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【アンコもどき小説】やる夫は叢雲と共に過剰戦力で宇宙戦艦ヤマトの旅路を支援するようです

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閑話 ヤマト建造

 南部重工横須賀造船所。
 その新設ドックにおいて一つの船が起工されようとしていた。
 名前はヤマトと名付けられる予定のこの船の建造において政治的すったもんだがあり、それに奔走していた真田志郎は式典の祝詞を聞きながらなんとなく苦笑する。
 22世紀末にもなってこういう神事を忘れない日本という国民性になんとなくおかしさを覚えたのだ。
 式典も終わり関係者が散ると、真田志郎は休憩室の自販機でコーヒーを買う。
 声がかけられたのはそんな時だった。

「良かったら俺にも一本頼む」
「俺と同じのでいいか?古代」

 持っていたコーヒーを古代守に渡し、真田志郎は改めてもう一本コーヒーを買う。
 互いの礼服に光る少佐の階級章が眩しいが、古代守はフラワー型駆逐艦の艦長が内定しており、真田志郎はこのヤマトの主任工廠長として新見薫大尉と共に辣腕を振るっていた。

「しかしやる夫がもってきた設計図を蹴るとは思わなかった」
「あれは大気圏降下能力を考慮していなかったからな。
 政治家連中が地球防衛として地球の大地で使えるものをと喚いたら没にせざるを得ないよ。
 正直な所、やる夫のメイドはできると言っていたが、俺はあの規模は無理だと思った」
「それで半分の500メートルという訳か」
「正確には525メートルだな」

 やる夫の船の設計上の欠点というか忘れていた事なのだが、惑星内運用能力が無かったのである。
 マゼラン改級などは実際宇宙運用前提だったし、制宙権とられたら意味ないよねという割り切りもあった。
 だが、母星防衛戦争をやっている地球側からすれば惑星内運用能力があるという事は大都市最後の盾として振る舞えるというわけで、波動機関に載せ替えた金剛型宇宙巡洋戦艦や村雨型宇宙駆逐艦が現役なのはそんな所にも理由があったりする。
 この大気圏運用というのが文字通り曲者なのだ。
 重力に逆らわないといけないし、大気圏突入能力も必要な上、惑星からの離脱を考えたら大規模出力エンジンの搭載が必須になってくる。
 それはそのまま船体の強度に跳ね返り大型化すればするほど、バラバラに分解する危険性を秘めている。
 なお、小型化すれば今度は配置の問題にぶち当たり、小型化するよりは大型化した方が問題は少ない。

「あのお嬢様が研究会の席でよけいな事を言わなければやる夫の設計図の再設計で良かったんだが」
「あら?
 私のせい?」

 古代守の愚痴を聞きつけた訳ではないだろうが、タイミング良く出た東雲愛歌に古代守は苦笑するしか無い。

「だってそうだろうが。
 『旗艦級戦艦をやる夫に作ってもらえばいい』なんて言ったおかげで、建造より購入の方に話が飛んじまっただろうが。
 この船の予算だって削られたと聞くぞ」

「それは表向きの話よ。
 あくまでこちらが折れた形にしないと市民が納得しないじゃない。
 私が乗る船なんだから♪」

「そのどこから来ているから分からない自信と実行力は東雲の妹だって納得がいくよ」

 真田志郎の突っ込みに東雲愛歌が憮然とするが、この船の正式名称は『戦艦』では無かった。
 『国連代表直属外宇宙探査実験艦』という名称は、東雲愛歌が艦娘として搭乗するための政治的色々なものをこねくり回したゴップ提督の私設艦なのだった。
 このあたり政治的に公私混同も厭わない有能なゴップ提督の真骨頂と言っていいだろう。
 
「漂流者艦隊は私達にアクラメイター級汎銀河軍事用アサルト・シップ9隻を売ってくれたじゃない。
 あれの運用を考えると、護衛に必要な船はもっと大きくないといけなくなるわ」

 戦闘機の突入時にどれだけ対空火力が張れるかというのが現状の課題になっており、そういう意味から見ても火力のプラットホームである艦船は必然的に巨大化する。
 上下左右から縦横無尽に艦船に突貫する戦闘機対策は焦眉の急だった。
 そこで言葉を切った東雲愛歌は自販機のボタンを押す。
 出てきたのはオレンジジュース。

