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とある3年4組の卑怯者

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105 靴下(てがかり)

 
前書き
 小学生男子のスケート静岡県地区大会、藤木は己にとって最高と思える演技を披露する事に成功。一方、永沢の弟を抱えて逃走する城ヶ崎は各務田の部下にとうとう掴まってしまった!! 

 
 城ヶ崎は太郎を服の中で暖めたまま神社の縁の下に隠れ続けていた。その時、足音が微かに聞こえた。
「くそう、何処にもいないぞ!」
「まともに探して見つからないなら人目のつかない所に隠れてんだろ!!草木に茂みとかな!」
「おい、あの神社、怪しいぜ」
「よし、探すぞ!」
 城ヶ崎は足音が近づいてくるのが聞こえた。
(突き止められたっ!?いや、来ないでっ!!)
 城ヶ崎は絶望を感じた。
「草木の中はいなかった!」
「なら縁の下はどうだ!?」
 もう逃げ場がない。
「太郎君、ごめんねっ、もう逃げないとっ!」
 城ヶ崎は太郎を服の中から出し、逃げる準備をした。しかし、太郎が泣き出しそうになった。
「う、う・・・」
「しーっ!」
 城ヶ崎は太郎を静まらせようとするも効果はなかった。太郎は泣き出してしまった。
「いたぞ!」
 ついに見つかった。城ヶ崎は必死で追っ手から遠ざかろうとする。そして、外に出たが、待ち伏せされ、挟まれた。もう逃げ場がない。こうなったら助けが来る可能性にかけて大声で騒ぐしかない。
「たすけてーーーーっ!!!だれかーーーーっ!!」
 城ヶ崎は必死で叫んだ。誰でもいい。この声を聞いて異変に気付いて欲しい。
「だ、黙れ!!」
 男は持っていたバットを振りかざした。城ヶ崎は太郎に当たらないよう必死で避けた。しかし、反対側の男が鋸を降り下ろし、城ヶ崎は避けきれず、右肩を切り付けられた。その痛みで城ヶ崎は叫び続けた。
「おい、黙らせろ!」
 一人の男がガムテープをだし、城ヶ崎と太郎の口に張り付けた。
「んーっ・・・!」
 声も封じられ、城ヶ崎は太郎共々男達に連れて行かれた。

 藤木の演技が終わった。そして後は残りの出場者の演技が全て終了し、結果を待つのみだった。実際のオリンピックの選考とは異なり、点数は結果発表まで非公開だ。藤木は和島よりも評価が高くなる事を祈った。
「藤木さんが一番だといいですね」
 みどりが願うように言った。
「きっと一番よ。最後の演技、私も凄すぎて驚いたわ」
 堀は藤木を信じるように言った。
「こずえ、あの藤木君って子、凄い子だな。私も驚いたよ。小学生とは思えない技術だった」
 堀の父も藤木を称賛していた。
「うん、藤木君はスケートなら誰にも負けないわよ」

「ホラ、てめえの両親の居場所をいい加減吐きやがれ、コラあ!!」
 各務田は永沢を壁に叩き付けた。
「う・・・」
「命乞いしてんのか!?じゃあ少しだけ待ってやるよ。今城ヶ崎ってガキとてめえの弟を探してるとこだからよお、見つけたらそいつらを先に殺してやる。あと藤木ってガキも探して、見つけたらそいつも連れて来て殺す。まず嫌な奴から死んでくれた方がせいぜいするだろ!?え!?」
「や、やめろ!!」
「なんで止める理由があんだあ!?弟の太郎はともかく城ヶ崎や藤木はおめえの嫌いな奴なのによお!!」
「し、死ぬのは僕だけでいい・・・。父さんや母さん、太郎や城ヶ崎、そして藤木君まで・・・、巻き込むな・・・!!」
「あ!?よく言うぜ、俺の親父が去年死んだのはてめえのじーさん、つまりテメエの家族が殺したも同然なんだよ!俺はてめえの家系を途絶えさせてやる。一度決めた事は俺は変えねえんだよ!!!」
 その時、各務田の部下が入ってきた。
「旦那!太郎と城ヶ崎ってガキを捕まえました!」
「そっかそっか、入れ!」
 部下に連れられて城ヶ崎が太郎を抱えながら現れた。部下に襟を掴まれ、服の右側が血で染まっており、口にはガムテープを巻かれている。太郎にも口にガムテープを張られており、声を上げる事ができなくなっていた。
「んーっ、んーっ!!」
「た、太郎、城ヶ崎!!」
 各務田の部下が城ヶ崎を部屋の床に投げつけた。
「おいおい、こんな所で会えるなんて運がいいのか悪いのかわかんねえなあ!!まあ、てめえら仲悪そうだけど、天国では仲良くすんだぞお!ぶはははは、ぶあっはははははは!!」
 各務田は演芸番組の漫才やコントを見ているかのように大爆笑した。
「さあて、答えねえならまずこいつらを殺すか。おい、その鋸貸せ!」
 各務田は部下から鋸を借りた。
「や、やめろ!!わかったよ、居場所を言う!!父さんと母さんがいる所を言う!僕はともかく、太郎と城ヶ崎は殺さないでくれ!」
 永沢は必死で止めようとした。
(永沢っ・・・!?だめ、あんたが死んでもだめっ・・・!!どうか、手掛かりを残したから、誰か見つけてっ!!気付いてっ・・・!!)
 城ヶ崎は連行される際、足でなんとか靴下を脱ぎ、靴下の片方を神社の前に残し、もう片方を各務田の隠れ家の前に置いたのだった。そのため、今は裸足だった。

