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相談役毒蛙の日常

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二十七日目

一時間ほど騒ぐと、まぁ、中高生もちらほらと酒に手を出し始めたり、それを大人組が止めたりしていた。

林檎と蜜柑は眠そうだったので二階の個室に寝かせており、慧奈が面倒を見ている。

葵は姉御やお姫様に混じってガールズトーク中だ。

「や、ブラッキー先生」

こっちにキリトが歩いてきた。

さっきまで姉御達のグループに拘束されてお姫様共々からかわれていた。

フラフラしてる所を見るに逃げてきたっぽい。

「相談役…ビール瓶片手にピザを食うのがサマになってる高校生は初めて見たぞ…」

「飲むか?」

「遠慮しとく。リアルではあんまり強くないんでね」

と言いながら隣の席にすわった。

「そうかい」

うーん…それにしても…

「先生…! 頑張ってください…!
まだ希望はあります…!」

ビールを置き、キリトの肩に手を置いて、芝居がかった口調で言う。

「は?」

「成長期終わっても…!
希望を持ってくだせぇ…!」

キリトのヤツ俺より10センチくらい低いんだよな…

「相談役、ケンカなら買うぞ?」

「じゃぁ飲み比べしよーぜー!」

「断る」

「えー?アンドリューに頼んだら出してくれんじゃね?」

「さっきウィスキー頼んだら烏龍茶出されたぞ」

「じゃぁビールでもくすねてきな」

「だから飲まねぇって」

「じゃぁ今度ALOで呑み明かそうぜ。
今朝運営から酒アイテムが大量に届いたんだ」

「運営から?」

「昔やらかした事があってな、ペナルティ食らっててよ。
資産と経験値の凍結だったんだが、俺は既にレベルキャップだし当時の数倍のユルドを持ってるからな。
そんな訳で新生ALOの運営が金とポイントじゃなくて酒アイテムを送ったって訳さ」

「へぇ…」

「だが問題があってな…そのアイテムってストレージ食わない代わりに譲渡できねぇし、各種一本ずつしかオブジェクト化出来ないんだわ」

「は?」

中にはステータスアップ系の酒もあったからそのせいだろう。

「まぁ、オブジェクト化してコップに注げば渡せるが、一本ずつ出すのも面倒でな」

「あー、まぁ、かまわないが…」

「因みにギルドの倉庫にサクヤとアリシャからもらった酒がカートン単位でおいてある」

「なんだそれは…」

「世界樹攻略記念らしい。
テルキスに処理押し付けられて幹部会が一人数カートンずつ持ってる。
ALOには地名が付いた酒が多くあってな。
ケットシー領は果実酒。
シルフ領はシャンパン。
サラマンダー領は火酒って感じだな」

「へ~」

その後は、二人で色々な話をした。

ALO、SAOそれぞれの思い出話、苦労話。

そして、キリトが唐突に切り出した。

「なぁ…相談役。『自分』って何なんだろうな…」

「はぁ?」

「VRMMOの中なら、みんな仮面を被っていられる。
だけど、現実ではそうもいかない。
それで、唐突に、『自分は誰だろう?』って思うんだ」

「なんだなんだ?いきなりシリアスな話じゃん。
つか何?人生相談?普通年上にするヤツだろソレ」

「あぁ、すまない…だけど、そう思う事って無いか?」

『自分は誰だろう?』だと?

そんな物の答えは一つだ。

「cogito, ergo sum」

「え?」

「コギト、エルゴ、スム…
我思う、故に、我在り。
どこまで言っても自分は自分でしかない。
例え、名前が変わろうと、住む場所が変わろうと、年を取ろうと、今まで自分が積み重ねた物はそこにある」

