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Speed Demon -Speed of madness-

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第一章 春愁秋思のプレアデス
  第二話 チーム・プレアデス

「うぅ…」
 目が覚めると、二つの声が聞こえてきた。飄々とした男の声と、女生徒の声。
 女生徒のほうは何かを真剣そうに話しているが、男のほうは興味がないのか、
 空返事を繰り返している。
 声のする方へと、視線を向けてみる。
 まだ温かい泥のような視界は、少しずつ目の前の二人へと、焦点を定めた。
 黄金色の長い髪、綺麗な青い瞳。知らない女の子だ。
 服装は学校の制服のようだが、見たことのない制服を着ている。
 豪華な革張りの執務椅子に座り、横柄に足を机に投げ出していた。
 俺は接客用に設けられているのか、ソファーに横たえられているようだ。
 と、飄々とした声の男と目が合ってしまった。
「あ、そいつ、もう起きてるんじゃないか?」
「え、ああ、気がついた?」
 彼女の容姿に似通う綺麗な声。
「ここは…」
 とにかく状況の把握を。何者かたちから逃げる途中、銃撃を浴びたところまでは覚えている。
 その後、俺は――
「あなた、名前は?」
 歩み寄ってきて、息の触れる距離まで顔をずいと近づけてくる。
「お前こそ誰だよ?」
 質問で返した。
 こういうのは先に名乗るのがマナー云々と言いたいわけではないが、父のこともあって名前を言いたくない。
「私は立華(たちばな) 紗香(さやか)。あなたは?」
「神崎 大翔」
 ぶっきらぼうに答える。
「神崎くん…大翔くんの方がいいか…」
「勝手にしろよ」
「じゃあ、大翔くん、唐突だけど、あなたにはこの学校に転入してもらうわ」
 少し、間があいた。
「はあ? 転入?」
「そう。特殊能力者を eDEN Corpの手から保護するのが私たちの役目よ」
「特殊能力者を? eDEN Corpから?」
「eDEN Corp って…あのeDEN Corpのことか?」
「そうよ」
 eDEN Corporation。電力会社を中心とした超巨大多国籍複合企業だ。
 そのeDENが特殊能力者と一体どんな関係があるというのか、さっぱり分からない。
「人類の中には極少数、特殊な能力を持つ者がいる。
 eDEN Corpは、エネルギー研究の過程でその存在にいち早く気付くと、
 それらを世間に隠蔽し、特殊能力者の保護をはじめたのよ。」
「でも、eDENがもたらした平和は、特殊能力者の犠牲によって成り立つものだった」
「eDENに発見された能力者は保護を名目に強制収容され、
 ことごとく人体実験のモルモットにされている」
「そういうeDENの非人道的な研究から特殊能力者を守るのが私たちの役目というわけ」
「だから、あなたにはこの学園に転校してもらう必要があるの。わかった?」
 わかるわけがなかった。
「でも、俺には能力なんてない。普通の高校生だぞ!」
 そんなことが現実にあるわけがない。こいつの妄想だ。
「はあ…まだ自分の力を自覚していないようね」
 呆れ果てたような表情で言う。
「いい? あなたがeDENの部隊 “マーセナリー”の襲撃にあっても生きているのは、あなたにはそういう力があるからなのよ。よく思い出してみなさい、心当たりがあるんじゃない?」
 ――力。
 考える。
 あの銃撃から、逃げるのに役立った力。
 すると、一つの出来事が頭に浮かんだ。
 あのとき感じた、周囲の動きが感覚的に遅くなる現象―。
「まさか…あのスローモーション…」
「ようやくわかってきたみたいね。」
 彼女―立華 紗香―は一瞬笑顔を見せたが、
 すぐ真剣な表情に戻り、話を続けた。
「eDEN Corp に目をつけられた以上、このまま一人で生活するのは困難よ。
 買い物ひとつろくにできなくなるでしょうね」
「でも、私たちの学校、“六連星(むつらぼし)学園”とその周囲の街はまだ一度もeDENの戦いによる被害を受けていない」
「能力者にとって、ここが日本で一番安全な場所なのよ」
「だから私たちはこうして能力者の保護を行っている」
 一瞬納得してしまいそうになるが、すぐにそれをかなぐり捨てるように首を振った。

「でも待て……その先にあるのはなんだ? もしeDENに見つかったら? お前らは、何をしたいんだ……?」
「私たちが何をしたいか、って?」

「それはもちろん、eDENの崩壊に決まっているじゃない」

「そんなこと……本当に可能なのか……?」
「気を失ったあなたをここまで連れてきたのもそうだし、今のところはeDENにはそれなりに対抗できてるわ」
 さっきのeDENの襲撃のことを思い出し、戦慄する。
 それがeDENによるものかどうかはともかく、俺の命が危ないのは確かか…。
「あなたは対eDENにおいて非常に強力な能力を持っている。
 それを見越して、あなたをこのチームに勧誘するわ。あたし達のチーム “チーム・プレアデス”に――」
「あなたにはこの同じ学園の生徒としてだけでなく、同じ“戦士”として戦ってほしい」
 俺が…戦士として…? 特殊能力者のために?
「まあ、まだ目が覚めて間もないから混乱するのも無理ないわ。少しずつでも、この環境に慣れていきなさい」
「そして…戦うのか……eDENと…」
「そうよ、共にね」
 女生徒が手を差し出してくる。

――俺は、その手を握った。

「じゃあ、改めて、私は立華紗香。
 このチームのリーダーをしているわ」
「ようやく仲間っつーわけだな」
 飄々とした声の主がスマホから顔を上げて言う。
 今まで一言も話さなかったが、俺と立華が話している間、こいつは熱心にスマホを弄っていたらしい。
「彼は雨宮(あまみや) (あきら)くん。遅刻ばっかりで、授業にもほとんど出てない所謂不良生徒よ。そして、何より彼はこの学園一のスーパーハッカーよ」
 俺と同じ不良学生らしいが、現時点では好青年という印象を受ける。
 それに、スーパーハッカーだなんてすごい。
「そして、神崎 大翔くん。
 ようこそ、私たちのチーム“チーム・プレアデス”へ―」 
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