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とある3年4組の卑怯者

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112 松本

 
前書き
 中部大会に向けて練習・調整を続ける藤木。リリィと笹山は藤木の応援に行きたいと考えるが、松本は清水から簡単に行けないために悩んでしまうのだった!!

 この作品では中部大会に出場する県は東海四県(静岡・愛知・岐阜・三重)、信越(長野・新潟)、北陸三県(富山・石川・福井)としています。それにしても本来ならば東海大会にするべきだと思いますね。これじゃあ範囲が広すぎる・・・。失礼しました。 

 
 藤木は学校から帰ると自分宛の手紙が郵便受けの中に入っている事を確認した。堀からだった。以前自分が出したお礼の手紙の返事に違いないと藤木は思い、部屋で封を切り、読んだ。

 藤木君

 この前はどういたしまして。あのお花の事吉川さんに伝えたわ。そしたらすごく喜んでいたの。不幸の手紙の犯人が見つかってよかったわね。私も安心したわ。今度の中部大会は別の用事で私も吉川さんも行けないけど藤木君の事を必死で応援しています。頑張ってね。

 堀

(堀さん・・・。うん、ありがとう、僕、頑張るよ!今は新しい目標があるからね・・・!!)
 藤木は堀の返事を読んで感動した。


 翌日、藤木はリリィと笹山に呼び止められた。
「藤木君」
「リリィ、笹山さん、どうしたんだい?」
 笹山が説明をする。
「今度のスケートの大会なんだけど、私達も藤木君の応援に行こうと思っているんだけど、いいかしら?」
「え、いいのかい!?でも松本は簡単に行けるような場所じゃないよ」
「うん、でも私達あの時の事で藤木君がもっと心配になったし、どうしても藤木君のために何かしてあげられたらなって思ったの。交通費とか宿泊費とかはリリィさんのお父さんとお母さんが出してくれるって言ってたわ」
「そうか・・・、でも大変だね。花輪クンに頼んでみたらどうかな?ヒデじいの車で連れて行って貰えるかもしれないよ」
「あ、そうか、花輪クンなら何とかしてくれるかもね」
 藤木の口から花輪に頼る事を提案する事は非常に珍しいと二人は感じた。今までの藤木なら花輪が関わると二人とも花輪の事が好きになって自分は嫌われるだろうと勝手な被害妄想をしただろう。しかし、卑怯を治したいと決意した今、そんな事を考えて花輪と関わる事を避けようとするなんて小さい事だと思った。だから、ここ花輪に頼ってもいいのかもしれないと思った。藤木は花輪の席に向かい、尋ねた。
「あの、花輪クン」
「Hey、何だい、藤木クン?」
「次の日曜に、僕スケートの大会があるんだけど、場所が長野県の松本なんだ。それで笹山さんとリリィも僕の応援に行きたいって言ってるんだ。それでヒデじいの車で松本に連れて行ってもらえるかな?」
「ふーん、なるほど、分かった。ヒデじいに相談してみるよ」
「ありがとう、花輪クン!」


 そして翌日の朝、花輪は藤木に呼び掛けた。
「Hey、good moening、藤木クン。ヒデじいに相談した所、OKだってさ」
「分かったリリィと笹山さんにも伝えておくよ。あ、そうそう、この大会の招待券君とヒデじいの分渡しておくよ」
「ああ、thank you、senhor(セニョール)
 藤木は二人にも伝えることにした。リリィが教室に入ってきた。
「あ、リリィ、花輪クンがOKだって言ってたよ」
「本当?よかった!笹山さんには私から伝えておくわ!」
「うん、あ、そうそう、はい、この招待券。君と笹山さんの分を渡すよ」
「ありがとう、そうだ、この事パパとママにも言っておかないと。最初はパパがとママが連れていく予定だったの。でも花輪クンが行くなら費用も安くなるから安心だって言ってたわ」
「そうか。でもお父さんとお母さんは行かなくて残念だったんじゃないのかい?」
「そんな事ないわ。私のワガママだから、花輪クンが送ってくれるなら安心だって」
「そうか、ならよかったね」
「うん!」
 そしてリリィは笹山が教室に入ってくるとチケットを渡すのだった。

 リリィは花輪の執事のヒデじいが車を出してくれるという事を両親に報告した。二人とも予算が大きくカットされた事で済んだと感じていた。宿泊費については父親が出してくれる事になった。
「リリィ、しっかり藤木君を応援するのよ」
「うん!」

 そして藤木が松本へ向かう日が訪れた。この日は土曜で授業が午前のみあるのだが、夕方は演技の順番を決める抽選会があるために早めに現地へ向かわなければならず、授業は公欠とした。藤木とその両親は清水から東海道線に乗車し、富士で身延線の急行に乗り換えた。列車の中で藤木は考える。
(あの時はみどりちゃんと堀さんが応援に来たけど、今度はリリィと笹山さんか・・・。好きな子に応援されると、ボルテージも上がるよな。よし、頑張るぞ!!)
 藤木は燃えた。列車が甲府駅に到着すると、松本行きの特急列車に乗り換えた。甲府駅で和島とその両親と思われる人物の姿が見えたがこんな所で地区大会前の時ような前哨戦など何にもならないと思い無視した。

