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魔法科高校の劣等生 〜極炎の紅姫〜

作者:輝夜姫
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入学編
  入学

 
前書き
入学編、スタートです。 

 
魔法。
それが伝説やお伽噺の産物ではなく、現実の技術となってから、約一世紀が経とうとしていた。
そして、春。
今年も新入生の時期がやってきた。
国立魔法大学付属第一高校−−通称魔法科高校は、成績優秀な一科生と、その補欠であるニ科生とに分けられ、それぞれは花冠−–ブルーム−–、雑草−–ウィード−−と呼ばれている。
そんな魔法科高校に、一組の血の繋がった兄妹と、既に滅ぼされているはずの家系の血を引く少女が入学した。
兄は、ある欠陥を抱える劣等生。
妹は、全てが完全無欠な優等生。
少女は、一つの魔法に特化しすぎた劣等生。
この物語は、国立魔法大学付属第一高校に、一科生として将来を有望された妹と、その補欠である兄、少女が入学した時から卒業するまでの物語である。
♦︎♢♦︎♢
ある閑静な住宅街。そのうちの一角に佇む一軒家。平均的に見ても、十分大きいと言える家の二階にある一部屋で、一人の少女が鏡の前に立っていた。
少女は、真新しい白いワンピースに身を包み、これまた真新しいエメラルドグリーンのブレザーを羽織っている。
そして、なんの刺繍もされていない左胸を見て、そっと溜息をついた。
「仕方ない……よね。わたしはCADを使った魔法が苦手なんだし……」
自分を納得させるように、少女はそう呟く。
言ったことは事実だし、この結果を覆すことはできない。頭では分かっていても、やはり少しは残念な気持ちがあるものだった。
「まっ、いいや。それよりそろそろ出発しようっと」
先ほどの暗い気持ちを吹き飛ばすように、わざと明るい口調で言って、時計を確かめる。
−−−うん、いい時間帯だ。
そして、にこりと微笑み家を出て行った。
……家を出なければいけない時間より、二時間以上も早く家を出ていることに、少女は結局、学校に着くまで気づかなかった。
♦︎♢♦︎♢
−–−あれ……人が全然いない?
学校に到着してみると、疎らに上級生らしき人が歩いているだけで、ほとんどの生徒はまだきていなかった。
−–−時間、見間違えたかな?
そう思って少女は時計を確認する。
「ああっ!」
そして、小さな叫び声をあげた。
−–−入学式が始まるまで、まだ二時間近くあるじゃない?!
途方に暮れながらも、いつまでも校門近くに突っ立っているわけにもいかない。少女はどこか、時間を潰せる場所を探して歩き始めた。
−–−あれ?あの人ってもしかして……
ブラブラと学校の敷地内を歩いていた少女は、ふと足を止めた。
視線の先には、ベンチに腰掛けて携帯端末を開いている男子生徒。
おそらく新入生だ。
−–−やっぱり似てるような??
