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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第142話「一般人」

 
前書き
次は椿と葵side。
なお、前回登場時に対峙した守護者はあっさりと退場します。
と言うか、バトル一色では飽きると思うので、会話や考察を入れておかないと…。
 

 





       =椿side=





「……ふぅ」

 火属性を宿した矢で倒した絡新婦を尻目に、私は門を閉じる。

「さて、このまま次に向かってもいいけど……」

 戦闘をしていた場所から出れば、それなりに減ったとは言え、まだ存在する蜘蛛系の妖と、蜘蛛糸に塗れた街があった。
 ……さすがに、全部放置していく訳にはいかないわね。

「(警察が動いているはずだから、妖を倒しながら探しましょうか)」

 いくら士郎達が動いていても、この状況下では情報の伝達も上手く行っていないだろう。特に、現代の文明に頼り切っている今となっては、それが封じられただけで混乱に陥るだろうし。

「(この辺りは逃げられていない人も妖も多かった。妖が多いのは門が近くにあったから当然だけど……多分、こっちまで救援が来れてないのね)」

 何せ日本全土での事件。人手が足りなくなるのは必然だろう。
 私も、人手と実力がなければこの辺りの住人は見捨てると判断したと思う。
 助けられない事を悔やむ人がいるけど……それでも“最善”の行動ではあるもの。

「……これも任務の内ね」

 さすがに何とかできるのに放置はできない。
 近付いて来ていた妖の残党を射って、行動を開始する。
 ……と言っても、私がする手助けは妖の排除だけ。
 蜘蛛糸は……警察とかに任せましょ。





「………ん、気配はなくなったわね」

 それから少しして、周囲から妖の気配が感じなくなった。
 これなら例え妖が残ってても警察だけで対処できるでしょう。

「(じゃあ、人がいそうな場所へ行きましょうか。警察とかもそこにいるでしょうし)」

 民間人は大体が大きな店などに避難しているはず。
 そして、警察もそこを拠点に活動しているはずだ。
 だから、人の気配を探ってそちらへ行けば、会えるはず。

「(……それにしても…)」

 殲滅した場所から離れたためか、まだ妖の残党がいる。
 その残党を道すがら倒しつつ、私は思考を巡らす。

「(……江戸の時は、ここまでの惨状にはならなかったはず。……皮肉なものね、平和になったからこそ、平和じゃなかった時より荒れてしまう)」

 以前幽世の大門が開いていた時は、ここまでの惨状ではなかった。
 確かに一部の地域では妖の被害が酷かったけど、それでも全体的に見れば今の方が危機に陥っている。……今の方が、文明は発達しているというのに。

「(まぁ、妖について一般人がほとんど知らないのも影響しているんだけどね)」

 那美やすずかとか、“裏”に関係している人達ならば、文献などで知っている場合はある。……実際は二人共知らなかったのだけど。
 けど、一般人は何も知らない。
 “未知”が相手なら、江戸の時もこれぐらい混乱し、惨状を引き起こす事はあり得る。

「“平和”が“危機”を齎すなんてね……」

 だからこそ、“争い”は忌み嫌われるのだろう。

「………」

 ふと、そこで足を止める。

「(人の気配……どうやら、避難場所の近くまで来たようね)」

 さっきまで散らばってあった妖の霊力が感じられない。
 その代わりに人の動く気配を感じる。
 妖がいないのは、警察辺りが倒したのだろう。雑魚なら倒せるしね。

「っ、誰だ!?」

 どうやら、私を発見したらしい。
 夜間なため、私に懐中電灯の光を当てて近づいてきた。

「っ……!?」

「(警戒している?……あぁ、耳と尻尾ね)」

 少し近づいた所で、彼らは驚いて立ち止まった。
 私の尻尾と耳に対して、視線が集まる。

「……化け狐……」

「…失礼ね」

 彼らの内、誰かがそう呟いたために、つい返してしまった。

「っ……!」

「……まぁ、警戒するのも無理はないわ」

 一般人でも、架空の存在として妖怪は知っている。
 そして、今の状況はその妖怪が溢れかえっているようなもの。
 その上で私が現れたら……普通は妖狐の類と思うわよね。

「…………」

「………」

 彼らと私は、しばらく無言のまま睨み合う。
 私はともかく、彼らは途轍もなく警戒していようだ。

「…私ばかりに気を取られていいのかしら?」

「っ……!」

「そうしていると……」

「う、撃―――」

 弓を構える私に、危険を感じたのか、彼らは銃を構えた。
 だけど、撃たれる前に私は矢を放つ。

     ドスッ!