 リリィと笹山は学校から帰り、それぞれ昼食を食べた。そして食べ終わり、ヒデじいの車が来るのを待った。ヒデじいは先ず笹山の家に寄り、次にリリィの家へと向かい、各人を乗せた。
「ねえ、笹山さんって藤木君のスケート姿見た事ある?」
 リリィが尋ねた。
「うん、あるわよ。スケート教室とかでね。藤木君はスケートの時はいつも以上に活き活きしてたわね」
「やっぱりそうよね。私も前に藤木君がスケートが得意だって聞いた事があるだけだったけど、前に一度スケート場に一緒に行った時、凄かったわ。本当のスケーターみたいだったの」
「え、そうなの?」
 笹山は驚いた。以前リリィが藤木と共に飛騨高山へ旅行しに行き、藤木のスケート姿を見ていた事を知らないのだ。
「ああ、そうさ、前に僕が飛騨高山へ旅行した時にリリィクンに藤木クンと偶然会ってね、一緒にskete場に行こうって誘ったのさ。そしたら藤木クンのjumpやspinには僕もアメリカから来ていた僕の友達や従姉妹も凄い驚いていたのさ」
「え、あの時一緒に旅行してたの!?」
 笹山は驚いた。まさかリリィが藤木と共に旅行に行っていたとは考えてもいなかった。自分は藤木だけを誘う事はあまりなく、せいぜい自分の作ったマフィンを御馳走しようとした時くらいであった。あの時は小杉が割り込んだが。
「へえ、リリィさんも藤木君を誘う事があるのね」
「いや、あの時は球技大会で藤木君が蹴球(フットボール)で活躍してる所を見なかったし、その頑張ったご褒美に連れて行ってあげようかなって思って・・・。でも私は花輪クンが好きなの・・・」
 リリィは慌ててしまい、赤面した上に上から目線のような言い方になってしまった。
「そう・・・、でも藤木君もきっと喜んでいるわよ」
「う、うん・・・」
「それに今の藤木君、前より変わった気がするの。スケートで世界一を目指すって言ってたし、前に西村君が濡れ衣で責められそうになった時、必死で庇ったから少し気が大きくなったかもね」
「へえ、笹山クン、君は藤木クンの事を理解しているんだね」
「え?う、うん・・・」
 笹山は以前藤木が不幸の手紙事件で一時決別した時、それでも心の片隅では藤木の事が心配でいた。また、自分も堀内から上履きに悪戯された時(正確にはたかしにやらせていたが)、多くのクラスメイトでは藤木かと疑ったが、それでも笹山は藤木ではないと思っていた。
(やっぱり私は藤木君を・・・)

 長野県松本市。嘗て城下町として栄えた場所であり、戦時中は空襲の被害を受けなかった都市でもある。また、音楽、山岳、学問でも有名な街でもある。藤木は松本に到着していた。まず荷物を旅館に置いていき、集合場所である開催地のスケート場の会議室へと向かう事になっていた。

 藤木とその両親は集合場所に入っていた。入口の机に受付係の女性が座っていた。
「こんにちは。出席を確認しますのでこちらに自分の名前の所に丸を付けて、こちらの抽選箱のくじを引いてください。くじに書かれてある番号が明日の大会の演技の順番になります」
「はい」
 藤木は自分の名前の所に丸を付け、くじを引いた。番号は「18」とあった。つまり藤木は明日は18番目に自分の演技を行う事となる。
(18番目か・・・。後ろの方か。まあ、後ろの方ほど審査員に印象を残しやすいって言うしな・・・)
 藤木とその両親は一つの机と椅子に座った。そして出場者が皆集まった。司会を行う男性が喋りだす。
「えー、本日はお集まり頂き、有り難うこざいます。中部大会での注意事項を色々と説明します」
 男性は控室の場所や当日の流れなどを色々と説明し、終了した所で藤木は両親に練習をしてくると断った。藤木は足換えシットスピンやトリプルルッツ、およびトリプルサルコウ、そしてステップシークエンスの練習をした。これらを演技に取り入れようと考えていた。しかし、藤木は地区大会で見せたアクセルからのスパイラルの姿勢はここでも通用するのかと不安になった。他の選手も各々の地区予選よりも評価の上がるような演技をするに違いない。和島もそうだった。なら自分は同じ事を繰り返すだけで本当に評価されるだろうか。藤木は練習を終え、リンクを出た。その時、着替えようと向かった所、一人の男性と再会した。
「久しぶりだな、藤木君」
「片山さん、こんにちは」
「調子はどうだね?」
「あ、はい、いつもと変わりませんが、地区大会の時と同じ技ですから、同じ事を続けても評価が悪くなるんじゃないかと思って不安なんです」
「なに、そんな事はない。君のあのアクセルからのスパイラルの演技は桁違いの凄さだ。無理に新しい事をしようとすると失敗しやすい。ジャンプやスピンの組み立てを変えれば十分OKだ」
「は、はい、ありがとうございます!」
「それでは、明日を楽しみにしているよ」
 片山はそう言って去った。
(そうだ、俺のあの技は相当の評価だったっけ。なら、それを失敗しないように気を付けよう!)
 藤木は自信が持てた。そして着替え、観客席にいる両親を呼んで旅館へ帰った。 
 

 
後書き
次回:「中部大会」
 中部大会の日が訪れた。リリィと笹山、そして花輪とヒデじいも見守る中、藤木は緊張感に包まれる。そして、和島が演技を見せる番が訪れる・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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