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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第253話 運命

 
前書き
~一言~

比較的早くに更新出来て本当に良かった!! ん……ですが………、内容が重い故にか 元々の想像力や創作力の欠如か……(後者でしょう!! ぜーーったい!! 苦笑)。 オリ分を沢山入れようとして、なーんかやっぱり、当然ながらのご都合主義になってそうな…… と思っちゃってますぅ…… 涙
そりゃー、みーんな元気でEND! が理想的と言うか願望なんですが~~…… やっぱり難しいですよね。綺麗にまとめるのって………。

うぅぅ、で、でも ガンバリマス! だーってここは絶対通る道ですから。 ユウキはぜーーったい生存ですっ! って、数年前に書いた思いは まだまだ健在ですから!! 苦笑


えと、とりあえず ここまでにして 最後にいつも通りの御挨拶を! 
この二次小説を見てくださって本当にありがとうございますっ! これからもガンバリマス!


                                       じーくw 

 


 ここは横浜港北総合病院。


 この場所に2人がいる。ユウキやランの2人が。

 キリトも直ぐに判った様に リュウキ自身もこの場所にたどり着くのは難しい事ではなかった。
 その鍵は メデュキボイドであった。そして ユウキやランのVR世界での常識離れした実力にもあった。

 キリトやアスナ、レイナ、リュウキ 世に言うSAO生還者(サバイバー)と呼ばれるプレイヤー達。否 VR世界の剣士とも言える者達。

 SAO世界に囚われていたあの2年間があったからこそ、ALOの世界ででも、果てはGGOの世界ででも一線を超える力を持っていたんだ。

 ユウキやランの力。
 
 あの2人の力も一線を遥かに超えていた。皆と遜色ないレベル……と言うより、それをも超える勢いの実力を兼ね備えている。VRの世界ででの慣れと言うのは、通常のMMOとは訳が違う。如何にセンスがあり、知識があったとしても 己の脳で身体(アバター)を動かす以上 これ程まで経験がものを言うジャンルは他にない。
 だが、それでも――2人は、いや スリーピングナイツの全員は超えてきている。


 VR世界の申し子。

 
 キリトがユウキに対して抱いたイメージ、それは間違えていなかった。
 昼夜問わず 仮想世界で過ごしてきた時間が単純に長い。それを可能にするのはナーヴギア無き今は1つしかなかった。
 それこそが、メデュキボイドと呼ばれるもの。


 そして これはリュウキとレイナ、そしてアスナがユウキとランの2人と再会する数十分前の事。










~横浜港北総合病院~



 3人は 綺麗に磨かれたガラスの二重自動ドアをくぐり、たっぷりと採光されたエントランスに踏み込んだ。そこに広がっているのは 何処か懐かしさも漂っていた。そう、この場所は恐らくは誰しもが必ず一度は訪れているだろう。
 消毒液が微かに漂っているこの匂い……病院と言う場所。
 先頭にいるリュウキは慣れた様子で 周囲を確認しつつ、面会受付カウンターの方へと足を運んでいた。

「……リュウキ君。ここに来た事あるの?」
 
 この病院は非常に大きい。エントランスだけでも相当な広さだ。表示があるとは言え淀みない動きで進むリュウキを見てレイナはそう思った様だ。

「ああ。仕事関係で少しだけ……な。だから、判るよ。……2人がいる場所も間違いない」
「ほんとっ! ユウキやランが…… ここに? 絶対ここに?」

 アスナは気持ちを抑えきれない、と言った様子を見せながらレイナと共にリュウキに駆け寄った。

「……アスナ?」

 リュウキは小さく首を振って人差し指を口許に付けた。
 アスナの声が少々大きい事に注意を促したのだ。ここは病院。騒いだり大きな声出したりは当然ながらご法度である。

「はぅっ……!」
「もー お姉ちゃん? 落ち着いてよー。それにここ病院だから静かにー、だよ?」
「うぅ…… ゴメンね」

 レイナに叱られてしゅんっ としてしまうアスナも凄く珍しい。 そしてやっぱりレイナの姉なんだ、と言う事も改めて思う。 可愛いと言う言葉はレイナの方によくあてはまっていたのだ。アスナはしっかりしてて、いつも世話をやいてくれていて、頼りがいがあって…… と皆から、レイナからの信頼が非常に熱かったから。そんなアスナがいつもと逆な感じがして、自然とリュウキは笑ってしまう。そして、アスナの気持ちもよく判っていた。
 
