| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Lv62 浄化の結界

   [Ⅰ]


 黒い煙が晴れてゆき、アシュレイアは正体を曝け出した。
 煙の中から姿を現したのは、人間に近い姿をした者であった。が、明らかに人間と違う部分があった。サラッとした長く黒い髪が伸びる頭部の左右から、牛のように湾曲した角が伸びているからだ。
 アシュレイアはローブのような赤いマントを優雅に纏い、左右の肩には、鋭利な爪のようなモノが幾つも伸びる、金色の肩当てを装備していた。
 左右の肩当ての間には、やや色白の肌をした首があり、その上には顔がある。顔立ちは端正で、かなりのイケメン……というより、美丈夫と言った方が良いだろうか。まぁとにかく、そんな感じの容姿をしていた。
 ビジュアル系のバンドマンとかで、こういうのがいそうだ。
 背も高く、2mはありそうである。とはいえ、デカさで言ったら、サイクロプスやトロル、それからヴィゴールの方が大きいので、そういった面での威圧感というモノはない。
 だが、奴から感じられる強い魔力が、その辺の魔物とは違う為、俺は奴を見た瞬間から、冷や汗が止まらないのであった。
 そう……俺の中の何かが、とてつもなくヤバい奴だと訴えているのである。
(ヴィゴールなんか比較にならんくらいに、魔力圧が強い……チッ、化け物め……)
 俺は魔導の手を使って檻の扉を閉め、皆に言った。
「戦闘準備に入ってください! この中では奴も魔法は使えない筈です。奴がここから出てきた瞬間、総攻撃を仕掛けます!」
 全員が身構える。
 だがそんな俺達を見て、アシュレイアは不気味に微笑んだのである。
【ほう……なるほど、この状況を利用するというわけか。フッ……まぁいい。正面から出て行っても別に問題はないが、姿を晒して早々、我が衣に埃がつくのも癪だ。よって、これを利用させてもらうとしよう……】
 するとアシュレイアは、懐から筒状のモノを取り出したのである。
 俺はそれを見るなり、思わず舌を打った。
「チッ……それは、魔光の剣。やはり、盗んだのはお前達だったか……」
 アシュレイアは光の刃を出現させ、弧を描くように頭上の格子を斬りつけた。
 パラパラと切断された格子が落ちてくる。
 そして、まるで羽でも生えたかの如く、アシュレイアはフワリと宙に舞い上がり、檻から出てきたのである。
 この予想外の展開に、俺達はただ黙って見ているだけであった。
 檻から出たアシュレイアは、玉座のある所へ優雅に舞い降りる。
 そこで奴は俺に振り返り、ニヤリと笑ったのである。
【フッ……悪くない。中々の切れ味だ。一応、礼を言っておくぞ、コータロー。さて……では始めるとしようか。レヴァン……例のモノをここへ】
【ハッ、アシュレイア様】
 レヴァンはそこで、サッカーボール大の深紫色に輝く水晶球をアシュレイアに差し出した。
 アシュレイアは手を触れずに水晶球を浮き上がらせる。
 続いて、アシュレイアは両掌を合わせて幾つかの印を組み、奇妙な呪文を唱え始めたのである。

【ケーラ……ヒーカツィ・ヨガーク・ラー……】

 程なくして、水晶球から得体の知れない深紫色の煙が出てきた。
 水が湧き出てくるかのように、煙は下へと落ちてゆき、床に到達すると、這うようにして広がってゆく。当然、俺達の足元にも、その煙は広がっていった。
 深紫色の煙が全て行き渡ったところで、アシュレイアは呪文詠唱を止めた。

