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コードギアス輪廻のナハト

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第一話 やり直し、死に戻り。

 
前書き
書いてみた。 

 
────────────────────。
────────────。
────────。
ポツッ────────…。
────ポツポツッ…。
────────────────────。
「────────…」

それは痛みだった。
言葉にならない激痛に顔を顰める。これは何の痛みだ?
体を動かそうとするが…体の反応が鈍い。
「…な、ん、だ……?」
じわじわとだが、背中から何らかの重みを感じた。さっきまでなんとも無かったのに…。
その重みは少しずつ増していく。そして痛みも重さと比例するように酷くなっていった。
「…………痛い、痛い……」
何が、どうなっているんだ?
確認しようと目を開けようにも暗闇の中なのか何も見えない。俺は、一体…何をしていたんだ?
全身の痛みに堪えながら何故こうなったのか記憶を辿る。確か、午前中は学校の授業を受けてて…午後の授業はつまらなかったから抜け出したんだ。で、適当なタクシーを捕まえて…それで……。その後の記憶は曖昧だった。
────ズキズキ…。
痛みは更に加速する。駄目だ、考え事なんてしてる場合じゃない!
今は、この訳の解らない状況から一刻も早く抜け出すんだ。確か、胸元のポケットに携帯を入れていた筈だ。それを使って外部と連絡を取って助けを呼ぶんだ。
救急車、警察。なんでもいい。助けさえ呼べれば!
なんとか右腕を動かし胸元のポケットから携帯を取りだす。
左腕で携帯の画面を操作しようと────?
「………?」
左腕が…動かない。いくら命令しようと左腕はうんともすんとも言わなかった。恐らく、この記憶の欠落の間…左腕を負傷したと考えられる。
「こんな時に……、」
左腕が使えなくても右腕の右手で操作くらいは出来る。だが、この激痛の中で片手で携帯を操作するほどの余裕はない。なんとか…なんとか暗闇の中、右手で携帯を操作する。だが、いくら操作しても携帯の画面は表示されない。もしかして…故障か?このタイミングで…?
いや。もしかしたら電源を切っているだけかも知らない。それなら電源を入れれば付く。暗闇の中、徐々に朦朧とする意識の中、携帯の電源を入れようとボタンを探す。
カチッ。カチッと電源のボタンらしきものを何度も押す。画面は真っ暗なまま…という事は故障しているのか…。
「────────────…」
声を出して助けを呼ぼうとして口から声は発せられなかった。ぁぁ…今度は……痛みが少しずつ引いていく。不思議だ、あんなにも痛みを発していた身体が少しずつ軽くなっていく。

もしかして、俺って死ぬのか?

朦朧とする意識の中、死という言葉が脳裏に浮かんだ。死とは何なのか?
死ぬってどんな感じなのだろうか?死んだら俺ってどうなるのだろうか?
そんな疑問がいくつも浮かんで消えていく。ぁぁ、何を考えてもすぐに頭から消えていく。もう、何も考えられない。いや、考えられない。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………「お前、死ぬのか?」……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
そう、今微かに呟いた。
俺ではない。別の人間の声。
「死ぬのか?
それとも生きるのか?」
意識が朦朧とし過ぎて声の主は何者なのか男なのか女なのかすら解らない。
「お前は、死ぬのか?
それとも生きたいのか?」
近付いてくる足音。
「生きたいか?」
声の主は近付いてくる。
「こんな所で死にたいか?」
声の主はやってくる。
「お前は、生きたいか?」

────────────────。
俺は……………………生きたい────死にたくない。
生きたい…死にたくない。
生きたい。生きたいかい生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたいかい生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたいかい生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きた生きたい。生きたいかい生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。い。生きたいかい生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたいかい生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたいかい生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生生きたい。生きたいかい生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。きたい。生きたいかい生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。

「────い────き…た、い」

こんな訳の解らない状況で死にたくない。もっと生きていたい。死にたくない!

死にたくない。死にたくない。死にたくない!

