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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第19話

4月23日、演習2日目――――



シャーリィとデュバリィによる夜襲があった翌朝、リィン達はミハイル少佐とレクター少佐から信じられない報告を受けていた。



~デアフリンガー号・2号車―――ブリーフィングルーム~



「て、鉄道憲兵隊も動かないんですか……!?」

「ああ……諸般の事情でな。」

「ま、帝国の東側で面倒な事件が起こってな。こっちに戦力を割いてる余裕がないってことだ。」

驚いている様子のトワにミハイル少佐は重々しい様子を纏って、レクター少佐はいつもの調子で理由を答え

「……おいおい、ふざけんなよ。”結社”の執行者に鉄機隊―――しかもあのシャーリィが来ている。下手したらサザ―ラント州が火に包まれてもおかしくねえぞ?」

「サザ―ラントどころか、下手したらアルトリザスの”お隣”のメンフィル帝国領(セントアーク)まで”巻き添え”を受けるかもしれないわねぇ?」

「クク、1年半前の件でメンフィルにあれ程痛い目に遭わされたにも関わらず、そんな”余裕”があるなんて、さすがは1年半前に建国されたばかりの”新興の某帝国”と違って”伝統”を誇るエレボニア帝国だなぁ?」

「………それは………」

静かな怒りを纏ったランディと小悪魔な笑みを浮かべたレン、そして不敵な笑みを浮かべたランドロスの指摘に対して反論できないミハイル少佐は複雑そうな表情で言葉を濁した。

「……ランドルフ教官。あの、シャーリィさんという女性は?」

「ああ……身内の恥にはなるが俺の従妹になる。大陸最強の猟兵団の一つ、”赤い星座”の大隊長……―――いや、叔父貴が死んで団長になったみてえだな。」

トワの質問に対してランディは静かな表情で答え

「赤い星座……聞いた事があります。」

「クロスベルの異変で暗躍していた最強の猟兵団………わたくしやお兄様、それにランディさんが所属していた”特務支援課”やヴァイスハイト皇帝陛下達―――”六銃士”の方達の協力によって阻止する事ができたのですわ……」

「阻止っつーか、リア充皇帝共や”嵐の剣神”達が言葉通り叔父貴を含めたあの異変に関わっていたほとんどの猟兵達の命を奪って”壊滅”に陥らせたけどな。だがその後、あの人喰い虎は”結社”にスカウトされやがった。”赤い星座”に所属したままな。」

ランディの答えを聞いたトワは真剣な表情を浮かべ、複雑そうな表情で答えたセレーネに続くように疲れた表情で答えたランディは厳しい表情を浮かべた。

「それは………」

「―――”赤い星座”の本隊の連中が控えているって事だな。」

「更に”神速”を除いた”鉄機隊”の他の面々もね。」

ランディの話を聞いたリィンは表情を厳しくし、ランドロスとレンはそれぞれ静かな表情で答えた。



「―――それなんだが、”赤い星座”の本隊の方は帝国には入ってないみたいだな。」」

「なに……!?」

するとその時レクター少佐が意外な情報を口にし、その情報を聞いてリィン達と共に血相を変えたランディは驚きの声を上げた。

「元々、結社の傘下じゃないし別のヤマをやってるみたいだぜ?分隊は知らんが、アンタが想像する最悪の状況にはなってないってことだ。」

「……………」

「……その意味で、現状の危険度は”そこまで”ではないという判断だ。連中の狙いがわかるまであくまで第Ⅱのみで備えておく。無論、サザ―ラント領邦軍には治安維持をしてもらうつもりだが。」

レクター少佐の指摘にランディが目を細めて黙り込んでいる中ミハイル少佐は静かな表情で答えた。

「で、でも……」

「ならば帝国正規軍には?リグバルト要塞―――サザ―ラントの北端ですよね。」

ミハイル少佐の説明に納得し切れないトワが反論しようとしたその時、リィンが別の質問をした。

「……正規軍は正規軍で忙しい。煩わせたくないとの判断だ。繰り返しになるが……今回の件は、現地領邦軍と第Ⅱの”現有戦力”に対処してもらう。これが現時点での決定事項だ。――――エレボニア帝国政府の。」

