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ラピス、母よりも強く愛して

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07ユリカママ

 天河家
「ママが、ママが死んじゃう!」
 ユリカの母は、ユリカを産んだ後に死ぬ予定だったが、歴史を変える為、とりあえず生かされていた。
 しかし免疫疾患を発症し、結局5年ほど持っただけで自壊する運命にあった。
「かわいそうだよ、なんとかしてあげられないかな?」
 傍で嘲笑っていたラピスだったが、アキトが「うるうる」している所を見て、黙っていられなくなった。
「そ、そうね、うちのママなら何か知ってるかも……」
「うん、おばさんなら、なんでもできるから」
 自分でも人間一人程度の命はどうにでもできたが、相手がユリカだけに、火星での責任者の決済を仰がなければならない。

 監視小屋
「おばさん、ユリカのかあさんがたいへんなんだ、たすけてあげてっ」
 幼いアキトにも、ラピス(母)に特殊な力があるのが分かっているらしく、身長差から上目遣いで「お願い」をされてしまう。
「えっ? ええっ」
 戸惑うラピス(母)だったが、監視小屋地下最深部では警報が鳴り響いていた。
『緊急警報、緊急警報「アキトのお願い」が発令されました。関係各位は直ちにリンクを開始して下さい』
 ラピス達は、ユリカを利する事など耐えられなかったが、これは「アキトのお願い」である、各拠点のラピス達は、すぐに招集に応じ、回線を開いていた。

「集まってもらったのは他でもありません、あのミスマル・ユリカの母親が、自分の免疫システムによって崩壊しようとしています。これもまたユリカの一部が母親に進入し、自分の親まで破壊しようとしているためですが」
「「「何て事…… やっぱりアレは」」」
 それを聞いたラピス達も、ユリカを病原菌扱いして顔を歪めていた。
「そうです、アレはまさに存在自体が病原菌です、アキトにも感染させないよう、厳重に警戒していますが、今回はもしアキトに感染してしまった場合を想定して、治療の実験としたいと思います」
「「「「「そうね、アキトのためなら仕方無いわね」」」」」
 何とか理由付けができた時点で、多くの犠牲(笑)が払われ、現代では在り得ない治療法が開発された。

 翌日、母から圧入機を渡されるラピス。
「これは全ての病原菌とナノマシンに有効よ、体に進入すると自己以外の全てを破壊して、8時間後に自壊します。今回はユリカの母専用に調整してあるので、他のモノに使うと死にます、間違ってもアキトに触れさせないように」
 恐らくいつもの「ナノマシン」でも入っていそうな、使い方を間違えると人類を滅亡させる勢いがある危ない圧入機を渡されるラピス(子供)。
「はい、ママ」
「では直ちに出動、ミスマルユリカの母を生存させ、我らの傀儡とする、行けっ」
「はいっ」

 ミスマル邸
 夜にユリカの部屋をノックする音が響く。
「くー」
(寝てる…)
 有無を言わさず、ベッドの傍に行って叩き起こすラピス。
「起きなさい」
「うにゅう」
 ちょっとキャラが被っている、某ゲームのヒロインのようなセリフを言うユリカ。
 揺すっても起きないので、無言でグーで殴られ、文字通り叩き起こされる。
「ぎゃっ! な、なに?」
 娘の方の悪魔を確認して、また虐められると思い、身を固くしながら起き上がり、逃げる用意をする。
「あなたのママを助けに行くのよ、嫌なら帰る」
 そう聞いたユリカは、ラピスに対する恐れよりも、母親を助けたいと思う願望が勝った。
「まって、ほんとうに?」
 疑うことを知らないはずのユリカだが、相手が相手だけにどうしても確認してしまう。そして母が病気になったのも、この化け物のせいでは無いかとも思い始めた。
「失礼なことを考えるんじゃない。でもアキトのお願いだから仕方無い、貴方のお母さんを助けてあげる」
 ユリカと喋る時は、まるで口を動かすのも面倒、とでも言いたげなラピスだが、アキトの笑顔を想像して耐えた。
「今から行く」
「え? じゃあ、きがえるからまって」
「そのままでいい、病院だからパジャマの方が目立たない」
「うん」
「ジャンプ」
 スリッパだけ履かせると、何の予告も無く、いきなりユリカを捕まえジャンプした。
「きゃっ!」
「うるさい」
 二人は病室に出現し、監視カメラは静止画像に変った。
「一つだけ約束しなさい」
「なに?」
 相手がラピスなので、とても恐ろしかったが、母のために我慢して聞く。
「この病気は現代科学では治らない、これをアキト以外に喋ったら貴方のママは死ぬ、絶対に秘密よ、いいわね」
「うん」
「治った後で喋っても同じ、証拠を消すと病気も再発する、わかった?」
「うん」
 了解を取ったところでユリカの母に圧入機を押し当て、ナノマシンを注入してやる。証拠物件の圧入機は太陽に突入させて焼却した。
「さあ、これで明日の朝には治る、今日は帰って寝なさい」
「え? そうなの?」
「ジャンプ」
 ユリカは出発した時と同じく、自分の部屋の中に一人で立っていた。そして今起こった出来事が現実だと言う証拠は何も無かった。
「ラピスちゃん?」
 僅かに空気が移動する感触が、ラピスがジャンプして帰った跡のように思えた。
「ゆめ? じゃないよね」

