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龍が如く‐未来想う者たち‐

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井上 慶介
第一章 禁じられた領域
  第五話 復讐の鬼

堂島の龍の名を馳せる桐生一馬が、大阪にいる。
その情報を聞いた時、不覚にも心が踊った。
裏の世界を知る者にとってその男は、もはや伝説に近い存在だ。
だが何故大阪にいるのだろうか?
紅は小さく笑って、酒を煽る。


「実はある事件で大怪我をして意識を失ってから、逃げる様に大阪に運ばれてとある人物に匿われてるの。東城会の目から逃れる為だと思うけどね」

「そこからずっと、意識が無いんか?」

「意識は無くても、東城会のトップ……6代目には大きく詰め寄れる人質になると思うわ」


いきなり東城会のトップに会えるかもしれない、またと無いチャンス。
それを逃すはずも無く、井上は不敵な笑みを浮かべた。


「そんな重大な情報タダで教えちゃっていいのか?復讐に取り憑かれた鬼みたいなアイツによ」

「あら?復讐の鬼は檜山……貴方じゃないの?」


全てを見通したかのような眼差しが檜山に刺さるが、一口で酒を飲み干した檜山も臆することなく紅を見つめる。
互いに察して、思わず笑みが溢れる。
だがそのやり取りは、井上の視界に入ることは無かった。

飲み終えた檜山は席を立つと、続けざまに井上も立ち上がる。
紅のお酒は2人が来てから3杯目に突入していたが、帰る様子は無さそうだ。
少し赤らめた顔を井上に見せながら、グラスを指でなぞる。


「桐生一馬は湧泉露(ゆうせんろ)という場所で匿われてる。でも匿ってる人物がアタシの知り合いだから、話通しといてあげるわ」

「湧泉露へは俺が案内してやる。とりあえずついてこい」


そう言った檜山が先に店から出るが、井上も出ようとした矢先に紅に腕を掴まれる。
さっきまでの妖艶な目つきとはうって変わり、今度は鋭く厳しい目つきへと変貌していた。


「気をつけて……檜山には、あまり深く関わらない方が良い」


掴まれていた腕が解放されると同時に、胸の奥が(ざわ)つく感覚が襲いかかる。
檜山はいけ好かない男で深く踏み込む気は無かったが、元近江連合という肩書きがどうしても気になって仕方なかった。
あの男は、何かを隠している。

井上は軽く頭を下げると、檜山を追う為に紅と別れた。
出て行くのを見送った紅は、膝の上に乗せていた鞄から煙草を取り出す。


「あの子……檜山と同じ目をしていた……。どうなるか見ものね」


煙草をふかしてぼやく紅の鞄から、点滅する赤い光が漏れていた。



店の外で檜山と合流すると、檜山は再びフードを深く被り顔を隠す。


「どうして顔を隠すんや」


疑問が無意識に口から飛び出していた。
自分の意識してないないタイミングだったからか、檜山も井上自身も驚く。
しかしその答えが返ってくることはなく、軽く鼻で笑って受け流した。


「湧泉露は、この大阪の地下深くに根付く歓楽街だ。面白がって記事にすんじゃねぇぞ」

「歓楽街……?知らんかった……」

「違法な奴らが集まる溜まり場だ。普通の人間なら、知るはずもないさ」


太陽が1番暑く感じる時間帯。
うだるような暑さが体に降り注ぐ中、2人は蒼天堀の街へ歩き出す。 
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