ミハイル少佐の説明を聞いたリィン達はそれぞれある人物―――オズボーン宰相の顔を思い浮かべた。

「そ、それって………」

「帝国政府……ってことは”あの”―――」

「なるほどなぁ………まさか”そういう手で来る”とはな。」

「……そういう事ですか。そして貴方が今朝タイミング良く現れた事を考えると………――――例の”要請”を貴方が”両陛下の代理人”としてこの場に現れたのですね?」

オズボーン宰相の顔を思い浮かべたトワは不安そうな表情をし、ランディは厳しい表情を浮かべ、ランドロスが不敵な笑みを浮かべたその時ある事を察したリィンは静かな表情でレクター少佐に問いかけた。

「お兄様……」

「………?」

リィンの言葉を聞いたセレーネが心配そうな表情をしている中、ランディは不思議そうな表情をしていた。



「ハハッ………いいんだな?そこまで察しているという事は、お前がやろうとしている事は結果的にお前の今の祖国であるメンフィルではなく、1年半前の戦争相手だったエレボニアの方に”利”がある事も既に察しているだろう?」

「ええ、レン皇女殿下達に鍛えて頂いたお陰で。だが、そこに危機が迫り、何とかする力があるのなら……エレボニアの内戦を終結させた”特務部隊”の”総大将”として、”七日戦役”を”和解”への切っ掛けを作った者として、俺は見過ごすことはできません。このまま”結社”の計画通りに状況が進めば、最悪アルトリザスに隣接しているメンフィル帝国領(セントアーク)まで巻き込まれ、その結果”ユミルの二の舞い”になる事は見過ごせません。」

レクター少佐の問いかけに対してリィンは決意の表情で答え

「……上等だ。」

リィンの答えを聞いて不敵な笑みを浮かべたレクター少佐は持っていた封筒から一枚の紙を取り出してある宣言をした。

「『”灰色の騎士”リィン・シュバルツァー殿。メンフィル帝国両皇帝の”要請(オーダー)”を伝える。サザ―ラント州にて進行する”結社”の目的を暴き、これを阻止、可能ならば”結社”の関係者を討伐せよ。」

「ほう~?それが話に聞いていた例の”灰色の騎士”専用の”要請(オーダー)”とやらか、」

「メンフィル帝国両皇帝―――”英雄王”とその息子である現メンフィル皇帝からの要請(オーダー)……”灰色の騎士”を動かす唯一の。」

レクター少佐が読み上げた紙の内容を知ったランドロスは興味ありげな表情を浮かべ、ミハイル少佐は真剣な表情を浮かべていた。

「その要請(オーダー)―――しかと承りました。」

そしてリィンは紙を受け取った後手に胸を当てて宣言をした。



「……なるほど。そういうカラクリか。しかし何で、エレボニアでの出来事にメンフィルが介入して、それをエレボニアの政府は何も言わないんだ?幾らエレボニアが1年半前の件でメンフィルに頭が上がらない立場とはいえ、さすがに不味くねぇか?」

「え、ええ……普通に考えたら、一種の”内政干渉”に考えられますけど……」

リィン達の様子を見守っていたランディの疑問に続くようにトワは戸惑いの表情で呟いた。

「うふふ………メンフィルが求めている”利”とエレボニア帝国政府が求めている”利”……―――それぞれに”利”があるからこそ、エレボニア帝国政府はパパとシルヴァンお兄様によるリィンお兄さんに対しての要請(オーダー)について何も口出ししないのよ。」

するとその時レンが小悪魔な笑みを浮かべて答えた。

「メンフィル帝国とエレボニア帝国の双方に”利”……ですか?それは一体どのような”利”なのでしょうか?」

レンの答えを聞いたトワは不思議そうな表情で訊ね

「既にみんなも知っての通り、パパ達やメンフィル帝国軍の精鋭部隊や暗殺部隊が結社の”盟主”を始めとした最高幹部クラスのほとんどを討ち取ったわ。で、メンフィルは今も”残党”として生き残っている結社の”殲滅”を目指して”極一部の人達を除いた結社や十三工房の上層部やエージェント”―――”執行者”や”蛇の使徒”、”蛇の使徒直属の部隊”、それと”十三工房”の関係者達を”賞金首”扱いしているの。で、エレボニアは1年半前の七日戦役やクロスベル帝国建国の件で様々な”力”が衰退した影響で、戦力もそうだけどあらゆる方面で深刻な人材不足に陥っているわ。――――ここまで言えば、エレボニア帝国政府がパパとシルヴァンお兄様による介入の件について何も言わない”理由”もわかるでしょう?」

