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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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相談-コンサルテイション-/part1

サイトから話を聞き、話し合うには広場が必要と考えたルイズの提案で、サイト・ルイズ・ハルナの三人はクリスを連れて食堂の席を借りて、話し合いを行うことにした。昨日は少し機嫌を損ねていたルイズも、一応の落ち着きを保っていた。
「…そういうことか」
昨日のサイトからの連絡もあり、シュウもこの場にいた。テファは部屋の外からは迂闊に出せず、かといって一人にさせるのも心細いので、リシュを傍に置いておくことにしている。しかし、まさかこんな日常的なことの手伝いをされることになるとは。
(まぁ、構わないか)
確かに今の自分はアルビオンに向かってアスカを救いに行くこともできないし、今もこれといって、久しぶりにビーストとの戦いが起こらない日が続いているので、断る理由もなかったが。
「クリス…」
「ん?」
ルイズはクリスの顔を見るや否や、少し気まずそうに目を逸らしながらもクリスに声をかけた。
「昨日は、その…ごめんなさい。強く怒鳴っちゃって。あなたは私のことを考えて怒ってくれたのに」
「そのことか…それなら私も同じだ。お前の気持ちも立場も考えずに首を突っ込んでしまった。我ながら浅慮だったよ」
クリスは決してルイズにキレたりすることはなかった。真摯に謝罪を受け止めつつ、自分も浅はかだったと認めて詫びを入れてきた。
(ルイズ、気にしてたんだな…だったら怒んなくてもよかったのに、まったく…素直じゃないご主人様だな)
サイトは、ルイズが先日クリスが自分を庇ったのに怒り出したことに、理由こそギーシュたちから聞いたとはいえ納得できなかったが、ルイズも申し訳なく思っていることを知ってホッとした。
ここには話を聞きつけて、キュルケやタバサ、ギーシュ、タバサ、モンモランシーまでもこの場に居合わせていた。しかもギーシュ、調子に乗って司会を率先している。
「さぁ、諸君!クリスと皆の親睦を深めるため、ともに考え合おうではないか!」
「…なぜ仕切ってるのがあの人なんです?」
サイトたちも思っていることをハルナが口にする。その問いに対し、タバサが理由を明かした。
「…どうせクリスからのお株を高めるため」
「株?」
「クリスが自己紹介の時、さっそく色目を使ってきたのよ」
ルイズも続いて口にした説明に、サイトはやはりかと納得した。


では、ギーシュとクリスの出会いについて、少し時を戻すとしよう。

彼女が授業に参加する初日、彼はクリスが自己紹介した直後に早速彼女を持ち上げる。
『あぁ、クリス!その名前を聞くだけで飢えも乾きもなくなる!』
『…覚えなくてもいいと願うのは無理か?』
対するクリスは、あまり良い気はしていなかった。目の前で大袈裟に躍り狂うギーシュから、少しでも早く距離を置きたがっていた。
『その使い魔も僕のヴェルダンデに通じるものを感じる!よし、その使い魔をヴェルダンデ2号と名付けよう!』
『人の使い魔に変な名前をつけるな!』
しまいにはクリスの使い魔ガレットに下らない名前をつけようとする始末。
『ちょっとギーシュ、私がいること忘れてるでしょ!?』
またか、と誰もが呆れるなか、交際中のモンモランシーは当然突っかかる。目の前にいるというのに油断も隙もない。
『え、あ、いやモンモランシー…これはだね…』
ようやくモンモランシーの存在を思い出して弁明を図るが、そこでギーシュにとって予想外な反撃が飛ぶ。直後にクリスの口から、一刀両断のごとき拒絶の言葉が来た。
『安心しろモンモランシー。お前たちの恋路の邪魔をする気は毛頭ない。私はこういうチャラチャラした男は嫌いだ』
『え…』
『そ、そこまで言われるのも複雑なんだけど…』