そう思いながら、少女はゆっくりベンチに近づく。
「あの……」
躊躇いがちに声をかけると、少年はふっと顔をあげた。
「やっぱり、竜也?!」
はっきりと確信を持ってから少女がそう言うと、少年の顔にも驚きの表情が浮かんだ。
「燈火、か?」
驚きながらも告げられた、自分のもう一つの名前に少女は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うん、そうだよ。久しぶり……というか二週間ぶりだね。竜也」
「あぁ、久しぶりだな。燈火も魔法科高校に入学していたのか」
「うん、竜也と同じ高校に入れるとは思わなかったよ。あっ、隣座っていい?」
「勿論だ」
ありがとね、というように微笑んでから、少女は少年の隣に腰掛けた。
「竜也も、わたしと同じなんだね」
そういう少女の視線の先には、なんの刺繍もされていない左胸。
「俺は実技が苦手だからな。だが燈火なら十分一科生になれると思うが?」
怪訝そうに尋ねられて、少女はクスリと笑った。
「わたしはほら、CADの操作が苦手だし、振動・加速以外できないから」
少女の言葉に、少年が納得したように頷く。
「あと、ここは隊じゃないから本名で呼んでほしいな」
「火神 燈火、は本名じゃなかったのか?」
「うん。わたしの本名は、不知火 深紅っていうのよ」
「不知火?あの、不知火か?」
少女−–深紅−−の言葉に、少年がかすかに驚きを示す。
「そう。あの、不知火だよ。まぁ、驚くのも無理ないよね?不知火は滅びたと思われている家系だし」
「不知火はまだ滅びていなかったのか?」
「ううん。わたし以外はもういないよ?わたしが最後の不知火。唯一の生き残りなの」
「そうだったのか……悪いことを訊いた。すまない」
「竜也が謝ることないよ」
「……俺の本名も大黒 竜也ではないんだ」
「えっ、そうなの?」
「俺の本名は司波 達也だ」
「司波達也……そうだったんだ。じゃあこれからは達也って呼ぶね?」
「あぁ。俺も深紅と呼ばせてもらうな」
達也の言葉に、深紅は嬉しそうに頷いた。
そして、ふわぁっと小さなあくびをする。
「眠そうだな?」
「……うん。昨日なかなか眠れなくて」
「まだ時間はあるし、寝ててもいいぞ?」
「そう?じゃあお言葉に甘えて。おやすみなさい」
そう言って深紅は目を閉じた。
よほど眠かったのか、すぐに小さな寝息をたて始める。
すると、読書を再開しようと端末を開いた達也の肩に、軽く重みがかかった。横を見ると、案の定、深紅が達也の肩に頭を乗せて眠っている。
−−−っ!無防備すぎるだろう!
間近から見る深紅の可愛らしい寝顔にある感情が湧き上がってくるが、それを無理矢理ねじ伏せて、達也は読書に没頭することにした……。
♦︎♢♦︎♢
「深紅、そろそろ起きろ」
入学式の時間が近づき、達也は未だ熟睡している深紅に声を掛けた。
「んん〜?もうすぐ入学式?」
「あぁ、会場ももう開かれているだろう」
その言葉に、若干未覚醒だった深紅の意識は急速に目覚めた。
「わかった。起こしてくれてありがとうね……達也」
ちなみに、深紅の口から達也という名前が滑りでるのに少々時間がかかった理由は、今まで竜也と呼んでいたからだ。
「別に大したことはしていない」
達也が少々ぶっきらぼうに−−微笑んだ深紅に見惚れて照れた所為である−−言った。
その時……
「新入生ですね?そろそろ入学式が始まりますよ」
二人に声が掛けられた。
まず目に入ったのは、制服のスカートと八枚花弁のエンブレム。
次に目に入ったのは、手首に巻かれた汎用型・ブレスレット形態のCAD。
−−−この学校ではCADを預けなければいけないのではなかったかしら?
−−−CADを常備できるのは確か、生徒会などの一部の生徒だけだったはずだ……。
そしてさらに上を見上げ、声を掛けてきた女子生徒の顔を見る。
美しいとも可愛らしいとも言える顔立ち。背は低いが均整のとれたプロポーションに、どこか蠱惑的な雰囲気を感じる美少女だった。
さっきの言葉や姿から、この女子生徒が先輩であることを察した深紅と達也は、ほぼ同時に立ち上がった。
「ありがとうございます。すぐ向かいます」
女子生徒にこう答えたのは達也の方だ。
早々にこの場を離れて会場に向かいたい、という深紅と達也の思いは、良くない意味で断ち切られた。