「あ…………」

「……なるほどな。そういうカラクリになっていたのか。」

「クク、エレボニアの”利”に関しては”それ以外の利”も当然あるんだろうなぁ。」

レンの説明を聞いたトワは呆けた声を出し、ランディは真剣な表情で呟き、ランドロスは不敵な笑みを浮かべた。

「………!」

「やれやれ………今の話だけで”そこまで”察する事ができるなんてな……天性―――いや、”野生の勘”って所か?」

ランドロスの言葉を聞いたミハイル少佐が驚いている中疲れた表情で溜息を吐いたレクター少佐は不敵な笑みを浮かべてランドロスを見つめた。



「それにしても、その要請(オーダー)とやらは見ようによってはメンフィルの言いようにこき使われているようにも見えるが……リィン、お前さんはそれで納得しているのか?」

「ラ、ランドルフ教官。この場にはメンフィル皇家の一員であるレン教官もいらっしゃるのですから………」

リィンを見つめて目を細めて問いかけたランディの問いかけにトワはレンを気にしながら冷や汗をかいた。

「うふふ、ランディお兄さんはリィンお兄さんを心配して訊ねている事はちゃんと理解しているから、レンの事は別に気にしなくていいわよ。それにそのリィンお兄さん専用の要請(オーダー)はリィンお兄さんにとっても様々な”利”があるからこそ、リィンお兄さんも納得して請けているのよ?」

「ふえ……?それってどういう”利”なんですか……?」

レンの指摘を聞いたトワは不思議そうな表情でレンに訊ねた。

「国内、国外に関わらずいずれかの勢力によるシュバルツァー家に対する干渉に関する事はレン達―――メンフィル皇家がシュバルツァー家の”後ろ盾”になって、守ってあげる事よ。リィンお兄さん―――いえ、シュバルツァー家は1年半前の”七日戦役”とエレボニアの内戦の件で”色々な意味”でメンフィルやエレボニアは当然として、ゼムリア大陸ではとても有名な存在になったしね。特にエレボニアの両派閥の”一部の勢力”も、シュバルツァー家を取り込む事を未だに諦めていないみたいだしねぇ?」

「あ…………」

「…………………」

「なるほどな……特に、”某宰相”あたりはリィンを利用する事を考えていそうだな。何せリィンとの関係を考えると、あの怪物の事だから”政治以外の方面”からも利用できると考えているだろうしな。」

「ハハッ……どうやらその口ぶりだと、”特務支援課”の連中にも今の両親から聞いたお前の”真実”について話したみたいだな?」

意味ありげな笑みを浮かべたレンの言葉を聞いたトワが呆けている中ミハイル少佐は複雑そうな表情で黙り込み、目を細めたランディに視線を向けられたレクター少佐は口元に笑みを浮かべた後リィンに問いかけた。

「ええ……アリサ達も知っているのですから、ロイド達にも当然知っておいて欲しかった事実でしたので。――――話を続けますけど、いくら戦争で活躍し、その活躍を評して”公爵”の爵位を授けたとはいえメンフィル皇家が一貴族を贔屓する事は、メンフィル帝国内の人々に”示し”がつきません。ですからメンフィル皇家以外の人々を納得させるには、それなりの”対価”が必要です。」

「そしてその”対価”が、メンフィル皇帝直々による”要請(オーダー)”って訳か。わざわざ皇帝直々の”要請(オーダー)”にしたのは皇家以外のメンフィルの政治家や軍の連中の介入を防ぐ為か?」

レクター少佐の問いかけに静かな表情で頷いたリィンは説明を続け、リィンの説明を納得した様子で聞いていたランドロスはレンに視線を向けた。



「うふふ、大正解♪リィンお兄さんに対する”要請(オーダー)”の権限を持つのはパパとシルヴァンお兄様のみだから、レンやプリネお姉様は当然として、リフィアお姉様ですら、リィンお兄さんに対する”要請(オーダー)”の権限を発動する事もできないのよ?」

「次期メンフィル女帝に即位する事が確定しているリフィア皇女殿下ですらも、リィン君に対する”要請(オーダー)”の権限がないのですか………」

レンの説明を聞いたトワは驚き

「更にリウイ陛下達もお兄様に対する”要請(オーダー)”を発動した際は、お兄様に様々なサポート要員を付けてくれましたわ。―――勿論、そのサポート要員の中にはわたくしも入っています。」

「やれやれ、至れり尽くせりだな。ま、そのお陰で”北方戦役”でのノーザンブリアの市民達の被害は皆無に済んだから、こっちとしては助かったんだがな。」

「何……っ!?」

「”北方戦役”って……!もしかしてリィン君、1年前のエレボニア帝国によるノーザンブリア侵略に協力していたの……!?」

セレーネの説明の補足の後に苦笑しながら答えたレクター少佐の話を聞いたランディは驚き、トワは信じられない表情でリィンに訊ねた。

「えっと、それは……」

「あー、紛らわしい事を言ってすまん。正確に言えば、”遊撃士協会の外部協力者として”、ノーザンブリアの公都であるハリアスクの市民達の避難誘導や救助に手を貸していやがったんだ。」

