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チート持ち連中ばっか勇者になっててムカつく

作者:WHF
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一話 三人の男

ここは異世界のとある王国、グレイゴル。
この世界の平和は魔王によって脅かされていた。
各地でモンスターが出没し、王国の外は全て危険地域となった。
冒険者が魔王討伐に奮闘するもそれは未だ達成されていない。
そこでグレイゴルでは一ヶ月に一度勇者を選定し、魔王討伐をさせようという方針をとった。
そして、今日は勇者を選定する大会があったのだが・・・


とある酒場のカウンターにて
「はあー、今月も無理だったなあ・・・」
周囲の冒険者の喧騒に混ざって黒髪で額に赤いバンダナを巻いている男、レインはため息をつく。
「まあ惜しかったじゃねえか、最後はお前と勇者様の一騎打ちだったもんな」
三人分のジョッキを持ってきて茶髪を逆立てた髪型のトールがレインに微笑みかける。
「トールは序盤の方で脱落してたもんね」
「俺は前衛職じゃ無いからな。はいビール」
「おうサンキュ」
二人はジョッキのビールを一気飲みし、揃って息をぷはーと吐いた。
「やっぱこれだよな。疲れた時はビールに限る!」
「毎日飲んでいたいよねー」
「そんな余裕は無いですよ、私達には」
そんな二人に白髪でメガネをかけた男、イリスはジロリと視線を向ける。
「全く、二人はもうちょっと真面目になってください。今月もピンチですよ」
「分かったよイリス、明日は朝早くからクエスト行こうか」
「そだな。まあ稼げばいいんだよ、な!」
「トールは楽観的過ぎます。先ほども前衛職じゃないからといって敗北を言い訳しては良い魔導師にはなれませんよ」
「いやいや、イリスが強すぎるんだよ、僧侶に力要らねえじゃねえか」
「そんな事はありません。杖を持つ力ぐらい必要ですよ」
「逆にそれ無かったら非力すぎじゃない?」
三人は横並びになってカウンターに座っている。年はみな10代後半といったところか。三人はパーティーを組んで二年目の新米冒険者達だ。
イリスはビールをちびちび飲みながら
「冒険者は身体能力が高くなければ生きていけません。二人ともあちらで腕試ししてきてはどうですか?」
酒場の一角を指差した。そこには大勢の冒険者と酒樽が一つ、『緊急腕相撲大会開催』と書かれた看板が建てられていた。
「しゃーねえな。ほらいくぞレイン!」
「なんで僕まで・・・。イリスは行かないの?」
「野蛮な事は苦手ですから」
「自分から言っておきながらそれか、イリスらしいね」
トールに腕を引っ張られながらレインは呆れ笑いを浮かべた。


