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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第83話 無邪気な子供は時々残酷な事を楽しむ事もある その2

 
前書き
流石に間が開き過ぎました。楽しみに待っていてくれた読者の皆様には大変お待たせしてしまい申し訳ない気持ちです。
これからもこんな感じの不定期更新になりますが、出来る限り失踪しないように努めます。
後、前回は流石にやり過ぎたので今回は少し趣向を変えてみました。
しかも短めですサーセン(-_-;) 

 
 意識が白一色に染め上げられて消えてから一体どれ程の時が経っただろうか。
 一瞬なのか、はたまた数秒、数分、数時間・・・
 日を跨いだのか、それとも週、月、それとも年―――

 そんな事を考えられると言う事は今、自分の意識は再び蘇りつつある事を認識しだした。

 だが、認識しただけで体は依然として重い。腕はもちろん、まぶたでさえも鉛を吊るしたかの様に重く感じられた。

(目が開けられねぇ・・・何だ、俺は今どうなってんだ? もしかして、さっきまでのは全部夢で、今は家の布団の中でぐっすり眠っててまた日が明けたら何時も通りにだらけた日常にフライアウェイするって筋書きなのか?)

 もしやと思い、銀時は右腕に力を込めて腕を挙げようとして、その感覚がない事を感じとり、これが夢でない事を改めて認識した。
 もし今までの事が夢であれば、銀時の右腕は持ち主の体にきちんと付いている筈だったのだから―――

(俺の右腕がないって事はさっきまでのは現実だとして・・・あの後俺はどうなったんだ? 確かあの時―――)

 体が未だに重く動かない為に、仕方なく銀時は先ほどまでの光景を頭の中で再度見返していた。
 あの後、鬼兵隊の所有する偽装船から逃げようとした時、高杉に出くわし、ひと悶着起こった直後、何処からかの突然の襲撃を受け、その後の事は―――

(俺は・・・死んだ・・・のか?)

 先の光景から察する答えの中で一番有力な答えと言えばそれしか考えられなかった。
 あれだけの爆撃の中で無事でいられる筈などないだろうし、もし無事だったとしても、まともな状態ではないだろうし。

(他の奴らも、新八や神楽、ヅラや鉄子や高杉、それに・・・なのはも死んだのか?)

 近くに人の気配は感じられない。もしかしたら他の奴らは無事なのか? それとももっと遠くの場所に居るのだろうか?
 何にせよ、体が動かなければどうしようもない。

(参ったな、まさか此処で金縛り回をやるかよ。久しぶりの登場だってんだからもっと俺が活躍するような場面とか俺のカッコいい場面とか用意しとけよ! 大体執筆が遅れ気味って言ったって実際にはこれ書いてる作者が私事に勤しんでるせいであって実際にはいつでも書ける状況だったんだからな! それだってのに久々の投稿でまさかの金縛り回? 幾らおふざけの多い原作でも此処までふざけ倒す事しねぇぞ。ギャグはギャグ、シリアスはシリアスでちゃんとしないとどっちも中途半端になるだろうが! 大体今回の話だって―――)

 脳内にてひたすら愚痴を続けている最中、誰かの気配がした。
 足音はしなかった。ただ、突然近くに気配が現れた。そんな感じだ。

(誰だ! って駄目かぁ。声でねぇや~~。参ったなぁ俺の美声を聞かせられないなんて残念だなぁ。今だったら北〇場をフルコーラスで歌ってやれたのに・・・って、何だよこの選曲わよぉ!)

 自分で自分にツッコミを入れると言うなんとも空しい事をし始める銀時。側から見たら無言で眠っているようにしか見えない。だって一言も発してないのだから―――

「残念だな。銀時の声・・・久しぶりに聞きたかったのにな」
(!!!!!)