「遊撃士協会の………という事はエレボニア帝国軍によるノーザンブリア侵攻の情報を掴んだ遊撃士協会がメンフィル帝国と交渉して、リィン君達をハリアスクの市民の人達の避難誘導や救助を手伝う”要請(オーダー)”を両陛下が出したの……?」

リィンが困った表情で答えを濁していると代わりにレクター少佐が答え、レクター少佐の説明を聞いてある事に気づいたトワはリィンに視線を向け

「はい。」

視線を向けられたリィンは静かな表情で頷いた。

「ま、そのお陰でエレボニア帝国軍(こちら側)に軽い混乱が起こった上、被害も受けたから、メンフィルによる”北方戦役”に対する介入を疑って、情報局(オレ達)を惑わせたんだぜ?」

「ほう?”被害”って事はノーザンブリアに侵攻したエレボニアの連中を殺ったのか?」

レクター少佐の話を聞いてある事を察したランドロスは興味ありげな様子でリィンに訊ね

「市民にまで危害を加えようとした極一部のエレボニア帝国の兵士達のみを峰打ちか重傷を負わせただけですから、命までは奪っていません。」

「そ、そうだったんだ……」

「つーか、リィン達に攻撃されたエレボニアの兵士達は完全に自業自得だろ。市民にまで危害を加えようとするなんて、”百日戦役”の再来じゃねぇか。”七日戦役”でのメンフィルもそうだが、メンフィル・クロスベル連合軍によるカルバード侵攻―――”三日戦役”で旧共和国に恨みを持っていたクロスベル帝国軍ですら市民達に危害を加えるような事はしなかったんだぜ?」

「うふふ、対して”百日戦役”ではエレボニア帝国軍は多くのリベール王国の罪無き市民達の命を奪ったものねぇ?」

リィンの説明を聞いたトワが安堵の表情をしている中、ランディは呆れた表情で溜息を吐き、レンは意味ありげな笑みを浮かべてミハイル少佐やレクター少佐を見つめた。



「……シュバルツァー教官が言っているように、市民達に危害を加えようとしたエレボニア帝国軍の兵士達は”極一部”だ。そしてその者達は”北方戦役”後軍法会議にかけられ、重い処罰を受けた。」

「ま、メンフィルに”七日戦役”を仕掛けられてエレボニアが衰退した原因の一つは”北の猟兵”だったから、そのバカな連中は八つ当たりでハリアスクの市民達に危害を加えようとしたとの事だったから、シュバルツァーがハリアスクに侵攻したエレボニア帝国軍の兵達を攻撃した理由が判明した後帝国政府に加えてユーゲント皇帝陛下直々からも感謝状や勲章をシュバルツァーに贈ったんだぜ?」

レンに視線を向けられたミハイル少佐は静かな表情で答え、レクター少佐は苦笑しながら答えた。

「うふふ、そう言う訳だからリィンお兄さんは自分に対する”要請(オーダー)”も納得の上で請けているのよ。―――――そう言う訳だから、今からレンもリィンお兄さんやセレーネと一緒に”要請(オーダー)”を開始するからトワお姉さんはⅨ組の生徒達の面倒をお願いね♪」

「ええっ!?セレーネちゃんがリィン君を手伝う事は察していましたけどレン教官まで、手伝われるのですか……!?」

レンの話を聞いたトワは驚いた様子でレンに訊ね

「セレーネの説明にもあったでしょう?リィンお兄さんが”要請(オーダー)”を実行する際はメンフィルからもサポート要員を付けるって。――――ミハイル少佐も、その件について特に文句はないでしょう?」

「………ああ。シュバルツァー教官に対するメンフィル両皇帝陛下専用の”要請(オーダー)”の件に関する事はエレボニア帝国政府も承認した事は情報局を通して私にも伝わっているし、幸いにも第Ⅱのクラスには全て”副担任”もいるのだから問題無い。ハーシェル教官は本日の演習で、マーシルン教官がいないと支障が出る事はあるのか?」

