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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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最終章:夢を追い続けて
  第64話「足止めの戦い1」

 
前書き
―――私達を……舐めないでよね!


まずはマドカ達足止め組から。
ISがないのでだいぶ大人しめな戦いかな…?

……ぶっちゃけ、武力でしか解決してないという中々に暴力的な描写なんですよね。
武力以外で描写するには、自分の知識量が足りないです(´・ω・`)
 

 






       =out side=





「ぉおおおおっ!!」

「はぁあああ!!」

 オータムとマドカのブレードがぶつかり合う。
 二人は、別に険悪な仲だった訳ではない。
 しかし、洗脳されてる時も、解かれた後も、何度か意見の違いなどでぶつかり合っていた。そのため、まるでライバル関係のように、いつも対立していた。

「っ、くっ!」

「はははっ!どうしたマドカァ!!」

「(土を宿した一撃…!私よりも、重い…!)」

 マドカが四属性を扱えるように、オータムも扱う事ができる。
 ただ、四属性全てを使いこなせる訳ではなく、一属性に特化しているタイプだ。
 そして、その中でも地属性は、マドカを大きく上回っていた。

「はぁっ!」

「っ!まだだ!」

「っ!」

 “火”と“土”を宿し、マドカが反撃に出る。
 だが、それすらも受け止められてしまう。

「(押しきれない!オータム、いつの間にこんなに強く…!)」

 まるで以前よりも強くなったと錯覚するマドカだが、実際の所、二人が生身で直接戦った事はほとんどない。あったとしても、軽い手合せだけだった。

「(同じ土俵では勝てない!だったら…!)」

「お?」

 振るわれるブレードを、紙一重で躱す。
 “風”と“水”を宿し、回避とスピードに重点を置いたのだ。

「へぇ…!」

「っ、はっ!」

     ギャリィッ!

 ブレードを躱し、反撃を繰り出す。
 だが、それは手甲で防がれる。隙を補うための防具だ。

「(防がれた…!でも、こっちの方が通じる!)」

「オレと同じ分野じゃ勝てないか?…まぁ、当然だよなぁ?」

「言ってろ…!」

 オータムの言葉に、つい口調が乱暴になるマドカ。

「(“風”と“水”の両立と維持は難しい。攻めに転じすぎるとたちまち途切れてしまう。でも、維持を重視すると、あまり攻撃も通じない。……長期戦は確定か…!)」

「おらぁっ!」

「っ!」

     ギィイイン!

「しゃらくせぇ!」

 思考するマドカにオータムが攻める。
 攻撃を躱したマドカは反撃を繰り出すが、ブレードに防がれ、そのまま吹き飛ばされる。

「……やっぱり、そう簡単にはいかないか」

 即座に体勢を立て直して着地したマドカは、そう呟く。
 ……二人の一騎打ちはまだまだ続くようだ。







「……あちらは激しいわね」

「………」

 二人の戦いを横目に、スコールがそう呟く。
 対峙する楯無は、余裕そうに構えながらも間合いを計っていた。
 マドカ達に対して、こちらは静かな戦いだ。
 何度か牽制し合ってはいるが、あちら程激しくぶつかり合う事がない。
 今もこうして、互いに様子見し合っていた。

「(……まずいわね。この気配…多分、“水”を宿しているわね。それも、簪ちゃん以上に正確な扱い方で…)」

 簪は“水”を完璧に扱える訳でなく、自分が扱いやすいようにアレンジしている。
 それでも強さは相当なもので、楯無はそれを身に染みて理解していた。
 …だからこそ、目の前のスコールの強さにも感付けた。

