作戦本部の作戦といえども断るべきです」
「参謀長、我々は包囲され既に通信は途絶している、座して待つよりはやってみる価値が有ると思うが」

「だいいち、自動操縦ではパターンが判って敵に気づかれます」
「そうです、動きが単調すぎます」
「見つかるだけです」
多くの幕僚が反対意見を述べる。

リンチ司令官が瞠目していたが、カット目を開いて言い放った。
「よかろう、自動操縦が不味いのであれば、グメイヤだけは有人操縦で行こう、他艦はグメイヤに動きを同調させれば、単調な動きには成らない」

「しかしそれでは、グメイヤの乗組員が捕虜に成るかも知れません」
「犠牲は最小限にしないと行けません」
そう言う、参謀長や幕僚の目がヤンやラップに注がれている。
つまりは言い出しっぺのお前達が囮になれと無言の圧力をかけているのである。

ヤンもラップも腹をくくって囮役を引き受けるしかないと思い出していた、その時であるリンチ司令官が只一言力強く。
「俺が行こう」

騒然となる司令室。
「閣下自ら危険な目に遭うというのですか?」
「あまりに危険です」

しかし、リンチ指令官は自分の考えを話した。
「俺は、エル・ファシルの指揮官だ、その俺がおめおめと部下を囮にして逃げる事はできんよ、
それに俺は航海科出身だから、操縦なら一人でも出来る。犠牲は一人で十分だろう」

リンチ司令官の顔は、すべてを悟った修行僧のようで清々しく感じた。
ヤンやラップなどは、感動していた。
「司令官閣下・・・・・」

リンチ司令官ははにかむように言う。
「たまには、俺も格好いいところを見せたいんだよ、それに死ぬと決まった訳じゃないしな」
ヤンもラップも、十中八九戦死か捕虜であろう事は予測できるにもかかわらず、囮に成ろうとするリンチ司令官は名将だと思うのである。

反対意見を押しとどめて、リンチ司令官はテキパキと指示を出し始めた。
幕僚連中には敵の動向と味方に対しての援軍要請をすることが出来るかの再調査を、陸戦部隊にはブービートラップの設置を、そしてヤンとラップには船の手配と避難民への折衝を任した。
此は参謀長以下がこの作戦を理解しようとしないために一番詳しい2人がやる事に成ったのである。

体の調子の思わしくないラップが船の手配を一気に引き受け、ヤンが市民の代表との折衝に当たる事になった、本来であればラップが適しているのであるが、長時間夜風に当たるのも体の毒だという事で決めたのである。

最初にリンチ司令官が市民の代表者と話をした。
「皆さん落ち着いて下さい、小官が責任者のアーサー・リンチ少将です、安心してください。
軍はあなた方を見捨てる事は致しません、必ず安全地域まで脱出させますので協力をお願いします」

リンチ司令官が話すと、市民の多くが安堵した表情になった。
「つきましては、小官は全体指揮を執らねば成らないため、此所に詰める事が出来ませんので、脱出計画の立案者である、ヤン中尉が此所の指揮を執りますので、宜しくお願いします」

「皆さん、ヤン・ウェンリー中尉です、皆さんを安全に脱出させる為に頑張りますので、よろしくお願いします」
リンチ司令官の言葉を聞いていたため、多くの市民がヤン中尉を歓迎してくれた。
原作のように青二才だのという悪口は殆ど聞かれなかった。

それから、ヤンとラップは精力的に脱出計画の準備を続けた、全般の指揮で忙しい、リンチ司令官も時間を作っては精力的に行政府の代表達と話し合いを行いながら、各所に顔を出して市民を安心させていた。
しかし、参謀長以下幕僚はあまりまともに仕事もせずに、なにやらヒソヒソと相談し合っていた。

そのころ、ヤンには原作通りの出会いが待っていた。
その日は、朝から避難民の食料などの配給を行い、気がつけばもう20時を過ぎていたが食事も取らずにいた。その時グーっとお腹が鳴って恥ずかしいそうなヤンの元に、ヘイゼルの瞳と金褐色の髪を持つ美しい14歳ぐらいの少女がサンドイッチとコーヒーのコップを乗せたトレーを持ってやって来てヤン渡してくれたのである。

「ありがとう、ミス・・・」
「グリーンヒル。フレデリカ・グリーンヒルです」
「ありがとう、ミス・グリーンヒル」
「フレデリカって呼んで下さい」

早速サンドイッチを食べ始めるが、忙しく食べた為、喉に詰まらせるヤン。
それを見てコーヒーを渡すフレデリカ。
「あー助かった。けどコーヒーよりも紅茶が良かったな」
「あら」
フレデリカは、にこやかに抜群な笑顔でヤンにほほえみかける。
その時は直ぐに分かれてしまったが、運命は原作通りの出会いを起こしたのであった。

 
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