刀で切り捨ててくるようなクリスの言葉に、正面からはっきり言われたギーシュは撃沈。言われてみて、こんな男だとわかってもどうにもほうっておけないモンモランシーも少なからずダメージが行き渡っていた。



「またか…ギーシュらしいといえばらしいけど、クリスも容赦ないな」
話を聞いて、ギーシュが相変わらずであることを改めて知る。しかもネーミングセンスも酷いということも理解した。シュウの変身するウルトラマンにも、そのセンスをさらけ出したに違いない。つけられる前に阻止で来て幸運だったものだ。
「あれ以上詰め寄られていたら、私は彼の血で教室を赤く染めるところだった」
「怖いこと言うなよ!?」
さらりと帯刀していた刀の柄に手を触れるクリスに、サイトは怖さを覚えた。
「あぁ、それよりもサイト。此度は感謝する」
「え?」
「今回の件、クラスで浮いている私のためと聞いた。ここまで私のことを考えてくれているとはな。お前はやはりよき友だ」
クリスはギーシュに対するものとは打って変わって、笑顔を向ける。
「私はこの学院には一時しかいられない身だ。その中で皆と共に思い出を作り上げる。生涯忘れることのない心の中の宝となるに違いない」
サイトに対する深い感謝でいっぱいの言葉に、サイト自身も照れくさくなった。
「別に良いって。俺の学校では転校生が来たらパーティーを開いてみんなで騒ぐんだ」
「懐かしいなぁ…。私と平賀君も、地球にいた頃に転校生の歓迎会やってましたよ」
ハルナも地球にいた頃を懐かしんだ。
「そうなのか?貴族も、自分と相手の家の親交を深め合う手段としてパーティーを開くものだが、サイトの国にもそのような習慣を持っているのか」
憧れの師匠の国の話(時代は異なるが)に関心を寄せる
「ああ。だから今回、みんなで俺やハルナがいた高校みたいな行事をやってみたいんだ」
それは昨日のムサシとの相談で受けたアドバイスから考えを膨らませて導き出したアイデアだった。思えばこの魔法学院、あまりこれといった学校行事が存在している事を耳にしていない。正直面白みに欠けると思ったサイトは、皆の協力をまず得ようと考え、シュウやクリスを含めた皆を集め、この場を借りることにしたのだ。
「一つ思ったんだけどサイト、私たちは魔法と貴族としての礼節を学ぶためにこの学院に通っているのよ?本当なら、こんな遊びみたいにも取れることはよくないわ」
ルイズはサイトに向けて、指摘を入れるように口を開く。
「そんな冷たいこと言うなよ。最近、大変なことが連続して起きてるだろ?こういう時だからこそだって俺は思うんだけど」
「平賀君の言うとおり、最近の私たちは戦いばかりで、あまり心安らぐ時といえる時間がなかったですね。ルイズさんは反対なんですか?」
ハルナが憂いてるような目でルイズを見る。ルイズは彼女の質問に答えるように話を続ける。
「別に娯楽そのものを否定するつもりはないわ。それに、これはもうひとつのチャンスにもなりうるわ」
「チャンス?」
「…なんとなく理解できたわ」
首を傾げるサイトだが、一方でキュルケはすぐに理解を示したように声を漏らす。
「どういうことなんだ、キュルケ?」
「サイト、あなたも気づいてるでしょ?この学院の生徒たちが、以前と比べて明らかに少なくなっていることを」
言われてみて、周囲を見渡すサイト。確かに自分がこの学院に召喚された時と比べて、生徒の数がかなり少ない。
「生徒だけじゃない。ここで勤務している先生や平民の人たちも少なくなってる」
タバサが付け加える。
「しかも先日、ミスタ・コルベールが朝礼で言ってたのさ。生徒が十分に戻らない場合、学院を休校にすることも考えられる、とね」
さらに、今度はギーシュが説明を加えてきた。
「き、休校!?」
予想外の単語を耳にしてサイトはギョッとする。
「怪獣や宇宙人、闇の巨人の攻撃を受けた回数がただでさえ多いトリステインの中でも、特にトリスタニアとこの魔法学院が多かった。魔法も通じないし、ウルトラマンが苦労してやっと倒せるほどの脅威だ。そいつらが何度も現れるような場所に、学びに行こうとするなんて、相当の勇気が必要なのさ」
