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龍が如く‐未来想う者たち‐

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井上 慶介
第一章 禁じられた領域
  第二話 幹部の接触

バーを出た井上は、駅に向かうためタクシーを待っていた。
井上が働く新聞社は大阪の為、今から帰らないと出社に間に合わない。
また暫く、神室町とはお別れ。
いつもの様に待っていると、その日は思わぬ来訪者が現れる。

「お前が、井上か?」

黒服の男が、3人。
全員、見知らぬ男だった。
ただ胸に付けられた共通の物は、井上も見覚えがある。

「代紋……お前ら東城会か?」
「ガキのくせに東城会探って、調子乗っとるって聞いたぞ」
「どこ情報なんや、じーさん」

井上は不気味に笑い、着ていた半袖パーカーのフードを深く被る。
じーさんと呼ばれた男は、顔を真っ赤にして怒りに震えた。

「なめんじゃねぇぞクソガキ!!」

男が1発大振りで拳を振るうが、井上は余裕でそれを避ける。
大振りだから避けられた。
そう考えた男たちは3人がかりで殴りかかるも、拳は1発も当たる事は無かった。
井上は余裕の表情で、疲れた男たちを見下す。

「邪魔せんでくれ。お前らに構っとる暇無いんや」

そう呟くと、1人ずつ男を気絶させる。
終わる頃にはタクシーは井上を迎え、何事も無かったかの様に乗り込んだ。
タクシーは駅に向かって、夜の街に消えていった。




大阪の蒼天堀。
今の井上の拠点であるこの場所は、麻田との思い出の地でもあった。

『俺は東城会で、トップを目指す!で、お前は何だ?』
『親父と同じ、近江連合に入るよ』
『そっか!じゃあいつか、夢が叶うといいな!!』

麻田と、夢を語った地。
親友と未来を、語った地でもある。
井上も昔は、極道に憧れていた。
父の背中を、ただ追いかけていた。

あの日が訪れ、全てを壊されるまでは……。


思いを馳せ、会社に向かって歩く。
それを阻止するかの様に、突然井上の携帯が鳴り出した。
ポケットに突っ込んでいた携帯を取り出すと、会社の上司からのメールが届いている。

『会社の裏路地に来い』

えらくアッサリした文面に、井上は違和感を覚えた。
この上司とは、5年の付き合いになる。
心を開かない井上が、珍しく心を許した男。
昔から気にかけてもらえた、優しい上司。

だから知っていた。
こんなメール、あの人はしないという事を。
何かに巻き込まれたのだろうか?
それとも罠か……。
神室町で出会った、東城会の代紋を付けた男たちを思い出す。
そこで井上は何かに気付き、走り始めていた。

幸い、会社からはそう遠く無かった。
5分程で会社に辿り着き、隣の路地裏への道へと入る。
嫌な予感が、的中した。
井上の上司が、何者かに胸ぐらを掴まれている。
その顔は、目をそらしたくなるほど腫れあがっていた。

奈浜(なはま)さん!?」

上司の名を叫ぶ井上に、犯人がピクリと反応する。
ゆっくり振り返る男は、ニタリと笑っていた。

「お前か、井上って奴は……」

振り返った男の顔に、見覚えはない。
東城会の代紋を付けた、緑のバンダナの男。

「誰や……?」

「俺は喜瀬。東城会喜瀬組の組長、喜瀬晃司だ。神室町でボコボコにした奴ら、覚えてるか?」

やはり、神室町の男と関係があった。
恐らく奴らは、喜瀬と名乗ったこの男の部下なのだろう。
危険を察知した井上は、姿勢を低くして身構える。

「わかってるんだな、お前がしている事」

「あぁ。復讐の為の、第一歩って事やな!!」

屈んだ身体をバネの様に伸ばし、飛びかかろうとする井上。
それに対抗せんと喜瀬も身構えるが、何者かの乱入が全てを止めた。
黒コートの、この時期に似合わない格好。
その人物が間に入ると、喜瀬も井上も思わず固まる。

少しの沈黙の後、黒コートの誰かは井上の手を掴んだ。

「来い!!」

「えっ!?ちょ……」

「良いから逃げるんだ!!」

あまりの力強さに抵抗できるはずも無く、井上はそのまま引っ張られていく。
上司の奈浜が気になり振り返るが、そこに奈浜の姿は無い。

「お前の上司は、俺が運んだ。今は気にすんな」

「あんた、何でその事を……」

それ以上、会話は続かなかった。
 
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