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ハルケギニアの電気工事

作者:東風
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第16話:領内改革!(その2-2)

 
前書き
遅くなりまして、申し訳ありませんでした。
1/5に転職のため引っ越しを行いましたが、インターネット回線の開通に時間掛かりUPできませんでした。
どうか、お楽しみください。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 今日は虚無の日。基本的にお休みの日です。ウイリアムさんもキスリングさんも今日はお休みになっています。
 昨日、父上や母上と話をしたように、今日は皇帝閣下の所に行って、今回の調査結果について報告します。普通の報告なら報告書として書面で送っても良いのですが、今回はエルフとの事があるので、無駄な誤解を生まないように直接会って話す事にしました。
丁度虚無の日で、僕がいつも通り皇城に行くことに違和感もありませんから、話のついでに皇帝閣下にもお土産を持って行こうと思います。

 もうすっかり慣れている、屋敷から首都『ヴィンドボナ』までの空路を『ヴァルファーレ』に乗って飛んでいきます。なぜか僕が『ヴィンドボナ』に行く日は天気が良くて、雨になった事は一度もありません。何かあるのでしょうか?

 いつも通りの快適な空の旅を終えて、皇城に着きました。近衛の竜騎士隊が上がってきましたが、顔なじみの方なので顔パスで皇城の庭に降りる事が出来ます。

 『ヴァルファーレ』には一度異界に戻って貰い、迎えに出てきた女官のスピネルさんと世間話などしながら皇城の奥に進みます。途中で少しですが、ドライフルーツを分けてあげました。珍しい甘味なのでとても喜んでくれましたよ。
 やがて謁見室の控えの間について、待機していた侍従さんにスピネルさんが取り次ぎをお願いすると、すぐに入室の許可が下りました。

「皇帝閣下。早速お目通りをお許し頂き有り難うございます。」

「アルバート。良く着たな。1週間前に比べるとずいぶんと黒くなったが何かあったのか?」

「恐れ入ります。このたび領内改革の為新たな事業を興そうと考えております。その事業に必要な資源を探す為に南方に調査に出ておりました。昨日帰ったばかりでございます。」

「南方とな。いったいどのあたりまで行ってきたのだ?」

「はい、本日はその事についてのご報告とご相談がありまして参上しました。お許し頂ければお人払いをお願いしたいのですが。」

「何か、他人に聞かれるとまずい事でもあったか?まあ、良いだろう。」

 皇帝閣下は、側にいた侍従に命じ、謁見室にいたすべての人を外に出しました。その後、ドアにロックの呪文を掛け、続けて室内にサイレントの呪文も掛けてくれました。

「これで大丈夫だろう。話してみなさい。」

「有り難うございます。まずは此方をお納めください。」

 そう言って、父上に上げたのと同じお酒の瓶と姫様達へのお土産にドライフルーツを皇帝閣下に渡しました。

「これは干した果物か。見た事のない果物だ。こっちは酒か?珍しいラベルだな。絵柄も文字も見た事がないが、これが何か問題でもあるのか?」

「そちらの干した果物はドライフルーツと言います。南方でしか採れない果物を暑い気温と低い湿度でじっくりと干した物です。姫様達が喜ぶと思い持参しました。お酒については中身の酒自体に問題はありません。私の両親もとても美味しいと申しておりました。問題はこの酒を貰った場所とくれた人にあります。話すと少々長くなりますが、お聞き願います。」

 ………かくかくしかじか………

「こういった事情で、今回の調査に出かけた訳です。そして調査の3日目にキャンプをしていた場所でこんな事がありました。」

 ………かくかくしかじか………

「そして、私は助けたアルメリアさんというエルフの女性と一緒にエルフの集落へ行きました。その集落の代表という方とこのような話をしました。」

 ………かくかくしかじか………

 皇帝閣下は驚いた表情を隠しきれずに手を握りしめていましたが、最後まで言葉を挟まず聞いてくれました。

「以上がこのたびの調査で起こった出来事です。」

 皇帝閣下は今まで息を詰めていたのか、大きく息を吐くと少し汗のにじんだ額に手を当てて、言いました。

「話は解った。この際だ、おまえが一人でそんな遠くまで調査に出かけた事は許そう。後でアルバードには一言言いたい事があるが、それも今は良い。問題はそのエルフの事だ。
よりにもよって、一人で出かけてエルフに出会い、そのエルフを助けて友となるばかりか、エルフの集落に連れて行かれて代表者にもてなしを受け、その上出入りの自由を貰ってくるなど、ゲルマニアどころかどこの国でも考えられぬわ。」