なるほどな、とサイトは納得した。
頻繁に被災地になりがちな母校へ通ってでも学びに行く。確かに誰も行きたがらない。いつまた身の危険に晒されるかわかったものじゃない。それなら実家へ家庭教師を雇ってしまえば、貴族たちは安心できる故郷で教養を積むことができる。
だがシュウは、そのような引き篭もり姿勢を肯定できなかった。
「しかし、学院の生徒が戻らないことも無視はできない問題だろう?学院の教師からでないと学べないこともあれば、同じ同年代の生徒とのかかわり合いがないと知ることのない知識もある。国の未来を担う子供たちが十分に育っていないようでは、たとえウルトラマンが全ての脅威を取り払った後でも、残っているのが未熟な人間では、人間同士の争いが起きかねない」
「その通りよ。あんたはちょっとムカつくけど、その賢さは褒めてあげるわ」
ルイズはやや上からの言い方だが、彼女なりにシュウに対して評価を示す。
「サイトの言う通り、これまで私たちは何度も怪獣や闇の巨人、異星人という別次元の存在からの脅威にさらされてきたわ。当然たくさんの人たちがパニックに陥った。私たちは場数を揃えてきたこともあって少しは慣れてきているけど、戦いの経験さえもない人たちからすれば、ただ逃げることしかできない。だから、いざという時に備えて、皆に集団行動に慣れるべきだと思うの。
だからこそ、サイトの言うクリスの歓迎会は、クリス個人のためだけに行うだけじゃなくて、まだこの学院に戻ってきていない生徒や教員たちをもう一度呼び寄せるような出し物にして開催しないといけないと私は考えてるの」
彼女は、クリスとの親睦を深めるだけでなく、魔法学院に戻ってきていない生徒たちをも対象にした行事に昇華することで、学院に未だ戻らない生徒たちと考えていた。
「クリス、勝手だけど構わないかしら?」
「ああ、構わないよ。その方が私としても誰かの役に立てるようで気持ちが良い」
「じゃあ結局、別に反対って訳じゃないのか。ならさっきの長話はなんだったんだ」
シュウは首を傾げながらルイズに問う。要するに賛成する、という意志を示しているのに、なぜわざわざ長話につなげてきたのだろう。
「わ、私は…サイトがただの遊び半分程度で行事を起こすのは良くないと思って言ったの。やるからには、ちゃんとした理由もないと、先生たちに納得してもらえないでしょう?」
「あ、そっか…無許可で行事なんてできないもんね。誰に頼めばいいんでしょうか…?」
「オールド・オスマンがベスト」
どうすればいいのか詰まりだしたハルナに、タバサが横から口をはさむ。
「確かに、魔法学院のトップだから当然ね」
キュルケも納得を示した。
「だが、その前に何をするのかはっきり決めておかないと、許可以前の問題だろう?」
「じゃあ参考を聞いてみましょう。サイト、ハルナ。あんたたちの学校ではどんな行事を行っていたの?」
「そうだな…」
サイトやハルナは、日本の高校生だったこともあって、体育祭や林間・臨海学校、合唱コンクール、文化祭…自分たちが経験した学校行事を提案した。ルイズたちには馴染みのないイベントなので説明も付け加える。しかし話を聞いて、ギーシュたちは渋い顔を浮かべる。
「すまないがサイトよ、君の意見だが正直やりたいと思えるものはないよ。特にリンカンガッコウとやらは論外だ」
「なんでだよ?キャンプ楽しいぜ?」
「私たちは貴族よ。野宿なんてありえないわ。戦時じゃあるまいし」
「たいいくさいとやらも却下だ。汗水流して無意味な運動などごめんだ」
反対を述べるルイズ。ギーシュも続けて反対する。
どうもキャンプは戦争を連想させてしまうらしい。面白いんだけどな、と惜しみながらも、その理由については納得できた。ただ一方で体育祭については、ギーシュに体操着やブルマの存在が知れたら、間違いなく賛成すると確信している。…後が怖いので口には出さないが。
「合唱コンクールも微妙ね。私は聞く専だし」