 気配の主の声が聞こえた。その声を聞いた銀時は正にギョッとなった。
 その声には聞き覚えがあるからだ。聞き覚えがあるからこそ、銀時はギョッとなった。
 何故なら、その声の主は―――

(き、気のせいだよなぁ。気のせい・・・だよねぇ? 気のせいさ、そう気のせいなんだよ! 絶対に気のせいだ、そうだその通りだ!)
「さっきから何言ってるの? 気のせいとか連呼してるみたいだけど、何かあったの?」
(聞こえない聞こえない! 俺は何も聞いてないし何も感じ取ってない!)
「・・・・・・」

 必死に脳内で抗議をする銀時。どうやら気配の主は脳内で会話が可能なのだからこうやって抗議しても何ら問題はないだろう。
 絵的には大問題なのだがこれは小説だし問題はないだろうし。
 そんな銀時を気配の主は無言でただその場に立っていた。いや、座っているのかも知れないし、もしかしたら同じように寝ているのかも知れない。
 そんな疑念を抱く銀時の額に気配の主の手が触れる。
 触れられた額を中心にしてまるで水面の波紋が広がるかのように銀時の体を何やら不思議な感覚が駆け巡っていくのを感じた。
 さっきまでの瞼の重さが感じられなくなった―――

「・・・・・・」

 ゆっくりと目を開く。長い時間閉じていた為か視界がぼやけ気味だったが数度瞬きをすれば元に戻る程度の具合だ。
 視界を良好に戻し、周囲を見渡し、そして声の主を見入った。

「久しぶりだね、銀時」
「・・・お前は―――」

 言葉を失った。目の前に居たのは一人の女性だった。
 年はパッと見て二十歳前後位だろうか。
 栗色の長い髪を後ろに束ねて、赤色を基調とした陣羽織を羽織ったその女性が、仰向けになって寝ている銀時を優しそうに見下ろしていた。
 その女性に銀時は見覚えがあった。
 あったからこそ、銀時は困惑した。
 居る筈がない―――
 会える筈がない―――
 何故なら、彼女は―――

「お前が居るって事は・・・俺はもう死んだって事なのか? なの―――」

 言葉の途中で、銀時の口を女性の指が遮った。思わず口が閉じた銀時の前で、女性はゆっくりと首を数度横に振った。

「その名前はもう、私のじゃない。それに、私はもうその名を捨てたからもうその名では呼ばないでね」
「そうか、悪かったよ・・・紅夜叉」

 少し寂しいような、そんな気持ちをしつつも、銀時は彼女が名乗っていた名を呼んだ。
 紅夜叉―――
 この名を知る者は数少なく、その為彼女の武勇伝を知る者もまた少ない。
 だが、知っている者はその名を聞けば恐らく震え上がることだろう。
 何故なら、過去に起こったあの忌まわしき攘夷戦争に置いて敵味方から恐れられる悪鬼羅刹の如き戦いをした者なのだから。
 だが、彼女の本当の素顔を知る者はこの世に恐らく数人程度しかいない。
 彼女が、戦を嫌い敵味方問わず慈悲を向ける心の優しい女性だと言う事を。

「御免ね、本当は銀時にこんな辛い運命を背負わせたくなかったの」
「運命? それってこの白夜の事か?」

 その問いに紅夜叉は無言でうなずいた。
 妖刀 白夜―――
 かつて、数多の戦乱の時代にその名を残し、それを手にした者は天下を取れるとさえ言わしめた吉兆の刀。
 だが、その実態は使い手を自身の操り人形と化し、己の欲望のままに血肉を吸い、やがては使い手すら食い尽くす魔性の刀。
 それを手にした者は一騎当千の強さを得るが、その代償として一生戦いの運命を背負わされる事となる。
 使い手の行くところ必ず戦乱が起こり、その度に多くの血が流れる。そして、その血を吸い肉を食らう事で妖刀は更に力を増して行く。
 最終的に、その使い手すらも食い尽くす勢いで―――

「別に気にしちゃいねぇよ。寧ろ、こいつが無かったら俺は今頃桜月に殺されてたかもしれねぇ。それに、こうなったのも元は俺の責任だ。今更虫が良いかもしれねぇが、罪滅ぼしみたいなもんだよ」
「でも、それを使い続けていたら、今度は銀時がそれに殺される事になるんだよ。それが、私にはとても辛くて―――」
「そんなの、あの時のお前の苦しみに比べたら屁でもねぇだろ。お前は、これともう一つ。あの桜月を使って戦い続けていたんだからな」

 白夜と桜月―――
 これらは二本で一つ。一対の刀として、必ず同じ戦場で相まみえていた。
 その悉くが敵同士で扱われており、決して相容れぬ存在とされていた。
 攘夷戦争で、紅夜叉が用いるまでは―――

「それより、他の連中はどうしたんだ? それに、此処は一体?」
「此処には、私と銀時しかいない。でも、他の皆は無事だよ」
「え? そうなの!?」
「うん、爆風に飛ばされた先に小太郎の用意していた船があって、其処に落ちたの。だから皆無事だよ。もちろん、銀時もね」
「ヅラのか。相変わらず用意周到なこって」

