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儚き想い、されど永遠の想い

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79部分:第七話 二人きりでその九


第七話 二人きりでその九

「言葉は同じですが」
「国が違うのですね」
「そうです。その音楽家の音楽はどうですか?」
 義正はあらためてだ。真理に対して尋ねた。
「今度はです。それを如何でしょうか」
「はい、それでは」
 真理は微笑んでだ。義正のその誘いに応じた。
 そうしてだ。そのうえでだった。
 義正はだ。マスターを呼んだ。そのうえで席の傍に来た彼に頼むだった。
「次の音楽は」
「何にされますか?」
 マスターは丁寧に彼に尋ねた。立つ姿勢も背筋が立ち礼儀正しい。
「次は」
「シューベルトを頼めるかな」
「シューベルトですか」
「うん、野薔薇を」
 その曲をだというのだ。
「あの曲が入っているレコードを頼むよ」
「はい、それでは」
 マスターは端整に一礼してだ。そのうえでだった。
 店のカウンターに戻りだ。その端のだ。
 蓄音機にレコードをかける。するとそのヘチマに似た蓄音機からだ。
 音楽が聴こえてきた。その曲は。
 真理が聴いてだ。こう言うに足るものだった。
「この曲は」
「如何でしょうか」
「奇麗ですね」
 微笑んでだ。義正に述べた。
「この音楽家の曲もいいですね」
「御気に召されたのですね」
「はい」
 その通りだとだ。笑顔で答えた。
「とても。シューベルトもまた」
「今かけられているのが野薔薇です」
 先程マスターと話していただ。その曲だというのだ。
「野薔薇です。どうでしょうか」
「そうですね。この野薔薇は」
「奇麗で。優しい曲ですね」
「誰かへの想いを歌っているのでしょうか」
「おわかりになられたのですか?」
「何となくですけれど」
 歌っている言葉はわからない。それでもだというのだ。
 彼女はだ。わかるというのである。
「そうした曲だと感じます」
「はい、実はです」
「そうした曲なのですね」
「シューベルトの恋の歌です」
 まさにだ。そうだというのだ。
「私の好きな曲の一つです」
「モーツァルトだけでなくですか」
「はい、シューベルトも好きです」
 微笑でだ。真理に話す。
「それにです」
「それに?」
「音楽はどれだけ好きになってもいいのです」
 音楽自体の話もしたのだ。ここでだ。
「私はそう考えています」
「音楽は。どれだけでもですか」
「はい、何曲でもです」
 具体的にはだ。数の話だというのだ。
「好きになってもいいのです」
「そうですか。何曲でも」
「これは浮気にはなりませんよね」
 真理にだ。尋ねた。
「歌については」
「それはならないと思います」
 そして真理もだ。彼のその問いに真面目に答えた。
「やはり。それとこれとはです」
「違いますね」
「そう思います」
 はっきりと己の考えを義正に話した。
「例えになるかどうかはわかりませんが」
「わかりませんが?」
「色々な食べ物が好きなのと同じではないでしょうか」
「食べ物とですか」
「はい、それとです」
 同じではないかというのである。これが真理の今の考えであり言葉だった。
 
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