「はやる気持ちはオレも判るよ。……今まで色んな事を考えてて、……多分考えすぎてたんだなオレは。だから 二の足を踏んでたんだ」

 リュウキは そう答え この広い病院の高い天井を見上げた後、2人に向かって笑いかけた。

「……2人のおかげで ここに来られたって思ってる。……ありがとな」
「や、そんな事……。私は何にもしてないよ! リュウキ君自身が頑張ったから。……心から頑張ったからこその結果だよ」
「だね。そのおかげで私も……、私達もまたユウキ達に会えるんだから。お礼を言いたいのは私の方だから」

 リュウキは アスナとレイナの話を訊いて笑った。そして ゆっくりと歩を進めた。

「行こう」
「「うん!」」

 互いに頷き合いながら先へと向かった。




 だがまだまだ問題点はあるだろう、と思うのはアスナとレイナ。
 まずユウキとランが面会をしてくれると決まっている訳ではないから。そこにまず不安はあった。それに 2人の名は アバターネームだから本名ではない。色んな不安があるのだが、それでもここまで来て諦められる筈もない。
 その不安をレイナはリュウキに聞いていた。
 
「ええっと…… ねぇリュウキ君。私達ユウキさんやランさんの名前…… 知らないんだけど どうしよう?」

 確かに、それはレイナの言う通りだろう。
 面会しようにも相手の名前が判らないのでは話にならない。『正確な名前は判らないけど、多分ユウキと言う名で、姉妹がいます。ここに入院しているかも(・・)しれない。そんな姉妹患者さんはいませんか?』と言って聞きまわるしかない。

 そんな事言って回ってたら下手したら不審者ではないのか? とも思われかねないだろう。

 正確ではない可能性があるが名前としてはキャラネームである《ゆうき》と《らん》だ。

 どちらかと言えば、《ゆうき》の名の方が《らん》より本名の感じがする……とは思える。ゆうき と言う名前は珍しい名前と言う訳ではない。男の子にも女の子にもその名前あるのだから、正直厳しいと言うのが予想だった。
 更に言えば この病院の規模は総合病院……とだけあって非常に大きい。入院患者数も一般的な病院と比べたら桁が違う。数だけでも大変な上に、正確じゃない名前で情報で教えてくれるとは到底思えない。……と言うより患者のプライバシーと言うものもあって守秘義務もあるから、あやふやな問答では門前払いされてしまうだろう。

「うん……。アバターからの推察になっちゃうけど きっと15歳前後の女の子……とは思うんだけど、それだけじゃ難しいよね。虱潰しに探すのって言うのも現実的じゃないと思うし……」

 アスナも難しい表情をした。寧ろ簡単に教えてくれようものなら、この病院大丈夫? と疑いかねないから。
 そんな2人の様子を きょとん として見てたリュウキはと言うと 少し笑いつつ急ぎながら2人に言った。

「ごめんごめん。説明足らずだった。確かに面会受付の方に向かってたけど その隣だ。総合受付の方だよ。……顔見知りの人がいてね。その人に協力をしてもらおうと思ってる。事前にアポイントは取ってあるから大丈夫だ」
「「え?」」

 アスナとレイナはリュウキと同じようにきょとん として僅かながらに頭を傾けた。
 どうやら、想像していた事よりも更に大きかった様だ。リュウキが以前この病院に訪れた、と言っていた事も 仕事関係の人が入院していた、程度にしか考えてなかったのだが、蓋を開けてみれば内部にもつながりがあると言う事。

 よくよく考えてみれば、そもそもリュウキの人脈の広さと言えばその規模は この病院と比較して…… いや比較にならない程リュウキが圧勝している。レクトを立て直した時の事を今更ながら思い返せば容易に想像がつきそうなモノだ。

