万華鏡の連鎖
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
銀河動乱
主席の涙
多元宇宙《パラレルワールド》の壁、境界線《ボーダーライン》も関係ない。
夢の回廊も跳躍《ジャンプ》して、3次元空間に遷移《ワープ》した筈なんだけど。
あたしは異次元空間《アナザー・ディメンション》、混沌の領域を抜けた後で復活。
ユリ特有の超音波攻撃、甲高い声で強引に意識を回復させられた。
ワープ・アウト直後に無数の敵が現れ、大乱戦ってお約束のパターン?
違う。
太陽、太陽、また太陽。
小型の太陽が松明の群れ、大聖堂、神社仏閣の奥みたく視界を埋め尽くしてる。
細胞人《ポスビ》の本拠地、銀河系の外にある《二百の太陽の惑星》に似てるかも。
渦状星雲の中央部、銀河中枢の恒星群も満員電車みたい。
「どうしやす、おやっさん?
トラコンの連中、早速、フケちまいやしたぜ。
あいつらを野放しにするな、って銀河連合主席に泣いて頼まれた事は承知してますがね。
面倒な御目付け役なんざ放り出して、こっちも勝手にやらせて貰いやしょうか?」
水平型万能タイプ宇宙船アトラス操縦席から、無関心を装った声が響く。
「気持は解るが、契約は契約だ。
横着しないで、多次元航行装置の記録を追跡《トレース》しろ。
違約金を要求する依頼主じゃないが、最初から楽するのはやめとこう。
ガミラス宇宙軍の総帥にも頼まれたし、クラッシャーの意地を見せてやろうじゃないか。
タロス達も、総統から誘われたんだろう?」
優秀な操縦士《パイロット》、長身の優男が露骨に洩らした呟き声に船長が応えた。
「確かに、あの御方は気持が良かったですね。
連合宇宙軍のお偉方と違って、一緒に戦ってみたいと思いましたよ」
「儂も、賛成じゃな。
依頼主《クライアント》としては、上等の部類だ。
オルレンブロール提督も優秀だが、肩が凝っていかん」
「決断力に富む歴戦の武人、って感じだったな。
ドメル将軍や艦長達も颯爽として、恰好良かったですぜ。
おやっさん、熱心に誘われてませんでしたか?」
「丁重に断ったが、単発の契約なら考えても良いな。
今回の仕事が無事に済んだ後なら、請け負っても構わんだろう。
取り敢えずは銀河連合主席の意向、美女達の援護が優先だ」
「黒髪の方も別嬪だが、俺としちゃあ、赤毛の娘が好みだね!
逃がしちゃ駄目ですぜ、早速追っかけやしょう!!」
「そりゃ構わんが、次元跳航装置の調整を間違えるなよ。
明後日の方向に飛んだら、戻って来れんぞい」
新米機関士バード、老練の航法士ガンビーノ。
恒例の掛け合い漫才、談笑で空気が和む。
「異次元空間の痕跡を解析してみたが、異時間平面に遷移《ワープ》した模様だ。
空間破砕爆弾《スペース・スマッシャー》の影響かも知れんが、次元座標が捩れている。
4次元時空連続体破壊装置《ディスラプター》を盗み、使った馬鹿が居るのかもしれん。
例の二人組を逃がしてはならん、次元跳航に入るぞ」
銀河連合主席も信を置く惑星改造業者、クラッシャー・ダンの推測は侮れない。
李酔竜との模擬戦は事件相談員の養成学校、講師達に語り継がれている。
「ほっといたら、本当に宇宙が滅ぶかもしれねぇな。
ノグロス宇宙軍の反乱を捻じ伏せ、ついでに、死の星《デス・スター》にしちまう連中ですからね」
タロスの冗談《ジョーク》に応え、バードとガンビーノもニヤリと笑う。
爆笑の傍で手慣れた操作《オペレーション》は澱み無く進み、準備完了《スタンバイ》が点灯。
次元座標を時空転移装置に打ち込み、相対位置を確認。
アトラスは軽快に身を翻し、小型迎撃機の編隊を無視して姿を消した。
「多次元レーダー、反応を確認。
クラッシャーのお船、アトラスに相当する質量だね。
星間共通信号、『貴船に愛天使《ラブリーエンゼル》の御加護あれ』を送信するわ。
ダンなら、すぐ返事を寄越す筈よ」
こらこら、勝手に決めるんじゃない。
船長はあたしだ、許可を取ってから行動するよーに。
文句を言う前に、御気楽女は超空間通信波《ハイパー・ウェーブ》を発信。
レーザー通信で針の様に受信可能範囲を絞り、盗聴を防ぐ配慮は完璧に無視している。
たくもう、鋼の無神経!
他に聞き耳立ててる連中が居たら、どーすんのよ!!
頭《たま》に来て、怒鳴ろーとしたんだけど。
間髪入れず、受信装置《レシーバー》が鳴る。
激怒《ヒス》る時機《タイミング》を完璧に外され、あたしは声を呑み込んだ。
「星間共通信号、『神も仏も在るものか』。
通信を切れ、直ちに合流する」
ふざけた星間共通信号《コール・サイン》を考えたのは、タロスだ。
クラッシャーの連中以外に、こんな返事を考え付く奴は大宇宙に存在しない(たぶん)。
簡潔で味も素っ気も無い通信文は、ダンの考案だろう。
おじ様は、何時だって真剣《マジ》なんだ。
「あいつらって結構、律儀なのよね。
口が悪いのは玉に瑕だげど操縦士も長身、まあまあ美形だし。
おじ様は渋くて頼り甲斐があるし、荒事に強い有能な奴隷も大歓迎よ」
そこまで言うか、この阿呆女。
まぁ、アトラスに聞こえるよーな大声じゃないから良いんだけど。
後で操縦席の録音装置《レコーダー》を取り外せば、強請のネタになるかな?
