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ソードアート・オンライン ~紫紺の剣士~

作者:紫水茉莉
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アインクラッド編
  14.目的地

「すっ・・・ごーい!」
「なあ、さっき圏内表示出なかったか?」
「出たなぁ。どういうことだろ・・・あっこらミーシャ!ちょっと待ちな!」
急にダッシュしたミーシャを追いかけるシルストを見て、アンとクリスティナは顔を見合わせてクスッと笑いあった。
洞窟の外は、花畑と湖が広がるドーム状になった場所で、しかも圏内だった。なんでだろう、とアンが首をかしげていると、アルトがマップを可視化して見せてくれた。
「洞窟に入るために登ってきた山のふもとに、小さな村があっただろ。ここは、その真上だ」
「へえー。ホントだ。よく分かるねぇ凄いね」
「・・・別に。これくらい」
そうかなぁ、とアンは首をもう一度捻るが、直後に「ふぎゃ!」という妙な悲鳴が聞こえてきて、慌ててミーシャとシルストの元に走り寄った。
「ちょっと何してるんですかせんぱ、い?!」
ばしゃっと水のボールが顔に飛んできて、慌てて避ける。
「あはは‼皆も早くおいで!気持ちいいよ!」
「ちょいミーシャ!水かけるの止めろってば!着替えんと!」
ミーシャのテンションが落ち着くまで、アンとシルストはもう数分使わなければならなかった。


***


「・・・あ。ちゃんと日の入りも再現してるんだね」
ミーシャがぷかぷかと水に浮かびながら呟いた。つられてアン達も顔を上げる。
照明代わりになっている天井から生えた大きな水晶郡は、到着した3時頃とは微妙に色彩を変えて茜色の光を放っている。
「ところで、男子達は何やっとん?」
反対側の水際に見える水しぶきを眺めながらシルストが聞くと、クリスティナがクスッと笑って答えた。
「競争してるみたいよ」
「競争?リヒティとかナツなら分かるけど・・・アルトもやっとるんか。意外だな」
「明日のご飯代を賭けてるんですって」
「なるほど。うちらのぶんも払ってもらいたいな」
今の所、クエストなどで稼いだコルは全て1度纏め、ギルド経費を引いて、それからきっちり7等分することになっている。コルを貯めるも使うも自分で決められるが、食費はギルド経費から出しているので、7人分を自分で出すとなるとけっこうバカにならない出費なのだ。
「まぁどういう形でも、打ち解けてくれるのは良いことだよ」
「そうですね・・・慣れてくれてますかね?アルト」
「大丈夫だよ。さっきも仲良さそうに話してたじゃない?アルトとアンちゃん」
「見てたんですか・・・って、あれで仲良さそうに見えたんですか!?いや仲良くなりたくないとは思ってないけど、全然無愛想だったし!」
「表情から推察したんだよー」
そう言って、ミーシャはケタケタ笑った。
「あ、ゴールしたみたいよ。一番はリヒティ、二番は・・・あら、タクミ?意外だわ」
「タクミはねー、ああ見えて昔水泳やってたんだって。結構速かったらしいよ」
「へぇ、そうなんじゃ。なぁ、そろそろ上がらん?お腹空いたわ」
「そうだね。今日はバーベキューだよ!」
ニコッと笑いあうと、アン達は岸に向かって泳ぎだした。

「いっちばーん!」
叫びながら、リヒティは水面から顔を出した。続いてタクミとアルトも顔を出す。
「2番」
「3番」
「よ・・・んばん」
いちばん最後に顔を出したナツは、がくりと岸辺に突っ伏した。
「俺が次奢るのかー・・・あんまり高くない所にしてくださいッスよ」
「ははっ、大丈夫だナツ。28層の主街区にある《ティチャカ》ってとこにしといてやるから」
「はぁ・・・ってそこ28層で一番高いところじゃないっすか!嫌ッス!」
「負けた人間に拒否権はない」
「えっちょタクミさん冷たくないッスか!?」
「そこは美味いって噂だ」
「アルトさんまで!奢る側に決めさせてくださいよ!」
そこで女子チームが水から上がってくるのを見たナツは、さっさと話を終わらせるべく自分も水から上がった。
「バーベキューの準備するんで!」
「あっこら逃げるな!」
ナツを追ってリヒティも水を散らしながら上がっていく。アルトとタクミは顔を見合わせ、やれやれと首を振った。