 でも、普段のリュウキの姿。レイナと一緒にいる姿。キリトやクライン、エギル、リズ、シリカ、シノン…… 沢山の仲間達と楽しく遊んでいる姿の方をずっと見てきているから、直ぐに連想するのが難しかった。

 そしてそれは普段のリュウキが《普通に見える》事。……それがとても喜ばしい事でもあった事も改めて思い返す2人だった。
 アスナは心底信頼する、尊敬する眼差しをリュウキに向けた後、レイナと交互に視線を向けて言った。

「ホントに頼りになるね? レイの旦那様っ」
「……っっ!?」
「あ、あぅぅっ お、おねーちゃんっ…… こ、こんなトコで~……っ///」

 不意打ちっぽくなってしまっているが、そうじゃなくてもこの手の話題にはまだまだ慣れたりはしない様だ。勿論、簡単に慣れられてしまってはこちらが面白くない…… と少々邪な事を考えてるアスナは、リュウキの背をぽんっ と叩いた。

「お願いね?」
「……りょーかい」 

 リュウキは恥ずかしそうに ささっと顔を背けると受付カウンターの方へと向かい、カウンターの向こうで端末を操作していた女性看護師に声をかけていた。
 レイナは 赤くなった頬を必死に戻そうと両頬を二度三度と叩いていた。


「竜崎 隼人様ですね。はい。お伺いしております。直ぐに倉橋先生がお伺いいたします。申し訳ございませんが、少しお待ちください」
「はい。判りました」

 やっぱり、と言うか 当然の様に ものの数秒で話は終わっていた。

 リュウキが本名を名乗り、身分証を見せた所で 女性看護師の姿勢が更に良くなったのでは? と思える様に背筋がピンっ! と伸びていた。 電話対応をしなければならないので座ってはいたが、それが無ければ起立!礼! までするのでは? と思えてしまうからやっぱり驚きだ。

 そして 更にそこから ほんの数分後。 ぴんぽんっ♪ とチャイムが鳴ったかと思えば 総合受付の傍に備え付けられいた職員専用と書かれている扉が開いた。開いたと同時に足早に駆け寄ってくる白衣の姿。

「申し訳ありません。竜崎様。お待たせしてしまって……」

 申し訳なさそうに頭を下げている男性医師。年端30代前半だろう。つやつやと広い額には やや光るものが見える。どうやら本当に慌てていたらしく、その額には汗が数滴付着していた。縁の太いメガネがズレ落ちそうになるのを止めながら、リュウキの方に二度、三度と頭を下げた。
 
 ここまでしてみれば、まるで年下の上司に叱られた部下……と言う連想が容易に出来てしまうのは普通だって思う。

 リュウキも少し困った表情をさせつつ、両手で手を振った。

「いえ。正確な時間を伝えていなかったこちら側の落ち度もあります。そこまでされなくとも……。 あっ……」

 ここで リュウキはアスナやレイナの事を思い出したのだろう。
 先程の女性看護師が言っていた倉橋であろう医師の方へと少し足早に駆け寄り。

「本日はプライベートな面もあります。寧ろこちら側からの無理な願いでもありますし……、そこまで 畏まらないで頂けたら有難いのですが……」
 
 ちらりと2人の方を見てそう言うリュウキ。倉橋も悟ったのだろう。額の汗をハンカチで拭うと、少しだけ強張っていた表情を緩めていた。

「その様ですね。承りました。本日は皆さん来ていただき、ありがとうございます」

 倉橋はそう言うと再び頭を下げた。それはリュウキに対してだけではない。アスナやレイナに対してもであった。

「では、こちらへどうぞ」

 展開にやや付いていけてない所があるのだが、アスナとレイナも導かれる様に正面エレベーターへと乗り込んだ。緩やかに上昇するエレベーター内で倉橋は口を開く。

「ええと、あなた方は、結城明日奈さんと 結城玲奈さんですね?」
「「はい」」

 アスナとレイナはほぼ同時に口を開く。 ほぼ同時だったからどちらがアスナ、どちらがレイナなのか判らないだろうと思えるから、其々が自己紹介をしていた。 双子だと言われても不思議じゃない程似通っている姉妹だから。