「………」

「あら、先程までと違って、攻めてこなくなったわね」

「……よく言うわ。わかってて言ってるでしょ。それ」

 無闇に手は出せない。
 迂闊に手を出すと、手痛い反撃が待っている事は明白だったからだ。

「(でもまぁ、だからと言って、退く訳にはいかないでしょ…!)」

 ついに楯無は仕掛ける。
 と言っても、“水”を宿した動きによる反撃を警戒しつつだ。

「っ!」

「あら、怖い怖い」

「くっ…!」

 繰り出される攻撃がゆらりゆらりと躱される。
 楯無は、躱す動作は見えるものの、それを掴み取る事はできない。

「ふっ!」

「っ…!」

 反撃に繰り出される鋭い蹴り。
 それを、楯無は紙一重で避ける…が、頬を掠める。

「女性の顔を容赦なく狙うなんて、ひどいじゃない」

「あら、女性同士の争いは結構ひどいものよ?」

 皮肉りあいながらも、互いに出方を探る。

「(……さて、どうしたものかしらね…)」

 状況としては、楯無の劣勢で戦いは展開されていった。









「っ、はっ、くっ…!」

 振るわれる剛腕をラウラは身軽さを生かして躱す。

     ガギィイン!

「っ…!はっ!」

 簪は“水”の属性を生かし、上手くいなして衝撃を最低限にしていた。

「これは……厳しいな」

「この二体だけ、性能が違う…?」

「わざわざここに用意するぐらいだ。当然だろう」

 他の部隊が足止めしているゴーレムはもっと弱かったと簪は気づく。
 それを抜きにしても、元々生身の人間ではゴーレムには敵わないものだ。
 だが、二人の強さもここ数年で大幅に上がっていた。

「気を付けろ、“風”の動きがなければ、すぐに追いつかれるぞ!」

「うん……!」

 ゴーレムの攻撃力、機動力は当然ながら人を大きく上回る。
 だからこそ、“風”を宿していなければ、相手する事すらままならなかった。

「っ!」

「くっ……!」

 何度も振るわれる剛腕を躱し続ける二人。
 一人で一体のゴーレムを相手取っているため、互いをフォローする余裕はない。
 今でこそ攻撃を躱せているが……。

     ジャキッ!

「っ!!」

「来るぞ!」

 銃を構えたゴーレムを見て、ラウラが叫ぶ。
 同時に二人は射線から逃れるように全速力で走る。

「(何とかして、ペースを戻さないと…!)」

 円を描くように銃弾を避けつつ、簪は接近を試みる。
 だが、一定まで近づくと射撃しつつ剛腕を振るってきた。

「なっ…!?」

 ギリギリでその攻撃を躱す。
 …が、今度は射線上に追いやられてしまう。

「っ…!?」

「呆けるな!」

「っ、ありがとう…!」

 だが、それはラウラの援護射撃で逸らされる。
 すぐに頭を切り替え、簪は生身用に改造したIS武装の薙刀を振るう。
 “水”を宿したその攻撃は、ゴーレムの銃に亀裂を入れた。

「(切断はできなかった…!さすがに、堅い…!)」

 完全ではないとはいえ、“水”を宿した一撃は鋭い。
 しかし、それでもゴーレムの銃を切断する事はできなかった。

「なら……!」

 もう一体の剛腕をするりと躱し、簪は再度攻撃を試みる。
 だが、普通に攻撃しても、銃と同じく大したダメージにはならない。
 だから、簪はゴーレムの部位の中でも特に脆いであろう部分……すなわち、関節部分を狙った。

     ギィイイイン!!

