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ユキアンのネタ倉庫

作者:ユキアン
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賢者の孫騎士



あの鳥は肉は美味しくないけどガラから良い出汁が取れるんだよな。あの猿は尻尾が珍味だ。常食にはこっちの猪だ。全ての獲物の首を風の刃で切り落とし念動で持ち上げて血抜きを行う。血の匂いに釣られてやってきた動物を殺気を叩きつけて追い返す。血抜きが済んだら風の刃と念動を巧みに扱って解体も行う。慣れてしまえばこんなものだ。

最初の頃はナイフで解体していたが、血まみれで帰ると爺ちゃんはともかく婆ちゃんに怒られるから今では魔法で全部を済ませている。ナイフでやるより楽だし時間が余るけど、その分を筋トレに回している。

まだ6歳だけど、爺ちゃんの知人であるミッシェルさんが来る度に色々な武術を指導してくれる。それに耐えるための肉体作りは欠かせないのだ。まあ、どの武術もあまりしっくりこないんだけどね。まだましなのが剣だけど、何処か違う。型もそうだが、決定的な何かがずれている。

大剣かと思ったが大外れだった。普通の片手剣も微妙に違う。刺突剣は惜しい気がした。マインゴーシュも違う。何か、他にあったか?まさか、アレか?そもそも作れるのか?

爺ちゃんが言うには魔法はイメージが大事だ。アレを真似するためだけに殺陣教室に通ったこともあるし、卒業制作でも好評を得たこともある。それが染み付いているのか?とりあえずやってみるか。今の体型に合わせた枝は、あった。それを柄部分だけの長さにカットする。それを握り、イメージと共に最も得意だった第3の型、ソーレスに構える。

「おぅ、本当に出来たよ」

青色に輝く光刃を眺めながら型通りにライトセイバーもどきを振るう。それがしっくり来すぎている。まあ、ライトセイバーは対人用だから対人外用の型を新たに生み出す必要が出てくる。ライトセイバー自身もちゃんとしたものを使いたい。それに、意外と光刃を形成し続けるのが辛い。イメージが揺らげば、すぐにでも自分を傷つける結果に終わりそうだ。

まあ、収穫としてはジェダイの様に念動を利用した機動補助とアタロの動きでミッシェルさんから一本取れたことだろう。二本目からは身体の軽さから簡単に弾かれるようになって勝てなくなったけど。








アタロの型でミッシェルさんから一本取ってから4年。念願の魔道具によるライトセイバーの開発に成功した。爺ちゃんは多彩な魔法をぶっ放すのは得意でも物品に魔法を込める付与魔法が得意ではなかったが、婆ちゃんが得意だったので婆ちゃんの指導の元で魔道具の開発に励んだ。魔道具の製作は少しだけ特殊で付与したい魔法を発動直前で留め、その魔力を付与したい物品に自分が理解している言語の文字で現象を書き起こすのだ。

この文字に書き起こすのが厄介で、物品によって文字数が決まっているのだ。無論、文字数が多ければ多いほど高級品だ。さすがにそんな高級品を強請るようなことはせずに漢字を利用することで文字数制限をカバーする。この世界ではアルファベットなんかと同じで文字がいくつか揃って初めて意味を成す。漢字なら一つの文字に意味をもたせることも可能だ。

さらに突き詰めれば自分で作り出した記号に意味を持たせれば更に短縮することが出来る。ライトセイバーも最初は『光熱刃』の三文字だったのが、クリスタルの図案にすることで一文字扱いにすることが出来た。ただし、恐ろしく時間がかかり普通に漢字で書く方が楽に済む。何せ完全に図案だけでその意味だと自分に刷り込まなければならない。漢字のテストでクリスタルの図案に見える漢字を書けば正解で、周りもそう書くのが当たり前なんだと自分すらも騙し切ることで初めて付与が成功するのだ。『トリコ』のアルティメットルーティンとほぼ同じ技だ。

おかげで消耗が激しすぎて知恵熱でぶっ倒れている。偶々来ていた商人のトムさんとメリダ婆ちゃんが呆れている。

「文字数には十分余裕があるっていうのに、何をやってるんだか。余っている文字数の使いみちもないんだってぇ」

「革命的ではありますが、一つの付与でここまで消耗してしまっては使えないでしょう。その前の独特の文様の方が世紀の発見ですよ。付与専用言語として纏めて頂ければ買い取りますよ、シン君」

