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とある3年4組の卑怯者

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93 昼食

 
前書き
 堀から彼女の家へと招待される事になった藤木はその日を楽しみに胸を躍らせる。一方、藤木が堀と共にいる姿を見た笹山は、一度藤木を嫌ったにも拘らず、嫉妬してしまった!! 

 
 藤木はスケート場で大会に向けての練習をしていた。この日は日曜なので午前から滑っていた。その上、堀とは今日は共に食事もするのだ。藤木は楽しみでたまらなかった。
(何としてもあの子に勝ってみせるぞ!)
 「あの子」とは船越小の和島俊の事だった。彼も藤木同様、スケートが得意な少年だった。藤木は一度その少年に圧倒されたが、堀の言葉もありで大会で勝ってみせると決心した。藤木はアクセルジャンプを練習していた。トリプルアクセルは3、4回ほど軽々とやってのけた。一滑りした所で堀が来た。
「藤木君」
「堀さん」
「調子良さそうね」
「うん、もっと頑張れる気がするよ。ちょっと休憩するよ」
「うん、少しそうしたほうがいいわね」
 藤木と堀がベンチで座っていると、一人の少年がスケートリンクに入った。
「ん、あれは・・・!!」
 藤木は驚いた。あの和島俊だった。スリーターンもステップシークエンスも、サルコウジャンプも、さらにアクセルジャンプも簡単にこなす。
「藤木君?」
「あの子だよ!僕が会った強敵は!」
 藤木は和島の姿を見た。和島も藤木の姿に気付いた。
「やあ、キミ。調子はどうだい?」
「まあ、いい調子さ」
「そうか。ならよかったね。まあ、ボクに勝てるわけないだろうけど」
「む・・・」
 藤木は和島の見下す態度が気に入らなかった。
「なら、僕も見せてやるさ」
 藤木も滑り出した。ステップを踏んでいく。まずトリプルルッツ。そしてダブルループ、そしてスリーターンしてトリプルアクセルした。そしてトリプルトウループ、そしてキャメルスピンを決めた。どれもぶれる事はなかった。
「藤木君、凄いわ!」
 堀は拍手した。
「う・・・!」
 和島も藤木に触発されてジャンプやスピンを始めた。
「どうだ!?」
「凄いね。でも本当にどっちが凄いかは大会当日までわからないよ」
「まあ、そうだね。だけど、キミは僕に負ける。ボクはダテに練習していないからね」
「こっちだって同じさ」
 藤木と和島はお互い睨みあった。
「じゃあ、僕はまた休憩させてもらうよ」
 藤木はまた休憩に入った。堀が藤木に呼び掛ける。
「藤木君、あの子だったのね。強敵って」
「うん、彼は船越小の和島俊っていうんだ」
「私、確かのあの子も自信に満ちててやるかもしれないって思うけど、藤木君ならきっと勝てるわよ。頑張って!」
「ありがとう、堀さん」
 その時、片山が現れた。
「やあ、藤木君。さっきの様子、見ていたよ」
「片山さん!?はい、今は順調です。ただ、ライバルが現れて少し不安ですが・・・」
「ライバル?ああ、キミと同じように軽々と滑ってしまうあの子か?まあ、彼も素晴らしいが、君もそれなりの才能がある。簡単に負けはしないだろう。今度の大会は是非、私も拝見させてもらうよ」
「え?はい、ありがとうございます!」
「では、頑張りたまえ」
 片山は去った。
「よし、また練習を始めるぞ!」
 藤木はスケートリンクに入った。

「それじゃ、ボクはこれで失礼するよ。精精頑張ることだね」
「うん・・・」
 和島は帰った。
「藤木君」
 堀が呼んだ。
「今日もかっこよかったわよ。行こう、私の家に案内するわ」
「う、うん、ありがとう」
 藤木は堀に手を繋がれ、スケート場を出ていった。
「そういえば今日はみどりちゃんいないね」
「あの、その、昨日迷惑かけちゃったし、藤木君の練習を中断させちゃったからね。今日はそのお詫びのつもりで一人で来たの」
(お詫びにしては随分すごいもてなしだと思うけどな・・・)
 藤木はそう思いながらも堀の家へと向かった。

 笹山は忘れようと思っていた筈の藤木がどうしても気になってしまっていた。
(藤木君はあの日すれ違った時、スケート靴を持ってた・・・)
 「あの日」とは藤木が不幸の手紙を出した事で学級会で皆から批判を受けて晒し者にされた日である。その放課後、藤木は開き直ったのか、気を紛らそうとしていたのか、スケート靴を持っていたのでスケートしに行ったのかと思った。笹山はその時藤木とすれ違っていたのでよく覚えていた。
(もしかしてスケート場であの子と知り合ったの・・・?)
 笹山はたまたま藤木が気になってスケート場に行った時、見知らぬ女子と一緒に歩いていたのを見ていた。そして藤木が自分とリリィに嫌われた事でその傷心を癒す為にその女子を好きになるのではないかと思っていた。

 堀の家に着いた。借家の藤木の家とは異なり、立派な家に見えた。
「只今」
「お邪魔します」
 堀の母親が出迎えた。
「お帰り。貴方が藤木君ね。うちのこずえと仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそお世話になっています・・・」
 藤木はやや畏まって挨拶した。昼食をご馳走になった。御飯に回鍋肉に味噌汁、さらに生野菜サラダや南瓜の煮付けが食卓に老いてあった。堀の母は「昨日の残り物だけどごめんね」とは言っていたが、どれも藤木には美味しく感じた。藤木は食事をしながら堀の両親と話をした。
「ところで藤木君はこずえとは学校違うのにどうやって知り合いになったんだ?」
 堀の父が藤木に質問した。
「あの、それは、堀さんの友達がうちの学校の女子と友達で、それで知り合ったというわけです」
「複雑ね。友達の友達の友達って」
「はい」
「それにしてもこずえが男の子を招待するなんて珍しいわね。こずえって藤木君が好きなの?」
 母親に聞かれて堀は顔を赤くした。
「う、そんな事は。吉川さんが藤木君を好きだし・・・、私はその・・・」
 堀はどう言い訳しようかと四苦八苦した。
「でも僕から見て堀さんはいい人です。僕のスケートを褒めてくれましたし、僕の学校での悩みを聞いてくれたりして・・・、それに僕をスケートの大会に出るように薦めたのも堀さんなんです!」
 藤木が堀に恩を感じるように言った。
(藤木君・・・)
「僕、スケート以外取り柄がないのですが、その唯一の取り柄で頑張ろうと思ったんです。これも皆、堀さんのお陰なんです・・・」
「ありがとう、藤木君。これからもウチの子と仲良くしてね」
 堀の母は藤木に謝意を示した。
「はい・・・」
 こうして藤木は堀家の昼食を楽しんだ。 
 

 
後書き
次回:「遭遇(はちあわせ)
 堀家での夕食を楽しんだ藤木は堀に送られる形で自分の家に帰る事になる。ところがその途中、藤木と堀は笹山と遭遇する。そして藤木に詰め寄る笹山は堀にまで敵意を向け・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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