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相談役毒蛙の日常

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八日目

「脱出するぞ」

「脱出って…外は邪神がうようよいるんだろう?」

「そうよ、それにマップも無いのにどうするのよ?
何処に階段が在るかわかってるの?」

「ん?んー…まぁ何とかなるでしょ」

「なんとかって…」

「無理に決まってるじゃない」

「ではリーファ君、ここで黙っていれば事態は好転するのかね?」

「いや、それは…そうだけど…」

「『好ましい未来なんてのは踏み出した先にしかない』んだよ」

「いいこと言うなぁ、誰の言葉なんだ?」

「んー?十年前のアニメの主題歌の歌詞の一部さ」

「へ~なんてアニ…」

「今はそんな話してる場合じゃないでしょ!」

チッ…バレたか…

「キリト、お前…どのくらいで走れる?」

「アンタの使い魔と同じくらいだよ」

そう言えばそうだったな。

「じゃぁリーファは玉藻に乗れ、俺とキリトは走って行く」

「貴方ノームでしょう?貴方が乗るべきよ」

「いや、これで良いんだよ」

「何でよ、私の方が速いわよ」

ああ、成る程、鈍足扱いが嫌なのか。

「お前さんが速いのは翅だろう。脚は俺達の方が速い」

「むぅ…」

「さて、話が纏まった所で…玉藻!」

「なに?御主人?」

「聞いてた通りだ」

「はーい」

玉藻はおもむろにリーファの襟をくわえて…投げた。

「え、ちょっと、待って!な、なんなの!きゃぁぁ!?」

ぽふん、と玉藻の背中に落ちる。

「キリト、玉藻」

「いつでも」

「いいよ御主人」

「行くぜ!マイア!」

俺は靴を使った。

この靴の名はタラリア。

ギリシャ神話に登場するヘルメスのスニーカーだ。

マナを消費する事で如何なる場所でも進めるのだ。

キリトと玉藻が並走している隣を飛ぶ。

「ちょっとぉ!いきなりすぎない!?」

リーファに文句を言われた、が…

「これ以上いいアイデアはないだろう」


そうして少し進んでいると戦闘の音が聞こえた。

モンスター同士が戦っていた。

海月と象を足したようなモンスターと阿修羅のようなモンスターが…

「テイムしたってのか?何処のパーティーだ!?」

「いえ!戦ってるのはプレイヤーではなくモンスター同士のみです!」

「なにぃ!?」

ありえんだろう!邪神のテイム率はエヴァ初号機の起動確率クラスだぞ!?

「ねぇ!」

「どうしたリーファ!」

「キリト君、妖獣使い!助けよう!」

はぁ!?

「どっちをだ!」

マジかよキリト!

「虐められてる方!」

「OK!トードもいいか!」

「ったくしゃーねー!やってやるよ!で、どうする?」

俺はヨトゥンヘイムは初めてだから何処に何があるかなんてしらん。

「ユイ!水辺はあるか?」

「はい!北に50メートル地点に氷結した湖があります!」

なるほど、虐められてるのは海月の方、なら…

「行け!俺がタゲを取る!」

そしてリーファを乗せた玉藻とキリトは走って行った。

「まぁ…いっちょやるか…」

俺は剣の鋒を阿修羅のような邪神に向ける。

「アッデ・ベネディクシオ・デ・ルーナプレーナ・テルマ!
ルーナ・ルーケター・クアム・ソーラーレ!」

鋒から光が迸る。

闇魔法スキル中位魔法<月光波>。

月の加護を武器に宿らせ放出する魔法…という設定だ。

中々に使い勝手がいいので重用される魔法だ。

そんなことを考えているとビームが途絶えた。

邪神はくるりとこちらを向いた。

HPバーの下にタゲが向いたというアイコンが出た。

「鬼さんこちらへ!手のなる方へ!」

俺は湖に向かい全力疾走した。

ズシンズシン!

