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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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最終章:夢を追い続けて
  第66話「足止めの戦い3」

 
前書き
―――あら?淑女は自衛の手段も持ち合わせていてよ?


セシリア&シャルロットsideです。
……ちょっと他作品ネタが入ります。
 

 






       =シャルロットside=





「ッ……!」

「ふふ…」

 射撃とナイフを合わせた連撃を繰り出す。
 けど、その攻撃は銃であれば撃ち出す前に射線を、ナイフは軌道を逸らされる。
 対して、相手の攻撃も何とか同じように逸らしている。
 ……でも、全体的に見れば余裕があるのは相手の方だった。

「(まずいよ…!どんどん状況が悪化してきてる……!)」

 視界の端には、同じく徐々に押されているセシリアが見える。
 ……いや、“徐々に”と言える程度には踏ん張れているだけで、実際には私よりも状況は悪い。

「っ…、はっ!」

「っと…。甘いわ!」

 攻撃をギリギリで躱し、ナイフの一突きを放つ。
 けど、それは上体を反らす事で躱され、逆に反撃の回し蹴りが繰り出された。
 何とか腕でガードしたけど……。

「(……まずい…。これじゃあ……)」

 当然、そんな事をすれば腕に負担が掛かって動きが鈍くなる。
 少なくとも、さっきまでのような攻防は少しの間出来ないだろう。

「ふっ!」

「っ!」

     ギィイイン!

 そこへ、間髪入れずにドゥーエが攻撃してくる。
 当然、蹴りで痺れた腕では上手くナイフを扱えるはずもなく、弾かれてしまう。

「「っ…!!」」

 すぐさま銃をドゥーエに向けようとして……彼女も同じように向けてきた。
 交差するように腕がぶつかり合い、放たれた弾丸は僅かに顔の横を通り抜ける。

「くっ!」

「逃がさないわ…!」

 爪の一撃を警戒し、すぐに飛び退き、空いた片手にもう一丁の銃を持つ。
 手の痺れは完全になくなってはいないけど、何もないよりはマシだ…!

「っぁ…!」

「っ……!」

 同時に、私とドゥーエが銃を撃つ。
 そして、互いに避けるように動き、体勢を崩す。

「くっ…!」

「させない!」

 私よりも早くドゥーエが体勢を立て直す。
 そして、牽制しようとした私の銃を、爪の武装で弾き飛ばす。

「しまっ!?……っ!」

「っつ…!」

 銃が弾かれた事で、こっちがさらに不利になる。
 咄嗟に、弾かれた勢いを利用して上段蹴りを繰り出し、ドゥーエの体勢を崩す。
 すぐさま間合いを離し、弾かれた武器を取りに向かう。

「(追い打ちで狙ってくるとしたら……!)」

「行かせないわ!」

「(足!)」

 タイミングをほぼ勘で読み、ハンドスプリングの要領で飛び上がる。
 その読みは当たっていたようで、足元を狙った弾は見事に外れた。

「(まずは、ナイフ!)」

 そのまま地面を転がるようにナイフまで辿り着き、振り向きざまにナイフを一閃。
 “ギィイン”と、何かを弾く音が響く。

「っ……!」

 弾いたのはドゥーエの放った弾丸だ。
 けど、それを悠長に聞く間もなくすぐに横に飛び退く。追撃の銃弾が来ていたからだ。

「くっ!」

「ふぅ…ふぅ…!」

 息をつく間もなかったけど、こっちからの射撃で何とか間を作れた。
 少し間合いが離れているけど、これで大体は仕切り直し。
 違う所と言えば、私の武器は予備がない状態だ。
 これは、ただでさえ劣勢な今だと、致命的とも言える。

「(打開策は……)」

 どうにか場の状況を切り替えようと考えを巡らせる。
 ……でも、そんな事が出来る手札はもうない。
 私が扱える“風”は、既に使っている。……使っていて、これだ。

「(私だと、そもそも属性を使った戦い方が向いていないみたいだからね……)」

 一応、ここ数年で“風”以外にも“土”と“火”ができるようになっている。
 でも、それを用いての戦闘が、私には向いていないのだ。
 これは、四属性の適性と言うより、戦い方の適性だからしょうがない。