「僕は倉橋といいます。竜崎さ……、隼人君から君たちの事はよく聞かされていますよ」
「えっ? リュウっ……隼人くんが私達の事を??」

 なんで 倉橋医師に自分達の話をするのか? と疑問に思ってしまうのは当然だろう。今日、この病院に来たのは初めてだし、勿論倉橋とも初めて出会う。簡単に言えば接点が無いのだから 伝える必要性が全くないからだ。

「あ、あの…… 倉橋先生…… そ、その……」
「あ……そうでしたね。でも ここまで言ってしまったので」

 リュウキは恥ずかしそうに制止をする様に両手を出していたが、最早ここまで言ってしまったら 逆に言わない方が不自然だ。


――ごめんねー?


 と言いながら舌でもぺろっ と出しそうな表情をさせた倉橋。何だか歳(正確には知らないが)の割に子供っぽい一面を見た気がした。

「ふふふ。申し訳ない。隼人君からは、あなた方以外の人達のお話も聞いていますよ。昨今のフルダイブ環境下において、人体に対する悪影響。健康被害報告も多数出ている事実もあります。全国、全世界規模でね。その現状で、色々と相談を少々受けたりしていました。その過程であなた方のお話を訊いたんです。……隼人くんは いつも皆の事を気にかけてくれていた、と言う事ですよ」
「っ……」

 ある程度覚悟の様なものを決めていた隼人だったが、やはりここまではっきりと言われてしまえば、気恥ずかしくなってしまう。健康被害に関しては 世間ではまだ伏せられている面も合わせると、かなり多く上がっている。
 果ては VRMMOに熱中し過ぎて飲食を忘れて没頭、最後は栄養失調に陥り死に至るケースだってある。

 そんな事にはならない……と言うのは判りきってはいるのだが、約一名、不安を覚える者がいるから少々気に掛けたりもしていたのも事実。

 いやはや 本当に福利厚生が非常に行き届いた会社に努めている様な感覚になるのは別に不思議じゃないだろう。それも働いている訳でもないのに。

「い、いやさ 仕事の合間の世間話と言うか…… ほら、基本 病院でのシステム関係で、中でもシステムメンテナンス、経営管理のパッケージシステムとかが主だけど……、自然と病院だからさ、話題がそっち系になって……。それで簡単なアドバイスとか そう言うのを訊いてただけ……だから。別に変な事を言ったりはしてないし……」

 弁解する様にリュウキはそう言う。何だかそれを訊いていて、リュウキの姿を見ていて、まるで悪い事をしてしまった子供の様に思えてしまうのだが、よく考え……なくても はっきりしてる事がある。

 悪い事など一切していない。

 寧ろ皆の為に 普段からこんな事をしてくれている…… と感謝しきれない思いも持てるのだが。

 それでも気恥ずかしそうにも見えていてまだまだ 言い続けるリュウキにレイナはそっと手を包み込み、アスナは無言ではあるが最大級の笑顔で微笑んでいた。『いつも本当にありがとう』そう伝える様に。

 それに間違いなく 倉橋がここにいなかったら レイナは抱き着いていただろう、と言う事は言うまでもない。

「そ、それより 本題に入りましょう!」

 正直恥ずかしくていたたまれなくなったリュウキは、聊か強引ではあるが話を逸らせた。
 キリトも来てくれた方が良かったな、とやや後悔してしまったのだが、微妙なラインだ。アスナとレイナの2人だけに留まってくれた事の方が良かったかも、とも思っていた。


 倉橋もリュウキの考えを尊重してくれたのか、からかうのを止めたのかは判らないが、笑顔で頷いた。 それを確認した後にリュウキは訊いた。内容は勿論 ランとユウキの話だ。

「それで間違いないんですか? オレが訊いた話は」
「ええ。勿論です。……私は彼女達の、紺野さん達の主治医ですから よく知っています」
「……ぅ」
「………」

 主治医と言う言葉を訊き当然何も知らないレイナやアスナにとっては 衝撃が大きかったかもしれない。

 いや、本当は何処かでは判っていたんだ。

 2人がいる場所……この大きな病院、メデュキボイドについても 聞かされたその日の内に2人ともが調べた。
 そして それらがさし示す真実にたどり着くのには難しくは無かった。本心では辿りつきたくなかったかもしれない。だけど、その先にユウキとランがいるのであれば、行かなければならなかった。


