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ラピス、母よりも強く愛して

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13ブラックアキト

 木星圏は電磁波と放射線が渦巻く地獄である。
 歴史のある数々の作品が否定されてしまったが、ガニメデ、エウロパ、イオでも、電磁波や放射線をシールドする建造物から出た途端、月で使う宇宙服程度なら、電子レンジの中に放り込んだタマゴのように爆発するか、体の全ての穴、毛穴まで含めた穴から沸騰した血液が吹き出してパンクする。
 そして木連には、地球政府憲章のように、基本的人権や財産権、思想と信仰の自由は何一つとして明記されていない。
 木連に唯一存在する「神」とは、女神ラピス・ラズリへの尊称であり、他の神は存在しない。
 ここの住人がルナリアンと呼ばれて、身長が3メートルを超える者が出たり、地球に降りれば呼吸すら不可能になって死んでいた頃と変わらず、「空気を汚すものはエアロックの外に放り出す」「水と食料と空気を無駄にする者はエアロックの外に放り出す」「ルールを守れなかった者はエアロックの外に放り出す」大まかな法律はこの3つで、細かい条文は後付された物で、蛇足でもあった。
 新たに追加された鉄の掟は「ラピス様を崇めない者、それ以外の神の名を呼ぶものはエアロックの外に放り出す」が明記された。
 現在の木連住人に与えられる水も空気も食料も住居も電力も、全てが女神ラピス・ラズリからの賜りものであり、月を逃れて生き延びて、ルナリアンとして迫害、殺害されていた窮地から救い出して下さったのも全て女神様のお陰である。
 もし女神に対し、不敬、不遜、不忠、不義、罵倒が確認された者は、即座にエアロックの外に放り出す。それこそが木連の第一の掟、どんな法律よりも優先される決まり事である。

 木連、小学校
 両親と共に木星に連れて来られたアキト。やがて女神様の生まれ変わり、この世に下生して下さった現人神として、王宮へ入ったラピスとも引き離され、公務員や学者の住む居住区に移る事になった。
「おい、あいつ火星からきたらしいぜ」
「そういやあ、ちきゅうじんくせえな」
 今までラピスに守られ、ほがらかに育ったアキトだったが、両親や自分が殺されそうになった上、ラピス、アイちゃんとも引き離され、木連人の悪意の只中に放り出され、次第に心が荒んで行った。
「おい、ちきゅうじん、おまえら「しっぽ」があるってほんとうか?」
「なんとか言ってみろよ、ち・きゅ・う・じ・ん」
 周りから小突き回され、言葉の訛も違い、仲間には絶対に入れないアキト。その状況を監視するラピス達にも耐え難い状況だったが、これも決定事項であり、簡単には覆せなかった。
(例え虐められても、アキトが一人前になるには、これぐらいの試練は一人で乗り越えないといけないのよ)
 アキトの窮地を見ても、何とか我慢しているラピス達。
「ちくしょう! 俺は地球人じゃない!」
 頭に血が上り、子供達に向かって行くアキトだが、多勢に無勢、すぐに取り押さえられてしまう。
(ヒッ! アキトがっ!)
 もうその時点で子供の両親には逮捕状が発行され、その子達も強制収容所への特急券が発行された。

「やめろっ、おまえ達っ、何をしてるっ」
 そこで、声を張り上げてアキトを助ける人物が現れた。それは官舎に住む軍人の子供、白鳥九十九と月臣元一郎だった。
「へっ、ちきゅうじんをやっつけてるだけだ、それともおまえらも、なかまなのか?」
「何を言う、こいつも火星から逃げてきたんだ、俺達の祖先と同じだろう、悪いのは地球人だ」
 小学生にしては、漢字交じりの難しい言葉を話す白鳥と月臣、彼らもまた、アキトと時期を合わせて「製造」されていたので、知的レベルは高かった。 
「ふんっ、クズどもめ、どこに捨てられたい?」
 体の紋様を光らせ、自分を押さえ付けている子供達を、ラピスに教わった通り、ボソンジャンプで消そうとしているアキト。
「なんだ?こいつ光ってるぞ」
「きもちわりぃ」
 転校早々、いじめっ子を放り出して問題児になろうとしているアキト。しかし火星の子供とは違い、ジャンプした瞬間に全員死んでしまう。
「何いってんだ? こいつ」
「へっ、おまえこそエアロックの外に捨ててやるぜ」
 真空の宇宙へ放り出すかどうか考えるアキトだったが、やはり本来の優しさが出てしまい、歩いて帰れる距離にしようと思い直した。