「つまり、この船が次期主力戦艦レースに一歩有利になったという訳」

 魑魅魍魎うごめく軍産業界は空前の好景気に湧いていたが、戦時の急場しのぎとはいえ放浪者艦隊から船を購入した事に衝撃を受けた。
 自分たちの所に入るはず立った利益が横取りされた形になるからだ。
 放浪者艦隊の主力であるヴェネター級スター・デストロイヤーは全長1155メートル。
 最近登場したインペリアル級スター・デストロイヤーは全長1600メートルの大きさを誇る。
 ブローグ・コモナリティのローグ級戦艦も全長1025メートルの長さを持ち、これに並びたいとは地球側は考えていたのである。
 設計から全部握ればその企業に入る金は莫大なものになるからだ。
 やる夫が渡した設計図を大気圏内使用が無いという事で闇に葬ったのは、これら軍需産業だったのである。
 ゴップ提督は彼ら軍需産業の要求を聞きながらも、私利私欲を忘れたわけではなかった。
 艦娘東雲愛歌の為の船を要求し、それが次期主力戦艦という形でコンペになったというのが真相である。
 ある意味、ゴップ提督も親馬鹿なのだろう。規模が少し大きいだけで。

「しかし、よくあのコンペからこの船が通ったもんだ」

 古代守がコーヒーを飲みながらぼやき、真田志郎がそれに突っ込む。
 彼は目の前にいる少女のコネからコンペの選考委員にもなっていたのである。

「選考者としての意見を言うと、堅実で一番確実に作れたのが南部重工・北崎重工・財閥系が出してきたやつだ。
 全長333メートルで、現行戦艦よりはるかに火力が強化されているんだが、大きさがネックになってな。
 次期主力戦艦の大型化を考えている軍上層部が見送った。
 南部重工・財閥系・ムラクモミレニアムが組んで出したやつも全長が400メートルちょっとしか無いからそこで弾かれた。
 今回決まったのは日系コンソーシアムで一番全長が長いやつなんだよ」

 真田志郎の言葉に東雲愛歌が突っ込む。
 実に美味しそうにオレンジジュースを飲む姿は年相応の子供に見える。

「外資系が弾かれたのはどうして?」

「ムラクモミレニアムとアナハイムエレクトロニクスが組んだのはこれと最後まで争っていて、芹沢軍務局長が猛烈に押していた。
 けど、ムラクモミレニアムとアナハイムエレクトロニクスの業務提携の密約が発覚して流れた。
 実際はアナハイムエレクトロニクスによるムラクモミレニアムの救済合併だからな。
 現在の軍備拡張で新型戦艦を大量受注しているアナハイムの独走を他の企業が認めたくなかったという訳だ。
 ネルガル重工とシャフトエンタープライズは新機軸で売りこんできたけど、独創的過ぎて今回は見送られた。
 一応独自研究は続けるらしいし、軍からの支援も出るみたいだから取引として当て馬を引いたんじゃないかと思っている」

「何だ?
 その新機軸って?」

「ワームホールさ。
 現在の艦艇はどうしてもワープ機能を各艦に搭載しているが、これがとにかく場所を取る。
 ステーションにワープゲートを用意して、そこにワープ機能を任せれば、ワープ機能を搭載していた場所が他のスペースとして使える」

「何でそれが見送られたんだ?
 便利そうじゃないか?」

 古代守の質問に、真田志郎はわざとらしく問いかけた。

「亜空間への行きはそれでいい。
 じゃあ、帰り、つまり出る時はどうするんだ?」

「あっ!?」

「そういう事だ。
 この船は出口を作るワープ機関は用意して自力で穴を開ける能力はつけていたみたいだが、だったら他のワープ搭載艦と変わらんという訳でな。
 とはいえ、商業的には美味しいから予算を組んで研究ってのはそういう訳だ」

 たとえば、地球と天王星の間にワームホールステーションができれば、ワープ搭載艦を使わなくていいので開発は更に加速するだろう。
 敵地に攻め込む軍艦としては致命的ではあるが、商業的なプレゼンとしては大成功だろう。

「ゼネラルリソース・ニューコム・クリムゾングループが出してきたのが一番野心的でな。
 全長は1041メートルと唯一1000メートルを越えるんだ。
 その割り切りが凄くてな」

 真田志郎は手近にあった3Dモニターにその設計図を映す。

「居住部と戦闘区画はこの丸い円盤部に全部収まってて、機関部は切り離しが可能。
 もちろん、円盤部のみでの単独行動能力はある。
 こいつの売りは、機関部を外に出しているから更新が可能って所だろうな。
 新技術への対応能力はこいつが一番あるんだよ。
 ただ、見ての通りこのままでは大気圏内の行動なんてできる訳がなく、大気圏内の行動は機関部を切り離してという形になっている。
 ここが嫌われた」

