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儚き想い、されど永遠の想い

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152部分:第十二話 公の場でその十


第十二話 公の場でその十

「私にはお婆様が三人いるということになりますね」
「そうなりますか」
「はい、同じですね」
 こう婆やに話す。
「私達は」
「そうですね。血はつながっていなくとも」
「心で。祖母と孫になっていますね」
「そうしたことがあってもいいのですね」
「いいと。そう思います」
 真理は話してだった。その話の中でだった。
 二人はお互いの絆も確かめ合うのだった。それが今の真理だった。
 絆を確めてだ。彼女はだ。
「では。今度の舞踏会ですが」
「あの伊上先生の開かれるですね」
「その舞踏会に出たいと思います」
 舞踏会の話になった。その婆やのだ。
「是非共です」
「参加されるべきですね」
「そう思いますか?」
「詳しいことはわかりませんが」
 それでもだとだ。真理はまたしても前置きしてから話した。
「それでも今度の舞踏会はお嬢様にとって大事なものですね」
「はい、そうです」
 まさにだ。その通りだと答える真理だった。
「そうなります」
「それではです」
「八重垣姫になって」
「そのうえで向かわれて下さい」
 真理のだ。その背中を押しての言葉だった。
「そうして下さい」
「有り難う、婆や」
 真理は背中を押してくれたその婆やに礼を述べた。
 そのうえだった。彼女は今ジュリエットにはなるまいと思った。
 そのうえでだ。このことをだった。喫茶店、あのマジックにおいてだ。
 義正に話す。その歌舞伎のことをだ。話を聞いた義正はすぐにこう言った。
「では私はです」
「はい、貴方は」
「真理さんが八重垣姫ならばです」
「御相手のあのですね」
「はい、勝頼になります」
 彼になるというのだ。
「武田勝頼になります」
「そうなられますか?」
「なります」
 頬笑み真理のその整った顔を見たうえでの断言だった。
「そうなります」
「ロミオではありませんね」
「はい、ロミオにはなりません」
 それは決してだとだ。彼も言うのだった。
「何があろうともです」
「そうですね。そうなられますね」
「最早賽は投げられていますし」
「舞踏会のその場で」
「私達が私達自身のことを話し」
「そのうえでなるのですね」
 何になるのか。ロミオとジュリエットではないならばだ。
「武田勝頼と八重垣姫に」
「そうなりましょう。二人で」
「そうですね。敵対する者同士であっても」
 それでもなのだった。
「幸せになれるのですね」
「その例えは身近にありましたね」
 二人もようやく気付いたことなのだった。
 そのことを話してだった。二人は同じものをその心に宿したのだった。
 そのうえでだ。義正が言った。
「どうやら私達は遠くを見過ぎてもいたようですね」
「遠くをですか」
「はい、シェークスピアを」
 具体的にはこの英吉利の戯曲家の作品だった。
 
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