 王宮
「だめっ!」
 王宮では、ラピス29号Rが急に立ち上がり、従者を驚かせていた。
「どうなさいました? 姫様」
「やめてぇっ!」
 アキトがジャンプさせるより早く、小学校に向けて跳躍するラピス。
「た、大変っ! 姫様がっ!」

 小学校
 ジャンプフィールドを展開し、周りの4人を包みこむアキト。
「なんだっ?これ」
「お、おれも光ってる!」
 火星生まれの子孫がいるのか、B級以下のジャンパーもいた。
「行くぞ」
「アキトッ!だめっ!」
 ついに我慢できず、ラピスが出現した。もちろん他の子供がどうなろうが、何も心配していなかったが、後になってアキトが後悔して苦しむのには耐えられなかった。
「ここの子供はジャンプさせると死んでしまうのっ!」
「ラピス……」
「「「「「「「ええっ?」」」」」」」
 突然現れた少女に驚く一同、それがテレビで放送されていた「生き神様」だったので、さらに驚かされる。

 王宮近衛隊駐屯地
「監視室! 姫様が跳躍された、すぐに捜索をっ!」
 その頃、王宮では、突然消えたラピスを気遣い、従者達が騒ぎ始めていた。
「現在位置判明、姫様は官舎中央の小学校に跳躍された模様、天河明人のいる教室です!」
 ラピスに付いている発信機から、今いる場所が警備兵に通達される。
「近衛隊はただちに出動! 姫様の安全を確保せよ!」
 近衛隊、警察、軍では警報が鳴り響き、アキトのいる小学校に急行しようとしていた。

 教室
「ラピス、やっと会えた」
「アキト……」
 一週間ぶりの再会を喜び、固く抱き合う二人。
 先程アキトを迫害していた子供たちは、幼いながらも自分のしでかした「国家反逆罪」の罪の大きさに気付き、腰を抜かして座り込んでいた。
「こんな事で会えるなら、もっと早くジャンプすれば良かった」
 うるうるしながらラピスを見つめているアキト。
 ラピスもこんな長期間に渡ってアキトと会えないなど、生まれてから一度も経験していない苦痛だったので、涙を流してしがみついていた。
「駄目なの、すぐに近衛兵が来てしまうわ」

 各所では沢山の緊急自動車や垂直離着陸機が、サイレンを鳴らしながら発進して行った。市街地、住人の安全は完全無視、爆音を響かせて高度十メートルを飛行する垂直離着陸機。
「一般人には知られるなっ! どこに地球人が紛れ込んでいるかも知れんっ、周辺道路は全て閉鎖するっ」
 装甲シャッターが無警告で閉鎖、事故を起こして道路を脱線する地上車、上空を飛行する飛行車も突然の飛行停止命令に驚き、埋まっている着陸場所に降り、別の飛行車の上や建物の上にも降りる。
「警察に先を越されるな、近衛隊の意地を見せろ!」
 機動歩兵が轟音を上げて緊急起動し、長距離を跳ね跳んで市街地を破壊しながら移動する。
 突然の戒厳令に泣き叫んで逃げる市民、破壊される家屋、車、信号、道路。
「第四出場! 首都の救急隊、消防隊は小学校に集合!」
「空襲警報、いや戒厳令だ、一般人は外出させるな!」
 何やら話がどんどん大きくなって行き、首都の全ての地域、小学校の周りでも空襲警報が鳴り始めた。
 防空シャッターが閉じられ、マクロスならトランスフォーメーションが始まるような警報が鳴って交通機関も全て麻痺。
 シドニアなら重力警報が発令され、遠心力が働いていない地域では、人工重力が切られて固定されていない物が浮遊し、外部の照明器具も消灯、防空体制に入って赤い非常灯だけが残っていた。

