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儚き想い、されど永遠の想い

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131部分:第十一話 断ち切る剣その五


第十一話 断ち切る剣その五

 すぐにだった。彼自身が出て来たのだった。
「待っていたよ」
「えっ、先生」
「先生がですか」
「私が出迎えて不都合があるのかい?」
 伊上はその厳しい顔に気さくなものを見せて二人に言う。
「そうした決まりはない筈だが」
「それはありませんが」
 義正はこう伊上に返した。
「ですが」
「ですが。何だね」
「まさか先生御自身が来られるとは思っていませんでした」
 出迎えにだ。それはとてもだというのだ。
「それで」
「驚いているのだね」
「はい」
 まさにだ。その通りだというのだった。
「そうです」
「そうだろうな。実は」
「実は?」
「家の門で待っていようと思っていた」
 そうするつもりだったというのだ。
「それで家の門に向かおうとしていたが」
「その時に私達がですか」
「そうだよ。来たんだよ」
 そうなったというのだ。
「いや、こちらの動きが少し遅れたね」
「いえ、それは」
「いいのだね」
「そんな。先生自ら家の門になぞ」
「何、それが礼儀だよ」
「礼儀ですか」
「家の主は客人を出迎えるのは礼儀じゃないか」
 それでだというのだ。伊上は不遜な人物という噂もある。義正もそれは知っていた。しかしそれでもだった。彼は今そうしてきたのだ。
 その彼がだ。また言うのだった。
「それでだよ」
「それでだったのですか」
「そうだよ。それでね」
「はい、それで」
「鐘が鳴ったその時に家の者達が向かおうとしたが」
 それをなのだった。伊上はそのことについて細かく話していく。
「呼び止めてね」
「それで先生が」
「そうだよ。それで今ここにいるんだ」
 他ならぬだ。彼等の目の前にだというのだ。
「そうした事情だったんだよ」
「成程、そうでしたか」
「うん。それでは」
 それでだというのであった。伊上の方から話す。
「中に入ってくれるか」
「わかりました。それでは」
「宜しく御願いします」
 義正だけでなくだ。真理も応える。
 そしてそのうえでだ。二人はだ。
 伊上に案内されて洋館の中に入った。吹き抜けで館の左右に部屋が立ち並んでいる。部屋の扉は黒く重厚な木だ。床にはビロードの絨毯が敷かれている。それは階段も同じだった。
 壁は白く手すりはよく磨かれた真鍮のものだ。その洋館の中をだ。
 二人は伊上に案内されてた。居間に通された。そこも洋風だ。
 その居間の中の豪奢な紅いソファーに腰を下ろす。伊上はその向かい側に座ってきた。背筋が伸びだ。義正に比べて小柄な筈だが彼に匹敵するまでに大きく見えている。
 その姿勢でだ。こう彼に言うのであった。
「さて、それではだ」
「はい、手紙のことですね」
 義正はすぐにだった。伊上のその言葉に応えて述べた。
「そのことですね」
「それだ。いいことだ」
 彼は単刀直入に述べた。
 
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