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お花畑

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第一章

                お花畑
 大地震が起こった、日本において地震が起こるのは避けられないことであり飯干衛二もこの時そのことを実感した。
 彼は震災に遭った家を出てだ、共に出た両親に言った。濃く長い眉と面長の笑顔が似合う顔立ちで口は大きい。白い歯が奇麗だ。髪の毛はショートにして茶色に少し脱色している。大学の部活はボクシング部で実に引き締まった身体をしている。
 その彼がだ、自分と一緒に出た両親に言ったのだ。その腕の中には子犬がいる。
「チロは助けたからな」
「ああ、悪いな」
「その子は助けてくれたの」
「そうしたからな」
 家族で可愛がっている犬、家族そのものの愛犬をというのだ。
「後はな」
「通帳とかも持ったぞ」
「そうしたのも全部ね」
「じゃあ後はな」
「安全な場所まで避難しましょう」
「余震が来る前にな」
 こう言ってだ、衛二は両親そして愛犬と共にだった。通帳等も持ってそうして崩れてしまった家を後にした。そのうえで。
 彼が通っていた小学校に向かった、そこの体育館に入ろうと思ったのだ。
「あそこならな」
「ああ、体育館ならな」
「滅多に崩れないしね」
 両親も彼に応えた。
「被災した時には公民館か体育館だ」
「そこに行くものだしね」
「だからな」
「あそこがうちから一番近いしね」
「そこに行こうな、何かな」
 ここでだ、衛二は自分達の周りを見回した。するとつい先程まで何ともない日常の中にあった彼の近所一帯がだ。
 怪獣が暴れ回った後の様になっていた、実に酷い感じだった。それで両親に苦い顔で言うのだった。
「さっきまで普通だったのにな」
「それがな」
「あっという間によね」
「日曜でくつろいでいたってのに」
「この有様だよ」
「地震ってのは何時何処で起こるかわからないな」
 衛二は今このことを実感していた、したくなかったが。
「本当にな」
「そうだな」
「私も今それがよくわかったわ」
 両親も二人に苦い顔で話した。
「地震は何時起こるかわからないわね」
「何処でかもな」
「そうだよな、俺達はチロも大丈夫だったけれどな」
 今はリードで曳いている愛犬もだった、だがいつもの散歩の時のはしゃいでいる感じの元気はなく怯え切って衛二の傍を歩いているだけだ。
「他の人達はどうだろうな」
「わからないな」
「皆無事だといいけれどね」
「ああ、とりあえず今はな」
 今度は自分達のことに話を戻した衛二だった。
「避難する為にな」
「学校に行こうな」
「体育館にね」
 小学校のだ、そこに行こうと話してだった。
 衛二と彼の家族達はまずは小学校に入った、見ればそこには近所の人達がかなり集まっていた。もうそうなっていた。
 その状況を見てだ、衛二は言った。
「皆考えることは同じだな」
「そうだな」
「まずはよね」
「避難するのはな」
「ここにっていうのね」
「皆わかっているんだな」
 震災の時にどうすればいいか、この辺りは地震といつも隣り合わせである日本ならではということであろうか。衛二はこうも思った。
「こうした時にどうすればいいか」
「そうかもな」
「地震が起こったらね」
「まずは避難だ」
「体育館なり公民館なりに」
「そういうことなんだな、すぐに救助隊も来てくれるか?」
 この時は疑問形の衛二だった、まだその救助隊を見ていないのでこう言ったのだ。 
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