「(……間合いが離れている。動くとしたら、銃で牽制しないといけない。でも、それだと距離を詰められてまたさっきみたいになる)」

 膠着状態で今は考える時間がある。その間にどう動くか決める。
 けど、もう一丁の銃があればまだしも、ナイフと銃では遠距離だと有利に立てない。
 距離を詰められれば、またさっきまでと同じ状況になる。
 ……今度武器を弾かれたら、その時はもう終わりだ。

「(どう出る……!?)」

 打開策が見つからない。このままでは、実力でのぶつかり合いになる。
 けど、総合的に見れば私はドゥーエに負けている。
 さらには動きも少し似通っている部分もあるから、意表を突く事もままならない。

「(このままだと……)」

 ……これは、私一人のままだと勝てないかもしれない……。











       =セシリアside=







「っ……!」

 撃ち、撃ち、撃つ。
 ただ撃つだけでなく、きっちりと狙いを定めて撃つ。
 私へと迫るガシェットのコードを、出来る限り撃ち落とす。

「いい加減、諦めてくれなーい?正直言って、飽きたんですけどー」

「っ、そうやって余裕ぶっていられるのも今の内ですわ……!」

 ……でも、そうは言っても打開策が見つからない。
 他の皆さんの助力を待っても、そちらはそちらで手一杯。
 でも、私だけではこの状況を打破できるとは思えない。

「(……もし、“水”が扱えたのなら……)」

 ブルー・ティアーズにはあった“水”の適性。
 けど、私自身には適性がある訳ではなく、生身だと扱えなかった。
 ……もし扱えたのなら、この状況を変えられたかもしれませんわね。

「………」

 ……私に、これ以上打つ手はなかった。
 今でこそ何とか堪えているものの、負けるのは時間の問題。
 第一にガシェットによって数で上回られている上に、破壊しても補充される。
 そうなれば、物量さで押し負けるのも当然と言えてしまう。

「(……、……?あら……?)」

 ギリギリで凌いでいる時に、ある事に気づく。
 私に振るわれているコードの動きが、一部おかしくなっていた。

「(これは……?)」

 私の動きを乱すためなのかと思ったが、それにしては動きがわかりやすかった。
 むしろ、先程までよりも楽だと思える程だった。

「あ、あら?どうしたのかしら…?」

「(向こうも想定外?だとしたら、一体……)」

 その疑問はすぐに解ける事になった。
 私の持っていた端末から、声が聞こえてきたからだ。

【セシリアさん!】

「っ、その声は……ユーリさん?」

【はい!今、ガシェットにハッキングを仕掛けています!動きが乱れる程度ですが……】

「いえ、十分に役立っておりますわ」

 相手の狼狽も、動きの乱れも合点がいった。
 まさか、ここでユーリさんが味方してくれるなんて……。

「ちょっとぉ、どうなってるのよ!」

「(好機!今の内に数を減らしますわ!)」

 ガシェットの攻撃が単調になった所で、大きく横に避ける。
 再捕捉までに時間がかかるのを見越して、ガシェットに狙いを付け……。

「(狙い撃ちますわ!)」

 放った弾丸は、全てがガシェットのコアを撃ち抜く。
 ……これで、相手は無防備ですわ。

「っ、くっ、ふふ……!あの子もやるじゃない」

「……貴女一人になったのに、偉く余裕ですわね」

「余裕?ええ、余裕に決まってるじゃない。貴族様お一人程度、私一人でどうにでもなるっての!」

「っ!」

 そう言うや否や、彼女は投げナイフを放ってきた。
 咄嗟に身を捻って避け……。

「え……?」

 二撃目は、何故か私の足元に刺さった。
 一瞬、手元が狂ってミスでもしたのかと思いましたが……。
 ……その答えは、すぐに判明する。

「っ……!?ケホッ、ケホッ!?」

「投げナイフ形の催涙弾とでも言うべきかしら?人一人分の範囲しかないけどぉ、随分とあっさり引っかかってくれたわねぇ」

「っ……くっ……!」

 催涙ガスが、目に染みて視界がぼやける。
 完全にしてやられてしまった。

「さぁて、どうやって痛めつけてやりましょうかぁ」

「っ……!」

 とにかく、この場に留まっていてはいけないと判断する。
 ガスが目に染みているせいで、足元が覚束ない。
 でも、それでも大体の位置は分かる……!