名も知らない初対面の人間に、俺は心の中で生の執着を叫んだ。その願いは、その願望は届くことのない声だ。だが────。

「分かった。その願い、私が叶えよう」

届くことのない、聴こえるはずのない心の声。
なんて惨めな願いなのだろうか…。でも、届いた。俺の最後の願望…俺の最後の願い。

あぁ、これで…もう……いいや。



「おめでとう、選ばれし者よ!」
────────────────パチパチパチっ────────────────。
喝采、拍手喝采。祝福の歓喜の声。
そこは異様な空間だった。
初めて見るものばかり…という訳でもなく、見慣れた物と見慣れない物を交互に飾った大広間。何かのパーティー会場で使わられそうな異質な空間で、俺の前で一人、奇妙な男が一人。
「おや、呆けた顔だね。まぁ、いきなりこんな所に呼び出されて謎の演出だ。当事者からすれば訳の分からない事ばかりで混乱するのも無理はない。だが、話は続けさせてもらうよ。おめでとう!王の素質を持った少年よ!」

第一印象は、そうだな。パッと見は礼儀正しいそうな紳士だ。だが、先程の発言で誰も目の前のオッサンを紳士だとは思わないだろう。さて、ここは見なかった事にして退場しよう。後に振り向き足を進めようとすると。

「……待て待て、そんな変人を見るような目で私を見ないでくれ。私だって、こんな手の込んだ事をするとつもりはなかったのだよ。だが、これは数百年の内、一度あるか無いかのイベントなのだ!
しょ、少年!待ちたまえ!いや、待ってください!」

しつこく引き止めてくるので、取り敢えず話を聞いてやることにした。

「済まない。久々の客人で舞い上がってしまった。これからはちゃんとする。だから、私の話を聞いてくれないか?大丈夫、宗教の勧誘とかそんなものではない。これは神聖な儀式だと思ってくれればいい。大丈夫、安心してくれ、痛みも無ければ快感もない。ちょっと…目眩がする程度だ。すぐに終わるし、終わればここから出すことを約束しよう!
な、なんだね。その痛いけな視線は!私は至って正常だとも!」

取り敢えず、少し話を聞いて分かったこと…どうやらコイツは頭がイカれているらしい。







ゴッホん。それでは少し話をしよう。

男はそう言って少し真面目な表情を作る。
「君は、自分が選ばれたという自覚はあるか?
無くて当然なのだが、これも決まりでね。一応、一通りの質問をして君は普通に応えてくれればいい。まず、君はC2という魔女を知っているか?」
『知らない。誰だ、ソイツは?』と答えると男は。
「……知らない。ふむ、そうか。いや、それは意外だ。あの魔女が、自分の正体を明かさず君をここに招くとは…。単なる気まぐれか、それとも何らかの……。
いや、失敬。本人を前にしてする話ではなかったな。ともかく、君はここにくるまでの以前の記憶がないというのは本当のようだ。」
『記憶喪失ってヤツかな、なんか自分の名前は覚えてるのに……それ以外は何にも覚えてない』
「これはとても珍しいケースだ。C2の存在を知らず、ここにきた経緯さえも把握していない。さて、私もどう対応すればいいのか困ってしまうな。決められた段取りなら君の適性を調べてギアスを探けるのだが……果たして、本当にそれでいいのかと疑問を抱いてしまう」

「だから、私は君に問おう。
この世界の王の資格を持つ少年よ、『力』が欲しいか?
力を望み、力を欲するなら私は君に『力』を授けよう。王の力、この世界の絶対(ルール)を覆す、究極の呪い(力)を。

この力を手にすれば君はもう、普通の人間には戻れない。
だが、代わりに君はこの世界の王────いや、神に等しい存在となるだろう。
さぁ、選びたまえ。君は、この世界をどうしたい」