「―――え…?」

「…死ぬわよ?」

 けど、その矢は彼らの間をすり抜け………背後に忍び寄っていた妖に命中する。

「周囲の警戒を怠らないで!」

「ひっ……!?」

「こ、これは……!?」

 一喝した所で、彼らは気づく。
 ……数体の妖に囲まれている事に。

「まったく、世話が焼けるわね…!」

 今までこの妖達が襲ってこなかったのは、彼らが周囲を警戒していたからだろう。
 例え彼ら自身は気づいていなくとも、妖はそれを見て機会を伺っていたのだろう。
 ……私と遭遇しなければ、彼らは死んでいたわね。

「(彼らの後方にもう一体、左右に一体ずつ。私の後方には二体。それと……上ね!)」

 彼らへと駆け寄ると同時に、薄く霊力を広げて場所を確認しておく。
 合計六体。……余裕ね!

「ふっ!はっ!」

 まずは跳躍して、彼らの後ろにいたもう一体を射る。
 そして、即座に御札を取り出し、左右に一枚ずつ投げる。
 着地と同時に振り返り、私の後方にいた二体を射る。
 最後に襲い掛かってきた空中の一体を、短刀で斬りつけて倒す。

「なっ……!?」

「雑魚で助かったわ」

 驚く警察の人達を余所に、そんな事を呟く。
 雑魚じゃなければ、私一人だと守り切れないもの。

「怪我はないかしら?」

「あ、ああ……」

 彼らは未だに私を警戒している。判断としては正解ね。
 でも、それでも私の問いにしっかりと答えてくれた。

「お前は……一体……」

「人の味方、とだけ今は言っておくわ」

 説明するにしても、相手の数が少ない。
 もっと広く知ってもらわないと、意味がないもの。

「……4人。……少し、少ないわね。もしかして……」

「っ……」

 この状況なのに、四人と言うのは少なすぎる。
 やはりと言うべきか、彼らは口をつぐんだ。

「……そう。…でも、立ち止まっている暇はないわよ」

 誰かがやられたのは間違いないだろう。
 だけど、それで彼らは立ち止まる訳にはいかない。
 ……命の価値は、昔よりも重くなっている。
 だからこそ、これ以上の犠牲は極力減らさなければならない。

「とりあえず、今すぐ知ってもらいたい事は三つよ。一つ、夜は外出は控えて防衛に専念しなさい。二つ、妖…貴方達にとって化け物が多くいる場所と、瘴気…黒い霧みたいなものがある場所には極力近づかないようにしなさい。三つ、奴らが襲ってくる優先順位があるわ。それを知っておきなさい」

「……どう言う事だ」

 その返答は、なぜそれらを知っているのか、と言う事と、今言った事そのものに対してだろう。とりあえず、今言った事だけでは伝わり切らないので、補足を加える。

「まず一つ目について、妖は夜の方が活発になるわ。まぁ、魑魅魍魎の類なのだから当然ね。そして二つ目。妖が多い場合も、瘴気がある場合も、発生源が近くにあるからよ」

「……俺達はその原因を探しに来てるんだ。むしろ、それを探してこそ…」

「じゃあ聞くけど、貴方達はその発生源を潰す方法があるのかしら?現代の科学を使った技術だと、どうしようもないわよ?」

「っ……」

 そう。一般人では幽世の門を閉じる事は絶対に不可能だ。
 いえ、一般人だけではないわ。霊術の類が扱えない限り、どう頑張っても門のある空間を封印までしかできない。

「避難している人や、貴方達の中にもなんとなく感付いている人はいるでしょう?…こういうのは、陰陽師の類が必要だって事は」

「っ、しかし、そのような存在は…!」

「架空…とでも言いたいのかしら?じゃあ、私はどうなのかしら?」

「うっ……」

 まぁ、現実を受け入れたくないのはなんとなくわかるわ。
 信じられない事が目の前で起きたのなら、それを拒絶しようとするのが普通だもの。

「とりあえず、三つ目について説明するわ。……妖が狙ってくる存在は、主に霊力を持つ存在よ。霊力は、生物であればどんな存在にも宿っているのだけど…ここでは、人並み以上に持つ存在の事を言うわ。陰陽師とかがそうね」