理由を説明したレンはミハイル少佐に視線を向け、視線を向けられたミハイル少佐は静かな表情で頷いた後トワに確認し

「い、いえ、特に問題はありませんけど………」

「ならばその要請(オーダー)、我等も手伝わせてもらおう。」

ミハイル少佐の確認に対してトワが答えたその時、ラウラ達が現れた。



「ラウラ……フィーにエリオット、それにステラやフォルデ先輩も。」

「待て、部外者は遠慮してもらおうか……!」

ラウラ達の登場にリィンが驚いている中ミハイル少佐はラウラ達に注意をしたが

「メンフィル両皇帝からの要請は一教官へのものじゃない筈。リィン個人への要請だったらわたしたちも無関係じゃない。」

「まあ、俺とステラの場合はメンフィル帝国所属だから、強制参加みたいなものだけどな。」

「フォルデ先輩……時と場合を考えて発言してください……」

「どうやら何らかの思惑で正規軍も動かしたくない様子……リィン達も動きにくいでしょうし僕達がサポートしますよ。」

フィーが反論し、フォルデの答えにステラが疲れた表情で指摘している中エリオットが協力の申し出の理由等を口にした。



「だ、だが――――」

「ああ、何を言っても無駄だぞ?メンフィル帝国所属のフォルデ殿やステラは当然として、我等もみな、エレボニア政府からのしがらみを受けぬ者ばかり……その意味で、TMPと情報局に行動を制限される謂れはないからな。」

「……ぐっ………」

「確かに、止められる権限はカケラも持っちゃいないなぁ。」

「はは……」

「だぁっはっはっはっ!さすがは旧Ⅶ組だけあって、1枚上手じゃねぇか?」

「ラウラちゃん、フィーちゃん、ステラちゃん、フォルデさん、エリオット君も……」

ラウラの正論に反論できないミハイル少佐は唸り声を上げ、レクター少佐が苦笑している中その様子を見守っていたランディは苦笑し、ランドロスは豪快に笑い、トワは明るい表情を浮かべた。

「みんな……その、いいのか?」

「あはは、なに言っているんだか。どうして僕達がこのタイミングでこの地方に来たと思ってるのさ?」

「え………」

自分の問いかけに対して苦笑しながら答えたエリオットの答えを聞いたリィンは呆けた声を出した。

「皆、1年前の我等にとっての最後の自由行動日を機会に、滅多にエレボニアに姿を現さなくなったそなたの事をずっと気にかけていたのだ。内戦を終結させた後更にはクロスベルの仲間達の元に駆けつけ、彼らと共にクロスベルの動乱を解決した事でようやくそなたも平穏な生活に戻る事ができたにも関わらず、元エレボニア帝国領を含めたメンフィル帝国の領土に加えてノーザンブリアでそなたが為さなければ誰かが傷つくような”要請”――――それを独りで成し遂げてきたかけがえのない”Ⅶ組”の仲間を。」

「………ぁ………」

「皆さん………」

ラウラの話にリィンは呆けた声を出し、セレーネは微笑んだ。

「”約束”もあったし一石二鳥。ちなみに第Ⅱの演習地と日程はとある筋から教えてもらった。それで来られそうなメンバーが集まったっていうカラクリ。」

「ふふ、アリサとかマキアスなんか物凄く悔しがってたよね。」

「クク、特にアリサはその件を大義名分にして、婚約者のリィンと会えるから、二重の意味で悔しがっているだと思うぜ?」

「ふふ、そうですね。」

「…………………」

「お兄様……」

フィーやエリオット、フォルデとステラの話を聞き、仲間達の心遣いを知ったリィンが感動している中その様子をセレーネは微笑みながら見守り

「………えへへ………」

「……ったく。正直、予想外っつーか……エレボニアの内戦の話は聞いてはいたが、まさか俺やロイド達のような深い”絆”を結んでいたとはな………そう言う意味でもロイドと似ているな。」

「うふふ、ついでに言えばロイドお兄さんと同じようにレディ達にモテモテな所も似ているわよね♪」

「クク、この調子ならば成長すればいずれヴァイスハイトと同じ―――いや、それ以上の”器”になるかもしれないなぁ?」

トワは嬉しそうな表情を浮かべ、ランディは苦笑し、レンはからかいの表情で答え、ランドロスは興味ありげな表情でリィンを見つめていた。

「……成程。あの方からの手回しか。」

「ったく、翼をもがれながら色々とやってくれるぜ。」

一方ラウラ達が分校の演習地の場所等を知っている理由を察したミハイル少佐は複雑そうな表情で呟き、レクター少佐は呆れた表情で呟いた。



「―――ありがとう。ラウラ、フィー、エリオット、ステラ、フォルデ先輩。”灰色の騎士”への要請……ヴァリマールを動かす可能性すらあり得るほどの案件だ。どうか5人の力を貸してくれ!」

