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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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正規空母・瑞鶴と提督の話

 これは、怪談っていうより都市伝説の類いの話なんだけど。艦娘の間で最近、真しやかに囁かれてる話らしいんだよね。らしい、っていうのは私も直接聞いたんじゃなくて、ネットの掲示板みたいな所で見た話だから。

 私達艦娘って、同じ名前とほぼ同じ見た目を持った身体で生まれて来るでしょ?それって、大元になったマスターシップと呼ばれてる艦娘のクローンの身体に軍艦の魂……艦霊(ふなだま)を定着させてるからだ、っていうのは基礎知識として教わってる。でも、建造の際の僅かな異物混入や妖精さんのちょっとしたミス、手違いその他諸々……とにかく、色んな要素が噛み合って微妙な『誤差』っていうか、『個性』が生まれるんだって。肌の色や髪の色の違いとか、瞳の色とか、ホクロの位置とか。勿論、他の鎮守府の娘と会った時に性格が違うのも個性よね。そのくらいの誤差なら問題なく送り出されるんだけど……人間と同じで、凄く確率は低いけど知的障害や奇形なんかの、とても戦力として送り出せない娘が生まれる事があるらしいの。

 で、問題はここから。その艦娘のなりそこない、艦娘としても人間としても生活は難しいから、解体処理されるんだって。解体処理っていうのは……まぁ、そういう事よね。それで、各地の鎮守府を纏めてる大きい鎮守府の地下には秘密裏に解体処理するための施設があって、そこに各地の鎮守府で生まれちゃったなりそこないを集めて極秘で解体処理してるんだって噂があるらしいの。ここってさ、ブルネイ周辺にある鎮守府の元締めじゃない?もしかしたらだけど、この鎮守府の地下にも解体処理施設があったりして。だとしたら、問題はその地下処理施設に通じる秘密の通路があったりして……なんてねっ!





瑞鶴「……っていう話をネットの掲示板で見つけたんだけど。どうかな?」

赤城「万が一、それが本当だとしたら……」

蒼龍「恐ろしい話だよね」ブルッ

飛龍「極秘の施設なんだから、もし見つけちゃったりしたら」

翔鶴「消される、んでしょうね」ゾクリ

加賀「……実際の所、どうなの?」

提督「……………………」

瑞鶴「ちょ、ちょっと提督さん!黙り込まないでよ!あくまでも都市伝説だから、そんなの嘘だよね!?」

提督「……………………」

瑞鶴「ちょ、ちょっと!?」

提督「……さてね。俺もそんな話は聞いた事がねぇな」

赤城「………………?」

提督「さてと、次は誰だ?話す奴がいないなら俺が話すが。……居ないみたいだな、なら俺の話を始めよう」




 お前らの怪談話ってなると、やっぱり海か鎮守府が絡んだ話になるからな。気分を変えて山に纏わる怖い話……というか、俺が実際に体験した話をしてやろう。あれは……そう、俺が高校生の時の話だ。

 時期はちょうど冬休みでな。当時高3で既に進路も決まってた俺とダチ数人でスノボでもしに行こう、って話になってな。冬休み前から計画を立てて、スキーのパック旅行を予約したんだ。つっても、金のねぇ俺達だから移動は高速バスの低予算旅行。スキー場は青森の某所、って事になった。

 んで、その旅行への出発日。ちゃんと全員集まった俺達は、美人なバスガイドに期待しつつバスへと乗り込んだ。しかし、ガイドさんは小太りのオバチャン。なんだBBAかよ、と少し……いやかなり凹んだ俺達は意気消沈したままバスに乗り込んだ。

 だが、このオバチャンバスガイドがベテランならではのトークで面白く、道中は中々楽しませてくれた。そしてバスが消灯時間になり車内が薄暗くなると、近くの席に座っていた俺にオバチャンが話しかけてきた。

『そういえば知ってるかい?もうすぐ八甲田山の麓に差し掛かるけど、冬の八甲田には“出る”って』

『いや、聞いた事が無いっすね』

 お前らは知ってるか?八甲田山遭難事故の話。

瑞鶴「あ、私知ってるかも。それって雪中行軍訓練中の事故って奴でしょ?」

 そうだ。太平洋戦争より前の日露戦争……ロシアが上陸して攻めてきた時に備えて、1902年・冬の八甲田山で行われた雪中行軍訓練。装備がショボかったり参加者の認識の甘さで210人中199人の死者を出した日本史上最悪と言われている遭難事故だ。