「………」

「もう一つ、確信はないのだけど…魔力を持つ存在も狙うみたいよ。……と言っても、貴方達にはどちらも馴染みがないでしょうけど」

 何も知らない一般人に説明するのはこれだから面倒だ。
 理解が及んでいない部分を説明するのは、骨が折れるものだわ。

「……そうなると、なんで一般人に……」

「……一般人でも、霊力を人並み以上に持っている人はいるわ。所謂才能ね。由緒ある家系だと、その傾向が強いわ」

 すずかとかアリサは特にそうね。
 ……すずかの場合は夜の一族って言うのもあるんだけど。

「どの道、人が集まっていればそこに妖が来るのは必然よ。……今は、私がいるからこっちに引き寄せられているみたいだけど」

「何……?」

「あのねぇ……人間じゃない私が、どうして霊力を人並み以上に持っていないと思えるのよ。……いえ、一般人ならそう思ってもおかしくはないけども」

 もう一体現れた妖を仕留めつつ、私はそういう。

「……まぁ、もうすぐこの近辺は比較的安全になるわ」

「なぜそう言い切れる」

「さっき言った発生源。その一つを私が潰してきたからよ。貴方達も向かおうとしていたでしょう?あちら側のまだ救援に行けていない場所」

「………」

 適当に推測しただけなのだけど、どうやら当たりだったみたい。
 まぁ、そこは別にどうでもいい事ね。

「実際、なんとなく感付いているでしょう?妖の力が落ちている事は」

「……ああ。組みつかれたら助からないはずだったのが、助かるようになった」

 ……犠牲になった人は、組みつかれたのね。
 まぁ、蜘蛛系の妖に組みつかれたら普通は助からないわね。
 今は弱体化したから助かるようにはなったけど。

「一応、あちら側の状況を伝えておくわ。この辺りの妖の親玉は絡新婦よ。まぁ、私が倒しておいたからこれはいいのだけど。蜘蛛系の妖だから、そこら中が蜘蛛糸だらけよ。まだ生きている住人は、避難もすることができないまま家に閉じ込められている状況よ」

「閉じ込められている…?」

「蜘蛛糸の頑丈さは伊達じゃないわ。玄関に蜘蛛糸が固められて出られなくなっているのよ」

 面倒にならない程度には、私も剥がしてきたけど……まだまだ残っているわ。

「家に閉じ込められているだけマシよ。……少しばかり、惨い死体を見る事を覚悟しておきなさい」

「っ………!」

 残念と言うべきか、当然と言うべきか。
 死者は普通に出ていた。妖に貪られ、見るも無残な死体になった者もいた。
 以前の時は妖も一般で知られていたから、そこまで珍しくもなかった。
 だけど、今は違うだろう。死体を見る機会が減ったからこそ、その衝撃は大きい。

「……助けられなかったのか?先程のような力がありながら」

「力があれば何でもできると思うのは傲慢よ。何事にも限界はある。……全能の神だって、全ての人間を救える訳ではないでしょう?」

 神の分霊の私が、別の神の事を言うのは何かおかしいけど、例としては充分だろう。

「とにかく、行動は夜が明けてからにしなさい。貴方達の拠点に戻るわよ」

「……ついてくるつもりか?」

「説明と、救援が必要でしょ。陰陽師とかじゃなくて、魔法の組織だけど、戦力がある事に越したことはないわ。……どの道、情報を共有する必要があるの。もたもたしているとまた襲われるわよ」

 ……言ってる傍から一体襲ってきた。即座に倒しておく。
 倒す度に彼らの何人かが驚くけど、これで驚いていたらキリがないわよ?

「(…さて、優輝や葵とかは上手く行ってるかしら?)」

 私の方は比較的大人しい方だったけど、あの二人は龍神が相手だ。
 既に私と葵で富士龍神は倒したけど、一人だと話は別。
 ……まぁ、あの二人なら大丈夫……よね?
 べ、別に心配してる訳じゃないわよ!?……何自問自答してるのかしら?私…。