「ラピス、俺と一緒に逃げよう」
「えっ?」
 予想外の事を言われ、また変な妄想を始めるラピス。
(アキトと逃げる、愛の逃避行、駆け落ち……)
 何故か北の大地で風雪に耐え、貧しくも慎ましく暮らしている二人。
 髪を黒く染めて変装し、パートの帰りに寄ったスーパーの買い物袋を下げ、ボロアパートに帰ってきたラピス。
「ただいまっ、アキト」
 追われている二人は転々と居場所を変え、定職にも就けず、次第に生活は荒れていた。
「お帰り、酒買って来てくれたか?」
 酒とギャンブルに溺れるようになったアキトの体を考え、飲ませないようにしていたラピスは、静かに首を振った。
「何だって? 俺は酒がないとダメなんだよっ、それぐらいわかってるだろ?」
 酒の事になると、人が変ったように荒れるアキト。
「だめっ! もうこれ以上呑んだらアキトは死んでしまうっ、もうお酒はやめてっ」
「うるせえっ! 誰のせいでこうなったと思ってるんだっ、すぐに買って来い」
 湯呑みを投げ付けられ、泣きながら酒を買いに行くラピス、だが玄関には二人の男が立っていた。
「あ、貴方達は……」
「ラピス様、お迎えに上がりました」
 すぐに振り返り、家の中に向かって叫ぶ。
「逃げてっ! アキトだけでも逃げてっ!」
 しかし、ラピスの叫びもむなしく、すでに家の中で取り押さえられ、数人の男に殴られているアキト。
「さんざん手間を取らせてくれたな、たっぷりかわいがってやる」
「こんな所までラピス様を連れてきて、その挙句がこれかっ、この下衆野郎っ」
「ぐあああっ!」
「やめてっ! アキトは悪くないのっ! 私が、私が悪いのっ!」
「ご同行願います、さあ、あちらへ」
「いやっ! アキトッ! アキトを許してっ!」
 萌え尽きて真っ白になっているラピス。以上、8歳の少女の妄想であった。

「おまえ…… 姫様のともだちなのか?」
「そうだ、火星から一緒に来た」
 感動の再会を邪魔する子供がいたので、ラピスがどこかに消そうと思ったが、抱き会ったままアキトが応対したので、話が終わるまで待つ事にした。
「そう… なの、か?」
 今の木連では、ラピスに対する不敬が、どのような罪になるか子供でも知っていた。
 女神像、絵、写真などに落書きしただけで「死刑」である。
「お前達を破門する、さらに不敬の罪、国家反逆罪、政府転覆の計画……」
 ラピスがアキトに聞こえないように何か呟くと、周りの子供達は真っ青になって震え出した。
「「「「ひっ、ひいいいっ!!」」」」
 政教一体になった木連では、ラピラピ教を破門になると一切の人権を失う。さらに国家反逆罪ともなれば、一族郎党、九族まで滅殺であった。

「全員動くなぁーーーっ!」
「姫様っ! ご無事ですかっ?」
 ゴタゴタしている間に、火炎を吹いて爆音を鳴らすVTOL機が窓に横付けされ、窓を破壊して複数の起動歩兵が突入して来た。
 照明器具は全て消えて空襲警報発令、重力警報も発令、太陽フレア警報、木星フレア警報、空気の漏洩汚染警報、あらゆる警報と警告が発せられ、公共放送の退避勧告と退避場所、防空壕への案内が表示されている教室。
 そこで抱き合っている二人を見付け、アキトを引き離そうとする。
「そこの子供っ! 姫様から離れろっ!」
 走って来る起動歩兵に気付き、ラピスを背にしてかばうアキト。
(はっ!アキトが私を庇って…… ああっ! こうして見ると、アキトの背中って広いんだぁ(は~と))
 今の状況を忘れ、新たな発見をしながら、すっかり別の世界に浸っているラピス。
「き、君が天河明人か?」
 あの女神ラピスの目が、ハート型になっている珍しい光景を目にした兵士は、そこで立ち止まった。
「そうです」
 もし乱暴に引き離したり、アキトに殴りかかったりしていれば、すぐに木星の中心に放り込まれていたので、それは懸命な判断と言えた。
「第一班、姫様を確保、繰り返す、姫様を確保! 後続は校庭と校舎内を固めろ!」
 教室では10体ものパワードスーツが、床を踏み割りながらラピスの盾になって周囲にブラスターを向けていた、他の子供の安全と命はどうでもいいらしい。
 そこに雪崩れ込んで来た大勢の兵士、警官、消防士、救急隊員。校庭には沢山のパトカーや救急車以外にも、消防車、ポンプ車、はしご車、化学消火車、ガス漏れ緊急自動車?などなど、まるでハリウッド映画のエンディングのように、サイレンと回転灯が付いた車が勢揃いしていた。