「っ……!(防がれた…!)」

「簪!」

「くっ……!」

 だが、その一撃は寸での所で関節部分から外れてしまった。
 ラウラの声を聞くと同時にすぐにその場から飛び退いて、態勢を立て直す。

「今の動き、やはり関節部分が弱点か」

「そうみたい。……けど、狙うのは至難の業」

「そのようだな…だが、一応攻撃は通じる」

 先程簪が銃に亀裂を与えたように、ゴーレムにも攻撃は通じる。
 問題は、生身の機動力でどう当てるかなのだ。

「何とか近づいて攻撃……」

「ああ。銃だけでは威力が足りん」

 取るべき行動は分かった。後は実行に移すだけ。
 その実行が最も難しいのだが、道筋が見えただけで二人には十分だった。











「ぉおおおおおっ!!」

「っ……!」

 繰り出される重く鋭い拳。それを叩き落すように逸らす。
 トーレの攻撃を、鈴は上手く逸らしているが……。

「ふっ……!」

「っとぉ…!」

 攻撃を逸らすと同時にカウンターを繰り出す鈴。
 だが、それはもう片方の手で防がれる。
 その際に間合いを取り、一度見合う状態に戻る。

「(……なんて馬鹿力。あれでも上手く逸らせているというのに、それでもダメージを受けてるわね…。ホントに同じ女性なのかっての。……いや、千冬さんとかも同じね)」

 痺れる手を隠すように、鈴はトーレと対峙する。

「ったく…呆れる程の馬鹿力ね…」

「はははっ!そういうお前も全部逸らしてるじゃないか!」

「逸らすしかないから逸らしているのよ!」

 ただ威力が高いだけじゃなく、連発してくる。
 その事から、鈴は回避と言う選択を取れずにいた。

「(全く攻撃を当てられないし、それに加えて……)」

「っと!」

 鈴とトーレは、その場から飛び退く。
 すると、寸前までいた場所に、銃弾が当たる。

「ったく、あぶねぇな。流れ弾を出すなよ」

「(……セシリアやシャル達の方で、流れ弾が発生している。連携を取ろうとしても、分断されてしまってる今だと、どうしても膠着状態ね…)」

 鈴とトーレでは、若干鈴が押され気味。
 その上で、セシリアとシャルロットは接近を許さないように立ち回っているため、連携を取る事が不可能となっている。
 さらには、流れ弾も飛んできているため、鈴が負けるのは時間の問題だった。

「(……けど…!負けられないのよ……!)」

「いい目だ。もういっちょ行くぞ!」

 再びトーレは鈴に殴りかかる。
 それを、鈴も覚悟して迎え撃った。





「っ……!鈴さんの援護に向かわなければならないというのに…!」

「あらあらぁ、他人を気にする余裕があるのかしら?」

「くっ……!」

 自身が扱うために改造した専用のハンドガンを撃ちながら、セシリアは焦る。
 そこを突くかのように、クアットロが煽る。
 ちなみに、セシリアのハンドガンはブルー・ティアーズの代用なので、連射性能が高い。他にもスターライトmkⅢの代わりになるライフルも持っているが……一度接近を許してしまった際に、床に落としてしまっている。

「ほらほらほらぁ、貴族様なのに前線に出るなんて、馬鹿なのかしらぁ?」

「あら、これでも私、この時のために色々習ってきたのですわよ!」

 二丁のハンドガンによって、ガシェットから伸びる触手のような武装を撃ち落とす。
 彼女の正確な射撃力は、連射性に特化させても変わらなかった。

「……あらぁ、やるわねぇ……」

 そのままガシェットが破壊され、若干冷や汗を掻くクアットロ。

【クアットロ、追加ガシェットを送ります】

「助かるわぁ~。まさか、貴族のお嬢様がこんな芸当をやってのけるなんて…」

「まだ……!?」

 すぐに追加のガシェットがウーノによって送られ、セシリアを襲う。

「(背後にもう一人……どこか手の届かない場所で私たちを見ているようですわね……ですが、もう戦力は他に割く事ができない。……どの道、倒すしかありませんわね…!)」

 銃の弾をリロードしながら、セシリアは覚悟を決め直す。
 すると、そこへ……。

「くっ!」

「ふふっ」

     ギィイン!

 割り込むように、シャルロットとドゥーエがやってくる。
 シャルロットはナイフを、ドゥーエは爪の武装を以って戦っていた。

「っ、させませんわよ!」

「チッ……あらぁ、ばれちゃったわね」

 シャルロットへ向けられたガシェットの攻撃を、セシリアはすぐに撃ち落とす。
 妨害を妨害するという攻防を繰り広げている間にも、シャルロットとドゥーエの戦いは続く。

「やるわね。お姫様?」

「もう助けを待つだけじゃないからその呼び方は気にくわないかな……!」

 互いに、近接攻撃を行いながらも、空いた片手で銃を撃とうとする。
 だが、それはもう片方の手で払いのけ、上手く射線上に入らないようにする。

     ガッ、ギィイン!

「っ……!」

「これでも元スパイの立場だったんだ…!これぐらい、やってのけるさ!」

 銃と銃、ナイフと爪がぶつかり、鍔迫り合いになる。

「へぇ……!」

「っ……!?」

 だが、ドゥーエが少し体をずらした事により、バランスが崩れ、その隙を突いた爪の一撃で、シャルロットはナイフを大きく弾き飛ばされてしまう。

     ギィイン!