       =葵side=





「っと、っと、っと!」

 地面に叩きつけられそうになるのを、上手く着地して回避する。
 すぐに何度か後ろに飛び退く事で、追撃も躱す。

「いやぁ、さすがは北上龍神。……一筋縄ではいかないよね」

 既に何度も攻防を繰り広げている。
 龍神の体には何本ものあたしのレイピアが突き刺さっている。
 ……それでなお、ピンピンしている。

「あたし、殲滅力がないのが欠点だよねー」

 元々盾役だったあたしは、魔導師みたいに殲滅力がある技を使えない。
 そこはかやちゃんも同じだけど、あたしは遠距離もあまり使えないからねー。

「(でも、それは式姫だった時の話!)」

 忘れてはならない。あたしは今となってはユニゾンデバイスだ。
 霊術だけでなく、魔法も使える。……この差は大きい。

「シュート!」

 振るわれた尾を跳んで躱し、お返しとばかりに魔力弾を叩き込む。
 攻撃はさっきからずっと通っている。
 それなのに倒すのに時間が掛かっているのは、偏に龍神がしぶといから。

「……小さい傷はすぐ回復しちゃんだよね」

 魔力弾で傷つけた箇所は、すぐに再生されてしまった。
 だから、攻撃するならばレイピアを生成して突き刺した方が効果的だ。

「(それに加え…)」

   ―――“直立禁止”
   ―――“動作禁止”

 北上龍神から、まるで突風のように霊力の塊が放たれる。
 その塊は、瘴気のようにくすんでいたが、とりあえずあたしは躱す。
 けど、今度は押し潰すように、広範囲に力が放たれた。
 広範囲なため、あたしは躱しきれずに喰らってしまう。

「く、ぅ……!」

 幸い、その技自体は威力が低い。身動きは取れないけど。 
 だけど、問題はその後。……身動きが取れないという事は、強力な攻撃が来る。

「っ!」

     ドン!!

 巨大な尾が、あたしへと叩きつけられる。
 本来なら、躱しきれないはずだけど……。

「悪手な事に、気づきなよ!」

 あたしの場合は、蝙蝠に体を変えられる。
 叩きつけられる直前に、重圧は消えたので、その一瞬で体を蝙蝠に変えたのだ。
 後は躱して回り込み、無防備な胴体へとレイピアを突き立てた。

「さて、そろそろ終わらせなくちゃね」

 油断しないように堅実な戦い方をしていたけど……その必要ももうなさそうだ。
 そう思って、あたしは一気に片づけに掛かる。

「っと、はぁっ!」

   ―――“呪黒剣”

 胴体から振り落とされ、地面に着地する。
 着地する所へ襲い掛かってくるのは分かっていたので、同時に呪黒剣を放つ。
 霊力や魔力の込め方を上手く変えるだけで、呪黒剣は広範囲に影響を及ぼす。
 この術はあたしが唯一得意とする広範囲技なので、結構重宝している。

「さて、いくら外から攻撃してもダメなら……内側から貫こうか!」

 北上龍神は、その巨体を利用してあたしを呑み込もうとしてくる。
 呪黒剣が効いているんだろう。結構怒ってるみたい。
 でもまぁ、その方が都合良いけどね。

「イメージ固定、硬化、巨大化……よし!」

 あたしが生成するレイピアは、霊力や魔力から生成している。
 ……つまり、生成の仕方によっては、大きさなども変えられる。
 その分、力の消費も大きいけど……この場合はむしろ有効だ。
 つまり……。

「貫けぇええええええ!!」

   ―――“巨刺剣(きょしけん)

 あたしを呑み込もうとしてきた、その大口に向けてレイピアを生成する。
 それは、まるで芸などでナイフを呑み込む奴のようで……。
 だけど、そんな風にはならず、北上龍神はレイピアに内側から貫かれる。

「……うわぁ、これでも生きてるんだ…」

 確かに致命傷になった。……その上で、北上龍神はまだ動いていた。
 と言っても、もう死に体だ。

「じゃあ、トドメと行こうか」

     ドォオオオオオオオオン!!

 あたしが突き刺したのは、ただ巨大なだけのレイピアじゃない。
 魔力によって作り出されたのだから、そこに術式を込める事もできる。
 ……だから、あたしはレイピアを爆発させた。

「……はぁ~……ようやくだよ…」

 とんでもなくしぶとかった。……いや、そもそも一人で倒す相手じゃないんだけどね。
 本来なら、複数の陰陽師と式姫が協力して倒す。それが龍神なのだから。
 ……あれ?なんでそんな相手にあたしは一人で戦ったんだろう?