 銀時が桂の事をヅラ呼ばわりした矢先、目の前で紅夜叉がくすくすと笑い出した。

「まだヅラって呼んでるんだ。いい加減小太郎怒るんじゃないの?」
「別に気にしちゃいねぇよ。あいつが怒ろうが知ったこっちゃねぇ。寧ろこっちが毎回迷惑掛けられてんだ。あいつと付き合うと碌な事になりゃしねぇ」
「でも、小太郎は銀時の友達でしょ?」
「・・・・・・」

 銀時は黙った。
 確かに、桂とは過去に共に戦った仲間でもあり友人なのかも知れない。
 多少面倒な一面はあるが決して悪い奴ではない。国を壊そうとしているテロリストではあるが、それもこの国を憂いての事。
 しかし、同じテロリストでもあいつは―――

「そう言えば、晋助は元気にしてる? 二人とも何時も喧嘩ばかりしてて、その度に辰馬が殴られてたよね」
「・・・・・・あいつとは、もう昔のような仲じゃねぇよ」
「・・・・・・私が居なくなってから、皆変わったんだね?」
「あぁ、ヅラの奴は馬鹿な事をしつつ攘夷活動をしてて、辰馬の奴ぁ江戸を飛び出して商いをしてやがる。んで、高杉の奴は・・・」
「何もかもを壊そうとしている・・・そう言う事なの?」
「あぁ、変わったと言えば変わったな。もう、昔みてぇに肩を並べるこたぁねぇだろうよ」

 何処か遠い目をしながら言う銀時を見て、紅夜叉は寂しそうな顔をしだした。
 二人が喧嘩をしていたのは彼女も知っている。だが、喧嘩と言っても他愛無い痴話げんかみたいな程度だ。
 そして、その度に仲裁に入った辰馬が被害を受け、最後に彼女が仲裁してようやく収まる。
 それが毎度おなじみの光景でもあった。
 
「もう、随分経つんだね・・・私が死んでから―――」
「そうだな、随分経つだろうな。正確な数値は忘れたけどよ」
「教えてくれても良いじゃない。意地悪」
「やだ、俺の年がばれる。俺は未だに二十台って事で通してんだよ」
「それ、結構無理してない?」
「してない! 俺は未だにうら若き二十台の好青年だ! ジャンプ主人公がおっさんなんてあり得ないだろうが」
「そうなんだ」

 銀時がジャンプを語りだしたらきりがない。それは既に承知の事故にそれ以上深く追求はしなかった。
 出来れば聞きたかったのだが、生憎今はそれどころではないようだし。


「んで、どうやれば俺は元の場所に帰れるんだ? 流石にこのままって訳にはいかないだろうし」
「それなら問題ないよ。今は銀時の意識がない状態だから此処に居るだけであって、銀時の意識が戻れば元の世界に戻れる。それに、もうすぐ意識が回復するだろうからこの世界からも出られると思うよ」
「あ、そう・・・そりゃ良かった良かった」

 安堵する銀時。そんな銀時の右肩に紅夜叉はそっと手を置く。
 彼女の体を伝って柔らかい光と温かみが流れ込んで来る。
 だが、突然肩を掴まれた銀時は慌てふためきだした。

「ま、待て紅夜叉! 流石に不味いから! 今此処では不味いから」
「??? 何を言ってるの?」
「いや、良く考えろよ! これはR15を入れてるとは言え一応健全な小説を謳ってるんだぞ! そんなとこで〇〇〇〇なんて入れたらそれこそ運営にバンされるかも知れねぇ! だから頼む! そう言うのはR18のタグがついてるとこで、な!」
「さっきから何言ってるの? 片腕のままじゃ不便かなって思ったから、治そうとしたんだけど―――」
「・・・・・・ゑ!?―――」

 どうやら銀時の腕の治療をしようとしたようだ。そうとは知らず何やら破廉恥な事を想像してしまった銀時は一人、頬を真っ赤に染めてしまっていた。

「それで、〇〇〇〇って何?」
「言うな、頼むから忘れてくれ! 300円あげるから」
「まぁ、それはまた今度教えてね。と―――」

 そっと、紅夜叉の手が離れる。
 右手に感覚が戻った!
 見れば、さっきまで肩からなくなっていた筈の右腕が元通りになっている。
 流石に衣服までは元通りにはならなかったようだが、それでも腕が元通りになったのは有難い事だ。