「珍しいですね。スクリーン型ですか」
女子生徒が、達也の持っていた端末に目を止めて、更に話しかけてきたからである。
「当校では、仮装型ディスプレイの使用を認めていません。それでも残念なことに、仮装型を使っている生徒は大勢います。しかしあなたは入学する前からスクリーン型を使っているのですね」
「仮装型は読者に不向きですので」
長々と話しかける女子生徒に対し、達也は短く、端的に理由を述べた。
「動画ではなく読書ですか!ますます珍しいわね。わたしも映像資料より書籍資料の方が好きなタイプだから、なんだか嬉しいわね」
しかしそんな達也の思いを知ってか知らずか、彼女はますます話しかけてくる。
しかも、だんだん口調が砕けてきているところを見ると、彼女はいっそ珍しいくらい人懐こい性格なのかもしれない。
「あっ、申し遅れました。わたしは当校で生徒会長を務めております、七草 真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくね」
最後にウィンクが添えられていても、全く違和感のない可愛らしい自己紹介。それは、どんな男性……いや、女性でさえも見惚れてしまうほど、彼女によく馴染んでいた。
しかしそんな彼女−−真由美−−に対して、深紅と達也は顔を顰めそうになった。
主に、その苗字に対して。
現代の魔法の才能は、血筋が大きく関係している。
特に、苗字に数字が付いている数字付き−−ナンバーズ−−は魔法の才能を大きく持っていた。
“七草家”はその、数字付きの中でも頂点に立つ十師族の一員で、最も力を持つと言われている二家系のうちの一つである。
七草真由美……おそらく七草の直系の血を引き、第一高校の生徒会長も務める、エリート中のエリートだ。
−−−滅ぼされた家の血を引く自分とは正反対。
−−−出来損ないで欠陥品の自分とは正反対だ。
そんなことを考えながらも、深紅と達也は名乗り返した。
「俺……いえ、自分は司波達也です」
「わたしは不知火深紅と申します」
名前を告げるだけの簡単な自己紹介。
それに対して真由美は、
「あなた達があの、司波達也くんと不知火深紅さんなの?!」
大袈裟と言える反応を返してきた。
だが二人とも、“あの”という言葉は大体想像できていた。
−−−どうせ、主席入学で総代を務める妹を持ちながら、まともに魔法を使えることができずに二科生になったという意味の“あの”だろう。
−−−どうせ、滅ぼされた筈の家系である不知火の苗字を持ち、また、それほど強力な血筋を持ちながら二科生となったという意味の“あの”でしょうね。
しかし、真由美はそんな2人の考えを見事に裏切った。
「先生方の間では、あなた達の噂で持ちきりよ?
入学試験、七教科平均百点満点中九十六点と九十四点。
特に圧巻だったのは、魔法工学と魔法理論。合格者の平均が七十点にも満たないのに、二人とも、小論文を含めて文句なしの満点。学校が始まって以来、前代未聞の高得点だって!」
よくそんな言いにくい台詞を一度も噛まずに言えますね?と、突っ込みたくなるほどの早口で、真由美がまくし立てた。
なんの偏見も感じられない、純粋な感心。手放しの賞賛に、深紅はなんとなく気恥ずかしさを覚える。
しかし達也はそんなことを感じなかったようで、
「ペーパーテストの結果です。実技はこの通り」
かすかに自嘲的な笑みを浮かべ、なんの刺繍もされていない左胸を軽く叩いた。
「それでも……たとえわたしが同じテストを受けたとしても、あんな高得点は取れないわよ?」
真由美がかすかに笑みを浮かべてそう言った時、
「かいちょ〜〜」
可愛らしく、真由美よりさらに小柄な女子生徒がこちらに走り寄ってきた。
「会長。自分たちはこれで失礼します」
達也がそう言い、深紅は小さく会釈をする。
真由美はまだ話したそうな顔をしていたが、そこはあえて無視し、二人は入学式の会場である講堂に向かって歩き出した。
♦︎♢♦︎♢
真由美と話し込んでしまった所為か、講堂に着くと既にほとんどの席が埋まっていた。
「見事なほどにくっきり分かれているわね」
深紅が言っているのは席に着いた生徒のことだ。
前半分は一科生。
後半分は二科生。
どこに座るかは自由のはずなのにここまでくっきり分かれていると、失笑を禁じ得ない。