 その結論は、ユウキやランは何らかの重い病に冒されいるのではないかと言う事。

 だが、その先の言葉、続けられた話は思ってもいなかった事だ。


「……これを運命(・・)と言うのでしょうか。それ以外の言葉が僕の頭では浮かんできません」


 アスナとレイナが不安な表情をしている所に、倉橋の声が響く。その声色は何処となく明るいものだった。

運命(・・)。……色々な書物、先人達が残してくれている医学書にも、そして創作物、物語等においても必ずと言っていいくらい目にします。ですが 医者である僕はその手の言葉は好ましくありませんでした。そんなものは無い、信じたくい、と言う方が正しいかもしれません。確かに良いものだけなのであれば、ここまでは否定はしません。……ですが、残酷な運命と言うものだって当然ながらあります。だから 思うのですよ。その言葉だけで、人の生き死にを決めてしまうのであれば、医学がこれまでにどれだけ発展したとしても、……決して抗う事など出来ないとね。そう言われている様なものなんですから。たった二文字で片を付けるなんて」

 倉橋は 言葉を切る。一呼吸置いた後に続けた。

「隼人君から全てを訊いた時。僕は180度意見が変わりました。紺野……、木綿季くん、藍子くんの2人。そして……」

 倉橋はそっと視線を動かした。その先にあるのは中央棟の最上階にある屋外中庭スペースだった。光が窓から入り込み、院内を照らしてくれている。まるで そこは光の中なのか、と思えるほどのだった。


「日向 春香くん。……全てが繋がっていたんですね」



























 そして、場面はユウキとランの元へと戻る。

 出会った時の彼女達の表情は 固まっていた。何が起こったのかが正直判らないと言った様子だった。

「ユウキさん、ランさん! 見つけたよっ」
「ようやく……会えたね。2人とも」

 リュウキを引っ張っていた2人だったが、後数m先……の所で 我慢が出来なくなってしまったのか、リュウキを追い抜き2人の前に立った。

 初めて目にする2人の現実世界での容姿。
 2人ともに共通するのはやや色素の薄い素肌。同じ髪の色。髪の長さは ALOのアバター程ではないが、ややユウキの方が長い。
 2人に出会ったら、もう一度 会う事が出来たら、きっと思いっきり抱きしめに行くんだろう、とアスナもレイナも思っていた。だけど、いざ目の前にしたら、行動以上に涙があふれ出てきてしまっていた。もう一度会いたかったと言う強い想いが、更に涙を誘う。

 そして、倉橋氏に教えてもらった2人の事。
 
 それを訊いて 自分達よりも小さな女の子が…… 懸命に戦い続けた事実を知って、あらゆる感情が表に現れてしまった。その為抱きしめると言う行動に移れなかったのだろう。

「泣かないでください。アスナさん、レイナさん」

 声を先に掛けたのはランだった。ランの目元に光るものがあり、それを拭いながら言い続ける。

「あ、あははは……。凄いや。ほんと、ボクがさっき言ってた通りになっちゃったよ……。それに、3人とも。向こう側と、ほとんどかわらないんだね……」

 ユウキも一歩前に出て、ラン同様に涙を拭う。2人はアスナとレイナの其々の手を握った。

 アスナもレイナも 涙を止められるどころか、更に溢れ流れてしまっていた。 2人の声を聴けて、姿を見れて、こうやって 手を握れたんだから……。

「ユウキやランもオレ達と同じだろ。……見間違わないよ。2人の姿だけは」

 リュウキも2人にそう返しながら 笑みを浮かべた。

「散々言ってくれてるが、オレだって万能じゃないんだぞ? アスナやレイナ、そしてオレ。……オレが2人を見つける事ができたのは………」

 ここでリュウキの話は途切れる。
 僅かだが、ユウキやランにははっきりと見えた。リュウキの眼に浮かぶものがあったのを。そして 次の言葉を訊いて それが2人にも移る事になる。