【フッ……準備は整った。では、約束通り、お前達に魔の世界を堪能させてやろう! ヨーディ・サンミュトラウス!】

 と、次の瞬間! 俺達と奴等の間にある床に、怪しく光る六芒星の魔法陣が浮かび上がったのである。
 そして、地響きと共に、床に漂う煙の至るところから、怪しい発光が始まったのであった。
 それはまるで、稲光を放つ雷雲のようでもあった。
 発光現象は次第に強さを増してゆく。地響きも同様に大きくなっていった。
 皆の慌てる声が聞こえてくる。
「な、なにが起きている!」
「クッ、一体、何が始まるんだ!」
 アヴェル王子は皆に呼びかける。
「狼狽えるな! 皆、敵の攻撃に備えるんだッ!」
 それから程なくして、光は消えてゆき、地響きも治まっていった。が、しかし……そこで、背筋に悪寒が走るほどの不気味な気配が、辺りに漂い始めてきたのである。
 時間が経つにつれ、その気配はより濃くなっていった。
 それだけではない。まるで全身に重石でもつけられたかのように、俺の身体も重くなってきたのである。
「か、体が動かない……グッ」
「何よ、これ……か、身体が、お、重い」
「な、なんですの、この異様な空気は……」
「コータローさん……さ、寒いよぉ……」
「グッ……か、身体が重い……なんだこれは……」
「こ、これは一体……グッ……」
「コータローさぁん……助けて……」
 どうやら、他の皆も同じ状況のようだ。
(まさか、これは……グッ、不味いぞ……今、奴に襲われたら一巻の終わりだ。早く、準備をしないと……)
 俺はなんとか身体を動かし、光の杖と黄金の腕輪を装備した。
 と、そこで、アシュレイアの嘲笑う声が聞こえてきたのである。

【フッフッフッ……お気に召したかな……サンミュトラウスの最下層ラム・エギドに漂う、我が故郷の空気は……。貴様等がこれまでに経験したことがないほど、穢れに満ちているだろう。満足に、手足も動かせないほどにな……フッフッフッ】