選べ、と言われても返答に困る。
その難易度はとてつもなく高く、例えるならドラク〇のとあるボスキャラ竜王の「世界の半分をくれてやろう、その代わりに私の仲間になれ」みたいな感じだ。
あの2つの選択肢がゲームによるものたったなら予めセーブポイントでセーブしておいて二つの選択肢を体験するのも手だが……これはゲームではない。その場の選択は一つしか選べないのだ。
あの選択肢から察するに、力が欲しいと答えれば何らかの力を授けてくれるらしいが……他人から、ましてやら知らないオッサンから能力を貰っても嬉しくない。それに、このオッサンは世界を常識を覆す究極の呪い(力)と言ったが、具体的な能力に付いては何も言っていない。聞けば答えてくれそうだが、俺は敢えて聞かない。
何故、聞かないとなと聴かれれば…そうだな。強いて言うなら面白そうだからかな。
その場の選択肢で、こうも刺激的な質問をされたことはない。なんか普通に質問して普通に返答を貰うのはつまらないと判断し、俺は取り敢えず悩む。
素直に、率直に、力をくれ…と言うのも悪くない。だが、そんなあっさりと力を得てもいいのか?
男は言っていた。世界を常識を覆す、究極の力だと。
そんなものを一つ返事で貰っていいものかと首を傾げてしまう。そんな簡単に世界の常識を覆されたら、この世界を創った神様も呆れてしまうだろうな。
だから、俺は決めきれない。決めきれずにいた。
「少年よ、何を悩んでいる?」
男は優しく微笑みかけてくる。何を悩んでいる、そうだな。お前の提示した選択肢に悩んでいる。
「悩む事は良いことだ。じっくり悩むといい。この空間は世界と隔離された異次元と呼ばれる所だ。時間の概念はない。だが、生命の概念は存在する。時間の事を気にする必要は無いが、この異次元の常識に囚われてはいけない。囚われたら最後…君はここから抜け出せなくなる。」
『おい、なんかサラッと怖いことを言うな』
「済まない。別に、脅しで言ったつもりはないんだ。だが、そうなる可能性もあるという事だ」
『曖昧なんだよ。いきなりこんな所に俺を呼び出して、その……なんだっけ?
ギアスとかいうの…?』
「おぉ、そうだ。そうだった。君はギアスの事についてどこまで知っているのだね?」
『知らないよ。ギアスってなんなんだ?』
「先程から疑問形ばかりだね」
『んなもん知るか、記憶喪失の俺にお前は何を求めてんだよ』
「それもそうだね。はっはは、」
男は笑う。そんなに面白かったのか?
「それにしても君は自分が記憶喪失だというのに、とても冷静だね」
『そうか?』
「そうだとも。君は自身の記憶の欠落に疑問を抱かないのかな?
私なら発狂しかねない状況だよ」
記憶喪失。そう、俺は記憶を喪っている…筈だ。その筈なんだが……何故か、とても冷静で、自分でも驚くほど自然体だった。いや、記憶を喪う前の自分を知らないから詳しくは解らないが、今の俺はとても冷静だと思う。
『なんでだろうな、なんか…落ち着くんだ』
「ほう?」
『頭の中に余計な記憶────情報が無くなってるせいかな。妙に清々しい気分なんだ』
何らかの呪縛から開放された…って事なのだろうか。思い詰めることも悩むことも何もない。頭の中に余計な異物が入っていないと感じられる程、クリアな思考回路だった。
「それもまた一興というヤツなのかな、」
『どうだろうな。まぁ、今の俺は記憶喪失に疑問を抱いてはいるが、嫌悪感は抱いていないってのは確かだな』
「ふふ。その精神力には感服するよ」
『うっせぇー。てか、俺の記憶の事はどうでもいい。本題に戻ろうぜ』
「そうだな。だが、その必要は無くなったよ」
男は右手を差し出し、いつの間にか────俺の額に触れていた。
「これは不本意だが、本意でもある。君は可能性を持った少年だ。王の素質を持ち、常人とは掛け離れた価値観を持っている。素質としては充分過ぎると言っていい。まぁ、少し物足りないとは感じたがね」
男の放つ言葉と同時に、男の右手から何かを感じる。そして、それは俺の身体の中に入り込んできた。
『────────────────────!?』
痛みはない。不快感も感じていない。だが、これは……?






「さぁ、少年よ。君は今から────王となった……………?」

アレ?という感じで男はコチラを見つめる。そして何とも言えない表情で。
「これは、どういう事だ?」
理解不能、有り得ないといった素振りだった。慌てる程ではないが、動揺する位は驚いている様子で男は。
「君は…まさか、愚者の王……なのか?」
『愚者の王?』
愚か者の王様?意味の分からない発言だった。いきなりなんだ?
『なぁ。何が、どうなってるんだ?』
あの男は、俺に何かをした。恐らく『力』を授けた…のだろう。だが、身体的な変化はない。
男は顔を顰めている。少しにやけているようにも見えるし悩んでいるようにも見える。数秒ほどブツブツ…と小言を零すと男は。
「失礼、少し取り乱した」
『……?』
「君は…いや、貴公は生まれながらの王のようだ。それも「異質」で「傲慢な」「愚者」ときた。成程、あの魔女が、私の元へ連れてきたのはそういう事か!」
男は怒り────微笑み、落胆し────恐怖した。
相反する感情を暴走させ。
俺の目を見て、男は叫んだ。

「王よ、貴公は愚かな王だ!
傲慢で怠惰で怠慢な王だ!
だが、それでも私は君に命じよう!

