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やはり俺がネイバーと戦うのは間違っているのだろうか

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13.始まり?は白日の下に

 さて、時は夜の九時。場所はホテル最上階にあるバー『エンジェル・ラダー 天使の階』。俺が着いたときにはニノさんはすでにカウンターで酒をあおっていた。
「遅いぞ。比企谷」
「すみません。スーツを用意するのに手間取りました」
 スーツを用意?手間取る?疑問に思ったそこの貴方のために、はい、回想。どん!









「ひゃっはろー!八幡君!総司ちゃんに小町ちゃんもひゃっはろー!」
「お久しぶりです!陽乃さん!」
「ひゃっはろーです!」
「久しぶりすっね。陽乃さん」
 ここはスーツ着用が基本ということを知った俺はスーツを手に入れる、いや、貸して貰うために頼ったのが雪ノ下陽乃さんだ。雪ノ下の姉に当たる人で謂わば魔王だ。雪ノ下と同じく、いやそれ以上の完璧超人で、さらに超社交的な人───という仮面を付けている人だ。まあ、蓋を開けてみれば、
「はっちまーんくーん!」
「ちょっ!いきなり抱きつくのはやめてください。しかもダイブで。反射的に避けて蹴りそうになるじゃないですか」
「物騒すぎるよ!?その癖!?」
 この通り、滅茶苦茶甘えてくる人だ。はっきり言って絡みが滅茶苦茶うざいんだが、それも日頃雪ノ下家の長女としていろんなところに出張って鉄の仮面をずっと付けてなければならず色々溜まってるのだろうと考え、蹴りそうになる反射を抑えてる。
「まあ、蹴り癖はともかく。確かエンジェル・ラダー用のスーツだったよね?」
「ええ。洗って返すんで、貸してもらえませんか?」
 この人には何かと世話になることが多い。今回のようにな。陽乃さんと特定しなくとも、雪ノ下家に世話になることが多い。それだけの恩があるのだ。助っ人社員としてこき使われても文句は言えない。だが、相談話持ちかけるための敷居を下げてくれてるのがこの陽乃さんだというのも事実なのだ。
「もう!そんな水くさいって言うかそんな貧乏臭いこと言わなくていいよ!普通にスーツは貸してあげるよ!」






 
 で、こっから数時間。陽乃さんと総司、小町、三人の着せ替え人形とかしたのだ。やれ、このスーツはどうだの、髪型がどうだの、腐り目がどうだの、色々いじられた。おい、特に最後のさり気なくコンプレックスで人の心抉るのやめない?
 はい。回想終了。