「……とりあえず、閉じておかないとね」

 結論から言えば、人手不足だからだね。
 それに、あたし一人でも負ける事はないと、かやちゃんと判断したのもあるね。

「さて……と」

 龍神を隔離していた結界を解く。
 ……周辺に被害はなし……と。結界が破られる事はなかったね。

「じゃあ、次の仕事をこなさないとね」

 あたしに与えられた任務は、龍神の討伐だけじゃない。
 余裕があれば、北の様子を見るように言われている。
 門もできるだけ閉じないといけないからね。

「暗いから、一般人は皆家とかに籠ってると思うんだけどなぁ」

 夜目が利くあたしだからこそ、続行で散策するように言われている。
 安全をできるだけ確保するため、夜も動くって事なんだけど、妖は夜の方が活性化するし、あまり得策とは言えないんだけどね。

「さて、ここから近い街や門は……」

 現在の地理と、以前の記憶を思い出しつつ、とりあえず向かう場所を決める。

「……オンボノヤスがいる所…かな」

 県内に、もう一つ門があるのを思い出す。
 悪路王がいた場所には門がなかったし、多分そっちにあるはず。

「よし、早速行こう」

 目的地を決めたなら、即行動。
 時間はあまりないからね。それに、夜だからあたしも調子がいいし。
 ……最近、昼夜関係なく活動してるけど、一応あたしは吸血鬼だからね。







「はぁ…はぁ…ちょっと、さすがに疲れたなぁ……」

 それから約一刻。あたしはオンボノヤスを倒しきった。
 物理攻撃に耐性がある上に、門に辿り着いてすぐに戦ったから、さすがに疲れた。

「一応、そこらの妖相手ならまだまだ戦えるけど……強敵はきついかな」

 安全地帯まで山を下り、その場に座り込み、一度息を整える。
 この近辺は割と安全になったとはいえ、残党の妖は残っている。
 それらに負ける事はないけど、また守護者を相手にするには、体力が持たない。

「(……あー、ある意味守護者より厄介な相手が来たかも……)」

 そこで、あたしの方に近づいてくる気配を察知する。
 ……まぁ、人気のない山奥だからって結界を張ってなかったらそうなるよね。

「っ、誰かいるぞ!?」

「(……見事に警戒しているね)」

 ライトであたしを見つけた人達は、近づくのを躊躇っていた。
 ここで馬鹿みたいに近づいて来ていたら、叱責の一つでもしていたよ。

「(さてと…)こんばんは、今の状況で夜道は危ないよ?」

「っ……!?」

 連携を取るように言われているけど、夜のこんな場所で遭遇した所で無茶もいい所。できるだけの事はやってみるけど、どうなるか分からないね。
 とりあえず、ふわりと舞い降りるように彼らの前に出る。
 当然の事ながら、彼らは体を強張らせるように驚いた。

「やだなぁ、そんな化け物が現れたみたいな反応。……いや、気持ちは分かるよ?こんな状況、普通なら君達みたいな反応が当たり前なんだから」

「……お、お前は、“何”だ?」

 ……うん、わかってた。あたしが人と見られない事ぐらい。
 むしろ、人と見られてた方がまずい。主に彼らの命が。
 人らしくないように、あたしは平然と振舞っていたからね。
 不自然に思わないと人に化ける妖にあっさり殺されちゃうからね。

「まずは及第点って所かな。……あたしは人間ではない、とだけ言っておくよ。いちいち種族とか言ってたらキリがなくなるからね」

「っ……!」

 式姫にも色んな種族がいるからねぇ……。
 …と、やっぱりと言うべきか、拳銃を構えちゃったか。

「とりあえず報告と忠告をしておくよ。君達は多分、山の上で起きた事を観測して、様子見としてここに来たんだろうけど……その原因はあたしだね。今、日本中を騒がせている化け物…妖の発生源の一つを潰す際にちょっとやらかしてね」

「………」

 いきなりの情報量に、困惑と混乱が起きている。
 とりあえず、彼らが情報を何とか頭の中で整理するまで待たなきゃね。

「……もういいかな?他の人達に報告する際は、戦闘があったとでも言っておけばいいよ。ありのままにね。……で、忠告だけど…出会い頭に言った言葉の通り、夜道は危険だよ。現代でも魑魅魍魎の類は夜に活発になるって事は知られてるでしょ?」