 テンカワ家
 その後、ユリカ菌?の洗浄を受けてから、アキトの部屋にお泊りしていたラピス。
「朝よ、起きて(チュッ)」
 もう最近、おはようのキスは当たり前の行事だった。もし「朝のアキト」が大きかったりしたら、その日から始まるかも知れない。
「う~ん、あと5ふん」
 そんな事を言えば、パジャマも脱がされて体中舐め回されるのも、いつもの事だった。
「あっ、だめだよ、ラピス」
 もう胸まではだけられスリスリされ、体温に異常がないか、心拍に雑音がないか十分に調べ上げ、体全体に傷一つ無い状態も確認し、今日の血液サンプルから肝臓や腎臓にも異常が無いか、唾液の状態からも健康状態を調べられる。
 これだけの検査を毎日実施するほうが異常である。
「今日はユリカさんのママが目を覚ますの、お見舞いに行きましょう」
「えっ、ほんと?」
「昨日の夜、二人で忍び込んで、お薬飲ませたの、だから今朝には治るはずよ」
「ええ~、なんでつれてってくれなかったの、ずるいや」
「だって、見つかったら叱られちゃうから、アキトにそんな事させられない」
 もう自分も上を脱いで、肌と肌を合わせて足を絡ませ、アキトの胸に「の」の字を書いているラピス29号。
 もし圧入機が接触してユリカが死んでも「事故」で済むが、アキトに触れさせるなど許されない行為であった。
「う゛う゛んっ」
「「あっ」」
 そこで部屋に入って来て咳払いをするアキトの母を見て、二人は急いで身支度を始めた。

 朝早くミスマル家の呼び鈴が鳴り、身支度を終えたラピス達がユリカを呼び出した。
「お嬢様、ラピスさんとアキト君がいらしてますよ」
 勿論、このメイドロボもラピスの手先で、ミスマル家を監視するために働いている。
「えっ?」
 昨日はあれから、なかなか寝付けずに寝坊したユリカ。あれが現実だという証拠はなく、母が目覚めると言われたのも、期待しすぎないように自分の夢か願望だと思うようにしていた。
 ラピスとアイちゃんからの陰湿なイジメ、虐待、近所の子供からの仲間はずれ、誤情報により別の日に集合場所に呼ばれる、「ぼくらの」みたいにミミズを食べさせられる、などの行為によってこのユリカは、不幸のズンドコな生活、超マイナス思考の少女に育っていた。
「さあ、9時から面会時間よ、行きましょうか」
 今日はアキトも連れて来たラピスだが、ユリカが余計な事を言わないよう監視するのと、感謝されtお礼を言う所をアキトに見せる為らしい。
「おはよう、ユリカ、きのうラピスとびょういんにしのびこんだんだって? それで今日、ユリカのママが目をさますって聞いたんだ、行こうよ」
「え? まだわからないの、きのう、おくすりを……」
 アキトがいる前では本当のことが言えず、しきりにラピスの顔色を伺っているユリカ。
 その敵はいつも通り冷たい目で見ていて、ユリカの母が治る期待の笑顔など、1ミリも見せていなかった。
「じゃあ、行きましょうか? ジャンプ」
 子供たちは、ボソンの輝きを放って消え、病院でラピスたちが管理している部屋に出現した。
(ラピス29号、病院に到着しました、CICよりのユリカ母の再起動を申請します)
(了解、CICよりユリカの母へ起動信号入力、人格モードノーマル、常時監視機能オン、ユリカ抹殺機能、虐待機能オン、アイハブコントロール)
 命と引き換えに、ユリカの母はオモイカネシリーズがコントロールするロボットと化した。

「ママ、ママ?」
 病室に到着し、試しに母を揺すって起こしてみるユリカ。
「……ユリカ?」
 そこでユリカの母は、まるで計ったように目を覚ました。
「ママ~~~~!」
「えへっ、良かった、おばさんが元気になって」
(ああっ、アキトが喜んでるっ)
 傍目に見ると、二人の友達が貰い泣きしているように見えたが、ラピスにとって目の前の感動の対面など、ど~~~でも良い事で、隣にいるアキトが喜んでいるのだけが幸せだった。
 そして監視小屋で映る映像も、いつも通りアキトの喜びの涙で満たされた笑顔になり、各基地のラピスたちもその笑顔に釘付けになっていた。
「「「「「「「アキトが笑ってる…… あのユリカの母親が治っただけなのに、こんな良い笑顔で笑ってくれるなんて……」」」」」」」
 木星圏ではラピスの心拍の異常に合わせて、ちょっと衛星イオで火山爆発が起こったり、月がダンスして地球から裏側が見えてしまったり、火星の重力が弱体化したり、人工天体にされた冥王星でも楽しいイベントが目白押しだった。

「ありがとう、ラピスちゃん」
 医師や看護師の目を気にして、ラピスが投入したナノマシンのことは話せなかったが、一応礼を言うユリカ。
「そうね、みんなで「お祈り」したのが良かったのね」
 どちらかと言えば、実験台にされた多くのヒトを生贄にしたサバトのような儀式だったが、何かの神に祈った所は間違いではない。
「うん、よかった」
 こうしてユリカの母は、ラピスの道具に成り果て、今後ユリカを監視したり、虐待するため存在になった。

 後日、ミスマル邸
「ユリカ、これは何?」
 退院後、急に教育熱心になったユリカの母は、幼稚園児を学習塾に通わせ、近所の低俗な子どもとは遊ばせなくなった。
 そして「お入学」の準備のために通わせている塾の成績が悪かったので、ユリカを正座させて説教を始める。
「貴方は選ばれた人類なのよ? ミスマル・コウイチロウと言う軍のエリートの娘、貴方も上級国民の一人である自覚を持ちなさいっ!」
「キャッ!」
 挨拶代わりの軽いビンタから蹴り、以前の自由奔放に育ち、娘馬鹿の父親に甘やかされるだけ甘やかされ、その才能を伸ばしたた少女はこの世界からいなくなった。
 ラピスやアイちゃんだけでなく、教育ママから虐待を受け、遊ぶことも許されないような気の毒な少女が一人生まれた。
 
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