クラッシャーに寝顔を見せるって脅し、確かに効いたかんね(海の惑星ドルロイ、だっけ?)。
『ダンに聞かせてあげよっか?』って優雅に微笑み、引き攣る顔を見物してやるわ。
宣告どおり、四次元時空連続体に万能タイプ宇宙船アトラスが実体化。
感心な事に出しゃばらず、あたし達のお船を援護《フォロー》の態勢に入る。
よしよし、わかってんじゃない。
主役は、あ・た・し。
ラブリーエンゼル船長《キャプテン》、大宇宙の守護者《ガーディアン》様よ!
奴隷だね、とは言わないけど。
クラッシャーは竜戦士に服従する手下、キンメリア大陸の山賊達みたいなもんね。
「加速140パーセント、ぶっ飛ぶわよ!」
「ひいぃっ!」
ユリの悲鳴は、完璧に無視。
エンジンを空爆発させ、目一杯パワーを引き出す。
慣性中和機構の限界を超え、眼に見えない《パワー》が身体を押し潰す。
構造材が悲鳴を挙げ、とろい相棒は操縦席から放り出された。
黒い破壊者《ブラック・デストロイヤー》、クァールのムギが咄嗟に受け止める。
ユリは操縦席に這い戻り、キンキン声で喚いた。
「乱暴はやめてよ、顔に傷でも付いたらどーすんの!
そんな操縦してっから、ダーティペアなんて異名《あだな》が付くんじゃない!!
みんな、ケイのせいなんだかんね!
カルシウム足りないんじゃないの、カリウム剤でも飲みなさいよ!!」
こいつ、ムギのエサを銀河一の美人に喰わす気か。
こう見えてもあたしは味にうるさいのよ、立派な美食家《グルメ》なんだかんね!
「うっさい、お黙り!
ぼうっとしてないで、さっさと撃ち捲くんな!!
そっち、ご覧!
クラッシャー達は、とっくに獲物を狩ってるのよ!!」
闘いの女神アテナ、じゃなくて可憐な天使《ラブリーエンゼル》。
うちらのお船だって、アトラス以上の戦闘能力を備えてるんだ。
優美な垂直型宇宙船が身を翻し、小型機の編隊を襲う。
数秒後に敵は姿を消し、宇宙の塵と化した。
アトラスの操縦席に繋がった通信回線は閉ざされておらず、女性2人の声を完璧に中継。
華々しい罵詈雑言の応酬が克明に再現され、録音装置《レコーダー》に刻み込まれる。
「…まるで、猪みてーな姐ちゃん達だな。
どうしやす、おやっさん?
通信記録は細大漏らさず提出、って契約ですがね。
銀河連合主席が聞けば、WWWAも消えて無くなりますぜ」
ダンの脳裏に銀河連合事務局、政治畑に進んだ親友の顔が映った。
「冗談じゃないぜ、俺に監視役を押し付ける気か?」
「残念だが、実績が証明している。
伝説の惑星、グラディウス壊滅は避けなければならん。
多元宇宙全域に噂が蔓延り、銀河連合主席の辞任で済む話じゃない。
中央コンピュータ、有識者会議の結論も一致した。
せめて惑星ドルロイ規模、再建可能な範囲に留めねばならんのだ。
他の者で間に合うのなら、なぜ、私が此処に来たのかね?」
「えらい言い草だな、まるで俺達の冗談だ。
分かった、引き受ける」
『銀河連合主席が嘆願に現れ、泣いて頼んだ』
受けを狙って話を盛った張本人、ガンビーノが笑う。
リーダーは記憶を消し、喧嘩っ早い長身の優男に冗句で応じた。
「触らぬ神に祟り無し、と言いたい処だがな。
今回の仕事は銀河連合主席、直々の御声掛りだ。
本来なら雇い主の意図を汲む所なんだが、こんな物は聴かせられん。
御守り役の俺達まで、肩身が狭くなる。
アトラスの封印記録《ブラック・ボックス》もバラして、加工しとこう。
ガンビーノ、頼むぞ。
消去する前に複製《バックアップ》を作成して、丁重に贈呈する。
こんな放送を宇宙全体に流されるのは御免蒙る、大迷惑だと伝言《メッセージ》を添えてな」
老練な先輩と経験の浅い後輩の顔が綻び、チームリーダーの決断に賛同。
全員の思考を代弁した操縦士、長身の優男の横顔も緩む。
バクテリアン軍の第一次防衛線、人工太陽の密集地帯を銀色の宇宙船は苦も無く疾走。
クラッシャー・フォーメーション、障害物回避の魔術を封印した儘で優雅に駆け抜けた。
対照的に後続の宇宙船、ラブリーエンゼルは一直線に狭間を突破。
草原を疾走する野獣、豹の様に獰猛な機動で前に出る。
火竜《ファイアー・ドラゴン》の群れ、火球の嵐も強引に撃ち砕く。
強引過ぎる軌道で最短距離を突き進み、人工太陽の密集宙域を抜ける最強の敵が現れた。
7方向に拡散する青い炎、操気弾を操る超巨大な猛禽類。
科学忍者隊《割鏡人》の代名詞、火の鳥《フェニックス》が侵入者を睨む。
巨大な黄金色の翼が翻り、鋭い嘴から高熱の塊を撃ち捲ったが。
真紅の炎を纏う勇猛な鷹も数秒後に砕け散り、星の塵と化した。
ページ上へ戻る