「ぐっ……!」

「ほら、どうするのかしら?……っ!?」

「甘いよ!」

 銃で爪の一撃を防ぎ、後退する。
 それを追撃しようとするドゥーエだが、飛んできた弾丸を咄嗟に避ける。
 シャルロットを見れば、ナイフを持っていた手にはもう一丁の銃が握られていた。

「“高速切替(ラピッド・スイッチ)”……生身でも応用すればできるんだよ。……忘れてた?」

「……いいえ、貴女はそういう人だったわね…!」

 シャルロットとドゥーエは、会社にいた時は普通に知り合いだった。
 お互い、ある程度手札は知っていたが……ドゥーエはシャルロットの本当の強さを失念していたのだ。

「(っ、一歩届かない…!)」

「(押しきれない……!)」

 接近しようとするが、一歩届かないドゥーエ。
 二丁の銃で押し切ろうとしても、押し切れないシャルロット。
 互いに攻めきれない状態だった。

「っ!」

「(今…!)」

 銃を撃ちながら後退し、シャルロットは弾かれたナイフを拾う。
 そこを隙を見たドゥーエは、ガシェットに攻撃させる。

「しまっ…!」

「シャルロットさん!」

「ありがとうセシリア!」

 対処が間に合わずにやられそうになった所で、セシリアが射撃で助ける。
 だが、その射撃は隙を晒すもので…。

「がら空きよ!」

「っ……!」

 クアットロのガシェットによる攻撃が、セシリアに迫っていた。

「させないよ!」

「チッ……!ドゥーエ姉様の相手をしていればいいものを…!」

「……前から思ってたけど、性格悪いね…」

 思い通りにいかないからと舌打ちするクアットロに、シャルロットは思わずそういう。

「助かりましたわ」

「お互い様」

 セシリアがお礼を言い、シャルロットは短く返す。
 互いに背を任せ、二対二の状況へと持って行った。

「……倒しきれる?」

「押し切れませんわ。そちらは?」

「同じく。……鈴も耐えてるけど、いつまでも保ってられないよ」

 把握している情報を交換しつつ、どうするべきか考える二人。

「…私たちで状況を打開するしかありませんわね…」

「……そうだね」

 他は他で抑えられている。
 それを理解しているからこそ、自分たちが状況を変えないとダメだと二人は理解していた。

「(……背後を取る隙さえあれば…)」

 状況を打破する手を、セシリアは隠し持っていた。
 しかし、それはぶっつけ本番であり、さらには背後を取らないとできない事だった。
 結局の所、膠着状態のままだった。









「……おいおい、どうしたマドカ?」

「っ、ぐ……!」

 それぞれがそれぞれで苦戦している時、マドカもまた、苦戦していた。

「(“風”と“水”を宿しても敵わないなんて…!)」

「何考え事してんだよっ!!」

「っ!」

 振るわれるブレード。それを躱すマドカ。
 空ぶったブレードはそのまま床に激突し……へこませた。

「(まさに大地を表すかのような剛力…!“土”の力の、真髄……!)」

 身を以ってマドカは理解した。…オータムは、四属性の一つを完成させたのだと。
 大地を表すかの如き“土”は、圧倒的防御力と剛力を生み出していた。
 その力が、二つの属性を宿したマドカを押していたのだ。

「(何とか直撃だけは避けているけど……時間の問題だね……)」

 今の所、マドカは一撃も喰らっていない。
 それなのにこれほどまでに劣勢になっているのは、マドカの攻撃をオータムが受け止めた際、吹き飛ばすように振り払っていたからだった。
 そのため、マドカは反撃でダメージを負い、さらに疲労も大きかった。

「(……迂闊だったなぁ……私、結構慢心してたんだ…)」

 真髄に至ったその力を見て、マドカは若干後悔していた。
 確かにマドカは千冬譲りの天才的資質を秘めている。
 文武のどちらにおいても秀でており、まさに万能と言えるべき才能だった。
 そして、それは四属性でも同じ事が言えた。
 ……だが、その万能性が仇となったのだ。