「結局、最も差別をしているのは差別を受けているもの、ということか」
他の生徒が聞いたら激昂しそうな言葉をさらりと言い放つ達也。
しかし深紅は、その言葉に同意するように頷く。
全く同じことを深紅も考えていたからだ。
特に逆らって目立つつもりはない。結局二人は三分の一あたり、中央に近い空き席に腰掛けた。
「あれ、そういえば達也妹さんがいるのよね?妹さんは?」
ふと感じた疑問を、何気なく達也に尋ねる。
「妹は新入生総代を務めることになってるんだよ」
「へぇー、すごいね」
達也の応えに、深紅が感心していると、
「あの、お隣は空いてますか?」
深紅が声をかけられた。顔を上げると、今時珍しくメガネをかけた女子生徒。
八枚花弁のエンブレムは、ない。
「空いてますよ」
特に断る理由もないので、頷いておく。
メガネの少女が座った後に、明るい色の髪を持った少女もその隣に腰掛けた。
どうやら二人続きで座れる場所を探していたらしい。
「あの、わたし柴田 美月です」
不意に、メガネの少女から自己紹介がなされる。
積極的に話しかけてくるような子には見えなかったので、深紅も達也と多少驚いた。
「俺は司波達也だ」
まず、達也が先に返事をする。
「わたしは不知火深紅です」
続けて深紅も返事をした。
その時の二人の意識は、美月のメガネの方に集中していた。
今のご時世でメガネをかける理由は二択しかない。
一つは単純にファッションのため。
しかし美月がファッションのためにメガネをかけるような子には見えなかった。
だとすると……
−−−霊子放射光過敏症、か
−−−霊子放射光過敏症、ね
霊子放射光過敏症は、病気ではない。ただ、感覚が鋭過ぎるだけなのだ。
見え過ぎ病とも言われ、普通は見えないものを視ることができる。
「あたしは千葉 エリカ。よろしく」
今度は美月の隣に座っていた少女が声をかけてきた。
これは、美月にとって救いの手だったかもしれない。
意識していなくとも、深紅と達也の二人は美月を−−正しくは美月のかけているメガネを−−凝視しており、そろそろ美月の羞恥心が限界に近づいていたのだ。
「ねぇ、深紅って呼んでもいい?」
「もちろんよ。わたしもエリカと呼ばせてもらうわね。美月も呼び捨てでいい?」
「あっ、はい。わたしも深紅さんと呼びますね」
お互い呼び方を決めたところで、エリカがどこかワクワクとしながら深紅と達也に尋ねてきた。
「ねぇねぇ。深紅と達也くんの関係って何?」
やっぱり年頃の女性はこういう話が好きなのだろう。
「別に……ただの知り合いよ?」
「あぁ、入学前からのな」
期待通りの答えが返ってこなかった事に、若干つまらなそうな顔をしてエリカは、なぁんだ、と言った。
その後すぐに、入学式が開始された。
滞りなく入学式は進んでいき、そして……
「新入生総代、司波深雪」
司会者がこう告げ、舞台袖から一人の少女が姿を現した。
その瞬間、空気が変わった。
神々しいほど美しい顔つき。
まっすぐと伸びた背中。
楚々とした歩き方。
全てが完璧な姿に、講堂内の全員が恍惚とした表情を浮かべ、吐息を漏らす。
「穏やかな日が注ぎ……」
鮮やかに色づいた唇から、まさに鈴を転がすように可憐な声が溢れでる。
そんな妹の姿に、兄の達也は誇らしげな表情を浮かべた。
深紅は、そのあまりの美貌に驚き圧倒させられた。
「……魔法以外にも共に学び、皆等しく勉学に励み……」
しかしこの言葉が紡がれた途端、達也の表情が固まり、深紅はびっくりしたように肩を揺らした。
そんなことを言ったら一科生の人が黙ってないはずだ。
しかし二人の心配は杞憂に終わった。
皆、深雪の姿に見惚れるだけで、話している内容を理解しているものなど皆無に等しかったからだ。
そんなこんなで、入学式は終了した。
♦︎♢♦︎♢
「深紅、美月、司波くん何組?」
エリカがワクワクとした表情を隠すこともせずに尋ねてくる。
「E組ね」
「俺もE組だ」
「わたしもE組です」
「やたっ!同じクラスだね」
飛び上がって喜ぶエリカの姿に、少々オーバーリアクションじゃないか?と思う達也だったが、隣にいる深紅や美月が同じような表情を浮かべていることから、これが高校生としては普通のリアクションだと納得することにした。
−−−やった!達也と同じクラス!