「……妖怪…か…」

「厳密には違うけど、その認識で間違いないよ。一応現代兵器も効くけど、限りがある上に根本的な解決ができない。それなのに態々危険な夜に出るって言うのは消耗するだけだよ」

 それに視界も悪い。夜目が利かないのなら、防衛だけにした方がいい。

「しかし、だからと言って民間人を放置する訳には……」

「その結果、犠牲者が増えるだけだよ。ハイリスクローリターンよりも、ローリスクローリターンの方がいいでしょ?」

「っ……!」

「……選択しないといけないよ。この状況では、助けられる命に限りがある。どれかの命を切り捨てないといけない。……覚悟を決めておきなよ」

 そもそも、視界が悪い状態で、どこにいるのかもわからない妖に注意しつつ人命救助に当たるという事自体が危険すぎる。
 路地裏とかに行ったら、あっさりと首を掻き切られるよ。

「例えば……」

     ザシュッ!

「ギ…ィ……」

「……ほら、こんな風に背後から襲われても、気づけないでしょ?だから夜道は危険なんだよ」

「っ……!?」

 彼らの背後に迫っていた妖を、庇うようにあたしが割り込んで刺し貫く。

「分かったら、さっさと避難場所に戻って、そこを守ってて。後、あたしが言った事を上に報告しておいてね」

「っ、待て!お前はどこに…!」

「あたしにもやる事があってね。…もしかして、帰り道で護衛してもらえると思った?…悪いけど、あたしにも時間がないから無理だよ」

 それに、その担当はかやちゃんだ。
 あたしが優先するように言われた事は、飽くまで夜の間にできるだけ門を閉じたり妖を減らす事。……夜目が利いて夜に動きやすいあたしだからこその任務だ。

「さ、さっき自分で言っていたのに……」

「あー、夜道は危険だって事?あたしの場合は夜目が利く種族だから無問題。それじゃあね。発生源の一つは潰しておいたから、この辺りの妖はこれ以上増えないよ」

「ま、待っ……!」

 彼らの言葉を聞かずに、あたしは蝙蝠となってその場を後にする。
 ……何気に、ここまでやればあたしの種族は分かるよね?





「……ん~、薄情な事しちゃったな」

 昔なら仕方ないと割り切れるけど、今は納得いかないと思われる事をした。
 いや、こういうのは“切り捨てられた”側からしたらどんな事でも納得いかない。

「…大丈夫だよね」

 彼らは何かに焦っていたり、思い詰めている様子はなかった。
 ……詰まる所、“誰かが欠けている”様子は見られなかった。
 ただ表情に出していないだけだとしても、それができる程の精神性があるという事。
 だから、大丈夫だろう。





「……あれ?」

 山沿いを進みながら、見かけた妖を倒していると不可解なものがあった。

「…戦闘の跡?」

 木に残る何かが刺さった後や、術を使ったと思われる霊力の残り香。
 明らかに、戦闘の跡だった。

「(悪路王の所で見た跡とは違う……それに、この刺さった後は…)」

 木に残る跡は、あたしもよく見た事のあるものだった。
 ……矢が刺さった跡だ。

「(……式姫?)」

 現代まで生き残った式姫の誰かが、ここを通ったのだろう。

「(……戦ってるのは、あたし達だけじゃない)」

 きっと、生き残っていた式姫たちも、各地で戦っている。
 ……なら、あたし達も頑張らないとね。

「(まずは、北の門から……!)」

 気合を入れ直して、あたしは各地の門を閉じに向かった。











 
 

 
後書き
北上龍神…灌漑の際に、人柱を用いたとされ、川を恐れた人々の想いがその強さの後押しをしている。その力は、瘴気のようなものとなって、“見えない力”として襲い掛かる。

直立禁止…突属性の単体技。立っていられない程の威力で、霊力の波が突風のように襲い掛かる。

動作禁止…高確率スタンの打属性全体技。身動きできない程の力が、まるで重力のように襲い掛かる。

巨刺剣…簡潔に言えば、巨大なレイピアによる串刺し。力技である。無駄に大振りで、消耗も大きいが、今回の相手とは相性が良かった。

オンボノヤス…犬(狼)のような顔を持ち、胴は蛇のように長い霧のような妖。霧のような妖なだけあって、物理系の攻撃に耐性がある。……が、葵に描写される事なく倒された。


北上龍神については、137話の解説の補足です。
葵が見つけた式姫が戦闘した痕跡は、閑話12に出た式姫の一人です。 
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