「(……努力を怠っていたつもりはなかったけど、伸ばせる才能が多いのが逆に成長を遅らせていたんだね……)」

 “多才”……言い換えれば、それは“器用貧乏”である。
 なまじ伸ばせる能力が多かったため、一つに絞れずにいた。
 結果、一つの才を伸ばし続けていたオータムに劣る事となっていた。

「(……今となっては、後の祭り。今更どうしようもないね)」

 決戦の今の場においては、考えるだけ無駄となる。
 今更、その事実を変える事はできないのだから。

「(極めていない才で、“究極の一”には勝てない。半端な力だけでは意味がないのだから)」

 “質”では絶対に勝てないと、マドカは悟る。
 ……だから、マドカは別の手段を使う事にした。

「(“質”がダメなら……“量”で…!)」

 “多才”が足を引っ張ってしまったなら、“多才”で打開する。
 そう考えて、マドカは覚悟を決める。

「(……ぶっつけ本番!だけど、既に感覚は掴めてる!)」

 それは、今までマドカが習得していなかった属性。
 四つの内、三つは習得していたマドカは、それをまだ習得していなかった。
 否、それだけなら扱う事はできていた。
 他の属性と両立させる事で、習得したとマドカは思うようにしていたからだ。

「……技に、“火”を宿す!」

「っ!」

     ギィイイイイン!!

 今までとは違う手応えを、マドカは感じ取っていた。
 オータムもまた、その攻撃の重さを理解した。
 だからこそ、即座に次の行動を起こした。

「ぉおおっ!!」

「っ……!」

 即座にオータムは反撃する。
 今のマドカは、四属性を宿していたとしても、負担が大きいと思ったからだ。

 ……そう。“四属性全てを宿している”のだ。
 先程の時点で、マドカは“火”以外の三つを宿していた。
 それでも敵わなかったから、四つに増やしたのだ。
 しかし、当然とも言うべきか、土壇場でそんな事をすれば負担は大きい。

「おらぁあああっ!!」

「くっ……!」

 意識しないと保てないが、意識しすぎても保てない。
 その微妙なバランスを、戦闘しながら保つ。
 それは、脳に大きな負担を掛けていた。

「(……限界が先に来るか、適応できるか……棍比べ…!)」

 故に、これは一種の賭けだった。
 四属性を宿している状態に慣れれば、マドカの勝ちが決まる。
 だが、慣れさせないようにオータムがペースを崩し続ければ、マドカは負ける。

「(状況は圧倒的不利。だけど……!)」

「はぁっ!」

「っ、甘い!」

 ペースを崩そうと振るわれるブレードを、マドカは受け流すように弾く。
 そのまま流れるように反撃を繰り出し、オータムを後退させる。

「私を……私達を……舐めないでよね!」

 そして、マドカはそう宣言する。
 そう。今マドカは一人で戦っている訳じゃない。
 楯無が、簪が、セシリアが、鈴が、シャルロットが、ラウラが、それぞれ戦っている。
 他の皆が戦っているのに、自分が今ここで倒れる訳にはいかない。
 マドカはそう思ったからこそ、負担が掛かっていても倒れる事はなかった。









「っつ……」

「如何に対暗部組織の当主とはいえ、属性を使わなければこんなものなのね」

 マドカが奮起している頃、楯無は傷ついた腕を抑えながら膝を付いていた。

「(……ただ“更識家当主”として在り続けたのが、裏目に出たわね…。あの時の簪ちゃんとは全く違う……。これが、“水”の力…!)」

 楯無の攻撃は、悉く躱され、その都度反撃を受けていた。
 楯無もここ数年何もしていない訳ではなかった。
 更識家当主として、ふさわしく在ろうと日々精進していたが……。
 今回ばかりは、裏目に出たのだ。“更識家当主”というスタンスを少しでも崩し、“水”を宿せるようになっていれば、今の状況にはなっていなかった。

「(でも……無駄ではない)」

 “水”は心に宿すもの。つまり、四属性として扱おうと力を磨かなくとも、扱えるようになる場合がある。そうでなくとも、楯無は簪と言う“水”を扱う存在と何度も手合わせをしている。

