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ソードアート・オンライン ~紫紺の剣士~

作者:紫水茉莉
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アインクラッド編
  12.洞窟の奥へ

「スイーッチ!」
ナツが叫ぶのに合わせ、ミーシャがひらりと飛び込み、片手剣ソードスキル≪バーチカル・スクエア≫を放つ。ギリギリ残ったHPを、上空から飛来した円月輪(チャクラム)がきっちり奪い、小型ハンマーを持った凶悪顔のドワーフは硬直、爆散した。
「そっちどおー?」
「問題ない、もう終わる」
俺はミーシャにそう返し、ドワーフが振り下ろしてきた斧を両手剣ソードスキル≪サイクロン≫で弾き返す。
「はぁ!」
「おらぁ!」
クリスティナとリヒティが同時に飛び出し、それぞれ≪ソニック・チャージ≫と≪サイレント・ブロウ≫を発動。メイスの二連撃に大きくノックバックを受けたドワーフの胸の中央を、槍が正確に貫いた。カシャアン‼とドワーフの体は青い結晶になって砕け散った。リヒティがグッと拳を握る。
「いよし!」
「お疲れ様」
クリスティナが俺に微笑みかけてきたので、俺は一度だけ頷いた。クリスティナはもう一度――――今度は苦笑の度合いの方が大きかったが――――笑うと、くるっとミーシャの方に向き直る。
「今のドワーフ、難敵、だった?」
「う~ん・・・。どちらかと言えば、そうじゃない、ような・・・」
「まだ道程はある。もっと奥深くにいるのかも」
タクミの指摘に、それもそうかとミーシャは呟いた。



水曜日から土曜日までのミーシャと俺の超効率的鬼指導で、夜桜唱団のメンバーは全員レベルを3つずつ上げた。言うまでもなく、効率的なのは俺で、鬼なのはミーシャである。
ともかく、これで少々強い敵が来ても怖くない、と意気揚々とダンジョンに潜った――――――が。
確かに、そこら辺のモンスターよりは強かった。強かったが、わざわざレベルを3つ上げるほどの難敵でもなかったのだ。拍子抜け感は否めない。
「あの鼠が嘘をつくとは思えない。まだ気は抜かない方がいい」
「そうだね・・・。よし、行こっか」
ミーシャは頷くと、ニコッと笑って歩き出した。それに俺達が続いた。


俺達が進む27層は、常闇の国とも呼ばれる昼でも夜でも暗い場所だ。湧いてくるモンスターもどこか人相が悪い。モンスターなので人相があると言えるかどうかは疑わしいところだが。
ボンヤリと薄く輝く石でできた回廊を音をたてて歩きながら、俺はここに来る途中で話しかけてきたNPCの言葉を思い出していた。
―――曰く。洞窟の奥深くに夜の妖精達が面白半分で光と水の溢れる遊び場を作った。しかしそこは夜の妖精の体には合わず、結局彼らは遊び場を放置した。以来、誰もいないその場所を、妖精の作った人形の守護者だけが守っている――――。
(難敵が出るとしたらその守護者だが)
「なにだんまり考えこんでんの?」
「ミーシャは気を抜きすぎだ」
そう言ってミーシャを見ると、彼女はニッと笑った。
「やっと名前、呼んでくれたね」
「・・・」
「そうだったっけ?って顔してるよ」
彼女の言葉を無言で聞きながら、俺は違うことを考えていた。
なぜ彼女たちと一緒にいると、俺の表情が変わるのだろうか、と。

モンスターの群れと3回戦闘をこなした後、広い通路の奥に、俺達は光を見つけた。
「あっ、出口が見えてきたよ!」
ミーシャがはしゃいだ声音で言った。アンやシルストも次々に笑顔を浮かべた。
「2時間ちょっとってところか。意外とすんなり着いたな。結局あんまり強いやついなかったな?」
「あら、まだわからないわ。映画や小説では、こうやって安心した直後に危ないのが襲ってくるんだから」
まるで、そんなリヒティとクリスティナの会話を聞いていたかのように。
俺の索敵スキルが反応した。
「上だ、後ろに跳べ!」
俺の叫びを聞いた瞬間に全員後ろに飛び退く。空いた空間に、ドガッ!と音をたてて着地したのは、3メートルほどもある騎士風のモンスターだった。透き通った水色の装甲を持つその騎士は、目の代わりに青白い炎を2つ燃やし、右腕を大きく振りかぶった。狙いはミーシャ。
「ふおっ・・・!」
奇妙な叫び声を上げて、ミーシャがもう一度後ろに跳ぶ。ゴッ!とさっきまでミーシャがいた場所を、騎士の腕が叩き潰した。
「あっぶないなぁ!全員戦闘体勢!」
ミーシャの号令で、全員得物を抜き放つ。表示された名前は≪Doll without the missions≫、使命無き人形、といった意味か。
「まずはガード専念!ある程度パターン分かってから攻めるからね!ナツ、アルト、リヒティは頑張って!」
「了解ッス!」
「了解!」
「了解」
返事を返して前に出る。俺の剣は両手剣にしては細めだが、丈夫さをかなり上げているので壁役(タンク)に徹しても何ら問題ない。それに、俺のやり方は受けるというよりは逸らす方だ。
次々に振り下ろされる拳を、ナツ、リヒティと交代しながら受ける。一撃一撃は重いが、防げないほどではない。
「よし行くよ!」
ミーシャ達は攻撃パターンを大体理解できたらしい。スイッチ!とシルストの声を受けて、俺は後ろに避ける。
「セヤッ!」
短剣ソードスキル≪ラピッド・バイト≫が深々と腕の装甲を削り、反対側でタクミの細剣ソードスキル≪パラレル・スティング≫が背中を穿つ。その直後、
「ゴアァ!」
騎士人形が吠えた。大きく開いた口の奥に、ちらりと見えたのは、赤い火の粉。
(まさか)
咄嗟にシルストの腰を左腕で抱えて、左に跳ぶ。だが間一髪間に合わず、シルストと俺の脚を、炎のブレスが飲み込んだ。
「・・・!」
「あっちい!」
上手く着地できずに、俺達はひとかたまりになって床に転がった。すかさず振り上げられた左腕を、リヒティがメイスで押し留めた。さらに、アンがチャクラムを投げて腕を後ろに弾いた。
「シーちゃん!」
「アルト!」
ミーシャとクリスティナが駆け寄ってきた。HPを見てみると、量そのものは減っていないが、赤い炎のアイコンが点灯している。火傷の状態異常だ。一番早くこれを治すには水に浸かるのが良いのだが、この辺りに水はない。
「・・・ブレス吐けるなんか聞いとらんし!」
「たぶん、一定異常ダメージを受けると発動するようになってるのね。迂闊だった」
クリスティナがしょんぼりと肩を落とす。
「あれを初見で見抜くのは誰だって難しいよ。このなかで一番状態異常耐性を上げてるのはナツだから、ナツを前にして防いでもらうしかないね」
「熱感覚はどうするんだ」
「・・・気合いで」
「・・・」
「嘘です。氷のドロップあげてくる!」
ミーシャが前線に戻っていく。氷のドロップとは、一定時間熱を感じなくなる飴のことだ。
「なぁ」
「なんだ」
「さっきの・・・ありがとう」
「・・・気にするな。戻るぞ」
素っ気ない俺の返事に、シルストはフン!と鼻を鳴らしたが、表情は笑っていた。
クリスティナがなぜかニコニコしているのは、気にしないことにした。


 
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