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Liber incendio Vulgate

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Castillo de hierba
  En sus manos

 
前書き
騎城優斗と七草花夜の過去編も
今回で終わりです。
φ(´ω`●) 

 
「もう一年以上が経ったのか」


騎城優斗(きじょうゆうと)》が何処の誰とも知らない誰かに殺されかけてから、それだけの時が過ぎていた。

あれだけの傷と出血だったというのに無事なのは正に奇跡と言って差し支え無いだろう。


「まあ何処の誰だか判らないのは
『あいつ』も同じなんだけどな……」


優斗はパンをくれていた謎の人物とは
まだ一度も顔を合わせたことが無かった。

『あいつ』の能力によるものなのだろうが
ここまで姿を隠し通せるものなのだろうか。


「能力が暴走してるわけでも無さそうだし、
心配は要らないはずだろうけど…」


能力と言えば、優斗は殺されかけてから復帰を果たしたこの一年で己の能力に目覚めていた。

その名を【付加理論(エンチャントロジック)】と言って触れたものに独自の【法則】を付与できる。


「法則を俺が望むように創生できるってことなんだが正直な話、人間の手には余るよな」


世界に対して適応して自分が進化し変わるのでなく、世界の方を自分に合わせて調律し適合させる。

(おの)が意を在るがままに我が儘に押し通す。

全を覆す圧倒的な一個人の力。

それまで恵まれなかった反動のように優斗を強烈に皮肉ったような過剰が形を成した恩恵。


「便利なのは良いけどさ」


あらゆるものを支配し屈服させる論理を構築し、実際に通用する理論として編み上げる。それを摂理として施すことにより万物を従わせてしまう。

大袈裟に書いたが能力を使うのは人間。

そこまで大層なことをするわけではない。

確かに騎城優斗は能力によって変わったが生活が少し安定するようになったくらいである。


「仕事が出来たからな。俺はまだ子供なんだけどこんな風にしなきゃ生きて行けないんだ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


雇い主の名前は知らない。

イニシャルが【S.K.】らしいが。

優斗の仕事は事件後の跡地、現場を調査することだ。其処でどんな事件(こと)が起きたのか調べる。

【第0学区】には[処理者]という治安維持を行う存在も居るが、第0学区では区画の全域で常に事件が起きているので手が回らないのだろう。

その隙間を埋めるように優斗が請け負っているような仕事が生まれてくるというわけだ。

優斗が今の仕事を選んだのには理由が有る。

それは一年ほど前に殺されかけた
男の組織を見つけること。


「その甲斐あってちょっと判った」


奴の組織が【Anaconda(アナコンダ)】と言う裏の世界でも大規模な暗殺組織なのだということを。

優斗はAnacondaを追って証拠が燃えずに残っている一軒の屋敷を調べることになる。

その少し(のち)、【Anaconda】は壊滅してしまうことになるが当時の優斗は知る由も無かった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


仕事の報酬がそこそこ有るので
優斗は普通に食べ物を買えるようになった。

その中には見えない『あいつ』の分もある。

寝床に関しては昔と変わらずスラム街のような廃虚の一角であり、其所に買ってきた布切れを何枚か敷いて少しましになった程度だ。


「しっかしまあ無駄に技術を投入しておいて全く余計な仕組みになってるよな第0学区も」


地下でも四季を感じられるよう気温を変化させてくるので冬ともなればまともに寝られるようなものでは無かった。この時期は毎年のように凍死者が出る。

『あいつ』は優斗に寄り添って彼を温めながら眠った。見えないが体温は感じ取れる。

二人はそんな風に(つつ)ましやかに生きていた。

しかし優斗は変化に気付き出す。

日毎にあいつの体温が下がっている。

一年近く一緒に過ごしたから解るのだが低体温症にでもかかっているかのようだ。

それだけでなく触れている感覚も初めて気付いた時に比べて大分小さくなってしまっている。

本人は気付かないのかも知れないが、手を伸ばしても指の間を通り抜ける風ほどしか感じない。

暫くすると存在を感じるのは寝る時あいつが寄り添った際に伝わる僅かな体温くらいになっていた。

手の施しようが無いことに悔しさを感じて優斗が眠ろうとした時だ。その瞬間に『あいつ』の何もかもが知覚から消え失せてしまう。

優斗は驚きで飛び起きる。

床には『助けて』と書かれていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「そんな……!」


優斗は『あいつ』が関わってくるまで長い時間を一人で生きていたがもうその感覚は見えない相手と二人で過ごす時間に上書きされてしまっている。

このままだと優斗は間違いなく、誰も傍に居なかったあの頃の孤独へと戻ってしまうだろう。

人との繋がりと自分を気にかけてくれる存在の温かさを喪失するかもしれないことに優斗は思わず恐怖に狂ってしまいそうになるが強引に理性で正気を保つ。


「そこに居るのか!? 頼む、消えないでくれ!! 俺はもう一人で居るのは嫌なんだッッ!!!」


優斗は(たま)らず叫ぶ。


『ここ…だよ……』


消え入りそうな返事で頭を冷やした優斗が目前の空間に居る『あいつ』を抱き締めて能力を発動した。

彼の【付加理論(エンチャントロジック)】には一度しか使えないであろう切り札が存在する。もし二度目を使えば優斗は負荷に耐えられず壊れてしまうだろう。

普段の付加理論が世界に『我儘(わがまま)』を言うものだとすれば、この力は無理矢理に()を押し通して世界に認めさせると言えば良いのか。

絶対理論(コモン・センス)