達也の隣では、深紅がエリカのように跳ね上がって喜びたい衝動を堪えていた。
入学式の直後には、IDカードの交付が行われる。
深紅たちは今、まさにそれを終えたところだった。
「どうする?あたしらもホームルーム行ってみる?」
「わたしはどっちでもいいけど……」
「すまない、妹と待ち合わせをしているんだ」
「えっ、司波くんって妹いるの?」
「あぁ」
大袈裟に驚くエリカ。そんなに驚くようなことだろうかと首を傾げながら達也が頷く。
「司波くんの妹ならさぞかわいいんじゃないの?」
「俺の妹なら、というのはよくわからないが、確かに妹はかわいいよ」
「あの……妹さんってもしかして、新入生総代の司波深雪さんですか?」
美月が遠慮がちにそう尋ねてきた。
「そうだよ」
それを達也が肯定する。
「えっ?じゃあ双子なの?」
「よく聞かれるけど双子じゃないよ。俺が四月生まれで妹は三月生まれ。どっちかが一ヶ月前後にずれて生まれてきてたら違う学年だった」
エリカの質問に対する達也の答えは随分とスムーズで、これまでこの質疑応答が幾度となく繰り返されてきたことを物語っていた。
実際深紅も初めて妹のことを聞いた時、エリカと同じ質問をしていたのだから。
「それにしてもよくわかったね。司波なんてそう珍しい苗字でもないのに」
達也のこの言葉に、三人の少女は小さく笑みをこぼした。
「達也、司波は十分珍しい苗字だと思うよ?」
「あたしも深紅に同意見」
しかし、その笑みの色合いは随分と違う。
深紅とエリカの笑みがどこか苦笑混じりなのに対し、美月の笑みはどこか自信なさげな笑みだった。
「凛とした面差しが、とてもよく似ていますから」
その言葉に、一瞬、達也が動揺に似た反応をした。
しかしそれは本当に一瞬のことで、すぐいつものように、「似てるかな?」という。
エリカと美月は達也の不自然な反応には気づかなかった。
しかし深紅は、隣にいた所為か、軍人としての鋭さ故か、達也の不自然さに気づいていた。
あえて何も口にはしなかったのだか……。
その時後ろから、先程答辞を述べていた少女の可憐な声が聞こえてきた。
「お兄様!」
その声に後ろを振り向いて、早かったね、という達也。その言葉は、すでに予定していた言葉だったが、語尾には予定外のクエスチョンマークが付いてしまった。
理由は、妹−−深雪−−の後ろにいた予想外の同行者の所為だ。
「司波くん、深紅さん。またお会いしましね」
深雪の後ろに立ち人懐こい笑みを浮かべているのは、入学式開始前に会ったばかりの真由美だった。
「お兄様、その方たちは?」
深雪が深紅の方を見て、達也にそう尋ねた。
「この人たちは俺の新しいクラスメートだ」
「こんにちは〜。あたしは千葉エリカ。よろしくね」
「柴田美月です。よろしくお願いしますね」
「不知火深紅だよ。よろしくね」
「司波深雪です。わたしも皆さんと同じ新入生なので、お兄様同様よろしくお願いしますね」
エリカから始まり、全員が自己紹介を交わす。
「あたしのことはエリカでいいわ。深雪って呼ばせてもらってもいい?」
「えぇもちろんよ。苗字ではお兄様と区別がつかないものね」
「あはっ。深雪って案外気さくなタイプ?」
「あなたは見た目通り開放的な性格のようね」
「深雪、生徒会の方々との用事はもういいのか?まだなら適当に時間を潰しているぞ?」
後ろで控えている真由美たちを気遣っての達也のこの質問と提案は、深雪ではなく真由美から返された。
「大丈夫ですよ。今日はご挨拶だけのつもりでしたから。深雪さん……とわたしも呼ばせてもらっていいかしら?」
「あっ、はい」
エリカたちとすっかり打ち解けた笑み浮かべていた深雪は、その表情をスッと神妙なものに変える。
「では、詳しい話はまた日を改めて。今日はこれで失礼しますね」
真由美は笑顔で会釈をし、そのまま講堂を出て行こうとした。
しかしそれを、真由美の横に控えていた男子生徒が呼び止める。
「しかし会長。それでは予定が……」
「予めお約束していたわけではありませんから、他に予定があるならそちらを優先するのが当たり前でしょう」