「そこ……!」

「くっ!」

 狙いが付かない分、連射する。
 ……どうやら、相手は他の方と違ってそこまで直接戦闘が強い訳ではないらしい。
 その代わり、先程のような嫌がらせ染みた搦め手が得意と……。

「っ、追加がこれだけ!?ウーノ姉様、どうなっているの!?」

「(まだ、ガシェットの追加が……!?)」

 そして、ガシェットが補給されてしまう。
 しかし、その数は先程までより少なかった。

【すみません、こちらでも妨害が……!援軍を許してしまいました…!】

「……そう言う事ですの。でも、これなら何とかなりそうですわ」

 数が少ないのは、ユーリさんによるハッキングのおかげだった。
 考えてみれば、ガシェットの補給までに時間がかかったのも、そのおかげだろう。
 ……その代わり、あちらでもシステム面で攻防が始まったらしく、これ以上のユーリさんからの援護は期待できないようですけど。

「(これだけの数、十分に不利と考えられますが……裏を返せば、逆転の目もあるという事。先程までと比べれば、この程度の逆境、何とかしてみせますわ!)」

 さらには、相手も慌てている状態。
 “ウーノ姉様”と言う言葉から、彼女の姉がユーリさんのハッキングを止めていると判断できる。……そして、ユーリさんの相手をしている事から、これ以上の援軍もないと考えられる。

「(むしろ、これは好機と取れますわ!)」

 未だに催涙ガスの効果が抜けきらない状態。
 でも、危ない状況なのは相手も同じ。
 ……後は、相手の罠に引っかからないように、確実に追い詰める……!

「ちっ、あの子、本当に見かけに寄らないわね……!まぁ、いいわ。ウーノ姉様の援護が期待できないなら、私自らやってあげるわ……!」

「(来る……。おそらく、先程までとは動きが変わる。それに適した動きが取れるまで、倒れないようにしませんと……!)」

 視界ははぼやけてはっきりとは見えない。
 だから、避ける際は大きく避ける他ない。
 攻撃を見てから動いては間に合うはずがない。だから、先に動く。

「あら、足元注意よ!」

「っ!」

 だけど、相手は私自身を狙うのではなく、私の進行先へと攻撃を放つ。
 小回りの利いた動きが出来ないと分かっているからか、足場を攻撃で減らすつもりらしい。

「しまっ……!?」

 大きく避けるしかない私では、回避がしきれるはずもなく。
 バランスを崩し、躓いてしまった私へとガシェットの攻撃が迫る。
 咄嗟に手に持っている銃を振るう。
 運よくそれは攻撃を逸らすように命中するものの、攻撃の勢いに吹き飛ばされてしまう。

「っつぅ……!」

「終わりよ!」

 吹き飛ばされ、私の体勢は完全に無防備。
 そこへ、ガシェットの攻撃が迫る。

「っ!!」

 ……絶体絶命の状況。けど、その時、ガスの効果がなくなる。

「へ?」

 身を捻り、床を転がって攻撃を躱す。
 その勢いを利用してすぐに立ち上がり、追撃も躱す。

「ちょ、ちょっと何よ今の俊敏な動き!?」

「隙あり、ですわ!」

 私の動きに戸惑った隙に、一気に銃を撃つ。
 それにより、ガシェットの攻撃に使われているコードを、いくつか破壊する。

「(他のガシェットよりも丈夫ですわね……。でも、これなら……)」

 本来なら今の攻撃をガシェットは防ぎきれないはず。
 けど、今のガシェットは攻撃手段を少し失う程度に留めてきた。
 ……おそらく、簪さん達が相手にしていたゴーレムのように、特別性なのでしょう。

