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不老不死

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第三章

「始皇帝の様に」
「そうだったのか」
「丹薬は薬を入れるものですが」
「中にはだな」
「毒を入れることもです」 
 それもというのだ。
「入っているものもあります」
「誤ってだな」
「そうです、そして万歳翁もまたです」
 始皇帝と同じくというのだ。
「天が定められた寿命より前に」
「延ばしたり不老不死になるどころかか」
「お亡くなりになられたのです」
「そうであったか」
「そう思うと無念でなりません」
 自分が李世民より早く世を去ったことがというのだ。
「まことに」
「よい」
 李世民は微笑み己の前で嘆き悲しむ魏徴に告げた。
「そなたは天命だった、そして朕がその誤った丹薬を飲んで死んだこともな」
「そのこともですか」
「天命だ、結局はそうなる」
 こう言うのだった。
「だからよい、しかし道士だったお主はわかっていたか」
「はい、丹薬のことも」
 主の言葉に気を取り直した魏徴はかつての様に毅然となった姿勢に戻ってそのうえで主に答えた。
「それも」
「そのことでも諫言してくれていたか」
「そうなりますな」
「政だけでなく、まことにお主は朕の鏡である」
「ではこちらでも」
「鏡になってくれるか」
「喜んで、ここには多くの者がいますので」
 かつて彼に仕えた者達そして知っている者達がというのだ。
「寂しくはありませぬ」
「そうか、死んだ者達がだな」
「揃っていますので」
「わかった、しかし今度はな」
 今いる死者の世界ではとだ、李世民は考える顔になり魏徴に述べた。
「皇帝になるまで、なってからの様にな」
「時として血生臭いこともありましたが」
「ない様にしたい、朕が殺し合ってきた者達ともよくしていきたいが」
「ではそのことに対して」
「言ってくれるか」
「是非共」
 魏徴は太宗に強く約束した、そのうえで主を冥界のさらに奥へと案内していった。今も共にいる主を。
 唐の太宗李世民は名君として知られているがその死は丹薬によるものだった、丹薬で死んだ者といえば始皇帝が有名であるが彼もまたその一人だった。もっと言えば唐代は丹薬が元で死んだ皇帝が何人かいる。そう考えると丹薬は長寿そして不老不死をもたらすものではなく毒であった。不老不死どころか死をもたらすとはまた皮肉なことである。


不老不死   完


                2017・6・22 
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