我が名はA2!最果ての魔法使い。私の願いは、私自身の「死」!そして、貴公の死だ!さぁ、抗え!狂え!

貴様は、「私」だ!」
















………………。
……………。
…………。
………。
……。

「────ハト」
…。
……。
………。
…………。
……………。

「────ナハト、」

「ナハト・クレスト・レブン────!」

俺の名前を大声で呼んでいる先生の声。それと同時に飛んでくる教科書……。アレ、なんで教科書が飛んでくるって解ったのだろうか?
目を閉じたまま、俺は首を少し横に傾け、飛んでくる教科書を躱す。すると「「「おおっ!」」」と盛大に拍手するクラスメイト達。
瞼を少しずつ開く。その先には、二射目の教科者の発射準備を整えている先生と俺の寝顔を見てクスクスと笑っていた幼馴染の少女の横顔────────痛い!?。
少し幼馴染みの少女に目を向けていたせいで少し反応が遅れてしまった。突如、視界いっぱいに広がる教科書の文字……そして、その反動で俺は椅子から滑り落ちた。
「先生……痛いです、」
教科書の角が鼻に直撃。眠気は完全に無くなり、代わりにに何とも言えない痛みが押し寄せてくる。
「ふん。授業中に居眠りするお前が悪い、」
そう言って先生は俺の元でやって来て教科書を回収する。そして「はぁ、」と少し溜息を付きつつも手を差し伸べてきた。俺はその手を取り立ち上がると先生は。
「今度、俺の授業で居眠りしたらお前の宿題だけ倍にしてやるからな覚悟しとけよ、」
っと恐怖の発言を残して教卓に戻って行く。
クラスの奴らは「どんまい」とか「お疲れさん」とか小さな声で言ってくる。まぁ、授業中に居眠りしていた俺が悪いから仕方ないとは思うけど……。
俺はチラッとクラスの中心の席で堂々と居眠りをしている生徒に目をやる。ソイツは誰が何と言おうと寝ている……ように見える眠り方で、もしかしたら起きているのではないかと錯覚させる。だが、俺はクラスメイト達は騙されない。コイツは、この学園の副生徒会長────────ルルーシュ・ランペルージは授業中に堂々と眠っているのだ。
だが、先生はそれを指摘しない。まさかとは思うが……気付いていないのか?
確かに、一目見ただけでは寝ている事に気付かないだろうが、よく見れば眠っているという事に気付くはずだ。
なんでだ?何故、先生は指摘しない?
まさかルルーシュの奴が副生徒会だから贔屓してんのか?
いや。でも、それは……ないな。よく考えればそうだ。ルルーシュは生徒会の人間でこの学園の生徒の中で二番目に偉い人間だが、真っ当な人間かと聞かれると学校の人間は「それはない」と応えるだろう。
確かに、ルルーシュ・ランペルージは優秀だ。学力の方は中の下だが、頭の回転は早いし人力もある(特にクラスの女の子達に)。
だが、意外な事にルルーシュという人間は不真面目なのだ。
授業はよくサボるし抜け出すしと色々と問題を起こしている。それでもこうやって人が寄り付くのは人柄なのか……それとも魔法でも使っているのか?
そんなどうでもいい事を考えているといつの間にか授業は終わっていた。
「今日の授業はここまでだ。ナハト、今度寝てたら承知しないからな」
なんてふざけ半分で軽口を叩く先生。
そして先生は教室から去っていく。
「ナハト、大丈夫?」
前の席、幼馴染のロウナ・カルストンは微笑みながら言ってきた。
「大丈夫なもんか、鼻のこの辺がズキズキする」
一番痛い所を指でさすとロウナは「少し赤くなってるね」と呟いた。
「暴力反対、慰謝料を要求する」
「まぁまぁ。授業中、寝てた君にも非はあるよ」