「んもう!予想外ね!」

「っ、もう引っ掛かりませんわよ!」

 ガシェットの攻撃と共に再び投げられるナイフ。
 それを私は大きく躱す。さっきのように催涙ガスをかけられる訳にはいかない。

「あらぁ、誰が同じ手を使うって?」

「っ……!」

 その瞬間、相手は嫌らしい笑みを浮かべた。
 直感に従い、ガシェットのコードからも大きく距離を取る。

「ナイフを……貼り付けていたのですか」

「ご明察♪引っかからなかったのは残念だけどねぇ」

 何とかガスを回避する事は出来た。
 でも……。

「本当、嫌らしい手口ばかりですわね」

「あら?私からすれば、そんなのに引っかかったりしてるなんて無様と思ってるけど?」

「性格も嫌らしいですわね!」

 こういう相手は、長期戦になればなるほど手口が酷くなる。
 そう判断して、一気に攻めに入る。

「っ、勝負に出てきたわね。いいわ、乗ってあげる!」

「っ………!」

 ガシェットから攻撃が繰り出される。
 それを二丁の銃で相殺し、ガシェットへと近づいて行く。
 先に片方の銃を撃ち切り、リロードしつつもう片方の銃で牽制。
 同じように牽制していた銃もリロードし、再度接近。

「くっ、やっぱり手数が足りないわね……!撃ち落とされちゃ、ガスも意味ないし……」

 まずガシェット一機に肉迫。至近距離から一気に銃弾を撃ち込む。
 これで一機撃破。次も同じように向かって……。

「……なんちゃって♪」

「っ……!」

 次の機体の、核に当たる部分に、催涙ガスのスプレー缶があった。
 おそらく、相手がそこへ割り込むように投げ入れたのだろう。
 咄嗟にその場から飛び退くものの、少しばかりガスを吸ってしまう。

「けほっ、っ、しまっ……!」

「あっはは!また引っかかったわね!」

 足元がふらつき、ガシェットの攻撃が当たってしまう。
 そのまま私は吹き飛ばされ、床を転がる。

「(っ……事前に、防護服を着こんでおいて正解でしたわね……)」

 SEを応用した防護服を、私達は着込んでいる。
 これなら、普通の銃弾程度なら防げるため、さっきの攻撃も耐えられた。

「……でも、今度は一矢報いましたわよ……」

「なんですって……?」

 相手が聞き返した瞬間、さっき相手をしていたガシェット付近で爆発が起きる。
 ラウラさんから借りていた手榴弾……私では使いどころが分かりませんでしたが、上手く行きましたわ……!

「後、三機……!」

「手榴弾!?くっ……!」

 動揺している間に一機を押し切って撃破。
 次のガシェットの装甲を破壊して……。

「ッ……!(弾切れ……!予備も、ありませんわ……!)」

「……ふーん、あはは!無様ねぇ!残弾数も分かってなかったなんて!」

 ここに来て、私の銃が使い物にならなくなる。
 ………ですが…。

「……へっ?」

「(元より、勝負に出た身。ここで退くわけにはいきませんわ!)」

 相手が驚く。少し前の私も見れば驚いていたでしょうね。
 何せ、弾がなくなったとはいえ、武器の銃を投げつけたのですから。

「(残り一機!ですが、そちらの相手をせずとも……!)」

 銃を投げつけ、露出した内部の機械部分に当てる事で、ガシェットを破壊する。
 これでガシェットは残り一機。ですが、私にはもう武器がない。
 ナイフは一応持っていますが、それでは倒せそうにありません。
 ……よって、狙うのは相手の女性ただ一人。

「っ!来んなっての!!」

「甘いですわ!」

 ナイフや銃で何とか私を近づけまいとする相手。
 ……ここへ来て、ようやく理解しました。
 相手は、どうやら直接戦闘にはあまり強くないようです。
 特別戦闘に優れていない私でも、比較的簡単に攻撃を躱せました。