「腕相撲に参加するなら10コイン必要だぞ」
「げえっ、金取んのかよ!」
ガタイのいい男の言葉にレインとトールは苦い顔をする。
「どうしよっか、僕はちょうど10コイン持ってるけど」
「俺、今無一文なんだよ・・・」
さっきの勢いはどこへやら、トールはガックリと肩を落とした。
「その代わり、優勝すれば300コインだからな」
「マジで!?」
ガバッと顔を上げ目の色を変えるトール。忙しい奴だなぁとレインは思った。
「これは参加するしかねえなあおい!レインが!」
「僕なんかい」
「仕方ねえじゃんよー俺コイン持ってねーし。それより大事な10コイン俺に預けて無駄にしちゃっていいのかなぁ?」
「それもそうだね」
「いや納得すんなし」
挑発的な態度をとっていたトールだが開きなおったレインを見て冷静になる。
「優勝すりゃ30倍だ。パーティー1の怪力、頼んまっせ」
「自信は無いけど、みんなのためだもんね。よし!」
「はい毎度」
期待に応えるべく、気合い入れ直したレインは男に10コインを渡す。
そこに、透き通った声が響いた。
「俺も参加させてもらっていいかな?」
声の主の方を二人が見ると、そこには金髪の好青年が立っていた。
腰には立派な剣を携え、身体中を鎧で覆っている。その姿に二人は見覚えがあった。
「あ、あんたもしかしてヤマザキ キョウスケじゃねえか!?」
「本当だ。今日の大会で優勝して、勇者になったキョウスケだね」
「ああ、俺はヤマザキ キョウスケだ。そういえば黒髪の君、どこかで見た事あるような・・・」
キョウスケはレインを指差しうーんと唸りながら思い出そうとしていた。レインはキョウスケが答えを捻り出す前に答える。
「レインだよ。といっても倒した相手の名前なんて覚えてないかな」
「そうそうレインだったな。あのハンマーの一撃は重そうだったよ」
「一回も当たらなかったけどね」
レインは大会の時の事を思い出しながら苦笑する。
レインはキョウスケと一騎打ちになった後、相棒のハンマーをキョウスケに向けてぶん回した。
しかしその攻撃は一つも当たらず、代わりにキョウスケの鋭い剣撃によって返り討ちにあったのだ。
「確かにキョウスケの回避術は見事だったよな~。まるで未来が分かってるかのようだったぜ」
「まあ鍛錬を積んだからな」
「この街に来て間もないはずなのに・・・一体どこで暮らしてたの?」
「んーまあここから結構遠い国かなあ」
「「へーー」」
キョウスケの言葉を聞きながら二人は遠い国の事を想像する。
レイン、トール、そしてイリスもグレイゴルから別の国へ行った事は無かった。
「大層危険な旅路だったろう、やっぱり強いんだねキョウスケは」
「それほどでも無いさ」
「謙遜すんなって。どっちみち腕相撲勝負でハッキリ分かるってーの」
酒樽の周りには屈強な男達が集まっていた。さっきのガタイのいい男が「始まるぞー」と三人を呼んだ。
「手加減しないぞ、本気でいかせてもらう」
「こっちこそ、相手してやるぜ!レインがな!」
「やっぱり僕なんかい」


「・・・また一騎打ちかな」
「みたいだ」
決勝戦で残ったのはレインとキョウスケだった。
「おお!また二人の対決だ!」
「大会の時と同じ展開が起きてるぞ」
「今度はレインが勝つか、それとも勇者が二連勝かー!?」
周りの注目もこの一戦に集まっていた。
「よっしゃぁレイン!あと一勝だぞ、300コインゲットするぞー!」
トールが一番興奮していた、というかうるさい。
「次は勝ちますよ」
「お手柔らかにね」
二人は肘をつけ手を合わせ腕相撲の態勢をとる。
少し緊張しているレインに対し、キョウスケは余裕そうな表情だった。大事な局面でも余裕だなんて、さすが勇者となった男だとレインは思った。
「レディ・・・・ファイッッ!!」
掛け声と共に両者とも右腕に力を込める。
初めは力が拮抗していたが、段々とレインが押していっていた。
「いけー!そこだー!空いてる手で脇を狙えー!」
「トールそれ反則だから!」
ツッコミを入れつつもレインは力を抜かない。
そして、キョウスケの手の甲が酒樽につきそうになる。
勝った、そうレインが思った次の瞬間。
「ハアッ!」
キョウスケの気合いの入った声と共に、レインの手の甲が酒樽につけられていた。レインは負けたのである。
一瞬の出来事にギャラリーも何が起こったか分からず沈黙が訪れたが、数秒後にはそれが熱狂や歓声、拍手に変わっていた。
「なんだありゃあ!?キョウスケが逆転したぞ!」
「土壇場であんな力出るなんて流石勇者だぜ!」
「レインが勝つと思っていたが、こりゃたまげたなあ」
「俺たちの・・・・300コインが・・・」
周りの男達が口々に言い、トールが落胆している中、レインは300コインを受け取っているキョウスケに話しかける。
「びっくりしたよ、あんな力があるなんて。それとも手加減してた?」
「本気でいくと言ったはずだぜ」
キョウスケはこう続けた。
「レインは腕相撲で相手を倒す時、最後にほんの少しの間力を抜いてから倒すだろ?その癖を利用して、力を抜いた瞬間に押し切らせてもらった」
その言葉にレインはドキッとした。確かに力を抜いてから相手を倒すのは腕相撲での彼の癖だ。
しかし、それは最後のひと押しをするのに力を込めるための予備動作であり、しかも力を抜く時間も量も限りなく少なくしている。
それでさえも、見破ってしまうぐらいの実力をキョウスケは持っていたのだとレインは戦慄した。
「完敗だ。また勝負しようよ」
「ああ、そのうちな」
そう言うとキョウスケはその場を去った。