「確かにそうでありましょうが、エルフと出会った事も偶然なら、助ける事が出来たのも偶然です。出会っていきなり争いになっていれば、おそらく生きて帰る事も出来なかったでしょうし、友好を結ぶ事ができたのは怪我の功名というか、非常に幸運であった事と考えますが。」

「それは普通の人間の間で考えればそうだろう。だが、エルフとは6000年もの昔から聖地を奪った仇敵であり、幾度となく起こった戦での恐怖の敵というのが各国共通の考えだ。特にロマリアやトリステインあたりは心底憎んで、そして恐れている。そんな者達にすれば出会ったとたん争いとなるのが当然で、友となる事など考えられないであろう。ましてや友となったなどと知られれば絶対に異端者として抹殺されるぞ。」

「それは十分に認識しております。ですから公表するような事は致しません。今のところこの件を知っているのは私の両親と閣下だけです。私があちこちで話すような愚を犯さなければ他人に知られる事もないと思いますが。」

「妥当な考えだ。それで、いったいおまえは何をしたいのだ?まさか、出会ったエルフに惚れて嫁にしたいとでも言う訳ではないだろうな?」

 にやりと笑って、そんな事を聞いてきます。

「閣下。たしかに同じ年頃の子供達と仲良くなる事ができたのでちょくちょく遊びに行きたいとは思っていますが、嫁にしたいなどと考えた事など有りません。私が助けたアルメリアさんはすごい美人で、見た目も20歳前後でしたから、閣下がご覧になれば愛妾として欲しがられるかもしれませんが。」

「ほう。そんなに美人であったか。それは是非紹介して欲しいものだ。」

「まさか、こんな所まで連れてくる事ができる訳もないでしょう。お戯れはご勘弁願います。
話を戻しますが、私はエルフの集落との通商を考えております。エルフの集落で貰った土産は、どれも此方の地では見た事のない珍味ばかりでした。魚も獣も此方にいない種類のものでしたのでゲルマニアばかりでなく各国で流通させて、料理の仕方等を教えることができればかなりの商売となるものと考えます。」

「それをおまえが考えて実行しようとしているのか?万一食材の出所が露見したらどうなると思っているのだ?」

 えらく呆れられているようですね。

「心配があるとすればガリア位でしょう。東方からの輸入品とすれば特に問題有りません。何しろ、実際に何処から輸入してくるか確認できる者などいないのですから。」

「ずいぶん自信があるようだが、何か策があるのか?」

「まず、エルフの集落までの距離が有りすぎます。風竜やマンティコアなどの幻獣で行こうと思うと途中で何回休まなければならないか。休める場所も確保できないでしょうから、非常に難しいものと考えられます。
今のところルートを持っているのは私だけです。しかもそのルートを使うにも『ヴァルファーレ』がいる事が前提となりますから、他人が使う事は無理でしょう。何しろ、高度5000メール以上を時速800リーグ以上で飛行するんですから、付いてこれる幻獣などどこにもいないと思いますよ。」

「つまり、後を付けて証拠をつかもうにも、着いていく事ができないという訳か。」

「そうなります。問題は大量輸送するにも輸送隊も付いてこれない事です。そこで、エルフとは関係のない場所に集積所を設けます。
ここまでは私が『ヴァルファーレ』で物資を輸送し、集積されたものを私の領の輸送隊が運ぶようにします。これなら、輸送隊はエルフには関係なく物資を運んでいるだけとなりますから、誰にも文句は言えません。」

「そうすると、その集積所とやらまで、おまえの『ヴァルファーレ』でどれだけの物資を運ぶ事ができるかが鍵となるが、そちらの方はどうなのだ?」

「今回は調査でしたので物資輸送の準備はしていきませんでしたから、お土産に貰った少量の品を『ヴァルファーレ』の背中に乗せてきました。実際に輸送を行う場合は、大きな網で出来た籠を作り、それに物資を入れて『ヴァルファーレ』に足で持って運んで貰います。輸送の速さを重視するため少し抑えますが、それでも竜籠3頭分以上を運べると思います。」

「一度に竜籠3頭分か。確かにかなりの量になるだろうな。」

「はい。しかもエルフの集落から集積場所までの距離は、『ヴァルファーレ』なら余裕で1日2往復できますから、合計竜籠6頭分の輸送量となります。」

「本気で『ヴァルファーレ』を輸送用に欲しくなったぞ。それだけの輸送能力が有れば武器弾薬の補給も楽になるからな。まあ、おまえの大切な使い魔だから取り上げようとは思わないが。」

 目は半分位本気でしたね。たしかに、『ヴァルファーレ』の能力があれば輸送なんて朝飯前になるのでしょうが、そんな事をやっているより直接『ヴァルファーレ』に攻撃させてしまえば、戦争なんてあっという間に終わってしまうでしょうに。

