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龍が如く‐未来想う者たち‐

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井上 慶介
第一章 禁じられた領域
  第六話 歓楽街

入り組んだ道を進み続け、地下へ通じるエレベーターに辿り着いた頃には太陽は少し傾いていた。
太陽を横目に見ながらエレベーターに乗り込むと、軽い振動の後静かに降り始める。
その間、井上の頭で様々な憶測を巡らせていた。

近江連合と檜山の過去、何かを成し遂げる為に井上に近付き手駒として使われている。
だとしたら、これ以上檜山と共にいるのは危ないのではないのか?
しかし東城会に繋がる鍵が、すぐ目の前まで迫っている。
逃げるべきか、着いていくべきか。
到着の合図と共に、その思考は掻き消された。


「俺の隠れ家の1つ、湧泉露へようこそ」


扉の先は、赤い絨毯の敷かれた広く長い道が伸びている。
その左右には様々なお店があり、まるで1つの街中が広がっていた。
キャバクラのキャッチらしき男が手招きしていたり、ドレスを纏った女は淡い眼差しで客寄せしている。
歓楽街と呼ばれるのも、(いささ)か納得だ。
普通にこの場所を見つけていたら取材でもなんでもしていただろうが、流石にそんな場合では無いうえに紅の顔が浮かぶ。
変な溜息が、微かに漏れた。


「じいさんは何でここに?」

「いい加減名前で呼べよ、小僧」

「……そっちだって名前で呼ばねぇやろ」

「悪かったな、だが名前を聞いてないから呼びようがねぇ」


檜山はにやけ顔で前を歩き出す。
どうもさっきから話をはぐらかされているようで、無性にイライラした。
後ろを追いかける井上は、聞こえるかわからない声で呟く。


「井上……井上慶介」


煙草を咥えた檜山は、笑いながら振り返って井上を見る。


「知ってたよ、情報屋を舐めんな」


今ここに誰もいなかったら、確実に拳を振るっていただろう。
鼻につく嫌味は檜山のお得意なやり口だと、何となくだが理解できた。
歩きながら咥えた煙草に火をつけ、大きく味わうように吸い込む。
吐き出した煙は虚空に消え、その煙に手を伸ばすかのように檜山は腕を突き上げた。


「俺ぁ昔、近江連合を裏切った。そんなつもり無かったんだが、かつて出会った男に情が移っちまったんだよ」

「近江の頭より、その男を選んだっちゅうんか?」

「人間って、ホントわからねぇよな。未来を約束された居場所より、未来を託した男を選ぶなんてよ。けど俺自身納得いってねぇから近江の連中を見返してやろうと、こんな情報屋を続けてる」


照れ臭そうに笑う檜山の顔は、嫌味を言い続けていたさっきまでの彼とは全然違った。
楽しかった思い出を語る子供のような、嬉々とした顔。
深くまでは語らなかったが、それでも片鱗は垣間見れた気がした。


「あー、喋りすぎた。桐生はこの湧泉露の1番奥にある、洎夫藍(さふらん)という店にいる」

「じゃあ、ここで別れるか?檜山さんよ」

「やっと名前呼んでくれたか。おじさん嬉しいからついて行くぞ、井上」

「……言わんかったら良かった」


後悔する最中、何処からか大声が上がったのが聞こえた。
明らかに2人を呼び止める声だが、スーツ姿の坊主男は見るからに嫌な予感しかしない。


「聞こえてんやろ!?お前ら!?」

「うるせぇ、今忙しいんや」

「神室町で会った連中、覚えとるか!?組員ボコボコにしやがって……!!」


神室町でタクシーに乗る前に会った男たちを思い出す。
東城会の代紋をつけた、3人の男。
この男は、その3人の頭なのだろうか?


「何だ、新聞記者なのに強いのか」

「速さに自信あるだけや。檜山、少しだけ待っとってくれ、すぐに片付ける」



宣言通り、男を倒すのは一瞬の出来事だった。 
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