「……今回のは、全部……全部、彼女(・・)のおかげだ。彼女が……、サニーが オレ達を引き合わせたんだ」



 










 














 5人の事を見守る様に、倉橋は入り口の所の壁に背を預けていた。
 先程の話と運命と言った言葉の真意。それは眼に見えぬ糸の様だった。

 それらの糸を手繰り寄せると1人の少女が浮かぶ。

 日向 春香。サニーの事。

 彼女がこの病院に来たのは今から10年程前の事だった。
 それは 倉橋がまだ研修医時代の初めての患者だ。

 彼女は重症の状態でこの病院に運び込まれた。彼女を見た時 明らかに事故等ではなく人為的なものだった。当然虐待の二文字が頭を過ぎるが、それよりも処置が先だと研修医として出来る事、与えられた仕事を倉橋は熟し続けた。

 幸いな事に彼女の容体は安定し、命に別状はなくなったのだが…… 不自然な事に、これだけあからさまでありながらも事件化される事は無かった。それとなく先輩医師に言ったのだが、それでも何も変わらなかった。それは更に上に言っても同じだった。……いや、変わらないどころか、院長から『あまり言わない方が身のため』とまで言われた。 この時 巨大な何かが蠢いている、ありきたりな表現ではあるが、それを感じた。 
 病院のトップがそれを握りつぶそうと言うのだから、一研修医が何を言った所で弾かれるだけだった。 憤りを感じたのだが、何もできない自分にも腹が立つ日が続いた。
 
 そして、ある切っ掛けが訪れた。

 日に日によくなる一方で、身体が恐怖を覚えている様に震えている彼女を見て、病院の闇に怒りを覚えたり、失望したりするよりも、この小さな命を守らなければならないと言う強い気持ちが全面に出てくる様になったのだ。 幸いな事にここは町医者の様な小さなものではなく、大きな総合病院。一体何に巻き込まれたのかは全く判らなかったが、それでも こんな場所にまで出向き手だしをしてくる様な輩が入れば、即警察に突き出す事だって出来る。

 そう思いながら彼女を見続けて、更に問題が発生した。 

 彼女は、恐怖の記憶こそは身体が覚えていた様だったが、実際の記憶――。
 どんな事があったのか、何処で暮らしていたのか、どんな些細な事でも良いから、と少なからず聞いていたのだが…… どれも答えられなかった。恐怖故に答えられない、答えてはいけない、と言った類ではなかった。俗にいう記憶障害を患っていたのだ。
 原因は外傷性、そして心因性である事は判るが、精神科に移し 精神療法等出来うる事を全て試したのだが 改善する事は無かった。

 この時の院長……、まるでその事を喜ぶ様に 歓喜した院長の顔を今も忘れる事は出きなかった。 

 だが、悪い事だけではなかった。
 
 過去を覚えていなくても、今を生きる事。そして まるでふりだしに戻された様なものだが、新たに学んだりする事に彼女はとても意欲的だったから。リハビリも精力的に行っていき、それと並行して行ったのが医学と量子物理学の分野の勉強だった。
 ありとあらゆる知識を吸収していき大人顔負けの能力を存分に発揮させていったのをこの目で見続けたことは記憶に新しい。記憶が無くなる前の彼女がどんな少女だったか、想像は難しくない。恐らくは天才と呼ばれる部類だったのだろうと。そして それ以上に笑顔が素敵な少女だったのだろう、と。

 彼女の養父母との話も何度かした。

 当初は警戒をしていたのだが、どうやら 彼女の命を助けた側だと言う事、そして 握り潰そうとしている大きな力を感じている事、そして何より優しく彼女と接している所を見た時、安心した。……安心したと同時に 何もしない上に対して更に憎悪した。

 どんな世界にもフィクサーと呼ばれる者が存在する。黒く淀んだ部分と言うのは必ず存在する。そして常人では手の届かない雲の上の相手。彼女が大丈夫なら、元気なら他はもう考えない様にした方が良いと思いだした頃だった。

