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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百四話 帝都オーディンに帰還します。

 帝国暦488年1月29日――。

ベルンシュタイン中将以下敵の捕虜を分散させた輸送艦隊を従えて、エリーセル遠征軍は凱旋の途に就いた。それに呼応するように、帝都オーディンから少なからぬ艦隊が出て残存戦力の捜索を開始したとの報告が入った。フォーゲル、エルラッハ、シュターデン、そしてブリュッヘルの行方が以前としてわからないためである。


某所――。
「おのれ・・・・。金髪の孺子め・・・・。」
シュターデンが悔しがる。敗残の身を彼らはあちこちの傷と共に示していた。
「ここにいる限り、孺子めらが貴君らを見つけることなど出来ん。」
暗がりの中から声がする。一人二人ではない集団が彼らの前にいるのだ。
「ゆるりと過ごしていただこう。その代りに我々の頼みに少しばかり協力してほしい。」
「協力とは?」
エルラッハ少将が尋ねる。
「なに、簡単なことだ。あるものを帝国に広めるべく力を貸してほしい。ただそれだけなのだよ。」
「それは何だ?」
フォーゲル少将の問いかけを、首座らしい人間はいなし、敗残者たちを下がらせた。
「彼らの戦力は少なからずこちらの目的を達成するのに一役買う事だろう。あれを蔓延させるのに思いのほか手間取っていたが、ようやく糸口が見えてきたな。」
彼らが去った後一座の一人が感慨深そうに言った。
「見ているがいい、金髪の孺子めらが。あれが蔓延した時、貴様たちとてどれほどの正気でいられるか、見させてもらおうか。」
首座の人間のつぶやきが闇に流れた。

フフフ・・・という女性の含み笑いがどこかで聞こえたような気がした。








* * * * *
遠征軍総旗艦ヘルヴォール 自室にて――。
■ サビーネ・フォン・アルテンシュベルク(リッテンハイム)
 ブラウンシュヴァイク公爵が死んだ。私のお父様、そして、お母様やお兄様たちの仇だと思っていても、どこか割り切れない、すっとしない、胸のつかえが降りない・・・・。
 私の胸の中でいつまでも反芻している事がある。それは、ベルンシュタイン中将の裏切りで死んでしまったあの方は、最後何を思っていたのだろうという事。
 貴族、本当に何なのだろう。今まで私は自分の家、自分の家柄は特別なものだと思わされていたし、そのことに何の疑問も持たなかった。けれど・・・・。アレーナお姉様たちに出会ってから私の考え方はすっかり変わってしまった。
 死に、貴族も平民もないのだわ。ううん、それだけじゃない。生にもまた貴族も平民もないのだわ。私たちにあったものは、特別な運勢や家柄、能力なんかじゃない。ただ、力があったから。皆を従えられるだけの財力、そして力があったから。私たちはそれを持っていながらそのことに誰も気が付いていなかったのだと、そう思うの。

 お父様・・・・・お母様・・・・。私、お父様やお母様、お兄様たちの仇、ブラウンシュヴァイク公爵を討ちました。でも・・・・私は嬉しくはありません。満たされもしません。それどころか・・・・とても、悲しくて・・・・・。

 今は気持ちの整理がつかない。お父様、そしてブラウンシュヴァイク公爵の死が、せめて・・・・せめてローエングラム公、そしてアレーナお姉様たちの切り開く未来への道標となるのであれば――。

 そう、せめてそれくらいは――。





* * * * *
帝国暦488年2月15日――。

帰路は何事もなく、帝都オーディンに凱旋した遠征軍は熱烈な歓呼の声と共に迎えられた。幾万もの群衆が詰めかけ、それを警備する兵隊と押し問答を繰り広げている。
 ラインハルトの姿は見えなかったが、イルーナ以下主だった将官は軒並み出迎えに出ていた。ヘルヴォール艦橋でフィオーナは少し複雑な思いで旗艦が接舷するのを待っていた。教官とあんなに言い争いをした後にどういう顔をして会えばいいのだろう。
「接舷、完了しました。・・・・提督?」
ヴェラ・ニール艦長が話しかけた。不思議そうな顔をして。
「えっ!?・・・あぁ。・・・ありがとう。」
背を見せて歩み去っていく彼女を、そしてそれを追って歩いていくエステルとサビーネを、艦長は不思議そうに見送っていた。
「どうかされたんですか?」
部下の女性オペレーターが尋ねた。艦長とオペレーターとは階級の差はあるけれど、彼女は普段それをあまり気にしないので、誰もが気さくに話しかけるのである。
「どこか、変だと思わない?提督。」
「やはり緊張されているのではないですか?これだけの大観衆がいるんですもの。」
無邪気そうに言うオペレーターと対照的に先ほどの提督の横顔をヴェラは思い出していた。どこか注意散漫で、何かに心を奪われている表情だった。
「それならいいのだけれど・・・・なんだか、私、不安・・・・。」
ヴェラは胸に手を当ててエレベーターに乗り込もうとするこの艦の主を見送っていた。