タバサも「ん」と、モンモランシーに同意を入れた。
「歌なら私、自信があるんですけど…」
「あら、そうなの?」
「学校ではコーラス部に所属していたんで」
ポツリと呟いたハルナの独り言に、モンモランシーは少し驚いたように彼女を見る。思えば、正体を明かす前のウェザリーが主催した舞台の練習に参加したい際、ハルナの声はやたら周囲の気を引くほどの美声でもあった。部活で鍛えていたなら自信があるのも頷ける。しかし、ハルナはだからといって合唱コンクールを無理強いする気はなかった。やる気のない人間に歌わせても、聞くだけ無駄な歌を聞かせ、かえって皆の気分を害するだけだ。
「ぶんかさい…というのも漠然としているな」
「模擬店はともかく、演劇は悪くないと思うわ。でも、いくら演劇の経験なんて本職の人たちと比べてあたしたちのは付け焼刃よ。それなら信用における人を呼び寄せた方がいいと思うけど?」
文化祭についても、クリスとキュルケからそれぞれ意見を帰される。演劇は、前述でもふれたウェザリーの舞台に付き合わされた。それはあくまでハルナの鞄を取り戻すため、アンリエッタから依頼されていた黒いウルトラマンの情報を得るためという目的もあったから割り切っていた。だが今回のように、自分たちで自発的にとなると、元々乗り気でやりたいことではなかったから話が違ってくる。
『…ゼロ、お前から何かないか?』
ハルナの悩むような顔を見届けたところで、サイトはゼロにも尋ねてみることにする。
『いくつか挙げてるが、どれもギーシュたちに却下されると思うぜ』
だがゼロは、自分のアイデアさえも却下されることを予感していたらしく、何も言わなかった。加えて、ゼロはサイトにその理由を言った。
『サイト、いきなり地球の学校の行事をやらせようとしても、彼らは納得できないと思うぞ。地球の一般人と異世界の貴族とでは、考えも環境も異なる以上はな』
言われてみれば、確かに。とはいえ、それでもサイトは皆が地球の学校行事に難色を示していることにがっかりした。
「面白いんだけどな…」
学校行事は退屈な授業と比べると十分に楽しむことができた。クラスのみんなとも盛り上がって楽しむことができた。だからこうして精力的に皆の意見を聞こうとしているのかもしれない。
そう思うが、納得してもらえないなら仕方ない。
「そんなに言うなら、みんなにも意見あるだろ?」
サイトはとりあえずみんなからの意見を聞くことにした。
「じゃあやっぱりここは舞踏会にしない?素敵な男性と一晩踊り明かしたいわ」
「それなら馬車で遠乗りなんてどうかしら?」
「どれもだめだ。みんなでやってこそ意味があるんだ」
今回の話し合いの目的は、自分たちで行う学校行事を決めること。そしてそれを開く目的は、クリスがクラスメートに溶け込ませること、シュウとテファに手伝わせ、溝が深くなりつつある二人の関係を元通りに戻すことだ。加えて、急行の危機にもなっているこの学院にもう一度生徒たちを呼び寄せるという目的もある。キュルケとモンモランシーがそれぞれ出した意見は、結局他人の力によるものだし、学院に生徒を戻すためというには目的からずれてしまっている。
「ははは!なら皆で魔法の腕を競い合うトーナメントを行うというのはどうだね?僕の華麗な魔法でみんなを魅了してあげようじゃないか!」
「シュウ、あんたに何か案はないか?」
「おい、サイト!露骨に無視しないでくれたまえ!」
適当に、自分が目立とうとしているのが見え見えなギーシュを無視し、サイトはシュウにも意見を求めると、彼は目を伏して記憶をたどる。
「……ハロウィンパーティー」
「え?」
「アカデミーにいたころ、皆でハロウィンパーティーをやったことがあった」
「ハロウィンパーティー!?そんなのやってたのか!」
シュウに対してお堅いイメージが根付いていたこともあって、サイトは思わぬシュウの過去に驚いていた。
「アカデミーですって?王立魔法研究所の…」
「…何の話だ…?」
「…うぅん、そんなわけないわね。ごめんなさい、続けて」