「婆ちゃんに言われて簡単なのだけ纏めてあるよ」

引き出しを指差してそこにある簡易辞書と組み合わせ表を取り出してもらう。

「こっちが文様の意味。こっちが組み合わせ方。逆にすると意味が変わったり、ちょっと抜けたり、ずれたりすると意味が変わる物もあるから簡単なのしかないよ」

書きやすく、意味も単純な物を厳選しているが、どれも攻撃・防御用にしか使えない。もっと婆ちゃんの様に生活の役に立つような漢字を用意したいのだが、途端に画数の多い漢字になってしまう。おかげで冷蔵庫とか洗濯機とかがオレにしか作れない。

「おお、これは素晴らしい。メリダ様、こちらを複製させていただいてもよろしいでしょうか」

「待ちな。あんまりまずいのが広まると犯罪に使われるかもしれないからね。先に確認するよ」

「ええ、それはもちろん」

犯罪に使えそうな漢字なんてあったかな?ああ、開とかはヤバイな。錠がないからまだ安全か。

「まあ、問題はないか。ちなみにシン、犯罪に使えそうなのは?」

トムさんにペンと紙を取ってもらい『開錠』『失神』『消音空間』を書き起こす。どれもオレが使える魔法の漢字だ。3つとも説明すると使用を禁止された。当然だな、オレでもそう思うもん。

「むしろ、どんな魔法の文字が欲しいの?」

トムさんに希望を聞いて『光源』『冷蔵』『送風』『水生成』『加熱』を書く。婆ちゃんもそれ位なら良いだろうと言ってくれたので問題ない。

「それではこちらが代金の一部ですね。さすがに全額は大金過ぎますからマーリン殿にお預けいたしますので」

そう言ってトムさんが金貨を1枚と銀貨が6枚と銅貨10枚ちょっと入った財布を渡される。

「ちょっとした買い物ならそれで十分大丈夫ですよ」

「……これがお金か、初めて見たな」

その言葉に婆ちゃんとトムさんが固まる。

「10歳ならセーフでしょうか?」

「ギリギリだけどね。今日気づかなかったら成人するまで気づけなかった可能性があるよ。シン、あんたもしかして街に、いや、ここに訪れる者以外の人に会ったことはあるかい?」

「(今世だと)ないよ」

トムさんと婆ちゃんが揃ってため息をつく。

「トム、悪いけど暫くの間シンを預かってくれないかい?年に何回か、社会勉強を兼ねて、そうさねぇ、2週間程度でいい。マーリンには私から説明しとくよ」

「ええ、もちろん構いませんよ。よく考えれば友達の一人も居ないことになりますから」

そういう訳で二日後、トムさんの馬車に同乗する形で王都に向かう。荷物は数日分の着替えとフード付きのローブとライトセイバーが二振り、それとブラスターもどきが一丁とトムさんに貰った財布だけだ。

正直、ライトセイバーのフォームの修行と開発が忙しくてボッチで寂しいとかそんな気持ちはなかったのだが、常識を知らないのはまずいと分かっているのでこれも勉強と言うことで楽しみにしている。

フォームの方はミッシェルさんとの訓練でシャイ・チョー、ソーレス、アタロは問題なく、シエンは体格の問題で保留中だが型は問題ない。さらにソーレスを元に発展させた見切りとカウンターのフォームとアタロを元に発展させたフォースの念動を多用する高機動のフォームの2種類を開発中だ。

移動中は最低限の常識を習いながら日課である念動の強化と魔力の練り込みを行う。正確には魔力の制御訓練なのだが、体内での循環、体外への放出、放出した魔力を再び体内へ戻すというのを繰り返す。これがこの数年で最も効率の良い制御訓練だと判断している。

実際の所、念動の力がどんどん上がっている。いずれはベイダー卿のようにモニターの先の指揮官をフォースグラップで殺したり、マスター・ヨーダのように戦闘機を持ち上げれるだけの力と射程を身に着けたいものだ。こんな視界に入る距離にいる猪の魔物の首をへし折るんじゃなくてさ。