「うおぉぉぉぉぉぉ!こえぇぇ!」

キリト達の所まで200メートル。

十秒で走りきり後ろを向いたら…

バキバキバキィ!と氷が割れて阿修羅型が水に落ちた。

そして追い付いた海月型が阿修羅型をボコボコにした…

「一件落着だなキリト、リーファ」

「ああ、そうだな…ってマズイ!」

阿修羅型をボコった海月型が俺達の方に向かって来たからだ。

「ちょ、ちょリーファ!どうする気だよ!?」

「あ、あたしに聞かれても!」

と焦る二人をよそに俺は落ち着いていた。

「だぁいじょぶだって、アイツは俺等を攻撃しないよ」

これは、玉藻の時と同じ気配だ。

「はい!トードさんの言う通りあの子は怒っていませんよ」

海月型が象のような鼻を伸ばしてきた。

「ひぇぇぇ…!」

とリーファが情けない声を上げ、キリトが棒立ちになる中俺は大した同様もなかった。

伸ばされた鼻に触れて褒めてやった。

「よーしよし、痛かったよな、よく頑張った」

すると海月型は俺達を鼻で巻き取ってその背に乗せた。

「お~玉藻とはまた違ったモフモフ具合…これもなかなか…」

玉藻を抱きしめながら下もモフモフ…

ここは天国か…

「ねぇ…これって何かのクエスト?」

「ログが出てないから違うんじゃないかな?」

「キリトに賛成…モフモフ…いい」

「でもプレイヤー参加型のドラマクエストの可能性も…だとすれば厄介だな…」

「げぇ!」

「どうしたんだ?リーファ?」

「あたし前にホラー系ドラマクエストで選択ミスして魔女の釜に放り込まれたのよね…」

ああ、あれか、たしか…<グルヴェイグの館>だったか?

受けたほぼ全員がバッドエンドだったという…

「そ、それは…また…ハードなクエストだな…」

「<グルヴェイグの館>だろう?
あのクエストはトゥルーエンドだと最後に魔女グルヴェイグが女神フレイヤだと正体明かしてフィールドの『グルヴェイグの館』が『フォルクヴァング』に変化。
その後アイテム貰えたぞ」

北欧神話知ってたら一発で解けるヤツばっかりだったしな。

「うそっ!アレをクリアしたの!?」

「ああ、HPスリップ500%/4分オールステータス100%アップの純金のネックレスだ。
名前はたしか…ブリージンガメン・レプリカだったかな?
でも女性専用装備でな…まぁレアリティがレアリティだからギルドの個人金庫に置いてあるがな」

まぁ、裏技を使えば装備できなくもないのだが。

「へ、へー…」

いやー、あのクエストは事前に北欧神話の知識が無いとわからないしな…

「あ~盛り上がってる所すまないがこの後はどうするんだ?」

「さぁな?」

「さぁなって…」

「だって邪神をテイム?できるとか知らないしこの後展開なんてそれこそ知らん」

そう言った瞬間、邪神が歩みを止めた。

「ん?なんだ?」

「どうしたの?トンキー?」

は?

「リーファ…その名前は…ちょっと…」

キリトも批判気味だ。

「だって、思い付いたんだもん」

まぁ、いいか。

「おーい?トンキー?どうしたー?」

トンキーは触手を畳み動かなくなった。

「どうしたんだ?イベントか?」

とキリトが不思議そうにしている。

「ん~」

HPが尽きてないのに動かなくなったモンスター…考えられるのは…

「形態移行?」

「「え?」」

「ボスモンスターとかでよく第二形態とかあるだろう?そのための準備かもしれんぞ」

「とすればこのトンキーの状態は…サナギ?」

「かもな」

すると、一人の男がやって来た。

玉藻はPvPが苦手なので、札に戻しておく。

「クエストNPCか?」

とキリトが言った…アホか。

「どう見てもプレイヤーだろうがバカキリト」

「うっ…」

そのプレイヤーは俺達に言った。

「その邪神…狩るのか?狩らないのか?狩るなら離れろ」

成る程…邪神狩りか…

「悪いがこの邪神は俺達の予約済みだ、失せろ」

「ちょっ!トード!」

俺は手でキリトを制す。

「下級の狩り場ならともかくヨツンヘイムでそれが通じない事は知っているだろう?」

「ほう?通じない?何を言っているんだ貴様?
他人の獲物を奪うのがルールだとでも言いたそうだな魚人風情が。
ゲームマナーも守れん輩はとっとと失せろ」

「貴様!我等を愚弄するか!」

「愚弄?テメェらこそ調子に乗るな。
大方ワイプしかけて勝てそうな奴を選んだ様だが…
俺の獲物を奪おうってんだ。
今度こそワイプする覚悟が有るんだろうな?」

「貴様ら三人で何ができる?」

「ほう?言うじゃないか…」

俺は上半身の防具を解除し、背中を見せた。

そこにはカオスブレイブズのシギルとイクシードの紋章、さらに…

「世界樹に突き刺さる大剣!? 貴様よもや…!」

世界樹に突き刺さる大剣…俺が昔作ったパーソナルマークだ。

カオスブレイブズ初期メンバーは何かしらのパーソナルマークを持っている。

まぁ、わざわざ刺青なんてしてるのは俺やテルキスだけだがな…

「これでもやると言うなら、全力で相手をするが!」

「クソっ!」

そう言ってウィンディーネのプレイヤーは仲間の元へ戻り、パーティーも撤退していった。

「なぁ…トード…アンタ何者だ?」

ふむ…何者ねぇ…

「世界樹に突き刺さる大剣…インテンス・アサシン?」

ッチ…

「おい、スピードホリック、他人の黒歴史を蒸し返すな」

「インテンス・アサシンって?」

「ALOの始めの頃に領主や主戦論者殺しを何度も成功させたプレイヤーよ…まさか妖獣使いがそうだったなんて…」

イクシーズがパーソナルマークを持っている理由は、各種族の領主達を暗殺した後、それが俺達からのメッセージであると伝える為、パーソナルマークを書いた紙を置くのが決まりだったからだ。