蒼龍「うぇ……210人の内11人しか生き残らなかったの!?」

飛龍「損耗率90%以上とか、ヤバすぎ……」

 生き残っても、手足が凍傷で使い物にならなくなったりしてたらしいがな。寒さの余り、発狂して全裸になり全身凍傷の死体とか、凍りすぎて粉々になった死体とかが現場には転がってたらしい。その事件が終息してから、八甲田山付近を通る旅人や近くの軍の駐屯地には、冬場に大量の人が歩く足音や行軍ラッパの音が響いていたらしいな。当時化けて出てきた連隊の連中に、駐屯地の指揮官が『靖国で供養する』とでまかせを言ったせいで怨みが増した、なんて話もあるらしいが。

 で、本題はここからだ。バスガイドのオバチャンが言うには、八甲田山を通る時にたまにだが沢山の人が歩く足音がするらしい。ザッザッザッザッ……と軍隊の行進するような規則正しい足音が。んで、それを聞いた奴は手足に刺すような痛みを感じるらしいんだよな、まるで凍傷に掛かったみたいに。同じバス会社のバスガイドも、何人も経験しているらしい。

赤城「遭難した連隊の方々の痛みを追体験しちゃうんですか……」ゾクリ

 勿論、俺はそれを鼻で笑った。幽霊なんて信じちゃいなかったしな。アホ臭い、と俺は車内で配られた毛布にくるまって目を閉じた。

 それから数時間位経った頃だったろうか。不意に俺は車内でヒヤリとした空気を感じたんだ。けどおかしいだろ?真冬に雪山の中を縫うように走るバスの車内だ。窓を開けているようなバカはいないし、暖房もかかっていて車内は暖かいハズ。事実、寝る前は凄く快適ですぐに寝付ける程だったんだ。それがいきなりの冷たい空気で目を醒まさせられた。そしたら、窓の外から聞こえてくるんだよ……ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッて。雪を掻き分け、踏み固めるように進む足音が。まさかと思ったね、俺ぁ。あのオバチャンが言ってた事は事実だったのかって。足音がするなら外には遭難した連隊の幽霊がいるはずだ。窓にかかったカーテンを少し避ければ、外の様子が窺える。よし、どうせならその姿を確認してやろうってな。そう決意してカーテンに手をかけようとした、その時だ。

『止めときな、魅入られて参加させられるよ』

 オバチャンバスガイドに止められたんだ。話によると、外の様子を窺って、万が一連隊の行軍を目撃すると魅入られて山で遭難するらしい。そして遭難した奴は連隊に組み込まれ、いつ終わるとも知れない行軍を続けさせられて成仏も出来ないんだそうだ。

『ウチの会社の若い娘も1人やられてね。それ以来八甲田を越えるまで眠らないようにしてるのさ、アタシは』

 乗客の中に外を見ようとしている奴が居ないかをチェックしているらしい。その話をしている最中も、外から足音が聞こえていた。やがて足音が遠ざかり、一安心と思った瞬間、足に激痛が走った。つったのかとも思ったが、刺すような痛み。まさかと思って靴を脱いだら、足が赤く腫れてやがった。後で病院に行ったら……軽い凍傷になりかけていたとさ。変だよな?まだ雪にも触ってねぇ上に、暖房の効いた車内で凍傷になりかけるとかよ。

 これで俺の話は終わりだ。スキーやスノボは嫌いじゃないが、冬の八甲田山方面だけは今も行かないようにしてる。





蒼龍「怖っ!」

飛龍「もう100年以上経つのに、まだ成仏出来てないんだ……」ガクガクブルブル

翔鶴「部屋の中なのに、震えが……」ブルッ

瑞鶴「あ~怖かった。でも、加賀さん悲鳴でも上げるかと思ってたのに」

加賀「」←白目 

一同『き、気絶してるー!?』

提督「加賀も気絶しちまったし、今日はこれでお開きだな」

瑞鶴「えー!?もっとやろうよぉ」

提督「バカ、明日は他の鎮守府から演習に来る予定だろうが。布団用意して、さっさと寝るぞ」

赤城「あ、一緒に寝てくれるんですね」

提督「……加賀が離してくれないんでな」

加賀「」←気絶しつつも提督をガッチリホールド 

一同「あっ(察し)」

提督「さ、とっとと寝床の準備すんぞ」

飛龍「はーい」

赤城「……………」

翔鶴「どうしたんです?赤城さん。深刻な顔して」

赤城「さっきから提督の態度、変じゃありません?」

翔鶴「さっき?」

赤城「鎮守府絡みの怪談話をしていた時、すぐに話を切り上げようとしてましたし」

翔鶴「気にしすぎじゃないですか?私には普段通りに見えましたけど……」

赤城「まぁ、思い過ごしならいいんですけど」



 






 
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