 恐らく、これが魔の世界の瘴気というやつなのだろう。
(ラーのオッサンが以前言っていた通り……魔の世界と、この世界は勝手が違うようだ。にしても……まさか、これほどの瘴気だとは……こんな状況では、戦闘なんてまともに出来ないぞ……)
 俺はそこでアシュレイアに視線を向け、奴の出方を窺った。
 するとアシュレイアは、悠々とした足取りで不気味な玉座に歩み寄り、そこに腰を下ろしたのである。
(なんだ……なぜ椅子に腰かける。なにをするつもりだ……)
 レヴァンはそこで玉座の脇に控え、跪いた。
 主従の関係がしっかりとできているようだ。
 まぁそれはさておき、腰を下ろしたアシュレイアは、俺達に視線を向け、優雅に話を始めた。
【さて……このまま、身動きの出来ないお前達を始末しても構わんが……その前に1つだけ、確認をしておくとしよう】
 アヴェル王子が声を荒げる。
「か、確認だとッ! 今更、何を確認するというのだ!」
【フッ、貴様に用はない。私が用があるのは……コータロー……お前だ】
「俺に用……なんだ、一体?」
【このまま死んでは、後悔もできぬだろうからな……今の内に訊いておこう。コータローよ……私に仕える気はないか? お前ほどの者をみすみす殺してしまうのは、少々、勿体無いのでな。こちらに寝返る気があるのならば、それ相応の椅子は私が用意しよう】
 これを聞き、ドラクエ1を思い出したのは言うまでもない。
(正直、この展開は予想してなかったが……今の状況じゃ、戦闘は不味い。とりあえず、交渉はするとしよう)
 俺はなるべく平静を装いながら、奴の勧誘に付き合う事にした。
「へぇ……ちなみに、どんな椅子を用意してくれるというんだ?」
【お前には、我が参謀としての地位を用意しよう。どうだ、悪い話ではあるまい】
「確かに……そんな悪い話ではないね。でも、いいのかい。魔物でないモノを招き入れて」
【フッ……私はそんな事には拘らぬ。私に忠誠を誓う者は、広く受け入れるつもりだ。其方(そなた)のような、この世界の民でもな】
「そうか。じゃあ、どうするかなぁ……」
 と、その直後、アーシャさんのお叱りの声が聞こえてきたのである。
「コ、コータローさん……貴方、何を言ってるんですの! 魔物の元になんて行かせませんわよ! 目を覚ましなさいッ!」
 続いて他の皆も。
「コータローさんッ! ここにきて何を言ってるんですかッ!」
「おい、コータロー! 何、馬鹿な事を言ってる!」
「気でも違ったか、コータローさんッ!」
 この反応は当然だろう。
 まぁそれはさておき、俺は皆を無視して話を続けた。
「返事をする前に、幾つか聞きたい事がある」
【ほう……申してみよ】
「以前、ヴィゴールが、アンタの事を魔の世界の大公と言っていたが、他にも大公はいるのかい?」
【フッ……おかしなことを聞いてくる奴だ。が、まぁいい。答えてやろう。お前の言う通り、サンミュトラウスには私を含め、5名の大公がいる。それぞれが、サンミュトラウスの各地域を支配する王だ】
「ということは、ラミナスを滅ぼしたのも、その中の誰かって事かい?」
【フッ、その通りだ。言っておくが、もうこの世界の半分は、我等の手に落ちている。そして、ここを含め、他の地も、あと少しで我等の支配域となろう。……私の言っている意味が分かるな。もうこの世界は、我等のモノになりつつあるのだよ。遅かれ早かれ、お前達は負けるのだ。我等の元に来るのが、賢明な判断だと思うがね】
「なるほどね……じゃあ、もう1つ聞いておこう。アンタは自らの手勢で、この国を支配しようとしているようだが、他の大公達とは連携はしないのかい?」
【連携だと……馬鹿馬鹿しい。なぜそんな事をせねばならぬのだ。我等は我等のやり方で、この地に侵攻し、そして、支配するだけよ】
 アシュレイアはそう言って、少し憮然とした表情を浮かべた。
 少々気分を害したようだ。が……この様子を見る限り、そこまでの仲間意識はないのかもしれない。
「なるほどね。どうやら、他の大公達とは、それほど仲が良いというわけではなさそうだ。ついでだから、これも訊いておこう。……魔の世界には、アンタ達大公以上に大きな存在はいるのかい?」
 するとアシュレイアは、目を細め、真顔になったのである。
【……何が言いたい】
「ただ思った事を口にしたまでだよ。それと……その口ぶりだと、どうやらいるみたいだね。ちなみに、その大公以上の存在は何て呼ばれてんだい?」
【貴様……】
 アシュレイアは射抜くような鋭い視線を俺に投げかけていた。
 どうやら、地雷を踏んだようだ。
 俺達の間に、暫し無言の時間が過ぎてゆく。
 程なくしてアシュレイアは、不気味に微笑んだ。
【フッフッフッ、なるほどな。そうやって交渉するフリをしながら、我等の情報を引き出すつもりか。愚かな……お前は今の状況を分かっておらぬ。身体も満足に動かせないこの状況で、お前達に何が出来るというのだ。フッ……まぁいい。これ以上の交渉は終わりだ。答えを聞こうか……コータロー】
「まぁ確かに、俺達は圧倒的不利な状況だ。このまま戦ったところで、俺達は成す術無く、やられてしまうだろう。生き延びる為には、寝返った方が良いのかもしれない」
 皆から非難の声が上がる。
「コータローさん!」
「なんだと、コータロー!」
「裏切るつもりか、コータローさん!」
 そんな中、ラーのオッサンの囁く声が聞こえてきたのである。
「コータロー……来たぞ」
 と、そこで、アシュレイアが確認してきた。
【ほう……という事は、こちらに来るという事か?】
 俺は某漫画家の如く、交渉を打ち切ることにした。
「アンタと仲間になるのも悪くない選択のようだ……だが、断る! 俺は魔物に魂を売り渡してまで、生き延びようとは思わないんでね」
【フッ……交渉決裂だな。ならば仕方ない。終わりにするとしよう】
 するとアシュレイアは、そこでまた印を組み、奇妙な呪文を唱えたのであった。