「ッ……!?」

「背後、取りましたわ……!」

 少しでも慌てた相手は、ガシェットのコントロールも疎かになります。
 その隙に、私は背後に滑り込むように回り込む事に成功しました。

「き、貴族のお嬢様がなんで……」

「あら?淑女は自衛の手段も持ち合わせていてよ?」

「明らかに自衛って程度では……って、何を……!?」

「私、知り合いの方に色々教えてもらいましたの」

 腰から手を回し、抱え込むような体勢になります。
 これは、知り合いに教えてもらった必殺の技。

「ふっ……!!」

「この、腰から持って行かれる感覚は……!?」

 腰を抱えた状態で、一気に私は後ろへと反ります。
 “ゴッ”と言う音が、相手の頭の方から聞こえてきました。

「……特にこの、“淑女のフォークリフト”と言うのは気に入っていますの。……と言っても、もう聞こえていませんわね」

 気絶した相手の女性にそう言って、緊張の糸をほぐすように息を吐きます。
 ……何気に、実戦と言う実戦をしたのは、今回が二度目ですからね。
 ちなみに、一度目は学園を襲われた時です。

「……シャルさんの援護に行きたい所ですが……」

 ここで、私に碌な武器がない事に改めて気づく。

「……武器、頂きましょうか」

 最後のガシェットも、ユーリさんが相手の裏方を止めてくれたおかげで、直接の操作がなくなって無力化されています。
 他の方はそれぞれ相手がいますし、これなら安全に持ち物を探れます。