「(……勝手は理解している。後は、それに対応するだけ…)」

 楯無は、幾度に渡る簪との手合わせで、“水”に対応できる。
 だが、相手は簪とは違う。だから常に劣勢だった。

「(……彼女は、基本的に“受け身”の戦法。例外になるのは、反撃からの追撃時のみ。……全てが、カウンターで成り立っている。逆に言えば、そうしなければ彼女も“水”を扱いきれない)」

 “攻め”に転じた瞬間、スコールは“水”を完全には扱えなくなる。
 “受け身”だからこそ、ここまでの強さを誇っているのだと、楯無は気づく。

「(どうあっても、私は“攻め”になる。……そうでなければ、彼女は動かない)」

「(……気づかれてたのね。いえ、そうでなければ当主は務まらない……か)」

 楯無が自身が扱う“水”の特徴に気づいたと、スコールも感付く。
 尤も、気づける程でなければ今の今まで立っているはずがないのだが。

「(……思い出すのよ…!いくら簪ちゃんと動きが違っても、その根幹にあるモノは同じ……!必ず、活路はある…!)」

 構えを変え、手に携えるのはいつもの扇……ではなく、一振りの刀。
 生身用に改造したIS装備でもなく、短刀より長く、脇差より短い程度の刀だった。
 ISが生まれる以前の更識家が、代々受け継いできた小太刀。それを楯無は構えた。

「……ここからが本気、って所かしら?」

「……そうね…。暗部らしく、行こうじゃないの……」

 軽く言葉を交えつつも、楯無の目は忙しなく動く。
 どう動くべきか、どこを攻めるべきか、突破口はどこか。
 ……勝機を、如何に見出すか。

「(……ダメね。今の状況では、隙がない。私自ら作らない限り、どうあっても弱点がない)」

 スコールの様子を注意深く見る楯無だったが、無駄だと悟る。
 よって、勝機を見いだせるのは、こちらが攻撃した際だけだと確信する。

「(……殺す気で、かかる!)」

 一呼吸の間に、一気に踏み込み、刀を突き出す。

「(っ、ここっ!!)」

「っ……!」

     ギィイン!!

 一撃目は躱される。直後に反撃が迫るが、そこへ二撃目を放つ。
 楯無に合わせ、出していたブレードでスコールはその攻撃を防いだ。
 何度もカウンターを受けたからこその反応だった。

「ふぅ……っ…!」

「……カウンターに反応してみせるなんてね」

「……更識家、嘗めないでもらえるかしら…?」

「正直甘く見ていたわ。彼の技術も完璧ではないのね」

 即座に間合いを取り、楯無は息を吐く。

「(……隙はあった。けど、それは私が隙を晒している時にしかない。……どうすれば…)」

 楯無が攻撃した直後、カウンターが来る寸前にのみ隙があると、楯無は読んだ。
 だが、楯無も攻撃直後の隙を晒しているため、実質意味がないようなものだった。

「私ばかり見ていていいのかしら?」

「っ……!」

     チュンッ!

 スコールの言葉に、楯無は足を一歩後ろに下げる。
 するとそこへ、セシリア達の方から流れ弾が飛んできた。

「ォオオオオッ!!」

「っ、せぁっ!!」

「(広い部屋とはいえ、混戦状態にもなるわよね……!)」

 さらに、そこへ激しい攻防を繰り広げるオータムとマドカが通り過ぎていく。
 楯無は、それを跳躍して大きく躱す。

「……ふふ」

「くっ……!」

 その隙を、スコールは見逃さない。
 さらに、スコールは何も近接だけで戦っていない。

「(銃も使ってくるなんてね……!)」

 そう。スコールは本来は銃の方を使う。
 “水”と相性がいいから近接武器を使っているに過ぎないのだ。

「(……でも、これで突破口は見えた…!)」

 常に劣勢に加え、流れ弾などの危険性もある。
 ……その状況だからこそ、楯無は突破口を見出した。











 
 

 
後書き
何気にシャルロットVSドゥーエは原作的に考えるとスパイ同士の戦いになります。だからこそぶつけたんですけど。 
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