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十六夜咲夜は猫を拾う。

作者:ねこた
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第12話

『………』
魔理沙と白夜が二人でこの異変を解決すべく(?)
特訓している様子をぼうっと見つめる霊夢。
『…ねえ、あのこ…白夜って言ったかしら?』
『…白夜がどうかしたかしら?』
同じように、霊夢とは少し離れたところでレミリアのそばに立つ咲夜が問いかける。
『どこの神の子なの?』
『ああ、青幸村っていう1000年以上前に名前が変えられた、青い目を持つ猫叉が神を務めるところの子供よ。まあ、もう子供っていう年齢じゃないけれど。』

1000年以上も生きる子供がいてたまるか。いや、
現に自分の隣にいるけど、見た目だけだ。
中身はあまり子供ではない。多分。
白夜は少し子供っぽいところもあるが、やはり年齢が年齢なだけで子供とは呼べないだろう。

『妖怪が神って…種族は神なんじゃないの?』
『神だと言われていた理由は、その青い目が幸福を齎すと言われていたからなのよ。種族は猫叉だし…妖怪の部類だと思うわよ。』
『それ、本当にそうなの?』
『………え?』

『…だっておかしな話じゃない。青い目を持つだけで幸福をもたらすって。根拠も何も無い…ただそれに縋り付いてるようにしか見えないのよ。種族が神なら多少はわかるけど、ただの猫叉よ?さすがに妖怪が神だと崇め奉られているなんて話…流石にないんじゃないかしら』

言われてみれば、確かにそうだ。
そんな根拠もない事だけで、神だと崇められるだろうか?
しかも種族は人間に変化出来るだけの猫叉。
いくら1000年以上も前だといえど、ちょっと考えにくいことだった。

『…いえ、あるわよ。
白夜が生まれたことによって、それが明確になっただけよ。』

『…どういうこと?』

『白夜の右目、包帯が巻かれているでしょう?その右目、朱殷の色をしていて、不幸を齎す瞳と言われていたのよ。現に、白夜が生まれたことによって不幸は次々に降り注いだそうよ。…もう、どういうことかわかるわよね?』

『…白夜の朱殷の瞳が不幸を齎しているならば、白夜の両親の青い瞳は幸福を齎している…、瞳の力が白夜によって明確になった、ということね』

『結局人間は、白夜が産み落とされる前まではその神が本当に幸運を齎しているとは思っていなかったのでしょうね。不幸を知ってから幸運を知るなんて、なんて可哀想なのかしら。』

レミリアが皮肉を口にした。
失ってからじゃないと気づけないかわいそうな人間、ということを言いたいのだろう。

『…でも、白夜が1000年以上、今も尚生きていてあの見た目なのでしょう?両親は一体何歳なのかしら。』

『いえ、白夜は十数年生きていたあたりで無意識に自分の体の時間を止めてしまったのだと考えられています。全てが無意識下で発動されているなら、そんなことを自分にしたというのも気付かずに、1000年以上生きていられるでしょうね。』

『で、でも流石に1000年も生きていたら自分の見た目が成長しないことに気づいてもいいんじゃないかしら。』

『いいえ、白夜は目と能力のせいによってとても長い間地下牢獄に閉じ込められていたの。いつ夜を迎えて朝を迎えて、いつ1日が終わって、いつ自分の誕生日が来て…そんな事さえもわからなかった上で、長い間生かされていたのなら、そういうことに気づけないのがむしろ普通なのよ。』

『…………』

あまりに重たい内容の話に返す言葉がない霊夢。
先程とは違う気持ちで白夜と魔理沙を見つめてしまう。
でもすぐ目線を足元に落としてしまった。
見ているのが苦しくなったのだろうか、赤い自分のスカートをぎゅっと握りしめた。

『…でも、そんな拷問のような生活を送っていたのに…、よく生きていようと思ったわね。そこまでして、生きていたい理由でもあるのかしら。』

『……さあ、 わからないわ。』

そのまま暫く、魔理沙と白夜の二人をただ見つめた。
魔理沙に能力の扱い方を基礎から教わったお陰で、先程よりは幾分マシになっているように見受けられた。

白夜の"事実、又は結果をねじ曲げてしまう程度の能力"は、思っていたよりも数倍強力のようで、
色々な面でまだ未熟な白夜は、結局まだ無意識下で発動させてしまうことはあるようだった。回数が減った分、まだ良くなった方だろう。
そうして、数時間すると二人は特訓をやめた。
いつの間にか、空を覆っていた赤い雲も、星のような光を放つ青い雪も降らなくなっていた。

『おーい咲夜、霊夢。こいつの身体能力みたか?』
『え?』
『白夜、ただの猫叉じゃないぞ。身体能力があまりにも優れすぎている。少しのジャンプで数十メートルも一気に上昇なんて、普通の猫叉にできないだろう。普通なら』
『……!?』
聞くだけで驚くほどの凄さを目の当たりにし、ひどく驚いた様子の霊夢。
息を荒くし、汗が滴り落ちている白夜にタオルを差し出す咲夜。
魔理沙は指導をするだけで大して動いたり能力を使ったりしていないため、それほど疲れた様子はない。
『そ、それにしてもよ。白夜って名前、本当にぴったりじゃないかしら?』
驚きを誤魔化すのように話題を無理矢理変える霊夢。
『え?適当につけただけなのだけれど…まあ、ちゃんとした意味合いはあるのだけれど、どうして?』

『白夜って、ずっと明るいままで、日が落ちない事を言うのよ。南極とか寒くて日が沈まないそうよ。

…白夜の髪、そのずっと明るい空とそっくりじゃない。』
さらり、と白夜の髪に触れる。
十数年で成長が止まっているせいか、髪質はとても良質なもので、手触りも柔らかく、色は白く輝いていた。

そんな髪に対し、夜空を映した射影機の様な目の青。
忌み嫌われていた割には見た目もそれほど悪いものではない。

『……白夜…?』
『お嬢様、どうかなさいましたか?』
その話を聞いて、なにか引っかかるような
事があったのか、顎に手を当て何かを考え出すレミリア。
『…ねぇ咲夜。今、何時?』
『現在時刻、18:48分42ですが………あれ?』

咲夜も何かがおかしい事に気づいたようで、
時計を見て首を傾げた。

『……ねぇ、もう夜のはずよね?

…どうして、日が沈んでいないのかしら…?』

咲夜の言っている時刻が正しければ、もう日は沈み青みがかる黒い空になり、もう少しすれば月も輝き星も見れるような時間帯のはずだ。


それなのに、そらはまだ明るく日が沈む気配は一切無い、というものだった。


『……どうして…!?』 
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