「姫様、なぜこのような場所に跳躍なさったのですか?」
「あのモノ達がアキトを虐めました」
「こ奴等ですか」
 鬼のような顔をした兵士や警官に睨まれ、腰を抜かして座り込んでいる子供達。
 もうどんな馬鹿でも自分の末路は予想できたので、体中の穴から水分を垂れ流し、死刑になるのをイヤイヤして首を振って、兵士たちから後ずさっていた。
「「「「ひぃいっ!!」」」」
「連れて行け」
「「「「はっ!」」」」
 特高警察の男が一言呟くと、周囲の巡査達が一斉に動いた。
「「いやだぁあああ!!」」
「「たすけてぇええええ!」」
 まるで死刑囚のように、その場で失禁して足腰が立たないまま連行されていく子供達。それを見た他の子供は、何があってもアキトには手出ししないよう、心に誓っていた。

「待ってよ、何もそこまでしなくても」
「でも、あのままジャンプしてたら同じ事よ」
「俺だって殺すつもりは無かったよ、だから許してやってよ」
「うん、やっぱりアキトは優しいっ、あの子達も「お説教」されたら、すぐに帰って来るわ」
 そのお説教とは「脳をほじくり出されて、別のチップを入れられる」と言う意味だったが、それはあえて言わなかった。
「白鳥さん、月臣さん、アキトを助けてくれてありがとう、これからもアキトをよろしくっ」
 他の生徒や教師を見る時は例の三白眼だったが、アキトやその仲間を見る時だけは、営業スマイルだった
「私のような者まで名前を覚えて頂いているとは、光栄でありますっ」
 この時点で永遠の忠誠を誓う元一朗、非常に分かりやすい男であった。
「姫様、ご下命確かに拝領いたしました。この白鳥九十九、命に替えても天河殿をお守りいたします」
 こちらも知的水準は高く調整され、ラピスやアキトへの忠誠度も限りなく高く製造されていた九十九。