「その事は忘れろ…ん?」

俺はトンキーが微かに動いたのを感じた。

「くおぉぉぉぉぉん!」

トンキーが一声上げて光に包まれた。

その光はシルエットを変えていった。

そして…

「トンキー…お前…」

トンキーは四対八枚の純白の翼を持つ存在へと生まれ変わった。

「くおぉぉぉぉぉん!」

と再び鳴き、羽を羽ばたかせた。

「成る程な…これがトゥルーエンドか…」

「そうだな」

「そうね」

俺の言葉に二人が頷く。

「ん?あれは?」

俺はヨツンヘイムの天蓋にクリスタルを見つけた。

エフェクトの感触からかなり大きい建造物だ…

俺は単眼鏡でクリスタルを観察した。

そしてクリスタルの先端に一本の剣を見つけた。

「は、はは、はははははははは!あーっはっはっは!そうかそうか!これは…はっははは!」

「ちょ、どうしたんだ?トード?」

あぁ、そうか、そうだよな…いきなり笑ったらな…

「っくっくっく…やっぱり運営はクソだな…おい、リーファ!」

「なによ?」

「ほれ」

俺はリーファに単眼鏡を渡した。

「そいつでクリスタルの先端見てみな」

リーファは怪しそうに単眼鏡を覗き…

「えぇ!嘘ぉ!?」

そうなるよな…ったく…こんなもん見付けられる訳がないだろ…

「どうしたんだよ二人とも?」

キリトが俺達に問いかけた。

「キリト君、これでクリスタルの先端を見て」

リーファに単眼鏡を渡されたキリトはクリスタルを見た。

「なんか…金ぴかの剣がある…」

「聖剣エクスキャリバー…ユージーンのグラムに唯一対抗できるとされる剣だ。
あんな所に隠してやがったのか…。
いつか取りに行くか…」

「アンタの得物は大剣でしょうが妖獣使い」

「ギルドの戦力増強にな」

「ふんっ…」

ま、そうなるわな…

「欲しいなら取りに行くといい。
ただし帰る手段は無いがな」

「わかってるわよ!」

エクスキャリバーが安直されているダンジョンの入り口を通りすぎ、トンキーは上昇していった。

やがて階段に着いた。

「ねぇ…この上って…」

「ああ、十中八九アルンだな」

「いくわよキリト君!」

「おい!待てよリーファ!」

キリトとリーファは階段を上っていった。

出た先はやはりアルンだった。

二人は盛り上っていた。

「おい、俺はギルドホームに顔を出す。
一旦ここでお別れだ」

「ああ、また明日」

「じゃぁね、妖獣使い」







俺は二人と別れ、ギルドホームへ向かった。

アルン…あぁ、半日しか離れてなかったけど、すごく久し振りな気がする。

俺は商店街を通り抜け、アルン一等地へ…

そこには城があった。

白亜の城。

カオスブレイブズギルドホーム

通称、混沌の館…

俺は正面玄関を開けた。

長い廊下の先の会議室。

その扉をあける。

「カオスブレイブズ相談役ポイズン・トード、帰還しました」

俺を待っていたのは円卓に座る幹部達。

入り口から最も遠くに座るのは、

我等が親友。

カオスブレイブズギルドマスターテルキス。

「トード、遅かったな。もうほとんどの事は決まったぞ」

「悪いなテルキス。ちょっとヨツンヘイムをマッピングしてた」

「ほう?」

「ギルドメンバー全員に地図にない村に気をつけろと通達してほしい」

「成る程な…座れ。ほとんど決まったとは言えまだまだ詰める事がある」

「わかった」

俺は円卓をほぼ半周し…

テルキスの隣に座った。

「では全員が集合したところで…」

イクシード全員が立ち上がった。

「「「「我等そびえる世界樹斬り倒さんが為!
戦を越えて集結せん!
我等が翼!天へと至らん!」」」」

そして全員が着席する。

『超越の誓い』…イクシードの目的を表す文言。

「では議会を再開しよう」

俺達はメンテナンスが始まる寸前まで、計画を話し合った。
 
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