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火吹消し婆

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第二章

「ここ何度か来たことあるけれど」
「知ってる場所よね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「慣れないと何処にいるのかわからなくなるね」
 こう絵梨花に言うのだった。
「何処もお寺で」
「似た様な場所ばかりで」
「お寺の建物にお墓にって」
 そうしたものばかり並んでいてというのだ。
「目印にするものが少ないから」
「それはね、もう慣れよね」
「慣れると何処に何があるのかわかるんだね」
「道とかもね」
 絵梨花はブレザー姿、自分達が通っている高校の男子の制服姿の恭一に話した。二人共鞄も通っている高校のものだ。
「わかるわよ」
「ずっと住んでいるとわかるんだね」
「そうなの、それで今からね」
 絵梨花は場所のことから話題を移した。外はまだ夕方にもなっていない。
「ちょっと子供の頃から遊び場にしているお寺にお邪魔して」
「そうしてだね」
「お線香を立てて」
「お線香に火を点けてみるんだ」
「お線香とライター持ってるから」
 絵梨花は制服のスカートのポケットからその二つを出した。
「さっき買ったから」
「何で買うかって思ったら」
「そう、この時の為によ」
 あえて買ったというのだ。
「そうしたのよ」
「そうだったんだね」
「ええ、じゃあね」
「そのお寺に行って」
「お線香に火を点けてみるから」
 恭一にこう話してだった、絵梨花は今度は彼をその寺に案内した。恭一にとってはこの辺りにある寺のうちの一つで周りの他の寺と比べて何の変わりもない寺だった。
 その寺に入ってだ、絵梨花はまずは丁度寺の境内で昔ながらの竹箒で掃除をしていた住職に笑顔で声をかけ彼と二人で話をしてだった。 
 彼との話の後で恭一のところに戻って笑顔で話した。
「住職さんは確かめていいって言ってくれたから」
「あっさり決まったね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「一緒にいていいかって」
「実は心当たりがあるんだ」
 その住職さんも恭一に言ってきた、大柄な初老の男性で髪の毛は僧侶らしく剃っていて着ている服は茶色の作務衣である。
 その作務衣姿の住職が二人に言ってきたのだ。
「絵梨花ちゃんの話にはね」
「っていいますと」
「この辺りに昔からある話でね」
「そうなんですか」
「まずは本堂に入ってくれるかい?」
 寺の中のそこにというのだ。
「そこでお線香を立ててみよう」
「そうして確かめるんですね」
「絵梨花ちゃんともそう話したから」
「今からですね」
「そうしてみよう」
 こう話してだ、そしてだった。
 二人は住職に寺の本堂にまで入れてもらった、住職はその中で絵梨花から線香とライターを受け取るとだった。
 それを付けてそうしてからだった、二人に言った。
「では本堂の出入り口の陰に隠れて見ていよう」
「見るんですか」
「そう見ていよう」
 住職は恭一に穏やかな声で話した、恭一の横には絵梨花がちゃんといる。
「これからね」
「わかりました、それじゃあ」
「今からね」
 就職の言葉に従ってだった、恭一と絵梨花はその住職と共に本堂の出入り口の陰のところに隠れて線香の火を見守った、火は暫く点いていたが。 
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