 ガラス張りのエレベーターで外に出るまでの間、フィオーナはずっと黙っていた。眼下には大観衆がエア・ポートを埋め尽くしているのがはっきりとわかる。だが、この艦の主はそれを見下ろしながらもどこか別の何かに心を奪われているような様子だったので、エステルもサビーネもただ顔を見合わせるだけだった。
 既にフレイヤ、ケーニス・ティーゲル、バルバロッサ等の旗艦は接舷完了し、遠征軍総司令官の到着を待っている。それなのに、当の総司令官の顔は浮かない顔つきのままだ。
ズシンとエレベーターが止まり、三人が外に出たとたん、耳を覆わんばかりの大歓声が聞こえてきた。
「ローエングラム公万歳!!」
「帝国に栄光あれ!!」
「ローエングラム公万歳!!」
「帝国に栄光あれ!!」
という叫びが幾重にもこだましている。フィオーナが外に出ると、歓声は一段と高まった。彼女の足が一瞬止まったのは、ティアナ、キルヒアイス、ビッテンフェルト、そしてバイエルン候エーバルトと言った面々が彼女の側に歩み寄ってきたからだ。
 
 遠征軍将官たちは出迎えの将官たちに歩いていく。再び足が一瞬止まったのは、出迎えた将官の一団の中に一人の顔を認めたからだ。

 「お帰りなさい。」

 イルーナ・フォン・ヴァンクラフトの声は、いつか彼女が達成困難なミッションから帰ってきたときの、あの時の声と全く変わることがなかった。
「はい。・・・・・教官。」
 二人の会話は大観衆はおろか、周りにいた将官たちでさえ聞き取れなかった。
将官たちは地上車に乗って元帥府に向かった。
ビッテンフェルトは腕を組んだままぶつぶつ言っている。
「あの胸糞の悪いベルンシュタインの奴を助けるなどと、いったいどういう風の吹き回しなのだ?フロイレイン・ティアナ。」
「私に聞かないでよ。どうして助けたいのかを知っているのは――。」
ティアナは前を走っている地上車を見た。そこにはイルーナと自分の親友が乗っているはずだった。極秘裏に話し合いたいというので二人きりにしたのだ。
「あの二人だけ、ってわけね。」
バーバラが言った。
「奴などはどうせ処刑されるに決まっておる。ミュッケンベルガー主席元帥を暗殺しようとし、リヒテンラーデ侯爵に生死不明の重傷を負わせ、あまっさえ皇太子殿下をお連れ申し上げたのは皆彼奴だというではないか!!」
「はいはい落ち着いて。・・・ねぇティアナ、その皇太子殿下だけれど、ブラウンシュヴァイク本星を捜索しても、居なかったって話じゃない。」
「そうなのよ。これじゃ原作と同じ・・・ゴホン!!まるで煙のように消えてしまったみたい。監視している人間や侍女たちに話を聞いても皆知らぬ存ぜぬの一点張り。まさか非力な人間に自白剤を使うわけにはいかないし。」
「皇太子殿下と言うが、今はカザリン・ケートヘン陛下が王位継承者なのだから、問題ないのではないか?奉戴するにせよ、力がなければならぬが、賊軍は四散し、皇太子殿下を担ぎ上げる人間も今はおるまい。」
ビッテンフェルトが正面に座っている二人をかわるがわる見ながら話す。
「今は、ね・・・・。」
ティアナが放ったつぶやきは本人にしか聞き取れないものだった。