 それらが一気に殆ど壊滅すると言う前代未聞のニュースが沸き起こったのは。

 言い訳の 『い』の字も決してできない証拠を抑えつけられた。隠蔽する事など出来ず、あらゆる場所にリークされ、消してはリークされを続けられ、逃げ場はもう無かったとの事だ。

 そして まるで最初から判っていたかの様に、黒幕が潰れたのと同時にそれと関わり、利益を貪っていた連中も芋づる式に逮捕されていった。この病院の院長も例外ではなく 捕まった。まるで日本の悪党を洗浄(ロンダリング)されている様にも感じた出来事だった。



 それから暫くしての事だった。
 日本が世界に誇る天才少年として、ニュースに大々的に取り上げられる様になったのは。



「あの時の天才少年…… HN:RYUKI。稀代の天才プログラマー」
 
 倉橋は、リュウキの方を見て過去を思い返していた様だった。

「同じく天才と称された茅場明彦にも遅れを取らない所か、凌駕する程だったと言われていた少年が春香くんと繋がりがあったとは…………。色々と納得できる所もあるけど、それでももう少し、もう少し時間があったなら」

 それだけが どうにもならなかった。
 日向春香は もうこの病院にはいない。……もう、この世界の何処にもいないのだから。

「………いや 止そう。きっと、これは彼女もきっと望んでいた光景だよ。紺野くんたちの笑顔と、……彼の事を忘れてしまっていても、それでも 想っていたリュウキくんの笑顔。皆が笑顔なんだから」

 ユウキ、ラン、リュウキ、……そして アスナやレイナ。全員が例外なく笑顔だった。
 倉橋は いつもこの場所で、3人 楽しそうに話しをしていたあの頃を思い出せる程に笑顔だった。

 彼女がいなくなり、間違いなく笑顔が減って…… その影響が身体にも……と正直心配をしていたのだが、それをかき消してくれる程 2人は笑顔だったから。


























 そして、場面は再びリュウキ達の元へ。

「凄い……よね。姉ちゃん程じゃなかったけど、ボクも確かに予感したよ。リュウキとサニーの事。あっ アスナとレイナもサニーの事知ってるの?」

 ユウキは、アスナとレイナの方を向いた。知らなかったら 話についてこれないと思ったからだ。折角ここまで探してくれて、再会して涙まで流してくれたのに、置いてけぼりは非常に申し訳ないと思ったから。でも、ユウキの心配は杞憂だった。

「うん。……リュウキ君から話は聞いてるよ」
「私もレイと同じ。……話してくれた」

 意図して2人は、少しだけ言葉を飲み込みつつ答えた。
 リュウキから聞いたサニーの話。ユウキ達との思い出とはまるで違う内容だと思ったから。
 それは、リュウキが大切な人を守れなかったと涙を流し、深い傷を心に作った事件。

 その内容をユウキやランが知る必要などない。……ユウキ達が自分達の事は知らない方が良い、と言った様に 知らない方が良いと言う事はこの世にはあると言う事はよく知っているから。
 だけど、もし―― 今日の自分達の様に 知らない方が良いと言われても 振り切ってここまで来た様に、ユウキやランが知りたいと言った時は、全てリュウキに任せようとアスナは思っていた。勿論、レイナも同じ気持ちだった。

「……そっか。サニーはね。ボク達にとっての光だったよ。暗い場所にいても、苦しくて泣いちゃいそうな時も『ほら、こっち。こっちだよー』って、直ぐに導いてくれるみたいにさ」

 目元をぐいっ ともう一度拭った後、ユウキはそう答え、ランが続いた。

「……そう、です。私達が、眠っているだけだったかもしれない私達が、スリーピング・ナイツになれたのはサニーがいてくれたおかげです。……でも、彼女は」

 ランはゆっくりと俯いた。
 それを見たリュウキは、そっとランの肩に手を置いた。

「きっと、笑ってないと サニーだって悲しいって思う。………近頃は、つい最近の様に思い出せる。オレの記憶の中のサニーは……、……うん。笑顔が好きだった。笑顔と、日向ぼっこが好きだった筈だから」
「っ……」