「シン君、まさか君が!?」

「えっ、何が?」

「あの猪の魔物は君が倒したのかい!?」

「まずかった?」

「いえ、まずいというか、そんな簡単に。ハンターでも素人が手を出すと死人が出るというのに」

「あの程度で?」

あんなの突っ込んできた所をサイドステップですれ違い際に頸動脈を切ればすぐに死ぬのに。

「まさか普段から?」

「普段は虎とか獅子を剣技の練習台に」

「さ、災害級の魔物を練習台!?」

「災害級?」

「一匹で国が傾くのを覚悟で当たる必要がある魔物です」

「ちょっと身体が大きくて速いだけのアレが?」

「そういう反応が返ってくる時点で可笑しいんですよ!!」

むぅ、あの程度が最上級となると力を腐らせて過ごすしかないのか。パダワンを取って鍛え上げるのも一つの手か。

「所で、災害級の敷物って売れると思います?」

「まさか、持っているのですか?」

「異次元収納の中に何枚か。素材は3倍ぐらいの量が」

「災害級がそんなにも!?一体何処に居たんですか!?」

「大分、向こうの方。えっと、この馬車の速度でまっすぐ進んで、ちょっと待って、丸々3ヶ月位の場所」

「人が住んでいない魔境ではないですか!?いえ、それよりもそんな距離を一体どうやって移動しているのですか」

「魔力でマーキングした場所か、見えている範囲に転移する魔法があるから。あとは、走って開拓中ですね。災害級の上位種らしき魔物も見かけましたから」

「災害級の上位種ですか?」

「双頭の獅子とか、天を掛ける虎ですね。あれらは別格ですね。成人までには超えたいですけど」

あの2頭はまさに王者の風格を持っていた。何より、他の魔物にはない理性を感じられた。下位種である獅子や虎を狩っても、お互いは狩らず、僕を視認しながら襲いかかることはせず、倒せるものなら倒してみろと言わんばかりでした。あの2頭を超えて初めて、マスターを名乗れるだけの強さを得たと堂々と言えるはず。

「何故そこまで力を求められるのですか」

「それは、それは、なんでだろう?」

トムさんに言われて考える。何故、力を求めるのか。魔境に居る魔物が人類が済んでいる所に来ることはほぼありえない。距離が遠すぎるからね。だから、外的要因ではない。内的要因、まあ、憧れだろう。ジェダイとシスの戦いに魅せられた。それが一番の理由なんだろう。子供が将来の夢に仮面ライダーとか言うのと一緒だ。それを成せるだけの力を手にしてしまったのなら目指すしか、うん?つまりオレは燥いでいる子供ということか。

「だからこその社会勉強か」

「出来れば常識を覚えて頂ければと思います。ええ、本当に。もう一生分を驚いたと思いたいですから」

う〜む、不安になってきた。






王都に着いて数日、トムさんの薦めもあって自由に王都を散策している。最初は魔道具店などを見て回っていたのだが、大した物は置いていなかったので3軒ほど回った所で興味がなくなった。正確に言えば興味が惹かれるものがあっても、それが馬の疲労を軽減させる物だったりとオレにとっては意味のないものばかりだったからと言うのが正しい。

トムさんが漢字を欲しがるはずだ。文字数制限が魔道具の値段を跳ね上げさせている。『冷蔵』をこちらの世界の言語に置き換えると9文字必要になるから。そうなると値段の桁が2つは上る。

昨日は魔物ハンターのギルドも見学してみたが、チンピラみたいなのが多かった。依頼表も確認したが、雑魚でも結構な金額に設定されている。猪の魔物でも4人家族が半月は食べていける額が付いている。これを3〜5人で狩るとして、全員が独身男で宿暮らしとすると、かなりきつい。なるほど、一部を除いてチンピラにしかならないな。がっかりしてギルドから帰る頃には、背後でチンピラ共が山となっている。