バーベキューの材料は、日常の狩りで溜まっていくモンスターの肉と露店で売られている色鮮やかな野菜、ナツ特性のバーベキューソースである。焼くのはセルフサービスだ。
「このお肉おいしいね。熊だったっけ?」
「これも美味しいですよ。鹿だったと思います」
女子は口々に感想を言い合うが、男子は何も言わずに黙々と肉を口に運んでいる。これが男女の差?とアンは首を傾げた。
みるみるうちに肉はなくなり、食後のお茶を飲みながらアンは天井を見上げた。小さな水晶が星のように煌めいている。
「綺麗ですね・・・」
「そうだね・・・楽しかった?皆は」
「そりゃあもちろん!」
ミーシャの問いかけに真っ先に答えたのはリヒティだった。それを追いかけるようにアン達も口々に「楽しかった」と言った。
「アルトは?どうだった?」
ただ一人、何も言っていないアルトにミーシャが言うと、アルトは一瞬目を逸らした。しかしすぐにミーシャを真っ直ぐ見つめて
「あぁ。楽しかった」
と言った。
「そっかそっか。来た甲斐があったねぇ」
ミーシャは満足そうに椅子にふんぞり返る。
「しっかし、帰るの正直面倒だよねー。今日はここに泊まるとして、明日どう帰ろう?」
「普通に来た道を帰るしかないんじゃないかしら」
「そのことなら、考えがある」
突然の提案に、全員アルトに注目した。アルトはウインドゥを開き、可視化して皆に見せる。
「ここが、クエストを受けた麓の村。そしてここが、今俺たちがいる湖。この湖は反対側で川になり、滝になって流れ落ちている。・・・どうしたミーシャ」
やけに目をキラキラさせながら身を乗り出してくるミーシャがうっとおしくなったのか、アルトは途中で説明を中断した。話しかけられたとたんに、ミーシャは生き生きと喋りだす。
「分かった!その滝、麓の村にある川とつながってるんでしょう?」
「正解だ。繋がっている。・・・おそらく」
滝なんてあったか?とシルストは首をひねり、リヒティとクリスティナは信じられないと言いたげにマップを覗き込む。
「よく覚えてたね・・・私も思い出せないや。タクミ先輩は覚えてる?」
アンに聞かれて、タクミは無言で首を横に振った。
「僕の観察眼は、まだまだ及ばないらしい」
「慣れだ」
誰に、とは言わなかったが、アルトは正確に理解した。ふん、とタクミは鼻を鳴らす。タクミは意外と負けず嫌いなところがある。
「あはは。じゃあ皆、明日はアルトの考えに乗るとして、今日はもう寝ようか。読みが間違ってて圏外に出たらシャレにならないからね!」
「そうなったら、責任を取って俺が全部斬る」
アルトの本気とも冗談ともとれる発言に、ミーシャは声をあげて笑った。つられて皆も笑う。心なしかアルトの表情も、いつもより穏やかだ。
用意していた寝袋にくるまりながら、ミーシャは思った。
彼を放っておかなくて本当によかった、と。



翌朝、アルトの提案に従って全員滝に飛び込んだ。アルトの予想通り湖の滝は麓の村に繋がっていて、無事一方通行ではあるが、圏内から圏内に行くショートカットコースを見つけ出せたわけである。水面から顔を出した時、村のNPCが驚きで目を丸くしていたのはご愛敬である。


 
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