その一方で、ルイズはシュウの口から出た『アカデミー』と言う単語に釣られてくる。だがシュウは、ルイズの呟きに関して、彼女と自分の間に食い違いを感じて詳細を尋ねてきたあたり、認識の語弊であることを理解してルイズの方から話を切った。偶然にも姉の職場の通称と被っていたことあって、胸中では紛らわしいのよ全く、とぼやくのだった。
シュウの言うアカデミーとは、彼がダラスにいた頃に住み込みで通っていたTLT北米本部支部の極秘組織『アカデミー』でのことだった。
「ところで、その前にそのハロウィンってなに?聞き慣れない単語ね」
ハロウィンのことは、さすがに異世界の行事ということもあって聞いたことすらないこのハルケギニアの面々は首をかしげている。
「そうだな。ハロウィンとは古代アイルランドに住んでいたケルト人が起源とされる祭りであり、秋の終わりと冬の始まりを意味していて、死者の霊が…」
「ちょちょちょい待て。長くなるなら詳細だけを求む」
シュウの口から突如、まるで先生の長々とするあまり全く頭に入らない授業を思わせる長々とした説明が出てきて、サイトは待ったをかける。
「えっと…簡単に言えば、現世に降りてきた死んだ人々の魂を迎える時に備えて、彼らを真似てお化けや悪魔の仮装をして、お菓子や飲み物を用意するんです。今では仮装とお菓子の交換を楽しむこと自体を目的とした伝統行事となってるんですよ」
「まぁそういうことだ」
簡潔に纏めてくれたハルナに感謝しつつ、自分のハロウィンにまつわる話を続ける。
「幽霊や悪魔に化ける?そんな祭りがあるの、あんたたちの世界って」
「考えたこともないな。そんな行事があるのか…?」
ブリミル教と言う、異なる宗教を国教とし、貴族と言う高い身分の出身ということもあるのだろう。まさか自ら邪な存在に仮装するだなんて、ハルケギニアの貴族であるルイズたちには信じられないと言った反応であった。憧れの師匠が妖魔退治を生業としていたこともあって、侍ガールであるクリスにとっても考えもしなかったことであった。
「俺の学校…アカデミーは特殊でな。ビースト対策を優先するべき組織の管轄下にあるため、本来ならアメリカの一般のそれとも違って学校行事は一切しない。あると言えば研究発表会くらいだ。でも以前、一度だけ特例として開催が許されたことがあって、それきりだったな」
シュウがかつて生活していたTLT管轄のアカデミー。あそこは娯楽が何もないわけではないが、日本の学校のようなイベントは本来一切行っていない。余暇の時間にバドミントンなどのスポーツをしているのを見かけたことはあるのだが…ビーストに対抗できる人材を確保するためとか、人類の求める謎を解明することを望まれていたため、娯楽に興じる姿勢を強く求められていなかった。
「研究って…もしかして、相当のエリート!?」
目を見開くサイトに、シュウは「さあな」と一言返した。
「それでどうだ?参考程度にはなるか?」
「だめ」
シュウが参考になるかどうか問うと、即座に思わぬほうから反対が飛んで来た。その反対意見を出してきたのは、タバサであった。
「ハロウィン反対。私は嫌」
「え、えっと…珍しいわね。あなたのことだから、どうでもよさげな認識だと思ってたけど」
モンモランシーは、タバサは大概賛成意見以外は興味を示さないという感じであったが、ここまで強い意志を持って反対意見を出すというのは珍しく思った。
「べ…別に、仮装するのが面倒なだけ」
指摘を受けたタバサはというと、一瞬だけびくっと身が震えたのだが、それをサイトは見逃さなかった。
「…あ、ははーん、ひょっとしてタバサ。お前って」
「…何?」
妙に意地の悪い笑みを浮かべるサイトに、タバサは面倒なのに絡まれたとばかりの嫌そうな顔を浮かべていた。
「苦手だろぉ?お化け。ってかホラー系の類とか」
「…っ!違う…」
一瞬喉の奥が詰まった。そんなタバサにサイトはやっぱり!と確信を得て口角を吊り上げた。
「え~ほんとかよ?今一瞬、震えてたの見えてたぜ?」
「見間違い」