 王宮
 その後、現皇帝で戦闘指揮官でもあるラピス赤に説教されているラピス29号右。
「またこのような事件を起こすとは、まだ懲りてないようだな? 今度は4分の1に切って追放してやろうか?」
「ごめんなさい、でもアキトが「ゴミ」を4人ジャンプさせようとしたの、火星ならともかく、ここの子供は死んでしまう。もしそれでアキトが苦しんだりしたら、私、私っ!」
「もういいっ、お前に言われずともそれぐらい分かる、ならば何故ジャンプフィールドを中和するなり、お前が消すなりしなかった? アキトに会いに行きたかったのであろう」
「それは……」
「こちらのアキトは人間嫌いになって、我々が知っていたアキトのようになるのだ、ヒトの4,5人殺せないでどうする?」
「違うっ! そんなのアキトじゃない! アキトは虫も殺さないのっ、網で捕まえて家の外に逃がしてあげるのっ!」
 生来の優しいアキトを思い、口元をほころばせるラピス皇帝。
「そうか「お前の」アキトはそうなのだな」
 笑われたの気にくわないのか、刺すような目で睨んでいるラピス右。
「ほう、その目付き、アキトをまた鬼神に変えようとするなら、誰とでも戦うと言う目だな、面白い」
 立ち上がって歩いて来るラピス皇帝、個体戦闘力ではラピスの中でも最強の部類である。大した能力も戦闘艦も持っていない子供ラピスには、到底歯向かえない相手であった。
「くっ!」
 どんなシュミレーションをしても、このラピスには勝てない、自爆、もしくはフィールドを中和し合い、太陽に焼かれる以外方法は無かった。
(アキト、もう会えないかも知れない)
 アキトに貰った胸のペンダントを握って、お別れの言葉を呟いてみる。
「無駄だ、ジェネレータ出力も私の方が上だ。そう意気込むな、それより、お前のお陰でアキトを怒らせる良い方法ができたぞ」
 ラピス右の前でしゃがんで背丈を合わせ、顎を持ち上げる皇帝。
「そう、こんなシナリオもあったな、年頃になったお前が殺されるとか…」
 きっとラピスが師匠?に殺されて、アキトが「フェニックスの聖衣」を纏うようなシナリオもあったらしい。
「腐った奴らの宮廷闘争果てに地球人に売り渡されて消える。これでどうだ? 木連も敵、地球人も敵、お前以外は全てアキトの敵になるのだ、はははっ!」
「何て事を」
「押し掛け女房の馬鹿ユリカでも、あれだけ怒って追いかけたのだから、自分がどこまで愛されているか、試したくはないか?」
「…………」
 痛いところを突かれ、戦意を喪失するラピス。当時は実験で殺されたジャンパー達や、アキト自身も五感を奪われた怒りから戦い続けていたが、果たして自分の為になら何をしてくれるのか、興味が無い訳では無かった。
「まあいい、時間はまだある、アキトはすでに両親を殺そうとした地球人を憎んでいる、後はこの腐った世界を見てどう思うのか、私達が無理をする必要も無い。今日のような騒ぎ、二度と起こす事は許さん、下がって良い!」

 今後このような事態が起こらないよう、側近の配慮でアキトは王宮に呼ばれ、高官の子弟と共に、ラピス様のご学友になった。
 そして月臣、白鳥達も呼ばれ「ラピス親衛隊」が結成された。
「私が隊長を拝命した白鳥九十九だ」
「副長、月臣元一郎だ」
 どこかの組のように浅葱色ではなく、袖の先が桃色のハッピを着ている少年達。コンサート?に同行して警備や声援を送るだけでなく、舞台が木星だけに「シンクロンマキシム」で合体したり、銀河に烈風を起こして爆進合体するらしい。
「一番隊、天河明人です」
 さらにこの場合、アキトは肺に病を抱えたり、戦闘中「失明」したり「五感を失ったり」するのかも知れない。
「高杉三郎太です」
 他にも「後ろ髪引かれ隊」とか色々なユニットがあるらしい。

 ラピスが持った剣を肩の上に置かれ、騎士の忠誠を誓う儀式を行う一同
「アキトは私の「王子様」なんだから、ナイトじゃないのよ、だから忠誠を誓うのは私よっ(ハート)」
 アキトに対する態度が「ユリカ状態」になっているのに、気付いているのかいないのか、周りの目も気にせずラブラブな秋波を送り続けるラピス。
 元一郎のこめかみが動き、眉の角度が変った。この日から元一郎は「天河明人が大っ嫌い」になった。
 このままでは、どこかの円卓の騎士のように、血みどろの抗争をするかも知れないが、ラピスは不倫などしないので、元一郎には初めから勝算がなかった。
 こうしてラピスとアキトの間には「愛のホットライン」が設けられた、昔の「二人だけのリンク」と似たような物らしい。