「なるほどね。
 それでこの船が選ばれて、私達がここに居る訳か」

 さらりと東雲愛歌が口にするが、現在のムラクモミレニアムにこの艦の建造に関われる場所は艦娘計画等内部部分に留まる。
 その為、どこかと組まないといけないというか、政変の煽りを受けたムラクモミレニアム救済のコンペでもあったのである。
 この建造決定後に南部重工とムラクモミレニアムは包括的業務提携を結び、ムラクモミレニアムの第三者割当増資を引き受ける予定になっていた。
 その過程で、事故による行方不明だった東雲叢雲が持っていたムラクモ重工株の名義が縁故者である東雲愛歌名義になっていたり。
 彼女はあくまで姉を『行方不明』として扱い、それまで預かっている事をアピールして、放浪者艦隊の叢雲に帰ってきてアピールをしていた。
 この株は合併による株式変換で交換されたムラクモミレニアム株全体のおよそ25%に当たる。

「いや。
 中々面白い話だったよ」

 第三者の声が聞こえて三人共警戒をするが、ここには関係者しか居ない。
 とはいえ、その姿は工廠関係者ではなく、起工に呼ばれた来客者だった。

「あら。
 いつからそこに。
 トリューニヒト先生」

 ヨブ・トリューニヒト議員。 
 火星自治政府の地球代表であり、近く行われるだろう地球連邦議会選挙において太陽系民主連合を率いる有力政治家だった。
 なお、火星自治政府の傀儡政治家だったのだが、火星自治政府の政変にも巻き込まれずのうのうとこの場に出てくる傑物の一人である。

「そんな些細な事は氣にしないでくれ。
 今日は東雲一族のお嬢様に挨拶をしたいだけなんだから」

 東雲一族と言っても、東雲愛歌と東雲叢雲の二人しか居ない。
 あえてそれを一族と言った所に東雲叢雲の秘密を掴んでるという挨拶でもある。

「まぁ。怖い。
 さしあたって、地球民主連合にいくら献金すればいいのかしら?」

 地球連邦議会選挙はその概要が既に伝えられており、告示前なのを良い事に激しく政治家達が蠢いていた。
 そんな中、太陽系民主連合は月や火星等を中心に勢力を拡大し、地球で支持を伸ばしている地球民主同盟と支持が拮抗していた。
 日本は、月や火星との縁が深いこともあって、地球側で太陽系民主連合が優位に選挙が進められる場所と目されていた。

「助かるよ。
 政治はいくらでも金がかかる。
 君たちもリカルドが勝つよりも私が勝った方が色々とやりやすいだろう?」

 太陽系民主連合を率いる北米代表であるリカルド・マーセナスは高潔で有能な政治家で、次期地球連邦首相に近い男と目されている。
 それに対抗する勢力を構築できただけでもヨブ・トリューニヒトの才能も一角の人物ではあるのだろう。

「あと、君のお義父上に伝えてほしい。
 『私はペンウッド卿の戦争の邪魔をしない』とね」

 地球連邦は大統領の下に首相を置くが、実権は議会運営と共に首相が握る事になっていた。
 とはいえ、対ガミラス戦の最中は地球連邦大統領として、臨時という形でペンウッド卿が指揮をとる事になっている。
 マーセナス代表はあくまで戦時という形で納得はしていたが、その大統領権限は早く選挙という形で市民の洗礼を受けさせるべきだという考えを持っていたのである。
 その隙間風を突いて、トリューニヒト代表はゴップ提督が握っている軍の支持を取り付けようとしていたのだった。

「ええ。
 たしかに伝えておきますが、足元はおろそかになさらないように」

「ははは。
 末恐ろしいお嬢さんだ。
 私はこれで失礼するよ」

 トリューニヒト代表が去ったあと、古代守が飲み終わったコーヒーをゴミ箱に捨ててぼやく。

「なんだい。ありゃ?」

「政治よ」

 東雲愛歌のツッコミも聞こえないふりをして、政治に巻き込まれるだろうこの船の今後を考えて真田志郎は残ったコーヒーを飲み干した。
 ブラックだったのでえらく苦い味がした。 
 

 
後書き
ヨブ・トリューニヒト 『銀河英雄伝説』
 彼の再評価が加速しているのは、間違いなく2009年の政権交代による我が党政権の成立と崩壊から。
 あれのおかげで、どれだけ無能政治家を出しても現実がその下を行くというのを間違いなく読者に見せつけることができたのは我が党唯一の功績なのかもしれない。
 彼はゴップ提督と同じく私利私欲と派閥が作れる程度の技量は持っているんだぜ。

リカルド・マーセナス 『ガンダムUC』
 こっちは正統派の理想主義者の政治家。
 技量も力量もあるが、保守派に暗殺されている事からおそらくは変化を受け入れない人たちの恐怖を軽視していた可能性がある。
 この二人の率いる政党の選挙結果はサイコロに任せるつもり。
 
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