優斗がそう呼ぶ奥の手は自分が与えた理論を世界の永続的な法則へと変えてしまう。

『常識』や『可能性』。はたまた『概念』を新たに創造すると思ってもらえれば解るかもしれない。

アカシックレコードを改変し編集する行為にも匹敵する神域に達するであろう筈の絶技を一度だけとは言え行使できる全能の一端。

自滅を前提にするのなら二度目も可能なのかもしれないが、それは終わりを意味するので有り得ない。


「この力は【付加理論(エンチャントロジック)】の延長線上に在るグレードアップ版だからな。触れなきゃならないんだ。その代わり俺が死んでも与えた理論は消えないし払えない。待ってろ、お前を消させやしないからな。神様には悪いが俺の願いを叶えてもらうぜ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


優斗の腕が神秘的な光を放った。

何年も経ってから考えたがあれは『神の御手(ゴッドハンド)』とかそんなものだったんだろうと思う。

そうとしか考えられない。

優斗の手は普遍(あまね)総全(すべて)に触れることを許され無になったかと思われた『あいつ』を掴む。

そして【絶対理論(コモン・センス)】を発動した。


(こいつの力を俺に対して無効化させる)


優斗の腕から溢れる光が目を開けていられないほどに量を増し、強さを上げて二人を包み込む。

そして光が治まり優斗が瞼を上げると其所には一人の少女が居る。それが二人の初対面だった。

彼女が見えた時、優斗の五感に感触が伝わり『あいつ』が実在していることを教える。

優斗はその感覚を忘れぬように(いと)おしく抱き締めたまま自分の名前を少女に伝えた。


「俺は騎城優斗(きじょうゆうと)

「《七草花夜(ななくさはなよ)》…です……」


お互い抱き締めているので顔は見えないが
彼女は泣いているようだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そんな二人を遠目に眺める一人の少年。


「ふぅーん……。完全に気付いてないとは言え自ら【レベル7】としての力を捨てたのか。それと引き換えにしても彼女を救いたかったんだろうな。これだから人間は面白い。予想も付かないことをする」


この少年は優斗の【絶対理論(コモン・センス)】がレベル7に達するであろうと確信して監視をしていたのだ。


「『常識』を創る能力…か」


全も一も無も有も触れることが可能な腕で神格に干渉し、存在を否定すれば非常識になるし肯定すれば新たな常識となって世界が一新される。


「【SYSTEM】。神ならぬ身にて天上に辿り着くもの。『世界の真理』という神の領域には人間が届かない。だから人間を超えることでそれを可能とする。決して人間が許されるものじゃないな」


もしかすると優斗は[ハンド・オブ・グローリー]の【栄光神掌(エーレハント)】や[ハンド・オブ・フォール]の【破滅魔掌(ルインハント)】すら超える可能性を秘めていたのだろうか。

優斗が絶対理論を使った時に見せたあの腕はもしかすると【ホルスの時代】における人間が旧時代の神による束縛を離れ、己自身を自分だけの神と化した【個人の神・パーソナルゴッド】の片鱗かもしれないのだから。


「結果は御覧の有様だけど」


しかし少年は何故か嬉しそうに笑った。

優斗がたった一度しか使えない絶対理論で生み出した常識とは世界への我が儘どころか大切な人に消えてほしくない、孤独(ひとり)は嫌だという子供染みた願望。

失望を越えて呆れてしまう。


「だけどそれが良いんだ。人間はそうでなくちゃならないと思う。欲望は生きるために必要だ。悟りを開いた人間にも敬意は払うけど、絶望を在るがままに受け入れるのは私の性に合わないからね」


それに【付加理論(エンチャントロジック)】の段階で優斗の成長が止まるとしても、触れたものに『法則』を付与できるのは強力だ。

学園都市の第一位《一方通行(アクセラレータ)》のベクトル操作であろうとベクトルの仕組みまで変えることは出来ないので『ベクトル』という範囲と制約に縛られている。

しかし優斗は法則を変えてしまうので仕組みで可能なこと自体がまったく別物になってしまう。


「付加理論なら成長すれば【絶対能力(レベル6)】にはなるだろう。その時までには触れなくても法則の付与や理論構築を使えるようになってるかもしれないな」


少年は去った。もう監視する意味は無いから。


「さて《右腕(パシり)》にはどんな風に報告しておこうかな。《統括官(キング)》は残念がるかもしれない」


しかし少年は後々に優斗達と
大きく関わることになる。

今はまだ誰も知らないが。

それから数年経って騎城優斗と七草花夜は
【STUDENT】という組織の情報を耳にする。

そこで二人の運命は大きく動き出した。 
 

 
後書き
うぬ。三次版は盛ってますね。

というか優斗君はレベル7に成り得るほどの才能と素質と資格を持った逸材だったのか。

《夢絶叶》を倒しに帰ってきた《HERO-Z》と未来から来て強くなった《不知火(しらぬい) (たたら)》が相手だと色々な意味で大変そう。(これは荒れる)

花夜さんが消えかけたのは何故だろう。

彼女の【無感存在(ノーセンス)】にはステルス以外にも効果が有りますけどそっちが原因かな? 
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