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猫の手を借りると

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第一章

                猫の手を借りると
 この時前川田大輔も妻の美幸も極めて多忙だった、年末で息子達共々大掃除に買いものにおせち料理の用意と何かとだ。
 やることが多くだ、美幸は昼に忙しい中で昼食で買って来たコンビニ弁当を食べつつ夫にこう言った。
「毎年年末はね」
「忙しいな」
 大輔もコンビニ弁当を食べつつ妻に応える。
「いつもながらな」
「あちこちお掃除してね」
「買いものしてな」
「お料理もして」
「忙しいな、本当に」
「もう子供達もね」
 彼等もというのだ、見れば子供達はもう自分達の昼食を食べてそうしてだった。疲れて少し寝ていた。
「へとへとよね」
「そうだな」
「もうね」
 それこそと言う美幸だった、その疲れている顔で。
「猫の手も借りたいわ」
「猫のか」
「そう、ミミのね」
 黒地に白や茶色が入っている、所謂さび猫が二人の視線の向こうにいた。耳がやけに大きくミミズクに似た顔をしている。腹は白い。
「手も借りたいわ」
「そうだな」
 大輔も妻のその言葉に頷いて応えた。
「それはな」
「そうよね」
「こんなに忙しいとな」
「少しでも人手が欲しいから」 
 だからだというのだ。
「ミミの手でもね」
「正確に言うと前足になるな」
「まあそれはね」
 ミミは家の空いている場所で寝転がってぐっすりと寝ている、クッションの上でまるで何もない様に快適な感じだ。
 そのミミを見てだ、美幸はまた夫に言った。
「そうなるけれど」
「しかし本当にな」
「忙しいわよね」
「人手が少しでも欲しい」
「子供達も頑張ってくれてるけれど」
 幸い二人の子供達は勤勉だ、それで二人共働いているが子供の体力と体格にはどうしても限界がある。90
「それでもね」
「忙し過ぎてな」
「年末はね」
 美幸はその大きな目を悩ませていた、見れば目だけでなく口も大きい。色は白く黒髪を後ろで束ねている。スタイルはすらりとしている。大輔は黒髪を丁寧に刈っていて面長で引き締まった顔をしていて鼻は高く目は細い、背は美幸より二十センチは高い。彼もまた動きやすいラフな服装をしている。
「どのお家もそうでしょうけれど」
「忙しくて死にそうだ」
「本当にね、どうしたものかしら」
「結論から言うとな」
「どうしようもないわね」
「そうなる」
 これが大輔の返事だった。
「結局はな」
「そうよね」
「そう思うと本当にな」
「猫の手でも欲しいわね」
「借りるか?」
 結構本気でだ、大輔は美幸に提案した。
「ミミの手な」
「そうする?」
「ああ、ここまで忙しいとな」
「ミミが助けてくれるのなら」
「是非な」
「猫は言葉も通じないしいつも寝てるけれど」
「しかも気まぐれだからな」
 それが猫という生きものだ、いつも自分のペースで生きていて人間に合わせることなぞ絶対にしない、実際に今ミミは家族が忙しい中朝から自分のお気に入りのクッションの上で気持ちよく寝ている。 
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