なおも食い下がる気配のない男子生徒に咎めるような視線を向けてから、真由美は達也たちの方に向き直した。
「深雪さん、今日はこれで。司波くんと深紅さんもいずれまた、ゆっくりと」
そう告げると、真由美は今度こそ講堂を後にした。
それに続く男子生徒は一度だけ振り返り、舌打ちをしそうな表情で達也のことを睨みつけてから、真由美の後を追って出て行った。
「お兄様、申し訳ありません。またわたしの所為でお兄様の心証を……」
「お前が謝ることではないよ」
「はい……ありがとうございます、お兄様。……それにしても、深紅はもしかして、火神燈火さんではありませんか?」
深雪のいきなりの質問に、深紅が驚きの表情を浮かべた。
「うん、そうだよ。よくわかったわね、深雪」
「ふふ、お兄様からよくお話を聞いていましたから、もしかしてと思って」
深雪のその言葉にさらに驚き、深紅が達也の方を見る。すると達也は微妙に深紅から視線を外した。
「えっ?火神燈火って、ナニ?」
「わたしのもう一つの名前みたいなものなの。あまり気にしなくていいわよ、エリカ」
深紅が軍に特尉として籍を置いていることは秘密である。
あまり突っ込んだことを訊かれないように、深紅は関心をそらせるように言った。
「ふーん。あっ、そうだ。これからみんなでカフェにでも行かない?この辺にいいお店があるんだけど」
「いいですね!」
エリカのこの提案に、美月がすぐさま賛同した。
「わたしも行こうかな。この後予定はないし」
「お兄様、どうしますか?」
「いいんじゃないかな?同性同世代の友達はいくらいても多すぎるということはないからね」
達也の言ったことに、エリカが呆れを含んだ口調で言う。
「司波くんって、深雪のことになると自分のことは計算外なのね……」
♦︎♢♦︎♢
「ねぇねぇ。深雪はさ、好きな人とかいないの?」
高校の近くにあるカフェの一角。そこで五人は会話を弾ませていた。とは言っても話しているのはもっぱら女子四人で、達也は聞き役に徹している。
そして、この年頃の女子が集まれば、話がそっち系に飛ぶのは当たり前のことだった。
「好きな人、ですか?ふふっ、話すのはなんだか恥ずかしいですけど、いますよ?」
深雪がほおを微かに染めて言う。
「えっ、ホント?誰々?!」
「深雪さん、お付き合いしてる方がいるんですか?」
「気になるなぁ。誰?」
「一条将輝さんとお付き合いしています」
深雪のこの言葉に、三人の少女はキャアっと色めき立った。
「すごいね。一条の御曹司と付き合ってるなんて」
「しかもイケメン」
「とってもお似合いですね」
深紅たちの言葉に、深雪が嬉しそうに微笑む。
「じゃあ深紅は好きな人とかいないの?」
「ええっ?!わたし?!」
いきなり自分の名前が出てきて、戸惑った叫び声をあげる深紅。
「確かに気になりますね」
「深紅さんも、とっても美人ですからね」
「え……えっと。好きな人はいる、よ。一応……」
「誰々?!」
「誰ですか?」
「え、えっと、その……い、言えない!」
「えぇ〜、教えてよ〜」
「無理無理無理ぃぃ!」
本人の目の前で暴露するわけには行かないじゃない!!と心の中で絶叫する深紅。
そしてその時全員−−正しくはエリカと美月と深雪−−が、ははぁっと言うような表情を浮かべた。
顔を赤くしながらも、チラチラと達也の方を気にする深紅。
特に興味なさそうな表情を浮かべながら、深紅の方を気にする達也。
あまりにも、わかりやすい二人だった。
「まっいいや。深紅、応援してるわよ」
からかうようなエリカの口調に、深紅は真っ赤になってうつむいたのだった。
♦︎♢♦︎♢
その夜、深雪が見事達也の気になっている人を言い当て、達也を大いに動揺させたのは言うまでもない……。




 
 

 
後書き
長いですね……。これからもこのぐらいの量だと思います。
誤字脱字がありましたら、ご指摘お願いします。 
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