諦めて食料品店で色々な調味料や変わった食材の調達がメインになっている。それもそろそろ終わりそうだ。お金は王都に来る途中で狩った猪の魔物の分が丸々残っている。暇なので爺ちゃんと婆ちゃんの若い頃の魔人討伐の劇でも見に行こうかと焼き鳥の包みを片手に劇場へと向かう。

「私の帽子返してよ!!」

テンプレとでも言えば良いのか、3人の男の子が白いワンピースを着た女の子の帽子をパスしあって遊んでいる。面倒事は好きではないけど、見過ごすのも気分が悪い。オレの方を向いていた子が暴投したように見せかけて念動で帽子を引き寄せる。引き寄せた帽子を適当なフォームで投げて、念動で女の子に被せる。

そこで話が済めば良かったのに、リーダー格っぽい男の子が何故か女の子に殴りかかろうとする。行儀が悪いが、焼鳥の串を咥えた状態で念動と肉体強化の合わせ技で女の子の前まで跳び、型もあったものじゃないパンチをそのまま家の壁に反らしてやる。

痛みに蹲ろうとしていた所を足払いと顎への掌底に念動で綺麗に縦に一回転させてやる。背中にかばっている女の子は殴られると思ってしゃがんでいたから見えていないだろうが、残りの男の子たちはばっちりと目撃しただろう。リーダー格の男の子は目を回していて何が起こったのか分かっていない。近くに居た男の子に焼き鳥が入った包みを投げ渡す。

「くれてやるから帰れ。まだちょっかいを出すっていうのなら、同じ目にあってみるか?」

高速で首を横に振る二人に手で追い払う仕草をするとリーダー格の男の子を引きずりながら走って逃げ出した。

「大丈夫だった?」

後ろを確認してみるとしゃがんだ状態でオレの顔を見上げている。ふむ、ここ数日で見た範囲では可愛い部類に入る顔をしている。ということは子供特有の気になる女の子にちょっかいを出しちゃうって奴だな。そんなことをしてもモテナイんだけどね。恥ずかしかろうと素直に好意を示した方がモテるぞ。まあ、お互いに素直じゃないと成立しないんだろうけどね。

「あ、ありがとう」

「いつもあんな感じなの?」

手を差し出して引っ張り起こしながら尋ねる。

「同じ学校で、仲は良くないの。私の友達に嫌がらせをしていて、それを周りの皆で守ったりしてたら」

「ターゲットを変えたと。ああいうのはどこまでも付け上がるからな。一回締め上げるしかないな」

何とかしてやりたいが、良い方法が思いつかない。そもそも10日しか使える時間がないのが問題だ。さすがに殺すのは駄目だよな。

「大丈夫。もうこんなことにはならないように頑張るから」

ああ、この娘は強いんだな。ちょっとだけお節介をしよう。

「なら、一個だけ、単純だけど可能性に満ち溢れている魔法を教えてあげる」

「どういうこと?」

「本当に単純な魔法で見た目も地味。だけど、なんだって出来る魔法さ。人の体の中で最も自由に動かせるのは何処だか分かる?」

女の子が身体を軽く動かして確認してから答える。

「手?」

「そう。この魔法は見えない手を自由に扱う魔法だ。単純で弱いように聞こえるけど、作り出す手は自分の手じゃない。君よりオレの手の方が強いし、オレより大人の方が強いし大きい、お話に出てくるような巨人の手や動物の手、様々な手がある。大事なのはイメージだ」

財布を地面において、女の子を後ろから抱きしめるように腕を取る。

「ちょっと!?」

「集中して」

照れているようだが、我慢してもらう。集中できた所で念動に必要なイメージを伝える。

「魔力を右手に集まるイメージ」
「そこから魔力が手の形になるようにイメージ。魔力を水に例えて、手を入れた時に纏わりつくイメージだ」
「水の手が遠くまで少しずつ離れていく。それが財布の傍まで伸びる」
「財布を持ち上げるために握りしめる。だけど水は崩れない。まるで氷のように固まっている」
「掌の部分は凍っているけど、腕の部分は問題なく動く。持ち上げて手元に引き寄せる」
「氷が溶けて水となって形が崩れる」