そう言われると……何とも言えない。だが、別に好きで寝ていた訳ではないっと言おうとした直後、ロウナはノートを差し出してきた。
「はい、これ」
それは先程、寝ていた授業のノートだ。
「いつから寝てたか知らないけど歴史の先生は授業のスピードが早いからね。もし書き写せてない所があったら使ってよ」
「おお、それは助かる」
受け取ろうと手を伸ばすと────。
「で、少し相談なんだけど」
ニコッと微笑み、ロウナは。
「今日の放課後、暇だよね?」
「暇って訳では無いんだが……?」
「その返答は暇と受け取った。よし、このノートを移し終えたらちょっと買い物に付き合ってよ」
「買い物?
まぁ、それ位ならいくらでも付き合うけど何を買いに行くんだ?」
「それは行って見てからのお楽しみだよ」
そう言ってロウナは改めてノートを差し出す。俺は「へいへい」と言ってノートを受け取り中身を確認する。さて、書き写すのにどれだけ時間が掛かるのやら────────。
「────────?」
恐らく、俺が寝ていた間に行われていた授業の内容を取りまとめたノートの内容を目にして俺は違和感を感じた。
この内容……以前、何処かで見たような。
「なぁ、ここの所がさっきの授業の所なのか?」
「そうだよ。どうかした?」
「いや。なんかさ……このノートの内容を以前、何処かで見たような気がするんだ」
そう。そこに記されていたのはイレブン────日本────名誉ブリタニア人……このノートに記された文字と内容を俺は知っている?
「でも、そこの所は今日の授業の内容を記したものだよ。気の所為じゃないかな、」
ロウナな真面目な奴だからノートの端っこに今日の日付と時間を書いている。という事は、このノートのこのページは今日の14時00分から使われたものだと分かる。俺の……気の所為か?
「ほら、早くしないと時間無くなっちゃうよ」
急かすようにロウナは言う。
「ぁぁ、そうだな……」
自身のノートを開き書き途中だった俺の文字を見る。そうか……ここまでは書いてたのか。
そして、この先は眠ってしまって書いてないと。
なら俺の勘違いか。それなら早くノートを写してロウナの買い物に付きやってやるとしよう。別に、放課後は暇だったから付き合うとかそういうのではないからな。ノートを写させてもらうお礼なんだからな。
……。
……。
二十分後ようやくノートの書き写しを終えられた。
あの歴史の先生は授業のスピードが早いから書き写すのに時間が掛かってしまった。
「さて、それじゃ行こうか」
楽しげな表情でロウナは歩き出す。さて、何処に行くのやら。
「目的地は?
てか、まず何を買うんだよ」
「目的地は最近出来たばかりのショッピングモール、買い物の内容は秘密♪」
ふふふっと笑みを浮かべて子供のように歩くナハト。
「楽しそうだな、」
「うん。すっごい楽しいよ。だってナハトと久しぶりのデートだもん」
「デートって…お前なぁ、」
「年頃の男女が一緒にお買物だよ?これをデートと言わずに何というのさ」
「買い物だろ。それ以上でもそれ以下でもない」
そうキッパリと言って少し歩くスピードを上げる。
ロウナは「ムゥっ」と頬を膨らませ俺の歩幅と合わせて歩く。
「で、目的地はとうやって向かうんだ?
バスか?それとも電車か?」
「そうだね…。
ここからならバスかな、近いし」
「なら、バス停まで行くか」
胸元のポケットから携帯を取り出しバスの時刻表を確認する。あと五分で到着か…このまま歩いて向かえば丁度いいタイミングだろう。そう判断し、足を踏み出すと────────────。