「うっそだ~。だったらなんで鼻の頭に血管が浮いてんだよ」
「!」
「まぁ嘘だけどよ。でもやっぱりその様子だと、苦手みたいだな、お化けの類。
へっへっへ…間抜けは見つかったようだな」
「………っ」
ついうっかり鼻の頭をさするタバサを見て、ますますサイトは笑みを不敵且つ薄気味悪いものへと変えていった。嘘をつくと鼻の頭に血管が浮く、という嘘も、地球にいた頃に読んだ漫画の真似事だ。でもこれで、一つ仲間の思わぬいじりネタになりそうな弱点を見つけて、サイトは満足そうである。当然それを、普段は寡黙なタバサも流石に面白くなく、何より今のサイトの顔を崩してやりたいとばかりに杖を手に取っていた。
「ふん!」
「ぐぉ!」
「タバサ、後でこのバカ犬にはしっかりし付けておくから機嫌を直して頂戴」
「…許す」
自分の使い魔が女子をからかってる姿を見かね、ルイズはとりあえず一発腹パンをかましてサイトを黙らせ、タバサの機嫌を取るのだった。
「もうだめよサイト、タバサってこう見えて繊細なの。優しくしてあげなくっちゃ」
「は、反省します…」
腹を抑えて膝をついているサイトに、キュルケが耳打ちする。
「ま、まぁ…そのハロウィンと言うのは中々ユニークな案だとは思うが、貴族である僕らが気品ある格好に身だしなみを整えるならまだしも、自ら幽霊や怪物に瀕するなんて、さすがに貴族としての品位が問われかねないと思うんだが」
「困りましたね…意見がまとまらないです」
ギーシュも、ハルケギニアの貴族としての一般的な視点からの反対理由を立ち上げ、ハルナは困り果てた様子を露わにする。
「……とりあえず、意見がまとまらないのなら少し休憩をはさんでみてはどうだ?」
何も決まらない状況だが、クリスのその提案に皆が賛同し、一度解散ということになった。



「うーん…」
今、サイトはルイズの部屋に戻っていた。
クリスをクラスのみんなと仲良くするため、シュウとテファの仲を元通りにするため。加えて魔法学院の休校を防ぐべく学院に生徒を呼び戻すため。そのために生徒の手で行う学校行事。ここしばらく怪獣・星人・闇の巨人・レコンキスタとの戦いが連続して起こってきたため、今は久しぶりの平穏と言えた。だからちゃんと行って皆を喜ばせたいところなのだが…地球にいた頃の生活をもとにした意見を出してもルイズたちから却下され、サイトはどうすればいいのか迷うばかりだった。
「デルフ、お前からも何かアイデアないか?」
壁に立てかけているデルフにも尋ねてみる。
「あん?そうは言われてもよ、俺ぁただの剣だしよ…」
使えない…とは口に出さなかった。
「…相棒、今俺っちの事使えねェって言ったろ?」
デルフにズバリ言い当てられ、ギクッとするサイト。
「そりゃ、俺はただの剣だしぃ~、戦い以外となると暇だしぃ、相棒にはもう一人自分の中に相棒がいるみたいだしよぉ…」
「わ、悪かったって…」
確かにデルフが戦い以外ではあまり影が薄くなってる気がしなくもない。しかもゼロと一体化している身としては、デルフだけにこうして一人の時の言葉の交し合いなんてなかなかできない。最近サイトと喋る機会もなくて拗ねてしまっているらしい。
「酷いわ、私のことは遊びだったのね!?」
「その声で誤解を与えるようなこと言うな!キモイッツーの!」
なんとか機嫌を直してもらおうと思っていると、扉をノックする音が聞こえてくる。ルイズが戻ったのだろうか。サイトは部屋の扉を開く。
「きゅー」
そこにいたのは、クリスの使い魔ガレットだった。
「ガレット?何か用なのか?クリスと一緒じゃないみたいだけど」
『サイト、こいつは動物だぜ?俺たちの言葉なんて…』
ゼロが動物に対しても思わず人間相手に接するような口調で話すサイトに突っ込む。
「そういう君だってご主人と一緒じゃないじゃないか。お互い様だね」
「ああ、確かに今ルイズは行事について考えに………うん?」
ルイズが今いない理由…一人で頭をひねってみたいという意志を尊重してのものだと語ろうとしたが、そこで彼は耳を疑った。今、妙に渋い男の声が聞こえてきたぞ?