「助かったぜ、紅夜叉。やっぱ片腕だと不便だからな。ジャンプとか読み辛ぇし」
「銀時、他に困る事ってないの?」
「まぁ、あるだろうけどさ。俺にとっちゃジャンプ読めないってのは死活問題なんだよ」

 何とも程度の低い死活問題のようで。
 それには流石の紅夜叉もため息が出てしまった。

「なんだか、少しだけ安心したなぁ。銀時は前とあんまり変わってなくて」
「おいおい、俺だってちったぁ変わったつもりだぞ? 前よりも瞳に光が入るようになっただろうし、髪だって前より艶が出てるつもりだし」
「銀時、こんな事をお願いするのは変かもしれないんだけど―――」

 言いながら、銀時の両手を掴んで来る紅夜叉を前に銀時は言葉をそっと仕舞った。
 真剣な眼差しで自分を見る彼女の目を銀時はただじっと見た。

「あの子の事・・・守ってあげてね」
「あの子・・・それって、なのはの事か?」
「うん、あの子は・・・私のせいで運命を捻じ曲げられた子。これから先、きっと多くの苦難や困難にぶつかる事になる。きっと、それはあの子一人じゃ越えられない位に辛く苦しい物になるかも知れない。それに立ち向かうには、あの子はまだ幼い。だから、あの子の支えになってあげて欲しいの」
「随分とあいつの事を気にするんだな。名前や顔が似てるからか?」
「今はまだ言えない。でも、何時か必ず言う。だから、お願い! あの子を守ってあげて」

 そう言って彼女は深く頭を下げた。銀時の両手を握る彼女の手に力が込められる。
 それだけ彼女が必至に懇願していると言うのが銀時にも分かった。
 ふと、銀時は思い出していた。
 幼き頃、戦場で骸を漁り、その日暮らしをしていた正に悪鬼だった頃の自分と、その時分を変える切欠となった二人の存在を―――

「任せろ。お前の頼み・・・この俺がしっかりと聞いてやるよ」
「有難う・・・それと、ごめんなさい」
「謝るこたぁねぇだろうが。寧ろ、お前や先生が居てくれたから俺はこうして人並みの生き方が出来るんだ。それになぁ・・・俺、一応父親やってる身だしさ」
「お父さんかぁ、良いなぁ・・・私も抱いてみたかったな。銀時の子供を―――」
「あのなぁ、俺の子供っつったって血の繋がりの全くない関係だから本当の親子って訳じゃ―――」

 恥ずかしそうに言い訳を並べてた銀時だが、途中で紅夜叉の気配がなくなった事に気づき、言葉を切った。
 既に、近くに彼女の気配は感じられなくなり、今はこの一面白一色の世界に自分一人しかいない。
 更に言えば、徐々にだが、周囲から眩い光が辺りを照らしだしてるのが感じられた。
 恐らく、元の場所にある自分の肉体が目を覚まそうとしているのだろう。
 となれば、この場所にこれ以上居続ける事は出来ない事になる。

(紅夜叉、お前は死んじまった今でもまだ、俺達の事を見守り続けてるんだな。お前のお節介は死んでも治らないって訳か)

 無造作に頭を掻きむしりながら銀時は前を見る。固い信念を持った鋭く真っすぐな目を閃光の先へと突き付けた。

(もう少しだけ待っててくれや。お前に掛かった呪い。必ず解いてやる。そして、お前を必ず自由にしてやる。それが、俺がお前に出来る唯一の恩返しだ)

 心の内に固く決意をしつつ、銀時は自身を呪っているであろう白夜に手を掛けた。
 もし、これから先この刀に食われるのが運命だと言うのならば抗ってやる。
 抗って抗って、抗い抜いて、ドブネズミの如くしぶとく生き抜いてみせる。そして、この忌まわしき呪いを必ず打ち砕いてみせる。
 それを成し遂げた後には、お節介好きな彼女の為に小さな墓標でも建ててやるとしよう。
 覚えてればの話だけれどね。
 なんてことを考える銀時の意識は、白色光の彼方へと溶け込んでいった。 
 

 
後書き
前回はなのはメインだったので今回は銀時と名前だけ登場の紅夜叉を登場させる回にしてみました。
 
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