 俺は二宮さんの隣に座る。何かこいう展開って刑事ドラマとかでよくあるよな。
「さて、ニノさん。話ってのは鳩原さんのことでいいんですよね」
「そうだ。俺は鳩原にあんな事やれるとは到底思えない。誰か裏で糸を引いてる黒幕がいると思ってる。俺はそいつを探りたい。お前の推理力を頼りたい」
「‥‥‥あまり期待しないでくださいよ。情報量もないですし」
 素の俺のボーダーの実力ははっきり言ってB級の上位とまあやり合えるくらい。はっきり言って弱い。だが、誰かとそしてどこかとランク戦するたびにヒスってたらたまったものではない。そこでは俺は性的興奮以外のトリガーを見つけた。βエンドルフィンが分泌されるときやヒスった時の血流のイメージを想起し、現象させる。そうすれば、効果は下がるし、時間も短いが。あんなキャラ崩壊を起こさずにヒステリアモードに持ってけるのだ。たまに、まじでヒスっちゃうけど。
「情報なら俺が集めた。鳩原と向こうに行った奴は三人。そして、この資料がその情報だ」
 まあ、お前の言うとおり少ないがな、と付け加えるけどニノさん。この一日で、どうやって調べたの?名前、
年齢、生年月日、住所、電話番号、趣味、家族構成、それにネイバーの被害の有無すらも調べ上げてるぞ。しかも、おそらく全く知らない赤の他人の、だ。
「‥‥‥‥‥これどうやって調べたんすか?一朝一夕で調べられる内容じゃないですよ?」
「何簡単なことだ。ボーダーの聞き込みという名実で回ったんだ。そして、お前のよく知っているあいつにも力を借りることになったがな」
 陽乃さんか。確か同じ大学で顔見知りだったはずだ。なるほどあの人の顔の広さとニノさんの知略があればやってのける、のか?
 色々疑問が残りながらもニノさんに渡された資料に目を通していく。
 ふむふむ、ん?
「この人なんか、目立ちますね」
 俺はその人の資料をニノさんに再び渡す。 
「‥‥‥雨取麟児、か」
「見ての通りこの人だけ家族や友人がネイバーに襲われてないんですよ」
「ということは、黒幕候補はこいつか」
 いや。
「案外黒幕というのは違うかもしれませんよ?」
「どういうことだ」
 含まず言え、と睨みで訴えかけてくる。
「この資料にない不確定要素。ズバリ、妹『雨取千佳』の情報です」
「妹のために、ということか」
 そういうことだ。千葉の兄弟の上は下の弟妹のためならばなりふり構わいのだ。
「……もう少し掘り下げて調査をしてみるか」
 その方がいいだろう。見えてくるものがあるはずだ。
「今日は手間を取らせたな。ここは俺が持つ。好きなものを頼め。俺は先に帰る。長居はするなよ」
 そういうとニノさんはバーを後にした。さてと、もう一つの用事も済ませるとしよう。
「……そろそろ、お前の問題を済ませようか。川崎沙希」
 斜め前でグラスを磨いていた青みがかかったポニテのバーテンダーの川崎へ話しかけた。
「……比企谷、だっけ?何?バイト辞めさせに来たの?」
「それがお前の弟の望みでもあるんでね」
「それは迷惑をかけたね。大志には私がよく言っとくから私に関わんないで」
 睨みを利かせてくるがニノさんの後だからだろうか、」そこまで怖くない。
「まあまあ、話を急ぐな。俺はここでのバイト以外の代案を持ってきただけだ」
「……どういうこと?」
 あ、なんか飲む?
 じゃあマックスコーヒーで。
 なんて会話も挿んだこともここに明記しておこう。
 俺は一口マックスコーヒーを呷る。
「だってそもそもお前のこんな無茶なバイトを始めたのも自分の学費を稼ぐためだろ?」
 なっ!と驚き絶句している。
 仮にもうちは指定校だからな。早い奴はもう来年の準備をしている。この夏には予備校に行こうなんてやつもいるだろう。だが、大志が今年から塾に通い始めたため、おそらく川崎家にはその金がない。それを自分で捻出しようとしたのだろう。
「なんでそれを。てか何を根拠に言ってんのよ」
「家も今年に一気に上がったからな」
 家の学費、ていうかあらゆる金銭の勘定は俺と総司の二人で行ってる。
 そして今年、大志と同じく小町も受験だ。
 こう言っちゃなんだが小町の頭は少しお粗末なところがある。俺と総司の時は総武の一個上のランクを目安に勉強していたし、その頃は雪ノ下もいた。今もそうなんだがこの三人での勉強が生み出すシナジー効果が凄まじいのなんの。そんなこんなで俺や総司の時とは事例が違うため今回は万全を期すことにしたのだ。週2で塾に行かせ、エースをねらえならぬ主席をねらえを決行したところ。バカにならないほどの出費になった。生活が厳しいというほどではないのだが普通に焦ったからなあれ。
「でだ。俺の代案ってのがだ、スカラシップだ」
「……なにそれ?」
「奨学金、またはそれを受け取る資格のことだ。成績が一定以上必要だが、まあそれはパンフレットとかに書いてるだろうからもらって読むといい」
「じゃあ、これでバイトしなくてもいいの?」
「取れればな。てかやめとけ。スカラシップどころじゃなくなるぞ」
 下手をすれば受験に関わる。推薦とかをもらえなくなったらそれこそ一大事だ。
「……何でここまでしてくれたの?あんたと私なんて今日初めて話したぐらいなのに」
 本当によく会話続いたな。ってそうじゃなくて!なんで、か。
「『せめて子供の夢ぐらいは守ってやろう』ってな」
「フフッ。なによそれ。てかあんた私と同い年でしょ」
「昔親父が言ってたセリフだよ。もう死んじまったけどな」
「……なんかごめん」
「別に。俺から言ったんだしな。それにそれこそこの町の子供たちの夢を守って死んでったんだ。未練はねえだろうよ」
「ボーダーだったの?」
「いや、警察だよ」
 この話題出すとみんな勘違いするんだよな。まあ素手でネイバー殺すなんてことしてるからな。うん。
 俺はグラスのマックスコーヒーを飲み干し立ち上がった。
「ごっそさん。まあ、やめさせに来た俺が言うのもなんだが引き続き頑張れよ」













『じゃあ、もう大丈夫なんだね!お兄ちゃん!』
「ああ。話した感じバカじゃないし、んな指導が入るようなことはしないだろ」
 明らかにスカラシップの方がリスクが少ない。
『にしても良かったねお兄ちゃん。車に轢かれかけてあんなきれいな人と知り合えて』
 おい。それ暗に事故って良かったねって言ってないか。違うな。だってかすり傷の一つすらしてないもん。
 ん?ちょっとまて。今何って言った?誰と誰が知り合えたって?
『結衣さんのことだよ。あの人があの時の犬の飼い主だよ?』
 ‥‥‥‥‥は?どゆこと?
 マジで思考停止しかかってんだが。俺あいつからなにも聞いてないぞ。
『何も聞いてないの?でも、学校出会ったらちゃんとお礼するって言ってたけど』
 ‥‥‥‥‥しばらくは荒れそうだな。
 これは整理する時間が必要だな。少しどす黒い何かが渦巻いてる。



 そんなこんなで中間テストも乗り切り、そしてすぐに、職場見学のイベントがやってきた。
 

 
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