「うんっ!」

「ああっ!」

「……ん!」

「はい!」

「おう!」

リィンの言葉に対してエリオット達はそれぞれ力強く頷いた。その後準備を整えたリィン達が外に出ると娘の声がリィンを呼び止めた。



~演習地~



「教官……!」

声に気づいたリィン達が足を止めるとユウナ達―――”特務科”の生徒達がリィン達に駆け寄った。

「ユウナ……クルトにアルティナもか。」

「い、いまトワ教官から聞いたんですけど本当ですか!?メンフィル皇帝直々からの要請で教官達は別行動になるって―――!」

「それは…………」

「アランドール少佐が来ていたのはこのためですか。」

「それで―――どうなんですか?」

ユウナの問いかけにリィンが答えを濁しているとアルティナが推測を口にし、クルトはリィンに問いかけた。

「本当だ―――特務活動は昨日で終了とする。本日はⅧ組・Ⅸ組と合同でカリキュラムに当たってくれ。」

「トワさん達には既にⅦ組がⅧ組・Ⅸ組と合同でカリキュラムをする事は既に伝えてありますわ。」

「……………」

「そ、そんな……!」

「了解しました。では、わたしだけでも――――」

リィンとセレーネの話を聞いてそれぞれ血相を変えたクルトは黙り込み、ユウナは信じられない表情をし、アルティナは冷静な様子でリィン達に協力を申し出ようとしたが

「―――例外はない。君も同じだ、アルティナ。」

「え。……ですがわたしは教官をサポートするため―――」

リィンから協力の申し出が不要の指示が与えられるという予想外の指示に呆けた後反論をした。



「……経緯はどうあれ、今の君は第Ⅱに所属する生徒だ。一生徒を、”俺の個人的な用事”に付き合わせるわけにはいかない。それに”君の処遇については俺達シュバルツァー家にある事は今も変わらない。”」

「……………………」

リィンの説明によって反論の余地を奪われたアルティナは黙り込み

「これも良い機会だと思う………ユウナやクルトと行動してくれ。」

「でも、わたしは……………………」

再び反論をしようとしたが、反論の言葉が頭に浮かばなく目を伏せて黙り込んだ。

「………一つだけ聞かせてください。」

「?……なんだ?」

「見れば、アルゼイド流と”槍”のヴァンダール流の皆伝者を協力者として見込んだ様子……”双剣”のヴァンダール流では――――……いや、僕の剣では不足ですか?」

「……………ああ、不足だな。」

「!」

自身の問いかけに対して少しの間考え込んだ後ハッキリと断りの答えを口にしたリィンの答えを聞いたクルトは目を見開いた。

「”生徒だから”とは別にして。いくら才に恵まれていようがその歳で中伝に至っていようが……半端な人間を”死地”に連れて行くわけにはいかない。」

「!!っ……失礼します―――!」

リィンの答えを聞いたクルトは唇を噛みしめた後その場から走り去り

「ちょ……クルト君!?ああもう……アルも一緒に来て!」

クルトの突然の行動に驚いたユウナはアルティナの手を握ってリィン達に背を向け

「……何よ、ちょっとは見直しかけたのに。」

リィンに対する指摘を口にした後アルティナの手を引っ張ってクルトの後を追って行った。



「ふう………」

「お兄様……」

「ふむ……さすがに厳しすぎるのではないか?」

「リィン、ツンデレすぎ。」

「うふふ、まあアリサお姉さんみたいな典型的なツンデレと比べたら可愛いものよ♪」

「確かにアリサ程まさに”ツンデレの見本”と言ってもおかしくない女は現実には滅多にいないよな?」

「ふふ、そうですね。ですがリィンさんのそう言う所は初めて見ました。」

「はは、まあリィンも不器用な所があるしね。けっこう苦労してるでしょ?」

クルト達が去った後溜息を吐いたリィンの様子をセレーネは心配そうな表情で見つめ、ラウラは複雑そうな表情でリィンに問いかけ、ジト目のフィーとからかいの表情を浮かべているレンとフォルデの指摘にステラと共に苦笑していたエリオットは気を取り直してリィンに訊ねた。