「……一応、ガシェットは破壊しておきましょうか」

 いくらユーリさんが相手しているとはいえ、再起動される場合があります。
 ……と言うか、ここの人達の事ですし、AIを組みこんでいる可能性が高いです。

「えっと……」

 銃を奪ったとはいえ、それでは弾も心許ない。
 だから、ナイフでガシェットの装甲を引き剥がそうとしますが、諦めます。
 代わりに、手榴弾を置いて離れます。

「さて……」

 離れて伏せ、爆発。
 ガシェットを破壊した事を確認してから、シャルさんの方へと目を向けます。

「劣勢、ですわね……」

 先ほどまでの私のように、何とか凌いでいるだけ。
 防戦一方どころか、負ける寸前で踏ん張っている状態ですわね。

「……私の銃とは別。少々、狙いが難しいですが……」

 下手に割り込む事はできない。
 なら、援護射撃だけでもするしかないと思い、私は銃を構えた。











       =out side=





「くっ!?」

「終わりね」

 シャルロットの手から、ナイフが弾き飛ばされる。
 弾き飛ばされたナイフはドゥーエの足元に落ち、銃弾で折られる。

「(銃はどちらも離れてる。素手でここから巻き返すのは……!)」

「まぁ、殺しはしないわ。少し、痛いけどね……!」

 既に銃も弾き飛ばされていたシャルロットは、万事休すだった。
 痛みを覚悟し、シャルロットは目を瞑り……。

「ッ!?」

 聞こえてきた銃声に、何事かと目を開ける。

「シャルさん!」

「セシリア!?」

「クアットロが負けた……?あれだけのガシェットがありながら…?」

 間合いを離したドゥーエの代わりにセシリアが駆け寄ってくる。

「倒したの?」

「はい。ユーリさんが助力してくれたおかげで」

「ユーリが!?」

 まさか囚われている人物が手助けしているとは思わなかったのだろう。
 シャルロットは大きく驚いた。

「……なるほどね。あの子、ようやく足を踏み出したのね」

 ドゥーエが納得している間に、セシリアはシャルロットに自分のナイフを渡す。

「シャルさん、とりあえずこれを」

「ナイフ……でも、セシリアの分は?」

「私よりもシャルさんが持っている方が役立ちます」

 ちなみに、クアットロの持っていたナイフを奪っているので、どの道セシリアが困る事はなかったりする。

「まずは私が牽制している間に、武器の回収を。その後は前衛を頼めますか?」

「分かった。でも、気を付けて。ドゥーエの間合いに入ってしまえば、近接戦では絶対に敵わないから。それに、ドゥーエは遠近両方こなせる」

「心得ましたわ」

 小声でどう動くか話す。
 二人掛かりとは言え、個々の強さでは下回っているからこその警戒だ。

「……負けは決まったようなものだけど、最後まで足掻かせてもらうわよ」

 対し、ドゥーエは負けを確信していた。
 ただでさえシャルロットに苦戦していたのだ。
 そこへ、援護射撃が入れば負ける事になってもおかしくはなかった。

「シャルさん!」

「っ!」

 セシリアの掛け声を合図に、シャルロットが後方へ駆け出す。
 同時に、セシリアが牽制としてドゥーエに射撃する。

「っ!甘いわ!」

「くっ……!」

 当然、ドゥーエも負けじと反撃する。
 互いに射線に留まらないように動き、ドゥーエは距離を詰めていく。
 対し、セシリアは射線に自分だけでなくシャルロットも入れないように動かなければならないため、必然的に徐々に追い詰められる。

「させないよ!」

 だが、それよりも先にシャルロットが復帰する。
 別方向から放たれた弾丸に、思わずドゥーエは体勢を崩す。

「っ!そこっ!」

「くっ、っ!?」

 そこへセシリアがクアットロのナイフを投げ、ギリギリで避けた所を撃つ。
 狙った先はドゥーエの太もも。……つまり、脚を奪うつもりだ。
 もちろん、直撃ではなく、立てなくなる程度のダメージで十分なので、掠らせる程度にしか命中させなかった。

「……終わりなのは、こっちのセリフだよ」

「……そのようね……」

 セシリアの行動中に、シャルロットはそのまま間合いを詰め、ナイフを突きつけた。

「終わりなのは、私じゃないわ……」

「っ、まだ……!?」

 ドゥーエの言葉に、警戒するシャルロット。
 しかし、それは、まだ何かあるからこその言葉ではなく……。

「終わりなのは、“私達”よ」

 “決着”が付いた事に対する、言葉だった。

「ぐっ……」

「っ、はぁ……」

 セシリアとシャルロットが見渡せば、オータムとスコール、そしてトーレが敗北の姿を晒していた。

「……勝ったんだ。皆……」

「ついでに言えば、あの子もウーノ姉様に勝ったみたいね」

【皆さん!】

 通信が回復したらしく、ユーリが再び端末に繋げてくる。

「ユーリさん!」

【何とか競り勝てました……。……セシリアさん達も、終ったみたいですね】

「何とか、ですけどね……」

 持ってきていた道具でドゥーエを拘束しつつ、ユーリと会話するセシリア。

「ユーリは今、どこにいるの?」

【この基地の最深部です。シェルターになっていて、戦闘に参加していない人達は皆ここにいます。有事の際は脱出ルートがあって、そこから脱出できるようになっています】

「……逆に言えば、合流は出来ないという事ですのね…」

【はい。……ですから、ここから先は協力できません】

 残りの相手は秋十達の両親と、桜と束。
 両親の方は機械を使わず、桜と束はユーリ以上にシステムに強い。
 そして、ユーリ達がいる場所からでは、これ以上のアクセス権限を手に入れる事は不可能でもあった。

「充分です。こちらを助けていただいただけでも」

【ありがとうございます。……どうか、ご武運を】

 そういって、ユーリの通信が切れる。

「……とりあえず、どうするべきだと思う?」

「怪我をしている場合は治療をするべきですわね。一度、一か所に集まりましょう」

 次の行動を決めるため、まずは一か所に集まる事にした。











 
 

 
後書き
淑女のフォークリフト…元ネタあり。知り合いの貴族の女性に教えてもらった。なお、その女性はなぜかプロレス技が使え、さらに日本から留学してきた八極拳を使える、とある女性とは犬猿の仲らしい。どう考えても淑女らしくないとか考えてはいけない。


ちょっとしたfateネタ。もちろん、名前と容姿だけの別人ですけどね。
簪とラウラは少し早めに決着が着き、他の面子はほぼ同時に決着が着いています。
……何気に、ユーリの協力がなければ危なかった四人でした。 
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