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とある3年4組の卑怯者

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115 笛吹

 
前書き
 藤木が松本に行っている間、その頃のみどりちゃんと堀さんを描きます。そんな訳でこのエピソードには藤木は出てきません。 

 
 みどりは堀から彼女の家に届いた藤木からの手紙を見せて貰っていた。そこに彼女が藤木に渡した花束の花が藤木の家の玄関に飾られている事が書かれてあり、喜びを隠せなかった。
「やっぱり藤木さん、私の事をそれだけ大事にしているのね・・・」
 みどりは頬に手を当てて赤面した。藤木への想いが届いたと感じ本当に嬉しかった。彼女は以前自分が思いを馳せる藤木が堀と仲良くしている所を見て彼は堀の方がお似合いだと思い、諦めるしかないと絶望した事があった。しかし、そんな絶望の先にリリィ・莉恵子・ミルウッドという少女に出会い、彼女から自分にしかできない事をすればよいと言われた。そこでみどりは堀にはできないような事を藤木にアピールする事を決めた。そのためスケートの地区大会の終了後、彼に花束を贈呈したのだった。
「そ、そうね・・・。それにしても不幸の手紙の事も犯人も見つかったし、私も安心したわ」
「これで藤木さんも安心できるといいですね」
「そうね、あ、そうだ、吉川さん」
「はい?」
「今度転校前にいた家にまた行こうと思うんだけど、今度は吉川さんも一緒にどうかしら?」
「それって確か山梨県でしたっけ?」
「そうよ」
(堀さんが私を誘うなんて・・・)
「はい、是非お供いたします!」
「分かったわ。お父さんとお母さんに伝えておくわ」
 みどりは堀が嘗て住んでいた山梨に行ける事など夢にも思わなかった。

 ある土曜日、みどりは学校が終了したのち、堀の家へと訪れていた。
「お待たせしました!こんにちは」
「あら、こんにちは。よろしくね」
 堀の母が挨拶をした。みどりは堀の父の車のトランクに荷物を入れてもらい、堀と共に後部座席に乗り込んだ。こうしてみどりは堀の家族と共に山梨県へと旅立った。
「そういえば藤木君、中部大会で今松本へ行ってる所よね」
「そういえばそうでしたね。藤木さん、お元気でしょうか?」
「銅以上獲れるといいわね」
「はい!また手紙が届いたらいいですね!」
 お互いは藤木の事を話した後、車窓を眺めていた。みどりはやがて眠ってしまったが、堀はずっと起きていた。

 みどりが目を覚ました時には寝る前とは全く異なる街並みだった。
「あれ、私結構眠ってしまったんですね」
「ええ、一時間以上寝ていたわよ」
「そ、そうでしたか・・・!そういえばここは・・・?」
「もう山梨県に入ったわ。しばらくしたら笛吹市にある私が前に住んでた家に着くわよ」
「は、はい」
 そして40分が過ぎた。
「笛吹市に入ったよ」
 運転している堀の父が言った。
「ここがですか・・・」
 笛吹市。山梨県の県庁所在地のある甲府市に隣接している市であり、桃と葡萄の栽培が盛んに行われている場所である。そして石和温泉があり、温泉の街でもある。
 とある一軒家に到着した。
「吉川さん、着いたわよ」
「は、はい」
 みどりは堀と共に降りた。そしてその家に入った。
「おじいちゃん、おばあちゃん、久し振り」
 老夫婦が出迎えた。堀の祖父母だろうとみどりは思った。
「今日は私の学校の友達を連れてきたの。吉川みどりさんよ」
「は、初めまして。吉川みどりと申します」
「こんにちは。よろしくね」
「はい・・・」
「またあの部屋借りるわね。吉川さんもそこに荷物をお気に行こう」
「は、はい、あの部屋・・・?」
 みどりは堀に二階のある部屋に連れられた。机が一台、本棚が一台あり、大半の部分が空になっていた。ベッドはなかった。
「ここは私が使っていた部屋よ」
「そうなんですか。いいお部屋ですね」
「そう・・・。ありがとう。どこにでもあるような珍しくないけどね。もうそろそろ夕食だから行きましょう」
 みどりは隅に自分の荷物を置いた。そして二人は居間へと向かった。夕食は寿司を出前で取り、祖母が作ったとされるサラダとカボチャの煮付けが出された。
「今日はこずえの友達が来るって聞いたからお寿司にしちゃったの」
「はは、母さんったら孫どころかその友達にまで甘いんだからな」
 堀の父は呆れるように笑った。
「でもこのサラダとカボチャの煮付けは婆さんの手作りじゃよ。食べたまえ」
「はい、いただきます」
 みどりはサラダから食べた。牛蒡(ごぼう)と温野菜のサラダだった。食べてみると非常に美味かった。
「お、おいしいです!」
「そうか、ありがとうね」
 続いてみどりはカボチャの煮付けも食べる。これも非常に美味かった。
(こんな私に最高のおもてなしなんて・・・。堀さん、本当にありがとうございます!)
 この日はみどりにとって最高の夕食だった。

 みどりと堀はかつて堀が使っていた部屋で寝る事になった。押し入れから布団を取り出して敷いて寝た。
「この時はベッドがなかったから布団を敷いて寝てたの」
「へえ」
 みどりは一つ堀に質問しようと考えた。
「あの、堀さん」
「何?」
「堀さんは引っ越しなさる時、どうして家族皆で清水へお引っ越しなさらなかったんですか?そうすれば今でもおじいさんとおばあさんと一緒にいられたのに・・・」
「ああ、それはね、私のおじいちゃんもおばあちゃんもこの笛吹に昔から住んでいてとても愛着があるからよ。引っ越すときはお父さんも一緒にどうかって聞いたけど、二人ともどうしても死ぬまでここにいたいという事で私とお父さん、お母さんの三人で行くことになったの」
「そうだったんですか・・・」
「私も最初は前の学校の友達と離れるのは寂しくて嫌だったわ。なんならお父さんとお母さんだけ行って私はここに残るって我が儘言ったりもしたわ。でもその友達もまた手紙や電話をしてくれるって言ってくれていたし、それに文通している相手が清水にいるからもしかしたら会えるかもしれないって思って行く事にしたの」
「えっ、文通なさっていたんですか!?」
「うん、その人はお笑い好きなの。今度吉川さんにも紹介するわ」
「はい、ありがとうございます!それではおやすみなさい」
「おやすみ、明日は私の友達に会わせてあげるわね」
「はい、楽しみにしてます!」
 二人は眠りについた。 
 

 
後書き
次回:「転校前」
 みどりは転校前の堀の学校の友達と交流することになる。みどりはその時、堀の旧友に礼儀正しいと言われるが、堀と出会う前の自分の姿を話し出し・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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