【ヨーディ・ヨーチ・ベルモ・シガ・ワール! いでよ、我が下僕(しもべ)達よ!】

 と、次の瞬間、辺りに漂う深紫色の煙が怪しく輝き、雷鳴のような轟音と共に、幾つもの黒い渦がアシュレイアの前に出現したのである。
 それはまるで、鳴門の渦潮の如く、螺旋を描いていた。
 黒い渦は次第に大きくなってゆき、そこから黒煙が立ち昇る。
 そして、黒煙の中から大きな何かが、瞬間移動でもしてきたかのようにフッと現れたのである。
 黒煙はそこで霧散し、その正体が露になった。
(コ、コイツ等は……)
 渦から現れたのは魔物であった。
 だが、俺はその魔物を見た事により、愕然とした気分になったのである。
 なぜなら、そこに現れたのは、ゲームでもラストで現れる強力な魔物達だったからだ。
 緑色の肌をした1つ目の巨人・ギガンテス。5つの頭を持ち、紫色の鱗に覆われた巨竜・キングヒドラ。三つ又の槍を持ち、牛のような顔をしたピンク色の巨大な悪魔・アークデーモン。それらが複数体現れたのである。
(あぁ……とうとう、こんなのが出て来た……ハッキリ言って、今の俺達のレベルでは太刀打ちできる魔物ではないぞ。ほ、本当に大丈夫なんだろうな……もうこうなったら、ラーのオッサンを信じてやるしかない)
 そこでアシュレイアは俺に視線を向け、歪んだ笑みをこぼした。

【フッ……アヴェラス城より、我が精鋭をこちらに召喚した。この者達だけでも十分、其方達を始末する事ができるが……念には念を入れておくとしよう。ヨーディ……ヨーダ・ラーカ……】

 アシュレイアは呪文を唱えながら、また印を幾つか組み始める。
 と、その直後、またもや床が怪しく輝き、今度は奴の足元に黒い渦が発生したのである。
(な、なんだ一体……奴の足元に渦がある。また強力な魔物を召喚するのか……)
 黒い渦から、先程と同じように黒煙が立ち昇り、奴の身体を覆っていった。
 すると程なくして、禍々しい邪気と共に轟音が鳴り響き、物凄い閃光が放たれたのである。
 俺は、そのあまりの眩しさに、思わず目を閉じた。
「キャァァ」
「なんだ、この光は! グッ」
 眩い光は徐々に消えてゆく。
 辺りには不気味な静寂と共に、今まで以上に邪悪な気配が漂っていた。
 俺は恐る恐るアシュレイアの方へと視線を向ける。
(なッ!?)
 そして、俺は奴の姿に恐怖したのである。
 そこには、6つの手を持つアシュレイアが佇んでいた。
 奴の手は阿修羅のように、左右に3本づつ生えている。が、全てが同じ手ではない。
 人間のような手や竜のように鱗がついた手、そして、堕天使を思わせる大きな黒い翼の手といったモノが生えているのである。
 変化はそれだけではない。奴の身体自体も2倍以上になっていた。しかもその上、奴の全身は、赤く輝くオーラで包まれており、それがとんでもない魔力の波動を放っているのである。
 先程の姿の時とは、比べモノにならない魔力の強さであった。
 俺は今の奴を見ただけで、身体を小刻みに震わせ、金縛りにあったような感じになっていた。
 他の皆も俺と同様、信じられないモノを見るかのように、大きく目を見開き、プルプルと身体を震わせていた。
 アヴェル王子も何かを言おうと口を動かしていたが、声になっていなかった。
 それはウォーレンさんやシャールさんにしても同様だ。
 恐らく、皆も本能で悟っているのだろう。コイツがとんでもない化け物だという事を……。
(な、なんだよ、コイツの魔力は……桁違いじゃないかッ。コイツはヤバい……さっきよりも遥かにとんでもない魔力を感じるぞ……もう絶望しか感じない)
 アシュレイアの目が赤く輝く。
【フフフッ……これが私の本来の姿だ。容赦はせん……徹底的にやらせてもらう】
 俺達を全力で叩き潰すつもりのようだ。
 獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす、を実行するのだろう。
 俺はそこで奴に言った。
「アシュレイア……アンタは強すぎる。ハッキリ言って、今の俺達では相手にすらならないだろう。いやそれどころか、この魔物達ですら、俺達は太刀打ちできない。それは素直に認めるよ」
 アシュレイアは俺を睨みつける。
【その口ぶり……油断ならぬな。この状況をひっくり返す策があるというのか? ヴィゴールの時とは違うぞ】
「……策はある」
 俺は右手に持つ光の杖の後端部を床に着けた。
「上手くいくかどうかは、俺もわからない。アンタはおろか、そこにいるアークデーモンやギガンテス、キングヒドラにすら、効果があるのかどうかもわからない。でも……俺はこれを計画した者の言葉を信じて、それを実行するよ」
 俺はあえて魔物の名を口にした。
 役目をこなす隙を作る為である。
 アシュレイアは今の言葉を聞き、眉根を寄せた。
【貴様……なぜ、この者達の種族名を知っている! 一体、何者だ!】
 ラーのオッサンは最後の打ち合わせで、こう言っていた。