耳元で指示を出すだけで一切補助を行っていなかったのだが、まさか一発で成功するのは予想外だった。

「今のが基本的なイメージだ。掴みたい物や、何をしたいのかでイメージを変える。これを毎日続ければこんな事も出来るようになる」

後ろから抱きしめている状態からお姫様抱っこで抱え、念動と肉体強化で空へと駆け上がる。

「巨人が空へと手をかざして、その掌に立っている。そうすればこんな景色が見えてくる」

この世界では空を飛ぶための魔法は存在しない。気球のような科学の力での飛行も出来ない。だから、この光景を見たのはオレと、この娘だけだ。眼下に広がる広大な景色を独り占め、いや、二人占め出来るのは印象深いものだろう。

「うわぁ〜〜、凄い、広い」

「そうだろう。世界は広い。王都も大きいけど、世界から見ればちっぽけなものだ。それを知ってるのは大人の一部だけだし、こんな光景を見たのはオレと君だけだ」

「私だけ?」

「さっき教えた魔法は単純だ。見た目にも分からないから皆使わない。使わないとこんなことが出来るようにならない。だからオレと君しか見たことがないはずさ。皆、炎や水を使うのが多いからね」

「勿体無いね」

「ああ、勿体無いさ。だから、君も何時かこの光景を自由に見れるようになれるといいな」

「うん。それと助けてくれてありがとう。私の名前はマリアって言うの」

「オレはシンだ。普段はあっちの方の山奥に爺ちゃんと二人で住んでいる。しばらくは王都にいるけど、それも10日程だけだ。次に来れるのは速くても半年後だろうな」

「そうなんだ」

ちょっと落ち込み気味にマリアが答える。面倒を見てもらっている手前、あまり我儘は言えない。成人して家を出たとならともかく、お金の稼ぎ方も知らない子供では無理だ。常識も大分怪しいのが既に判明しているから余計にだ。

「まっ、基本的にこっちにいる間は暇なことの方が多い。今日も暇でな、王都に来たのも初めてだから何処か案内してくれるか?」

「うん」







受け取った地図ではここらしいが、デカイ屋敷だな。とりあえず確認するか。門の前に居る門番に声をかける。

「失礼、こちらはミッシェル・コーリング様のお屋敷で間違いないでしょうか?」

「そうだが、何か用か坊主?」

「ミッシェル様に招待を受けまして。こちらがその招待状です。確認をお願いできますでしょうか?」

地図と共に送られてきた招待状を手渡す。

「ああ、君が。話は通っているから建物の右側から裏に回って。ミッシェル様もすぐに向かわれるはず「ああ!!やっと見つけた!!」お下がりを」

門番がオレをかばうように後ろから声をかけた男の前に立つ。

「あっ、いや、別に怪しい者じゃないんだ。ただ、そっちの子に昨日使っていた魔法を教えてもらいたくてだな」

「ああ、昨日の子供達の喧騒を遠目に見ているだけで動こうともしていなかった宮廷魔法師団のお兄さんですか」

「まあ、間違っちゃいないけど、そんなに否定的に言わないでくれよ。さすがに気になる女の子にちょっかいを掛けてる男の子達の間に大人が止めるのはちょっと大人げないだろう。怪我をさせるようなことになりそうなら割って入るつもりで遠巻きに見てたんだよ」

「つまり子供なら心に傷を負っても問題ないと」

「そんなことはないけど、アレぐらいなら普通に見られることだから。坊主だってそうだろう?」

「残念ながらオレは普段は爺ちゃんと二人で山奥に住んでいるもので」

そう答えると今度は門番の人達からも不思議な者を見る目で見られる。

「あの、ミッシェル様とはどういったご関係で?」

「よく尋ねられて武術を教えていただいています」

「えっ、ここって元騎士団総長のミッシェル・コーリング様の屋敷だったのか?えっ、坊主、あんな魔法が使えるのに?」

「またその質問ですか。宮廷魔法師団ですらこの有様とは。あれは見えない手を操る魔法です。使い方は人それぞれ。簡単な魔法ですよ」

そう言ってから宮廷魔法師団のお兄さんを念動で持ち上げて左右に動かしてから降ろす。

「正確な力加減とイメージで攻撃、防御、移動補助、何でもこなせるようになります。ミッシェルさんもある程度は使いこなしますよ」

それほど魔力を使わない魔法の所為で考えられないほどのパワーと安定性を手に入れたミッシェルさんに勝つには殺し合いにまで持っていかなければならない。殺すだけなら簡単だが、ライトセイバー戦では絶対に勝てないだろう。負けもしないが、勝てもしない。体格の差が恨めしい。