 その後も1時間位相談を続け、何とか許可を頂く事が出来ました。これで色々な事に掛かれます。皇帝閣下にお礼を言って退室し、今度はスピネルさんと一緒に書庫に移動しました。エルフ関係の文書が幾つかあったと思いますから、ちょっと見ておきましょう。

 書庫に入って、歴史関係の棚と各国の情勢関係の棚にエルフ関係の文書が数点有りました。全部を机まで運んで内容の確認をします。やっぱり、詳しい事は書いてありませんでした。
 ほとんど、今までにあった聖地回復の戦いの記録や、噂話などの曖昧な記録で、伝承としてもまともな物はありません。エルフの強さがスクエアクラスのメイジ10人分位とか、魔法を跳ね返すとかいった、原作でも出てくるような事は良いのですが、人間を食ってしまうとか夜な夜な人間の町にやってきて人を掠っていく等という、あんまりな記述が見られて参考になりませんでした。
 これでは、お化けや妖怪を怖がって書かれた怪談話と変わりませんね。それだけ恐れられていると言う事でしょうけど、もう少し相手を研究する人がいても良いと思うのですが。

 たいした成果を上げる事が出来ないまま、お昼になってしまい、スピネルさんに食堂に連れて行かれました。今日はお昼まで頂く予定がなかったのですが、姫様達も待っているとの事で逃げられませんでした。
 皇帝閣下も交えて昼食を頂き、食後のティータイムのおしゃべりは姫様達から旅の話をせがまれて、エルフ関係の事をうまくぼかしながら椰子の木やゴムの木を探した事を話しました。
ドライフルーツを気に入ってくれて、もっと欲しいと言われましたので、また入手したら持ってくる約束をしました。
 姫様達が好んで食べていると他の貴族達にも伝われば、良い宣伝になります。ドライフルーツは絶対に売れるでしょう。

 今日はゆっくりしていく暇はありませんので、昼食後はすぐに帰る事にします。皇帝と姫様達にお別れを済ませ、スピネルさんと庭まで戻りってくると、すぐに『ヴァルファーレ』を呼んで、スピネルさんにお礼を言って屋敷に向かいました。

 屋敷に帰り着くと、そのまま父上の執務室に行き、皇帝閣下と話し合った事を報告しました。

「そういった感じで、皇帝閣下には許可を頂く事が出来ました。実際に通商を始めるには少し時間が掛かると思いますが、絶対成功させて見せます。」

「解った。その時は輸送隊を編成して手伝わせればいいのだな。途中の集積所やルートについてはしっかりと確保して、輸送隊の兵士達に教えるように。途中で迷子になりましたなどと、冗談にもならないように注意しなさい。」

 今日できる事はここまでです。お昼ご飯は食べて来たので、午後からは久しぶりにメアリーと遊んであげました。今週はずっといなかったので、寂しがっていましたから嬉しそうでしたよ。ままごとやしりとり、あやとりなど、僕が前に教えた遊びをしていると、なぜか途中から母上も混じってきて、こちらも楽しそうにしています。メアリーより一生懸命になっているのを見ると、なんと言っていいのか解らなくなりますが、この際ですから良しとしましょう。気にした方の負けです。

 そんなこんなで休みを終わり、週明けです。今日は面接日ですから、気合いを入れて行きましょう。ウイリアムさん達が色々調整してくれて面接する人数も30人位にすることが出来たそうですが、面接時間が一人あたり10分としても30人で300分、つまり5時間も掛かる訳ですから、途中に昼休みを入れれば6時間です。
 どんな人が来てくれているか楽しみですが、掛かる時間を考えると少し鬱になります。面接開始は9時なので、それまでに面接場所の準備や書類の再確認をしておきます。『改革推進室』1階の玄関側に面接控え室を用意しました。屋敷の執事を2人貸して貰い、面接希望者の面倒を見て貰います。最後の人は6時間も待つのですから、お茶や軽食位は出してあげないと可哀相ですからね。

 8時位から面接希望者が集まってきました。遠方の村から来た希望者は予め決められた宿に宿泊しているはずですから、旅の疲れも取れていることでしょう。
2階の窓からやってくる人たちをのぞいてみると、みんな希望と不安で一杯と言った感じです。自分が就職した時を思い出します。考えてみれば自衛隊って入隊する時も入ってからも試験と面接が良くありました。年に2回位有るので、すっかり面接慣れして、受け答えもマンネリ化していたような気もします。

 昔の事を思い出していたら時間になったようですね。それでは面接を開始しましょう。 
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