 ―― ヴァロム殿がリュビストの結界を起動した後、お主は光の杖の後端をどこでもいいから床に当てるのだ。そして、先程教えた稼働呪文を唱えよ。さすれば浄化の結界は、本来の働きを取り戻す ――

 俺は与えられた役目をこなすことにした。
【リューズ・メイティナ・ノウン・リュビスト】
 呪文を唱えた、次の瞬間!
 俺の右腕に装備した黄金の腕輪が淡い光を放ち、増幅された大きな魔力が光の杖に注がれたのである。
 続いて、光の杖の先端部にある水色の宝石から青白い光線が放たれた。
 と、その直後、この空間全体が黄金色にキラキラと輝きだしたのだ。
 それに伴い、この空間に変化が現れる。
 なんと、床に漂っていた深紫色の煙が、部屋の中心で渦を巻き始めたのである。
 アシュレイアの驚く声が聞こえてくる。
【グッ……なんだこの光はッ!】
 光は強さを増してゆく。
 渦を巻く煙のスピードも速くなり、周囲に満ちていた邪悪な気配が消え始めていた。それだけではない。それと入れ替わるかのように、神聖な気配が、辺りに満ちてきたのである。
 おまけに身体も段々と軽くなってきた。
 それはまるで、徐々に重石が軽くなっていくかのような現象であった。
 反対に魔物達は、苦悶の表情を浮かべていた。
 流石のアシュレイアも、この状況を前にして険しい表情であった。
【グッ……なにィッ! リュビストの結界が動いているだとッ! そんな馬鹿な事がある筈……グァァァ】
【ギィィエェェェ】
【ウガァァ】
 魔物達の悲鳴がこの空間内に響き渡る。
 と、ここで、ラーのオッサンの声が聞こえてきた。
「よし……上手くいったぞ。浄化の結界は、これで完全に動き始めた。この空間に漂う魔の瘴気も、全部、奴等の世界へと戻ってゆくだろう」
 それを裏付けるかのように、魔物達に異変が現れた。
 なんと、アークデーモンやギガンテス、そしてキングヒドラは、濁流にのみ込まれるかのように慌てふためきながら、渦に吸い込まれていったのである。
 どうやら、このリュビストの結界は、不純物を取り除く作用があるのだろう。
 だが、それに抗おうとしている者が1名いた。アシュレイアである。
 アシュレイアは必死の形相で印を組み、またあの呪文を唱え始めたのだ。
【オノレェェ! させるかァァ! ケーラ……ヒーカツィ・ヨガーク・ラー……】
 するとその直後、渦を巻く煙のスピードが弱まっていったのである。
 それから程なくして、渦は形を保ったまま、止まってしまった。
 とはいえ、渦は完全には止まってはおらず、ピクピクと震えている感じであった。
 それはまるで、相反する2つの力が、押し合い引き合いを繰り返しているかのようであった。が、しかし……程なくして渦は、少しづつ逆回転し始めたのである。
(あら……渦が逆に動き始めた。これはもしかして……奴の魔力に負けてる?)
 今度はオッサンの驚く声が聞こえてきた。
「むぅぅ……なんという奴だ……己の魔力で、結界を元に戻そうとしておる。あのアシュレイアとかいう魔物……まさか、これほどの魔力があるとは……不味いぞ……」
 どうやらこれは、ラーのオッサンも予想していなかった事態のようだ。
 不安になってきたので、俺は小声で確認した。
「オイ……不味いってどういう事だよ」
「決まっておろう……魔物を封印できぬという事だ。このままだと、魔物達を魔の世界に帰せぬぞ。あの魔物をなんとかせん限り、浄化の結界は完成しない……」
「え? ……それって、つまり……」
「そうだ、コータロー。お前達で奴を何とかしろ。今の奴は、魔力の大部分を結界の発動へと割いてる。おまけに、浄化の結界も発動しているこの状況だ。恐らく奴は、本来の力は使えまい。うまくいけば、お主達で何とかなるやもしれん。2つの結界は今、互いに凌ぎを削っている。この均衡が崩れれば、あの魔物を魔の世界へと帰す事ができる筈だ」
「はぁ……やっぱり、そんな展開か。でも、俺がやっている役目はどうすんだよ」
「後は我が何とかしよう。これだけ光の力が満ちておれば、もう十分だ」
「なんとかするって……杖と腕輪はどうすんだよ。全部、ここに置いてけばいいのか?」
「杖は必要ない。ラーの鏡と黄金の腕輪だけをこの場に置いてゆけ。それで結界は操れる」
 俺はこの言葉を聞き、今ままでの疑念が確信に変わった。
(そういうことか……まぁうすうす、そうじゃないかとは思ってたけどね……)
「わかった。なんとかやってみるよ」
「うむ。頼んだぞ」
「こちらこそ、頼んだよ。精霊王のオッサン!」
「え? って……オッサンて言うなァァ」
 というわけで、俺は3つの道具を床に置き、行動を開始したのである。