鍛えてはいるけど、がっしりした筋肉が付かずに、しなやかな筋肉しか付かない。俗に言う細マッチョなのだ。ある程度の体格が有った方がアタロ以外では良いのだが、現実は厳しい。

「おう、シン。何をやっているんだ」

「ミッシェルさん、お久しぶりです。こちらの方が念動を教えろとうるさくてですね」

「ふむ、時間も勿体無いしそいつも連れてこい。最低限の基礎は教えたんだろう?あとは見て感じて覚えさせろ」

「そういうものですか?それと、後ろの方は?」

「おぅ、近衛騎士団の新任の中からライトセイバーが合ってそうな奴を引っ張ってきた。念動も最低限仕込んだからな、まずは見取り稽古でもと思っている」

「つまりライトセイバーを寄越せと?」

「そうなるな」

「特注品で時間がかかるんですから簡単に言わないで下さいよ。ええっと」

「クリスティーナよ。クリスで構わないわよ」

「シンです。それとこれがライトセイバーです。初期型なんで長さなんかは調整出来ません。使い方は?」

「少しだけミッシェル様に使わせてもらったからな」

「グリップの太さは自分で調整して下さい。子供の手に合うように大分細いですから」

予備として持ってきていた初期型のライトセイバーをベルトから外して差し出す。

「本当に細いな。これでは事故を起こしそうだ。グリップ部分はどう太くすればいい?」

「革を何重にも巻くのが一番です。滑り止めにもなりますから。色々試してエイ革が一番でしたけど生憎使い切りましてね」

エイ革は自分で確保できないので在庫がないのだ。あと、鞣してない災害級の皮はかなり微妙だ。

「そっちのお前は?」

「宮廷魔法師団のジークフリートです。ジークで構いません」

「お前も来ればいい。シン、多少本気でやるぞ」

「えっ?二人も見ているのにですか?」

「トムから聞いているが、大分手加減をしているようだな」

「いや、まあ、そうですが。剣技の腕はミッシェルさんの方が上ですよ」

「だからこそ多少本気でやれと言っているのだ」

「……あ〜、分かった。殺すようなことはせずにちょっとずつ本気を出します。耐えられなくなったら言って下さいよ」

裏庭に移動してお互いにライトセイバーを構える。ミッシェルさんはマカシにオレはアタロに構える。お互いに合図もなく切り合いが始まる。いつもどおりの肉体強化と念動から少しずつ精度を上げていく。

最初は楽しそうにしていたミッシェルさんが次第に焦り始め、防戦一方になり、とうとう右腕を焼き切られる。

「「ミッシェル様!?」」

ジークさんとクリスさんが慌ててミッシェルさんに駆け寄る。

「あ〜あ、無理なら無理って言わないから」

切り落とした瞬間に念動で浮かしておいたミッシェルさんの腕を持って近づく。

「くっつけるから動かないで」

切り口を見ながら腕を綺麗に合わせ、時間の巻き戻しによる再生を行う。焼き切るライトセイバーはこの方法でしか治療ができないのだ。というか、腕をくっつけたりするのも本当に一握りらしい。