「今の、もしかしてデルフか?」
振り替えってデルフに尋ねる。
「相棒、俺の声も忘れたのかよ。やっぱりあたしのことなんて…」
「そのキャラ引っ張るなよ!あのオッサン思い出すだろ!」
「おーい、サイト君。俺だよ、俺」
未だにオカマキャラを引きずるデルフに突っ込みを入れると、まるでどこぞの詐欺目的の電話のようなふりでサイトを呼ぶ声が再度聞こえる。声の聞こえた方を辿る。しかしそこにいるのはガレットだけだ。…まさか。
「俺俺」
手、というよりは前足?それを振るガレットの口から、はっきり聞こえた。渋い声で。
「お前が喋ってんのかぁ!!?」
「うん、俺だよ、喋ったの」
「うそーん…」
サイトは絶句した。こんなかわいいカピバラからこんな渋い声が…と言うか、カピバラが喋っているという現象に。
「いやいや、お前カピバラだろ!?なんで喋ってんだよ!?喋っちゃダメだろ!?ファンタジーにも程があるだろ!?」
「ふぁんたじぃ、なんて言われてもねぇ」
混乱気味のサイトに、少々困ったようにガレットは言う。
「剣である俺も喋ってんだ。今さらだろ?相棒」
仰る通りだが、動物が言葉を言い放つなんてまだ常識から離れたことだ。ともあれ認めざるを得ないか。すると、ガレットは辺りをキョロキョロと見渡すと、サイトから背を向ける。
「あぁ、そうそう。ちょっと話があるんだ。中庭まで来てくれる?ここだと話しにくいから」
言われるがまま、サイトは中庭まで着いて行った。ついでに、またデルフが拗ねる気がするので、デルフも携える。既に夜だったからか、中庭は双月の光で照らされていた。
「ここなら良いかな」
ガレットが立ち止まったところで、サイトは口を開いた。
「お前喋れたのかよ?」
「まあね。これもお嬢との契約のお陰だよ。君の言う通り、お嬢のマスコットである俺が、こんなかわいい見た目で中年男の声なんて出すわけにいかないよ。乙女心に傷がついちゃう。だからお嬢も俺が喋れることは知らないし、女の子がいる前では元々の鳴き声を出すようにしてるのさ」
乙女心って…なんか突っ込みたくなる。まぁ、ガレットの可愛さにはルイズやハルナ、そしてティファニアもやられている。彼女たちも驚くだろうな。しかも紳士的な配慮ができるとは、知能が人間並みに高いようだ。
「ところで、俺に話があるんだったろ?」
「ああ、そうだよ。なんかサイト君たち、何か学院でやるつもりみたいだね?どうもお嬢のためでもあるみたいとか言ってたけど、どういうことだい?」
「実は…」
サイトは、孤立しがちなクリスのために、そして最近の怪獣災害が原因で欠席者が続出する魔法学院の休校を防ぐべく、自分たちをはじめとした、まだ通っている生徒たちの手で、学校行事を行おうとしていることを明かした。そしてその準備の際には、シュウとテファにも手伝わせ、少しでも時間をもて余している二人に、最近感じられなかった楽しい日常を与えようと考えていることも話した。
「なるほどねぇ、うちのお嬢だけじゃなく、お友達のカップルのため、そして学院の生徒たちのことを考えて…君はいい子だね。さすがお嬢が見込んだ侍だ。実にすばらしい!」
「いや、そんな…俺だけじゃ何も思いつかなかったよ。ある人(ムサシ)のおかげでもあるんだ」
声のせいか、まるで人生の先輩から褒められているようにも聞こえる。それを抜いてもサイトは褒められて少し照れくさくなる。しかし、さらりとシュウとテファをカップル呼ばわりしている。あの二人が…?サイトはそれはどうだろうと微妙な気持ちで疑惑した。テファは美貌、スタイル共に抜群の美少女だが、どうもシュウが堅すぎる性格だから想像できない。
「ただねぇ…」
すると、ガレットは少し悩むように声を低くして言い始める。
「お嬢のことを心配してくれるサイト君だから話すんだけど…実はお嬢、この魔法学院に来たのは留学目的じゃないんだ」
「え?それってどういうことだ?」
留学するために来たのではない?サイトは当惑する。
「表向きは留学生ってことになってるし、せっかくの機会だからお嬢自身も勉強を目的としていることも確かだ。トリステインだからこそ学べること、そして何度も怪獣災害やレコンキスタの侵略に耐え続ける国の状況を知るため…でもそれらはあくまでついで。
本当の理由は別にあるんだ。お嬢は、お父上である国王様から、ある使命を与えられてこの国に来たんだ」
「使命?」
「なんだ?面白え話になって来たな」
デルフも興味を引いたようで耳?を傾ける。