────…────────…────。

頭の中で何か蠢いた。
「────────ッ」
なんだ、これ…?
頭の中で蠢く何か、それは頭の中で螺旋を描く様に駆け巡る。
なんだ。なんなんだ、これは!
頭痛────この痛み、この感覚を俺は知っている?
そして何故だろう。この痛みに慣れ始めた頃、俺は悟った。
このまま、バスで移動すると俺達は『死』ぬと────。
「ロウナ、やっぱり電車で行こう」
俺はロウナの手を掴み、駅へと向かう。
「え、でも、バス停は目の前だよ?それにもうバスが…」
「いいんだ。今日は電車で移動したい気分なんだ」
なんて適当な事を言って俺とロウナはすぐ様ここから離れる。嫌な予感がする。少しでもバス停から離れないと…何か────────。

そして、その予感は的中した。

それは聞き慣れない音だった。とても大きな爆発音で、何かのパレードの余興だと思わせるような。
あのまま彼処に居たら今頃、俺達はどうなっていたのか…?
考えるだけで背筋が凍る。
でも、不思議だ。聞き慣れない筈の爆発音、人々の叫び声。それらの非日常を体験しているのに俺は────不思議と冷静だった。
「ねぇ…さっきの、」
ロウナはバス停の方に目をやる。
その表情は状況を理解し切れていない様子だった。
「あぁ。なんか事故でもあったのかもな、」
「……え?」
「まぁ、あれ位の爆発なら被害は少ないだろ。
警察、救急車もすぐに駆け付けるだろうし心配するなって」
安心させるように笑顔を作って言う。だが、ロウナの表情は変わらず暗い。
何故、そんなにも悲しそうな…いや、これは怯えているのか。まぁ、あのままバス停まで行ってたら俺達も巻き込まれてたかも知らない。そんな想像すれば誰だって恐怖するか。冷静に状況を見極め、結論を導き出すと俺はロウナの手を優しく握る。
「大丈夫、何も心配しなくてもいい」
それは本心の言葉だ。
なのに、なんでだろう。この胸の騒めきと頭の中を駆け巡る何か…それら二つの衝動は俺の心を震わせる。俺は、やるべき事をしなくてはならない。
何を、どうする?何を、とうすればいい?俺は、何をすべきなんだ?
考えても悩んでも答えは出ない。でも、今すべき事は明確だ。
ロウナと一緒に買物をする。日常の中の当たり前を楽しむ、それだけだ。


揺られる車内。
この時間帯だと人も少なくて乗り心地はとてもいい。
座りながら外の景色を堪能し、たわいない会話で時間を潰す。極々、普通の日常のひと時だ。当たり前の日常、今ある時間を俺は楽しんでいる。
────────ビキッ。
でも、不思議と違和感を感じる。
────ビキッ。
この日常は当たり前で、今日という時間も二度と訪れる事はない。
───────────ビキッ。
それなのに────何故、俺は────────────。
「なぁ。今日って、何日だ?」
「どうしたの急に?」
「いや、その…今日って何曜日かなぁって思ってさ」
何月何日何曜日。そう、今日という日は二度と訪れる事はないこの日、この時間は俺にとって最初で最後の時間の筈だ。なのに、俺は……。
「えっと…今日は、確か4月の26日…木曜日だったと思うよ」
その返答も、その返答の仕方も、そしてガラス張りの建物から反射してきた太陽の光で目を瞑る君の横顔も俺は知っていた。
「そうだよな。今日は4月26日、木曜日だよな」
とてつもない違和感を感じる。
この違和感は自分だけのものなのか。それともこの世界の人類、共通の問題なのか?
恐らく、前者。この違和感は俺だけのもの、俺だけが感じている疑問だ。世界は俺一人の些細な疑問と違和感なんて無視して回っている。そう、これは俺個人の些細な問題なのだろう。俺だけが、その違和感に疑問を抱き、謎の頭痛に悩まされる。そして、その頭痛の最中…誰かの記憶らしきものが俺の頭の中を埋め尽くす。
なんだ?なんなんだ?どういう事なんだ?
誰だ?お前は?俺はお前達なんて知らない。勝手に人の頭の中に入ってくるな。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。
「────やめろ、」
小さく、小さく…自身の心の声を呟いた。そうでもしなければ自分の心がおかしくなりそうだった。頭の中と心の中がぐちゃぐちゃになって、何も考えられない。
「ナハト、どうしたの?
難しい顔をしてるけど…」
難しい顔、ロウナは俺の見て言った。どんな顔だよ、と思いつつガラスに映った自分の顔を見てみる。
「……」
なんて不細工な顔なのだろうか。まるでこの世の終わりを見てきた…そこまでは言わないけど酷い面だった。
「いや、なんでもないよ」
誤魔化すように笑顔を作る。
ロウナに余計な心配を掛けたくない。
なんとか平常心を保とうと心の中で自問自答を繰り返す。
俺は、お前だ。いや、お前は俺だ、俺の名前はナハト・クレスト・レブン。落ちぶれた元名門貴族の跡取りで、現在は日本…いや、元日本『エリア11』のそこそこ有名な学園の生徒で、大した才能も能力も持っていない。趣味は…これといって何もない訳じゃないけど無趣味に近い。
そう、俺は普通の人間だ。家の名前が無ければ何の役にも立てないゴミ以下の存在なんだ。
そう、俺は────白の騎士団────────────?
なんだ。今、俺は何を考えていた。白の…?
「あ。電車の遅延だって、」
ロウナは車内の天井に設置されているパネルを指さす。
「またか。最近、異様に多いな」
「ホントね。あの黒の騎士団って変な名前のテロリストが現れてから多くなったけど関係しているのかな?」
「いや、テロリストと電車の遅延は関係ないと思うぞ」

そう。テロリストなんて関係している訳ないじゃないか。だから、これから起こる事なんて幻想だ。



 
 

 
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