「動かして違和感はありますか?」

「少し痺れがあるが、問題ないだろうな。今ので何割だ?」

「5割に届かないぐらい。念動は縛りありです」

「そこまでの差が着いていたか。小さい頃から磨けば光ると思っていたが、ここまでだったとはな」

「まあ、獅子とか虎が普段の遊び相手ですから」

「……それは災害級のことを言っているのかしら?」

「いや、災害級じゃなくても遊び相手って」

「毛皮ありますよ」

収納から一番きれいに狩れた獅子の毛皮を取り出してみせる。

「この圧倒的な存在感、まさしく災害級だな」

「ただの毛皮でこんな!?」

「傷が全然見当たらねぇ!?」

三人が驚いてるが、腐るほど余ってるんだよな。

「ミッシェルさん、いります?」

「いらん。王族ですら持っていないようなものを軽く扱うな」

「いや、欲しかったら幾らでも持ってきますよ。綺麗に殺すのは多少面倒なだけですから」

「……どう面倒なんだ?」

「普通に殺すだけなら踏み込んでライトセイバーを振るうだけ。綺麗に殺すのなら念動で動きを止めてから殺すだけですからね」

「お前は常識を覚えに来たのではなかったのか?」

「常識と言われても。オレにとっては普通のことですし」

「ジーク、お前シンに常識を教えてやれ。兄貴分として扱ってやればいい」

そんなわけで二人して追い出されてしまった。

「どうするよ?」

「常識と言われてもねぇ。基本的に山奥で暮らしてるからそんなのあるわけないのに。金銭感覚も外れてるから」

「災害級を遊び相手とか言えるんだ、金に困ることはないだろうな。そこら辺も教えてやるよ」

ジークに連れられて色々と説明を受けながら王都を観光する。常識を学びながらちょっと悪い大人の遊びにも連れて行かれる。常識を教えてもらう代わりに奢ってやると財布を見せれば酒場に連れて行かれた。それも店の女性と同席しながら酒を飲んだりする酒場に。

「ジーク兄ちゃん、オレまだ10歳なんだけど」

親戚の子と言う設定のためにジーク兄ちゃんと呼んでいるが、年下の財布でこんな所に連れてくる奴を信用出来ないわ。

「10歳にしては精神的に老成しすぎなんだよ。ちょっとぐらい羽目を外せよ。酒も飲め飲め。今日ぐらいは目を瞑ってやるから」

「はぁ、見習いたくないわ」

懐から王都で貴重だと知った薬草で作った葉巻を取り出して火をつける。さすがに人目がある所で吸う訳にはいかないから我慢していたのだ。あと5年ほどで成人で、それからなら堂々と吸えるんだけどね。

「見逃すといったらすぐに葉巻が出てくる時点で悪ガキを通り越してやがるな」

「煙草の葉じゃなくてモルラの葉で作ったから、むしろ健康に良いよ」

「なんでそんな貴重な薬草を葉巻にしてるんだよ!!その量だと一般の4人家族が1週間は食えるだろうが」

「群生地を知ってるから。一本どう?」

ジーク兄ちゃんは頭を抱えながらも一本を手にとって火をつける。

「ああ、本当に健康に良いんだろうな。医療魔術をかけてもらったときみたいな感覚がする」

「ボロボロの身体には特に効くよ。群生地に行く度に実感してるけど」

「モルラが群生してるなんて聞いたことが無いな。どんなところだよ?」

「毒沼。近づくだけで危険な程の毒沼の近く。たぶん、毒を吸って成長してるんでしょ。たまに見られる性質だね」

「詳しいんだな」

「基本的には魔術の練習をしているか、剣術の練習をしているか、狩りをしているか、畑を耕しているか、本を読んでいるかだからね」

「ふぅん、ちなみに一番強力な魔法はどんなのなんだ?」

「名前ぐらいなら良いけど、詳細は教えないよ。使えるけど使いたくないから」

「コントロールが難しいのか?」

「いいや、そんなこともないけど気分的に使いたくない魔法、魔法群だね」

「魔法群?」

「系統が似ている、簡単に言ったら同じ属性の魔法。炎が得意とか風が得意とかってあるでしょ?それと同じでオレのオリジナル属性『オーバーロード』が一番強力で使いやすくて使いたくない魔法」

本当にこいつだけは使う機会がないことを祈ってるよ。使いやすい理由も分かってる。オレが転生者だからだ。あと、シスの暗黒卿も転生を繰り返してるからイメージし易いのが原因だ。まあ、塩漬けにしてればいいだろう。『オーバーロード』だけにな。


 
 

 
後書き
久しぶりの更新です。
賢者の孫は初期から読んでますけど、あのストーリーの薄さでよくアニメ化しようと思ったなと感心してます。
漫画版は無意味にパンチラが多いですし、個人的にはあまり期待はしてないです。むしろ、ナイツマ2期希望。 
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