 その後もラピスの権威を傘に出世して行くアキト、その栄達はやっかみ半分に、どこかの銀河帝国の将軍のように「スカートの中の小僧」と揶揄されていた。
「もっと近くに寄れ、我が息子よ」
「はっ、皇帝陛下」
 中学に入り、礼装に身を固めて皇帝ラピスに謁見する天河明人。
 もうこの頃には、どこかのキースアニアンぐらいの知力を持ち、脳への改良によりIQも思考力も人類の限界を超えた高みへと到達していた。
 自分の来歴も調査し、テンカワアキトが火星でそのまま生存しているのも調査済み、それでは自分とは何なのか? 調べた果てに皇帝へと辿り着き、今日の拝謁を許された。
「その若さでよくぞこの私にまで到達した。その調査能力に免じて今までの違反、皇帝特権の書類を勝手に閲覧した罪を許そう、これ以上何を知りたい?」
「はっ、全てであります」
「強欲な奴だ、それでこそ我が息子に相応しい。受け取れ、これがお前の出生の真相だ」
 皇帝が投げて寄越したウィンドウには、テンカワ・アキト再生計画から、複製の一覧、出産を担当したラピス、各惑星に存在する遺跡の責任者の顔写真とデータも提示されていた。
「それを見て眉一つ動かさぬとは大した奴だ。そう、お前を腹の中で育て、出産を担当した母親はこの私。テンカワ・アキトをベースとして生産された上級アンドロイド。木星、火星、地球、全ての人類を統治する支配人で管理者、もしくは人類全てを破滅させる存在、それがお前だ」
「畏まりました、皇帝陛下」
「もうその名で呼ぶな、我が息子よ。確かに我らは遺伝的な繋がりが無い。しかし10ヶ月もの間、お前と私は繋がり合い、我が身から養分と骨を奪い取って、文字通り血を分けて与えて育てた親子。この身から産み落として、その肉体の全てを与えた愛しい息子、お前は我が身よりも、この生命よりも何倍も大切な我が子なのだ、もっと特別な呼び方があるだろう?」
「はい、私のまだ短い人生で、母と呼んでいた者が一名、ママと呼んで敬っていた者が一名おります。その同等以上の存在として「母上」と呼ぶのをお許し下さい」
「許す。二人だけの時はもっと砕けた呼び名でも良いぞ? ラピス、お前、俺の女、ベッドで耳元から「俺の子供を産め」と命じろ… 火星でお前の面倒を見ていた女のように、上に乗って「ママ」と呼んで達しても良いのだぞ? お前さえ嫌でなければ是非そうするが良い、我が胎内に帰って来い」
「はい、それでは遠慮なく」
 ブラックアキト、改名後は影山明人と名乗るアキトは、産みの母親に近寄って、大胆に口付けをした。
「良い、我が人生でニ番目に良い日だ。一番はこの身にお前を宿し、子宮に着床した日。三番目はお前を産み落とした日だ。陣痛と出産の痛み、お前と私を繋いでいたへその緒が切れてしまった別れの日でもあるから、余りめでたい日では無いが、それでもお前がこの世に生を受けてくれた誕生日でもある、我が最愛の息子よ」
「は、有り難き幸せ」
「もうその話し方もやめるが良い、お前には私を傅かせ、組み敷いて犯し、子供を産ませる権利があるのだから」
「はい、私は既に貴方と同じ顔のラピスを抱き、「ママ」と呼んだ女と交わった事もあります。産みの親であっても、特に抵抗はありません」
「実に良い日だ。私を母上と呼び、また「母さん」と「ママ」とも呼んで犯せ。この身、まだ男を知らぬ体から、乙女を奪ってお前の物とせよ、何もかも踏み躙って、皇帝をお前の奴婢とするが良い。さあ、来い」
「はっ」
 この日、皇帝ラピスは最愛の息子であり、最愛の夫を取り戻した。女として初めての幸せを知り、初めて男を知って最愛の人の子を孕んだ。
 
 

 
後書き
 むか~し書いていた甘口の部分に反吐が出て、書き足した部分が無駄に辛口で不味く、左右両方の読者から嫌われて、新規参入を阻む内容なのが嫌ですが、KANONの方でも書いたように、昔書いた文は中々捨てられないものです。
 R・O・Dの一巻冒頭のように、新規参加を阻むほど下手な文章で、視点が一定にならないので登場人物の中国人2名の名をやたら連呼する場面。
 読子リードマンの能力でビル一棟全部紙製でした、というオチまでの導入部と同じで、「この文章を捨てるのが嫌で、書き足してでも投稿する」のがモチベーションなので、どうしても全編書き換えが出来ません。 
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