「お嬢は王女だ。本当なら、国を開けちゃいけない立場だ。ましてや、ここ最近までトリステインは何度も怪獣や宇宙人…だったかな?彼らの襲撃を受け続けて危険性が高い地域という認識があるんだよ。たとえ噂に聞くウルトラマンっていう巨人たちが守っているとしても、それは変わらない。だから使命が終わったら、すぐに国に帰らないといけないんだ。そして、きっとこの学院の多くの子たちと二度と会わないだろうね」
「二度と会えなくなる…!?」
せっかく遠い場所からこの国に来たのに、使命を果たしたらすぐに帰らないといけない。ある意味、ウルトラマンみたいなもの…なのだろうか。
「そういうこともあってね、お嬢自身、あまり周囲と馴れ合おうにも馴れ合いきれないんだ。別れた後が辛いと思うと、どうしても抵抗感を感じてしまうんだ。その使命については、アンリエッタちゃんも知ったうえで編入に力を貸したんだ」
「アンリエッタちゃんって…」
女王を仮にもちゃん付けとは。ルイズが聞いていたらことだぞ。アバウトな奴だと思いながらも、使命を帯びてこの国に来たクリスに対し、サイトは寂しい気持ちを抱いた。
「サイト君、君はお嬢を本当に心配してくれている。使い魔である俺も嬉しいよ。ただ、その辺りの事もわかってほしいな」
その辺りのこと、仲良くなればなるほど別れるのが辛いから、最初からクリスは馴れ合おうとしていないことか。だが、サイトはそんな話に納得を示せなかった。
「…俺は、そうは思わない。短い間だからこそ、いい思い出を作って笑顔でお別れするのがいいと思う。クリスが本心で誰とも馴れ合おうとしないってわけじゃないんだろ?俺の事憧れの侍だって思ってたなら、本気で孤高を貫くなら俺に構おうとなんてしないだろ?」
恐らく学院内では最も自分はクリスとかかわっている。話している時、彼女の目はとにかく、同じ侍と出会えたこと、そして友になれたことを本気で喜んでいた眼差しだった。
「そうだろうねぇ…」
サイトの考えに、ガレットは一応の納得を示していた。使い魔という立場、彼女のことを誰よりも近くで見てきたからこそだろうか。
「ちょっと試すような言い方になっちゃったね。やっぱり、君はお嬢の考えている通りの子だ。お嬢はサイト君を尊敬できる友達だって思ってる。だから、もしも力を借りたくなったら、本人の口から明かされるよ」
これ以上無理に聞くことはないだろう。一番クリスの近くにいたガレットだ。そう思えるのなら、きっとそうなのだ。クリスの背負っている使命は気になるが、それは本人の口から聞くその時を待つことにした。
「わかった…困ったことがあったらすぐに言うようにしてくれよ?」
「もちろんだよ。お嬢のこと、本当にありがとうね。出し物期待してるよ。
それじゃ、キュー!」
話をそこで終え、ガレットはいつもの鳴き声を出して去って行った。
「すげーギャップだな、あの声」
「だな、どっから声出してんのやら」
サイトとデルフは、中年の声とカピバラとしての可愛らしい声を使い分けられるガレットに、ただ驚いていた。
しかし、クリスが遠い国オクセンシェルナから来た理由…ある使命を果たすため。一体彼女は何を目的としているのだろうか。さすがに侵略者の手先だなんて思えないが、なんにせよ考えても答えが出るようなものではなかった。
まぁそんなわからないことよりも、今はこれから行う行事のことだ。結局何をするか決まらずじまいだ。
「光の国も、思いの外地球とやってることあんまし変わんないし…」
サイトは自分の頭の記憶をたどる。その際、頭の中に光り輝く都市の学校の光景が過った。
「相棒?」
ふと、デルフがなんとなくサイトの言葉に、違和感を覚えた。
「?なんだよデルフ。何かお前の思いついたのか?」
自覚がないのか、サイトはデルフの指摘に対して首を傾げた。
「あ、いや……悪いな。特に何も浮かんでなくってよ」
「なんだよ、何か言いの思いついたのかと期待しただろ」
サイトは苦笑しながらデルフに言う。
「へーへー、ただの剣ですいやせんでしたぁ」
わざとふてくされたふりをしようと、そのように返事をした。
何でもないふりをしたデルフだが、彼は妙な不安を覚えていた。ついさっきの彼の言動…まるで自分がサイト=ゼロのような言い回しだった。確かにサイトとゼロは同じ肉体と命を共有しているが、自我はそれぞれ独立したもののはずだ。だがその割に、まるでさっきのサイトの喋り方は、彼もゼロみたいな…いや、サイト自身がウルトラマンゼロ本人のような喋り方だった。
これが何を意味するのか……それが明かされるのはまだ先のことだった。
 
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