 ランは リュウキを、そして後ろで笑顔で頷いてるアスナやレイナを見て、全体的に沈んでいた身体を何とか持ち直した。

「そうだよね。うん。きっとそうだよ……」

 ユウキも横で必死に頷いている。



 
 少し、時間がかかってしまったが 2人が落ち着けるまで リュウキもアスナもレイナも黙って待っていた。そして覚悟を決めた様に ランが口を開いた。

「リュウキさん。アスナさん。レイナさん。ごめんなさい。本当の事を言えなくて……。春にギルドを解散してしまう、と言いましたが、その本当の理由は皆が忙しくなるから…… と言う理由ではないんです。長くても――後3カ月。そう告知されてしまったメンバーが3人います。……スリーピング・ナイツの創設メンバーは10人でした。サニーを含めて3人いなくなって…… また3人が……」

 果てしなく、途方もない重さを持った言葉だった。その重さは 脳にまで伝わり、やがて輪郭を帯びだした。脳裏に浮かんだのは 他のギルドメンバーの顔。シウネーやジュン、テッチ、ノリ、タルケンの明るい笑顔だった。

「それでね。皆で話し合って決めたんだ。次の1人の時にはギルドを解散しよう、って。その前にみんなで最高の思い出を作ろう……ってさ。サニー皆に胸を張ってお土産に出来る様な凄い冒険をしようってね」

 ランを支える様に、ユウキが繋げた。

「でもさー。やっぱり簡単にはいかなかったんだ。なにせ 皆が驚くような大冒険だもん。当たり前だーって皆思ってたんだけど、流石に『できなかったー』って言うのは情けないからさ。手伝ってくれる人を探そう、って相談したんだ。……勿論、反対意見もあったよ。だって、もしボク達の事を知られたら、その人に迷惑をかけちゃう、嫌な思いをさせちゃうから、って思ったから」

 ユウキがそこまで言った所で、次にランが繋げた。

「本当にごめんなさい。……サニーの事も含めて、皆さんには本当に辛い思いをさせてしまって……。私達は 大丈夫です。リュウキさんやアスナさん、レイナさんに言われた様に笑顔で、最後まで笑顔で頑張っていきますから。……だから、もし 出来る事なら……「悪いが、忘れる事なんてできない」っ……」

 最後まで言わせなかったのはリュウキだった。
 それに加わる様に、アスナもレイナも共に声をそろえて、そして ユウキとランの2人を抱きしめながら言った。

「当然だよ。嫌な事なんて、ある訳ないもん。本当に楽しくて心躍って……。毎日ドキドキできて、嬉しかったから」
「うん…… ユウキやランの、皆の手伝いができて、凄く嬉しいって思ってる。私は…… 私達は今でもまだ、スリーピング・ナイツに入れて欲しいって、そう思ってるから」

 線が細く華奢な身体だった。強く抱きしめれば折れてしまいそう……と思ってしまう程の。自分達よりも歳下の小さな女の子達が、ここまで頑張り続けて、辛い事も笑顔で頑張ってきた。そんな人たちを嫌になんかなれる訳無かったんだ。

「……ありが、とう、ございます」
「うん……うん……ボク、うれしい。皆と会えて、本当にうれしい」

 もう、何もかも満足。
 そう言っている様にも見えるユウキとラン。

 もし―― それ(・・)を告知されていると言うのが2人なら、もう思い残す事なく逝ける。と言っている様にも見える。

 だけど、それはさせない。……少なくとも、今はさせない、言わせないと強く思い、声をかけたのはリュウキだった。



「最初に――言った、だろ? サニーがオレ達を引き合わせた。……つまりそこには理由がある。合わせた理由が、きっとある筈なんだ」



 リュウキの言葉の真意。当然直ぐに理解できる訳もなく、ランもユウキも僅かに頭を傾けた。



「……サニーが言ってる。まだ―― 『こっちに来てほしくない』って。『まだまだ 笑顔で皆といて欲しい』ってな」



 それは嘗て、自分自身が命を落としかけた時に、親愛なる友へ残した言葉と、想いと同じだった。大切な人達だからこその残す言葉。きてほしくないと言う想い。全てリュウキも判るんだ。





「だからまだ、皆を眠らせたりはしない。オレは、……サニーは 皆を」





 
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