手に持った酒瓶を口につけて、一気に煽る。

「お姫様はお前の事をパートナーとして選んだ。
ならあんたはお姫様のパートナーだ。
リー…直葉ちゃんはお前を兄と呼ぶ。
ならあんたは直葉ちゃんの兄でもある。
アンドリューはお前の事を客として迎えてくれる。
ならあんたはアンドリューの客でもある。
クラインはお前の事を戦友と言う。
ならあんたはクラインの戦友でもある。
俺はお前の事を、面白いヤツだと思ってる。
だからお前は、俺の友達でもある
さぁ、それでもお前は、『自分は誰だろう?』なんて抜かすのか?」

葵が、一時期悩んでいた。

俺と今まで通り友人でいたいと。

だけど、女として生まれてしまったアイツは悩んでいた。

『自分は誰なんだ』と…

だから、言った。

お前はお前だ。俺の親友だ。と…

いままで過ごした時が、お前を肯定する。と…

「キリト…いや、桐ヶ谷和人。
お前が過ごした年月が、お前を肯定する。
安心しろ、死んだら地獄の閻魔が浄破理の鏡を使って太鼓判を押してくれるさ」

「ははっ、まだ死ねないな」

「親より先に死んだら債の河原で石積みだぜ?」

どこぞの八九神さんみたいに。

「ああ、その心配はない。両親はもう他界してる」

…………………………

「ふぁ!?」

「どうしたトード?」

「いやいやいやいや!そんな軽く言ったらダメな話だろう!?
え!てかどういう事!?お前両親居るよな!?
翠さんと住んでるだろ!あのデカイ家に!」

一回だけ、一回だけキリトの家に行った事がある。

その時翠さん…キリトのお母さんが俺をみて『ついに和人にもリアルの友達が出来たのね…!』とか言って滅茶苦茶喜んでた。

俺がゲームで知り合った仲だと言っても『いいのよ!和人がお友達を家に呼ぶのなんて初めてですもの!』ってテンションアゲアゲだった。

「あー、えっと…実は俺ってあの家の子じゃないんだ。
母さん…えっと、俺を育ててくれた母さんは、俺を産んだ人の妹なんだ。
直葉は母さんと父さんの本当の子。
俺の本当の両親は、俺が物心付く前に交通事故で死んだらしい」

「はーん…もしかしてさっきの質問って…」

「ああ、その通りさ。
おれが10歳の時、住居ネットに侵入した時に、育ての親が本当の両親じゃないって知ってさ…
それから、人と接するのが怖くなったんだ」

「それでネトゲに逃げたと?」

「まぁ、そんな感じ」

「『儚くも永久のカナシ』」

「ん?」

ポケットからスマホを取り出し、イヤホンを差し込む。

ネットで歌詞サイトを開き、ミュージックを起動。

「まぁ、この歌でも聞いてみなよ」











「ありがと、相談役」

「いやいや、なんて事はない。
俺はただ、自分が好きな曲を他人にも知って貰いたかっただけさ」

「そっか、相談役らしいな」

「そう言えば、リーファはお前が本当の兄じゃないって知ってるのか?」

「ああ、俺が囚われてる間に母さんから聞いたらしい」

「キリト…従姉妹なら合法だ…
手を出せるぞ?」

「出さねぇよ!」

「えー?でもさ、お前を見るリーファの目は恋する乙女だったぜ?」

「うぐ…!」

「まー、一応何があったかは知ってるよ。
お前ら二人共に互いを兄妹って知らずにALOで出会ったんだろう?」

「うん…」

「キリト」

「なんだ?」

「男の甲斐性を見せろ。黒の剣士。
お前は6000人を救ったんだろ?
少しくらい良い思いをしてもいいと思うぜ」

「そう…なのかな…?」

しかし…

「き~り~と~く~ん?」

「「!?」」

お姫様、襲来。

「トード君、キリト君借りるね」

「あ、ど、どうぞ」

「それと、君にも後でお話があるから」

OHANASIですねわかります。

その後店の奥から断続的な悲鳴が聞こえてきたが、喧騒に打ち消され、俺以外に気付いた者はいなかった。
 
 

 
後書き
ポケモンと魔弾のクロスオーバーを書いて一言。
「ポケモンどこいった…?」
気が向いたら投稿します。 
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