 三人組の警察は神社の前で土で汚れた靴下を発見した。
「こんな所に靴下が・・・?」
「おい、あれを見ろ!!」
 警官達は血痕を発見した。まだ新しい。
「もしかしたら、これに付いていけば奴らの場所に辿り着ける筈だ!!」
「よし!」
 警察官達は自転車を走らせた。

 リリィと笹山はとある家の前まで走っていた。二人が事件に関わるのはリリィが買った本を巡って上級生に狙われて以来の事ではあるが、今回のケースは巻き込まれるのではなく、自ら首を突っこんでいた。その時、リリィがあるものを発見した。
「ん、あれは・・・!?」
 リリィは靴下が捨てられてあるのを見つけたのだった。土で汚れている。
「どうしたの!?」
「これ、城ヶ崎さんの靴下だわ!!」
「え!?」
 リリィは城ヶ崎と会った時、彼女は素足だった事を思い出した。靴を吐いていれば靴下はここまで汚れない。また、血痕のようなものがこの家の入り口に続いている。
「もしかして、この家に・・・!?」
 その時、永沢らしき声がその家から微かにこだました。
「あの、この家にきっといます!!」
 リリィは共に行動していた女性に報告した。
「わかったわ!貴方は警察を呼んで!!」
 女性は笹山に催促した。
「はい・・・、あ、来ました!!」
「え!?」
 三人が向いた方向には警察官が三人現れた。
「ん?貴女方は・・・?
「私達はあそこにいる子達の友達です!助けに来たんです!!」
 笹山は警察官達に訴えた。
「わ、わかった!私達で二人で抑えに行く。お前は無線で連絡しろ!!」
「わかった!」
 二人の警官がチャイムを鳴らした。そして、ピストルを出して戸を開けた人物を脅した。そして手錠をかけ、中に入っていった。
 その一方でもう一人の警官が無線で呼び掛けた。
「こちら入江派出所の野本、各務田出吉の隠れ家と思われる家を発見!!」
 野本という警官はその家の番地を伝えた。

 永沢は各務田に催促され、花輪の別荘の場所を吐こうとした。
「僕の父さんと母さんがいる花輪クンの別荘は色々ある。ある所では海が綺麗で僕もそこで海水浴をした。さらに夜はキャンプもできた。ただ、キャンプファイヤーの時は火事の事を思い出してしまったけど・・・」
「てめえの思い出なんか聞いてねえ!言わねえならこの二人は先に殺してやる!」
 各務田は鋸を太郎を抱える城ヶ崎に向けた。
「んーっ!!」
 城ヶ崎は太郎を抱えながらもう駄目かと思い、怯えで体が震えた。その時、警察官が二名入ってきた。
「手を挙げろ、お前ら!!」
 その場にいた部下は手を挙げた。しかし、各務田は応じなかった。
「あ、手を挙げたっててめえらは脅すだけで、打てやしねえだろ?ぎゃはははは!!!」
 各務田はそのまま鋸で城ヶ崎を斬ろうとする。警官の一人が発砲した。各務田の手首に当たり、彼の手から鋸が外れた。
「この野郎・・・!!」
 その時、他の警察官達が押し掛けてきた。そして、静岡県警の警部までもが現れた。
「見つけたぞ。静岡県警だ。各務田出吉!放火、殺人未遂、小学生監禁で逮捕する!!」
「な、何だよ!!」
「取り押さえろ!!」
 何人もの警官が各務田にのしかかり、手錠をかけることに成功した。そして警部が永沢達を見て一部の警官を呼び掛けた。
「おい、この子達を病院に連れていけ!大怪我を負っている!!」
「はっ!!」
 警官達は城ヶ崎と太郎の口に貼られているガムテープを外し、永沢の縄を解いた。太郎がガムテープを外された途端に大泣きした。
「た、太郎・・・」
 永沢が太郎を心配した。
「太郎君、痛かった?よしよし・・・」
 城ヶ崎は力なく太郎をあやした。城ヶ崎は肩の切り傷からの出血が多いせいか、死にそうな顔をしていた。
 各務田とその部下達は警察署まで連行された。永沢と太郎、そして城ヶ崎は救急車を待っている余裕ではないのでパトカーで病院に連れて行って貰えることになった。永沢、城ヶ崎、太郎が警官達に抱えられて現れた。永沢は体をあちこち殴られたため、顔が変形し、痣と内出血だらけだった。城ヶ崎は出血が多いせいか、死人のようで顔がどす黒くなっていた。
「な、永沢君!!城ヶ崎さん!!」
「リリィ、笹山・・・?君達が助けてくれたのかい・・・?」
 永沢が聞いた。
「そうだけど、この女性(ひと)が助けてくれたの・・・」
 リリィが共に行動した女性を指した。
「君男君、よかった、生きてて・・・」
 女性は涙を流した。
「あれ、隣に住んでたお姉さん・・・?」
「そうよ、後でお見舞いに行くわ」
 永沢達は病院へ向かった。残った警官が皆に礼をした。
「君達、本当にありがとう。でも小学生なのにこんな大変な事に巻き込まれて大変だったろう」
「いえ、そんなことありません。友達が心配だったんですから・・・」
 リリィが答えた。
「そうか、いい友達だね・・・。貴女もありがとうございます。お父さんに宜しくお伝えください」 
「はい・・・」
 女性は返事をした。彼女の父親は県警の警部だったのだ。
「でも、永沢君達心配ね」
 笹山は警察官に搬送された病院を聞いた。そして最も近い総合病院に行く事にした。
「ありがとうございます!リリィさん、行こう!」
「うん!」
 笹山とリリィは永沢達が搬送された病院へ急いだ。 
 

 
後書き
次回:「褒美(すきやき)
 スケートの大会の演技が全て終了し、結果発表の時が来た。藤木は和島に勝つ事はできるのか。その後、清水に帰った藤木は両親からすき焼きを御馳走になる・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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