   [Ⅱ]


 ラーのオッサンはその後、巨大な鏡へと変化した。
 鏡の中心には、光り輝く後光のようなモノが映り込んでおり、その何かが、黄金の腕輪を宙に浮かせ、結界を持続させていた。
(この結界はもう、完全に俺の手を離れた。あとはオッサンに任せよう……)
 俺は魔光の剣を装備し、皆に視線を向けた。
 すると、この展開についていけないのか、皆は呆然と立ち尽くしていたのである。
 というわけで、まずは皆に、現実へと戻ってもらう事にした。
「皆ッ! リュビストの結界が発動したことによって、敵はもうアシュレイアとレヴァンだけです! そして、俺達を動けなくしていた魔の世界の瘴気も、かなり薄くなりました。戦うなら、今ですッ! この結界の力で、アシュレイアは本来の力を発揮できません。今のアシュレイアならば、俺達でなんとかできる筈です!」
 皆も状況を察したのか、真剣な表情になり、無言で首を縦に振った。
 アヴェル王子とレイスさん、それと、シェーラさんにルッシラさんは剣を抜く。
 同じくして、ウォーレンさんとシャールさんも杖を構え、臨戦態勢へと入った。
 俺はそこで他の4人に言った。
「フィオナ王女とアーシャさん、それからサナちゃんとアルシェス王子は、危険ですのでここから離れてください」
 だが、アルシェス王子以外の3人は頭を振ったのである。
「いいえ、私も戦います。今は、この国の一大事なのです。女も子供もありませんわ」
「そうですわよ。なに言ってるんですの、コータローさん。私も戦いますわよ。貴方が戦うというのに、私だけ安全な所で見ているわけにはいきませんわ」
「私も戦います。今まで逃げてばかりでしたけど、もう逃げたくはないです」
 フィオナ王女とアーシャさん、サナちゃんは覚悟を決めたような意志の強い目をしていた。
「わかりました。ですが、無理は禁物ですよ。3人は後衛に回って、魔法で俺達を援護して下さい」
 3人は真剣な表情でコクリと頷く。
 そんな中、アルシェス王子が弱々しく、ボソリと言葉を発したのである。
「じゃ、じゃあ……僕は君の言う通り、後ろで見守らせてもらうよ」
「それで構いませんよ。ですが、その前に……」
 俺はそこで魔導の手を使い、アルシェス王子の眼鏡を外しておいた。
「あ!? ……僕の眼鏡が」
 国王がサークレットで操られていた可能性があるので、これはその為の予防措置であった。
(この眼鏡がそうかどうかはわからないが、今は少しでも、懸念を取り除いておくに越したことはない……)
 眼鏡を回収したところで、俺は一応、アルシェス王子に謝罪しておいた。
「すいません、アルシェス王子……今は緊急事態ですので、この眼鏡は預からせてもらいます」
「え、でも……」
「理由は、この戦いが終わったら、お話しします。では、下がってください」
「わ、わかったよ……じゃあ、頑張ってくれたまえ」
 そしてアルシェス王子は、そそくさと戦列を離れていったのである。
(逃げ足、早ッ! ……まぁいっか。さて、では始めるとしよう)
 俺は魔光の剣に魔力を籠め、ライトニングセーバーを発動した。
「行きましょう、アヴェル王子」
「ええ」――

