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龍が如く‐未来想う者たち‐

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井上 慶介
第二章 決心
  第一話 途切れた記憶

混濁する意識。
視界がぼやけ、目の前の誰かが歪んで見える。
灯りが1つしか無い、暗い空間。
手足の自由がきかない中、頭を振ったりして意識を正常に戻そうとする。


「目、覚めたか?」


男の声が聞こえた。
低いドスのきいた声。
聞き覚えのある声に、鳥肌がたった。
次第に鮮明になる視界に、緑のバンダナの男が映り込む。
嫌な顔を見てしまった。
あれだけ毛嫌いしていた喜瀬が、歪んだ笑顔でこちらを見ている。
嬉々とした目で井上を見下ろすその表情が、余計に腹が立つ。

意識がようやくはっきりした。
蛍光灯が頼りなく光る小さな部屋の様だが、ここが何処なのか全く分からない。
1つだけ理解した事といえば、今自分は監禁されているという事だけである。
あれから何日経った?
今こんな事になっているのは、何が原因だ?
思い出そうとしても、記憶がすっかり抜け落ちてしまっていた。


「気分はどうだい?井上さんよ」


喜瀬が、指で何かをつまみ上げている。
ポケットに入れていたはずの、自身の名刺だ。
その名刺を握り潰すと、ケタケタと気色の悪い笑い声をあげる。


「俺が知りたいのはお前が運んでた男、桐生の居場所だけだ。知ってるんだろ?」


桐生……。
その名前で徐々に記憶を取り戻す。
しかし檜山の声を聞いてからの記憶は一切無いため、桐生の居場所なんて知る訳が無かった。

力無く首を横に振って質問に答えるが、それが気に食わなかったのか喜瀬の爪先が井上のみぞおちに深く突き刺さる。
一瞬呼吸を忘れ、胃液が這い上がってくる感覚が襲いかかった。


「高速で走ってたの知ってるぜ。神室町に運んでたんだろ?桐生一馬をよ……」

「途中までしか覚えてないんや……。誰かが……俺を……」


隣から聞こえたあの時の声。

『悪いね、井上ちゃん』

あの声は、紛れもなく檜山の声だった。
犯人はもしかすると……。


部屋の奥の方から、ガシャンと割れる音が鳴り響く。
さっきまで笑顔だった喜瀬の表情も強張り、音のする方へ顔を向けた。
侵入してきた犯人は隠れる事もなく、まるでここにいる事をアピールするかの様に大袈裟に足音を鳴らして近付いてくる。
まだ闇の中、顔が見えるはずもない。


「誰だ!!」


大声をあげる喜瀬に気圧されず、足音は更に近くなる。
また朦朧とし始めた井上の視界に、その姿は映った。


「探したぜぇ、井上」

「なっ……檜山……!?」


不敵な笑みを浮かべる、檜山の姿がそこにあった。
さっきまでの考えが、一気に吹き飛ぶ。
どうして奴がここにいる?
質問を投げかける前に、鼻で笑う檜山が答えた。


「悪いね、利用させて貰ったよ。喜瀬をおびき寄せ為にな」

「……何だ、あの時邪魔してきた爺さんじゃねぇか」

「ちょっと待てよ……何でコイツをおびき寄せる必要が……?」


そこからの言葉は無かった。
しかし檜山の背に隠し持っていた銃が喜瀬に向けられ、一瞬だがこの場が凍りつく。
おびき寄せ、殺す。
体現した答えが、それだった。
理由が一切解らず困惑する井上に対し、喜瀬は何処か理解したかの様な溜息をひとつ漏らす。


「お前も、こっち側の人間って訳か」

「元、だけどな。近江の人間だ」

「なら、近江の積年の恨み返しって事か?」

「そんなんじゃあねぇよ」


2人は睨み合い、動かない。
ただ、言葉の応酬が続くばかりだ。
かやの外の井上は、ただひたすら自由を取り戻そうと縛られている手足を動かす。

気付いた喜瀬がまた溜息吐くと、井上の腕を掴み上げると檜山の目の前に投げ捨てる。
銃口がまだ下ろされていないにも関わらず、背を向けその場を去ろうとした。


「待てよ、話は……」

「コイツがいると話がしづれぇ。逃げねぇから明日またここに来いよ」


暗い闇の中に消えていった喜瀬を、2人は黙って見送る。
横目で見た檜山の表情は、不気味な程笑っていた。 
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