「ああ……苦労の連続だよ。今になって、セシリア教官やサラさんの凄さが身に染みるくらいだ。」

「それは……どうなのであろうな?」

「セシリア将軍はともかくサラは絶対、深くは考えてないと思う。」

「うん……でもリィンは少し真面目すぎるのかもね。」

リィンの言葉に冷や汗をかいたラウラは困った表情でエリオットやフィーに視線を向け、フィーは呆れた表情で答え、エリオットは困った表情で答えた。

「ああ、不真面目なくらいが時にいいこともあると思う。でも、これも性分だ。……あの子たちとどう接するか俺とセレーネなりに今後も考えていきたい。―――何とかこの危機を乗り越えることができたなら。」

「……そうだな。」

「”死地”か……たしかに連れていけないね。」

「ふふ、僕なんかよりは戦闘力は高いとは思うけど……やっぱり経験ってあるよねぇ。」

リィンの話にラウラとフィー、エリオットはそれぞれ頷き

「うふふ、確かに”命を奪い合う実戦の経験”は大事よね。―――そう言う意味では”旧Ⅶ組”のみんなも、”特務部隊”と一緒に行動してよかったのじゃないかしら♪」

「よりにもよって、アリサさん達に殺人の強要をした張本人であるレン教官がそれを言いますか……?」

「ま、実際に命は奪っていなくても、”実戦”の経験が大事である事は事実だな。」

「はい。”実戦”の雰囲気は”模擬戦”や”練習”とは全く違うものですから、例えどのような使い手であっても、”実戦”を経験していなければ本来の力を出せずに倒れてしまう事もあり得ますものね。」

レンの問いかけにその場にいる全員と共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたセレーネは疲れた表情で指摘し、苦笑しながら答えたフォルデの言葉にステラは静かな表情で頷いた。そしてリィン達は互いの顔を見回してそれぞれ頷いた。

「――――出発しよう。時間は有効に使いたい。とりあえず情報を集めたいがなにかアイデアはないか?」

「それならまずはアルトリザスに移動しよう。情報整理ができそうな場所にリィン達を案内する。」

「え、それって……」

「フフ、そなたの新たな”就職先”に関わる場所か。」

「―――なるほど、期待できそうだな?」

「ま、お楽しみに。馬は使えるんだっけ?」

「ああ、準備を済ませたら演習地を出て向かおう。」

その後準備を整えたリィン達は馬を駆って演習地から去っていった。



「ハハッ……せいぜいガンバレよー。」

「―――ハッ、もうトンボ帰りかよ?」

リィン達を見送ったレクター少佐も演習地から去ろうとしたその時アッシュがレクター少佐を呼び止めた。

「朝っぱらから使いっ走りとはご苦労なこった。」

「ま、これも宮仕えの辛いとおろってヤツでね。―――で、”そっちの方はどうよ?”」

「……ハン、まだ何とも言えねぇな。……言えねぇが………―――どうやら色々と”重なる”のは確かみてぇだ。」

レクター少佐の問いかけに対して鼻を鳴らして答えたアッシュは周囲を見回した後片手で左目を抑えて答えた。

「……なるほどね。いや~、紹介した甲斐があったぜ。ま、演習が終わるまでに手掛かりを掴めるのは祈ってるぜ?」

「……チッ、カカシ野郎が。」

自分の答えを聞いて満足げな表情を浮かべた後演習地から去って行くレクター少佐を見つめて舌打ちをしたアッシュはその場から去り

(ふふ……幾つもの”縁”が絡まり合っているみたいですね。)

二人の様子を距離を取って見守っていたミュゼは意味ありげな笑みを浮かべた後ティータに視線を向けた。

(サザ―ラントでの盤面もどうやら後半戦みたいです。少しばかり”指し手”として介入させて頂きましょうか―――)

そしてティータに視線を向けたミュゼは意味ありげな笑みを浮かべていた。



~同時刻・メンフィル帝国領クロイツェン州・”翡翠の公都”バリアハート・クロイツェン統括領主城館前~



「――――それではサフィナお姉様、後の事はよろしくお願いします。」

「ええ、武運を祈っていますよ。」

同じ頃腰まで届く程の夕焼け色の髪をなびかせている女性―――メンフィル帝国皇女の一人にして、レンの義理の姉でもあるプリネ・カリン・マーシルンはツーヤと銀髪の青年、銀髪の娘と共に金髪の女性―――プリネは腹違いのメンフィル皇女であり、セレーネとツーヤの義理の母にしてメンフィル帝国の”竜騎士軍団”の”元帥”とプリネやレンと同じ臨時のクロイツェン統括領主を兼ねているサフィナ・L・マーシルンに見送られて城館を後にした。