「お帰りなさい、どうでしたか」
「レインはあと一歩だったんだが、まーた勇者にやられちまったよ」
「そうでしたか。それでトールは?」
「参加すらしてねえ」
「貴方って人は・・・」
トールはさっきの落ち込んでいた様子を微塵も感じさせないくらいケロっとしていた。
やれやれとばかりにイリスは額に手を当てため息をつく。
「成果無しということですね、明日からまたみんなで鍛錬を始めましょうか」
「えーやだよー」
「まあまあトール、僕達少し力不足なんだよ」
「んな事言ったって、俺魔法専門だしー」
「屁理屈言わないでください、明日は四時半起きですね」
「「早っ!」」
レインとトールは驚きイリスの方を見る。
「当然です。・・・マスター、お勘定」
「あいよ、30コインだ」
お勘定、30コイン。その単語に二人はしまった、と思いオロオロとし出した。
「ありがとう。みんな、割り勘にしましょう。10コインづつ・・・どうしたんですか二人共」
露骨に目線を合わせ無い二人にイリスは疑問を抱く
「あのね、イリス。実は・・・・」
恐る恐るレインが事情を話しイリスが二人にげんこつを食らわせた後、今夜のお代は全部イリス持ちとなった。


「さっさと帰ろうか、ルミ姉さんが待ってるだろうしね」
「そうですね、心配するでしょうし」
「べっつに大丈夫だと思うけどなー」
「寄り道せずに帰りますよ」
酒場を出て帰路についた三人は明日の予定や次の大会はいつだなんて話をしていた。
トールはそこで一人の人影を見つける
「おっと、あそこにいるのキョウスケじゃね?」
「あの格好は間違いなさそうだね」
大きな鎧のシルエットは間違いなくキョウスケだろう。彼は辺りを気にしながら、人気のない岩陰の方へ向かっていった。
「なんだぁあいつ、気になるな。追っかけようぜ!」
「ああ待ってよトール!」
「こら二人共。寄り道せずに帰るとさっき・・・しょうがないですね」
急に走り出すトールを追いかけるレインとイリス。
三人はキョウスケが岩陰でコインを数えているのを見つけると、木陰でじっと隠れて様子を伺う。
そんな三人が見たのは大会や酒場で見たような雰囲気のキョウスケでは無かった。


「298、299、300、っとこりゃ儲けたなあ!ハッハハハハ!もうこっちの世界に来てからウハウハだぜ。日本で死んだかと思ったら神に導かれて異世界転生とか、やべーわ!つか俺チート能力持ってるんすけどー!未来を三十秒間見れるんだってよ!ハハハハハ、高笑いが止まらねえぜ!相手の攻撃とか弱点とか作戦とか全部分かっちゃうし、最強だわまじで。鍛錬?努力?一つもしてましぇーん!!俺元々一般ピープルだし?なのにポコポコモンスター倒せちゃうしねえ!そりゃそうだろ、この能力があるんだから!ガッハハハハハ!!とりあえず俺のチート能力でこの国、いやこの世界支配したろ!明日から旅に出るわけだし、第二の人生スタートだわ!ヒャッホーイ!!」


キョウスケはスキップして、どこかへ行ってしまった。
三人は少しの間その場から動けなかった。理解が追いついていなかったのだ。
レイン、トール、イリスは日本、異世界転生、チート能力などの単語の意味を知らないし、キョウスケのテンションがやたらおかしい理由も分からない。
でも彼の言動から三人が感じたことは同じだった。
パーティー結成二年目の団結力だけは強い三人は同時にこう呟いた。


「「「なんかムカつく」」」



 
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