 ティアナたちの前を走っている地上車にはフィオーナとイルーナが搭乗していた。車内は静まり返っていた。運転手からすれば一切会話がないので、不審に思ったかもしれないが、二人は自分たちの周りにオーラで遮音力場を張り巡らして、会話が聞こえないようにしていたのである。
「ベルンシュタインはどうやらラインハルトを殺しにかかる決意を捨てなかったようね。」
教え子の顔を見た教官は開口一番そう言った。
「はい・・・・・。」
「いいでしょう。それほどまでにラインハルト嫌いを貫きたいというのであれば、そうさせてやるまでの事。もっとも、彼の一撃がラインハルトに届く前に彼は死んでいることでしょうけれど。」
無造作に切り捨てるイルーナの言葉にフィオーナは戦慄を禁じ得なかった。
「さて、フィオーナ。ベルンシュタインの話が目的であなたと二人きりになったわけではないのよ。」
「???」
「この戦いの後始末が終われば、いよいよ帝国は自由惑星同盟に侵攻することとなるわ。そして、それは同時に今度こそ私たちとシャロンとが雌雄を決することの意味でもあるのよ。」
「・・・・・・・。」
遥か彼方にいる強大な敵を思い、フィオーナ先ほどとは別の戦慄が襲ってくるのを禁じ得なかった。
「今の自由惑星同盟、アレーナの情報部からの情報が途絶える直前、シャロンがプロパガンダを流していたけれど、一部その内容が入ってきたわ。」
元指導教官は大きなと息を吐きだした。
「・・・・30個艦隊、移動要塞を数基、そして自由惑星同盟130億人の総特攻。そんな内容が。」
シャロンと対峙し、そのすさまじさを知り尽くしているはずのフィオーナでさえ、その内容には衝撃を受けしばらく声も出なかった。常識的に考えてあり得ないことだ。
「・・そう、普通に考えればあり得ない。けれどシャロンは洗脳術にたけているわ。自由惑星同盟130億人を洗脳し、自分の信奉者にする程度のことは彼女にとってはごく簡単な事なのかもしれない。」
「・・・・・・・・。」
「今の自由惑星同盟は、こちらよりも戦力を凌駕しているかもしれない。シャロンの事だから、130億人を特攻兵器として使用するのに何のためらいもないでしょう。そうなると、こちらの犠牲も無視できない数になる。・・・・フィオーナ、今回の戦い、艦隊戦では解決できないかもしれないわ。」
「では、どうすればいいのですか?このままこちらから攻め込まず、あちらの出方をうかがうというのは?」
「・・・・・そんなことをすれば、シャロンはこちらを、正確に言えばラインハルトを激怒させる方法を取るはずよ。私たちはシャロンの恐ろしさを身に染みて知っているけれど、ラインハルト、そしてキルヒアイスはまだあの子の本当の恐ろしさを知らない・・・・。」
シャロンの事をあの子、と呼ぶことができるのは今やこの世界ではイルーナだけだろう。
「このままこちらが黙っていれば、あの子は片っ端から帝国の居住惑星を滅ぼす行動にも出てきかねない。いえ、それどころか、最も効果的な戦法を取るかもしれない。例えば、そう・・・アンネローゼを殺すことを。」
フィオーナはハッとした。原作と違えども、アンネローゼ・フォン・グリューネワルトこそ、ラインハルトの希望の象徴であり、拠り所であるという事実には変わりはない。もし、それが失われてしまったら――。
「あなたはそうなってもいいと思うかしら?」
「それは・・・・。」
「今まであの子が・・・・シャロンが、こちらに手を出さなかったのは、此方の体制が整うのを待っていたから。完璧なものほどシャロンにとって壊しがいの甲斐がある存在だから。」
「・・・・・・・。」
「今、ブラウンシュヴァイク公爵を筆頭とする最後の反勢力を崩壊させ、地球教も滅ぼしたとなると、もうシャロンが動かない理由はないわ。黙っていてもあちらからあの手この手で仕掛けてくるでしょう。いえ、もうその仕掛けの種はこちらに撒かれているのかもしれないわ・・・・。」
「・・・・・・・。」
「フィオーナ、私がベルンシュタインの問題など、些末時として考えていたように思っているかもしれないけれど、私はもうベルンシュタイン等にかまっている余裕はないの。もう事態はあなたが考えているよりもずっと早く、ずっと大きく終局に向かっているのよ。シャロンが勝つか・・・・ラインハルトと私たちが勝つか・・・・二つに一つなの。シャロンがいる限り、共存の道はないのよ。」
静かに地上車はアウトバーンを走っていく。よく整備された道は陽光を受けてきらめき、外の景色は平和そのものだった。
「・・・・それでも、私は諦めたくはないんです。」
フィオーナが小声で言った。
「教官のおっしゃることもよくわかります。ですけれど、その考え方をとれば、究極的には絶対多数を救うために少数を犠牲にすることになります。少なくとも努力をすることは必要だと私は思います。だから、ベルンシュタイン中将のこともできれば最後まであきらめたくはないんです。」
「わかっているわ。だからこそあなたに、そしてラインハルトに機会を与えたのだから。」
教官は微笑んだ。
「でも、フィオーナ。ベルンシュタインの問題が片付いたら、あなたの全力を対自由惑星同盟に向けて頂戴。そうしなければシャロンには勝つことができない。ジェニファーを失った今、私たちの誰一人が欠けてもシャロンに対抗することはできない。その気持ちで臨んでくれる?」
「・・・・はい。」
フィオーナは静かな、だが固い決意を灰色の瞳に秘めてイルーナを見つめた。




 ベルンシュタイン中将以下の捕虜は各収容施設に収容されて沙汰を待つこととなったが、下士官以下兵士に関しては現役復帰するもよし、あるいは軍をやめて野にかえるもよし、という寛大な処置だった。軍をやめる人間については一時金を支給する旨ラインハルトから通達があった。
「卿等は上官の命令によってその職務を遂行した。その心得や良し。卿等を処断する理由などこちらには何一つない。私に従って軍務を続けるも良し、軍を辞して家業を継ぐも良し、卿等の判断に任せよう。」
と言う寛大な処置に感激した兵士たちは半数以上がローエングラム陣営に復帰する道を選んだのである。
 一方、士官以上の人間に対してはその階級によって取り調べの仕方は異なった。尉官、佐官、そして将官の順で詮議が厳しくなった。さらには尉官級であっても参謀等としてブラウンシュヴァイク陣営の作戦立案にかかわった者等はより重い詮議を受けることとなったのである。

 その中でも、反乱にかかわった主だった将官の中から、ラインハルト、イルーナらは直接詮議をする面々を決めていた。その中にはベルンシュタイン中将の名前も入っていた。


 ベルンシュタインとラインハルトが直接対面する時が近づいていたのである。

 
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