「それにしても演習初日早々に結社が第Ⅱ分校に襲撃するなんて、想像もしていませんでしたね……」

「そうね……それもエレボニアでは”捨石”や”二軍”扱いされている分校にわざわざ”執行者”や”鉄機隊”程の使い手が襲撃するなんて……」

「……それだけ”結社”が追い詰められている証拠かもしれんな。1年半前の”英雄王”達を含めたメンフィルの精鋭部隊や暗殺部隊によって、”盟主”や多くの”蛇の使徒”達を失ったからな。」

「くふっ♪それにしても”結社”って、バカだよね。リウイお兄ちゃん達のリィンに対する”要請(オーダー)”も知っているだろうに、わざわざリィンがいるとわかっていてリィンがいる場所に現れるなんて、自分から殺されに来ているようなものじゃん♪」

バリアハート市内を歩きながら呟いたツーヤの言葉に頷いたプリネは考え込み、銀髪の青年―――元結社”身喰らう蛇”の”執行者(レギオン)”にしてプリネの恋人でもあるプリネ皇女親衛隊副長――――”剣帝”レオンハルト=ベルガー――――通称”レーヴェ”は静かな表情で推測し、銀髪の娘―――”深凌の契魔”の一柱にして、メンフィル帝国の”客将”の一人でもある魔神エヴリーヌは凶悪な笑みを浮かべて呟いた。

「………案外、それが目的で第Ⅱ分校の演習地を”幻焔計画”の為の”実験”の場所に選んだのかもしれんな。」

「え……それって、どういう事なんですか?」

静かな表情で呟いたレーヴェの推測を聞いたツーヤは不思議そうな表情で訊ねた。

「………あくまで俺の勝手な推測だからあまり気にする必要はない。――――それよりも、急ぐぞ。セントアークからのあの場所への移動時間と、リィン達があの場所に辿り着く時間の予想を考えると下手をすれば俺達が到着した頃に”実験”が終わり、”神速”達が撤退しているかもしれん。」

「?その口ぶりだと、”結社”の残党がいる場所もわかっているの?」

レーヴェの話を聞いてある事に気づいたエヴリーヌは不思議そうな表情でレーヴェに訊ね

「……ああ。アルトリザス近郊で多くの人形兵器を忍ばせ、必要に応じて繰り出せる”拠点”………”多くの死者が眠っているだけのあの村”しか思い当たらない。」

「”多くの死者が眠っているだけのあの村”……―――!そう言えばアルトリザスの近郊には……」

「!まさか結社が”拠点”にしている場所は――――」

レーヴェの推測を聞いてある事を察したツーヤとプリネは信じられない表情をし

「ああ、二人の想像通りの場所だ。―――どうやら今回の”墓参り”は随分と”騒がしい墓参り”になりそうだな。」

レーヴェは静かな表情で頷いた後静かな怒りを纏い、目を細めて空を見上げた―――――




 
 

 
後書き
という訳でこの物語の要請(オーダー)はエレボニアに理不尽かつただ働きさせられる原作と違い、リィンにもちゃんとした対価がありますからリィンも納得して要請(オーダー)を請けています(そりゃそうだw)なお、各章での後半(旧Ⅶ組や特務部隊の仲間達が加入する時期)の通常戦闘BGMはVERITAの幻燐陣営の戦闘BGMである”我が旗の元に”、手配魔獣や大型の魔獣の時の戦闘BGMはVERITAの”怨嗟を孕みし幾千の”だと思ってください♪そして今回の話の最後でプリネ達が登場した事で既に察しているかもしれませんが……1章で結社の誰かが死亡し、原作よりも早期退場させられる事は確定しています(黒笑)それと今の内に予告しておきますと2章は戦女神と魔導巧殻、3章は幻燐、4章は戦女神のキャラ達がゲスト参戦し、そして終章は戦女神、魔導巧殻、幻燐、神採り、更に空主人公勢や零・碧主人公勢も登場し、終章後半のヘイムダルで起こる大混乱鎮圧の為に力を貸すか、リィン達のラストダンジョン突入時に加入してラスボス戦まで参戦するという超豪華な予定を考えています(当然ラスボス戦時はエウシュリー二大作品である戦女神、幻燐の主人公であるセリカとリウイ、どちらかの参戦は確定しています)なので原作と違い、旧Ⅶ組はラストダンジョンで待ち受けているボスたちの足止めとかしません(そもそもメンツを考えたらする必要すらないww)ちなみに私は今、ラストダンジョンでルトガー達4人組の戦闘を終えたあたりですからもう少しでようやく閃Ⅲクリアできます(遅っ) 
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