 俺はアヴェル王子達と共に、アシュレイアへと慎重に近づいていった。
 と、ここで、アシュレイアは苦虫を噛み潰したような表情になり、レヴァンに指示を出したのである。
【チッ……仕方がない。レヴァン! 計画変更だッ。あの杖を使い、奴等の相手をしてやれ!】
【ハッ、アシュレイア様】
 レヴァンは返事をすると、俺達の前に立ち塞がり、歪な形をした黒い杖を取り出した。
 その杖は岩のように表面がゴツゴツしており、先端にはソフトボール大の深紫色の玉が付いていた。
 見るからに邪悪な意思を感じる杖である。恐らくこれが、アシュレイアが言う『あの杖』なのだろう。
 俺達はそこで歩みを止め、武器を構える。
 するとレヴァンは、そんな俺達を見て、歪んだ笑みを浮かべたのである。
【クックックッ……ここからは、私が諸君等の相手をしよう】
 アヴェル王子は声を荒げた。
「我等を前に、貴様だけで何が出来るというのだッ! この裏切り者がッ!」
【それができるんですよ。その代わり……私はもう、この世界の民ではなくなってしまいますがね。論より証拠です。我が転生した姿をとくと目に焼き付けるがよいッ! 身も心もサンミュトラウスの戦士となり、貴様等を始末してくれるわッ!】
 レヴァンは黒い杖を頭上に掲げた。
 杖が怪しく輝き、先端の玉から深紫色の霧が発生する。そして、奴の身体を包み込んでいった。
 と、次の瞬間! 禍々しい深紫色の光が放たれ、奴の姿が露になったのだ。
 レヴァンは青白い肌をした魔人となっていた。
 アシュレイアに似たタイプの人型の魔物で、額には鬼のような角が2つあり、口には吸血鬼のような犬歯が見え隠れしている。
 また、教皇の衣の袖部分が破れていることもあり、その異様な腕に目が留まった。
 なぜなら、奴の腕はカラスのような黒い翼となっており、その先端に伸びている手の指先には、鋭利な爪が伸びているからである。
 胴体と足の形状は、奴が教皇の衣を纏っていることもあり、ここからではよくわからない。が……2本足で立っているところ見ると、恐らく、人間に近い体型なのだろう。
 アシュレイアと同様、ゲームでは見た事がない魔物であった。
 今のレヴァンを何かに例えるならば、ギリシャ神話に出てくるハルピュイアと呼ばれる怪物だろうか。とにかく、そんな感じの魔物になって現れたのである。
 レヴァンは翼を大きく広げ、咆哮を上げる。
【グォォォォン! アシュレイア様の邪魔はさせぬッ! 八つ裂きにしてくれるわッ!】
 そして奴は俺達に向かって翼を羽ばたかせ、強烈な風を巻き起こしたのであった―― 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