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水の国の王は転生者

作者:Dellas
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第四十五話 新婚旅行

 アルビオン王国に到着したマクシミリアンとカトレアは、アルビオン各地を歴訪しながら王都のロンディニウムを目指した。

 ロサイス港に停泊したベルギカ号の周辺には、機密漏えいを防ぐ為、諜報部を始めとする厳重な警備体制が敷かれ、使い魔一匹侵入する余地は無い。

 ロンディニウムへ向かう道中、用意された馬車の中でマクシミリアンは農地を眺めていた。

「マクシミリアンさま、何か気になることがおありで?」

「農地を見ていた。このアルビオン大陸は浮遊大陸という環境の為か、麦の背が低く余り育ちが良くないようだ」

「まあ、それでは農民の人たちは苦労している事でしょう」

「食糧事情も悪いようだ。まあ、そのお陰でアルビオンへの食料品輸出で、僕達のトリステインが潤うんだけどね」

「何とかならないんでしょうか。トリステインが支援か何か出来るように」

「悲しいけど、それは難しいな。僕と結婚した事でカトレアも王族に成ったんだ。僕達を養ってくれる国民の為にもなるべくトリステインの利益のなる様な事をすべきでは?」

「それでは、あまりにも……」

「ひどいと思うかい?」

「はい……マクシミリアンさま、どうにかならないんですか?」

「その国の民が苦しんでいるのは、その国の為政者の責任だ。僕達が、『これこれ、これが良い』と口を出せば、一部の者は有り難がるだろうが、そんなの全員じゃない。それを恥と思って僕達を恨む者が出るだろう。そして、なにより内政干渉になる」

「……はい」

「カトレアの、民を想う気持ちは万国共通と言ったところか……おいでカトレア」

 カトレアを抱き寄せ、柔らかい唇を吸った。

「優しいなカトレアは、そんな所も僕は大好きだ」

「マクシミリアンさま……」

 カトレアは、うっとりしながらマクシミリアンに、もたれ掛かった。

 そんなカトレアの頭を愛おしそうに撫でた。だが、その心中はと言うと……

(かつてのトリステインほどではないけど、アルビオンの貴族も大概の様だ。これらの内政の不備を放置し続けてくれれば、その分、トリステインのお得意様であり続ける……まあ、虫のいい話だがね)

 ちょっと黒い事を考えつつ、カトレアの体温を感じていた。







                      ☆        ☆        ☆






 王都ロンディニウムに到着したマクシミリアン一行は、アルビオン王ジェームズ1世に手厚く歓迎を受けた。

 ジェームズ王は、トリステイン王太子夫婦を自室へ招きアルビオン王としての威厳をたっぶり漂わせ、アルビオン製の紅茶と菓子を振舞った。

「マクシミリアン王子。遠路遥々ご苦労であった。我がアルビオン自慢の紅茶を堪能して欲しい」

「ありがとうございます、ジェームス陛下。大変、美味しいです」

「お菓子も、甘くてとても美味しいですわ」

 マクシミリアンとカトレアは、気に入ったようだった。
 ジェームス王と若い夫婦との間は、和やかな雰囲気になり会話も大いに弾んだ。だが、先の『盛大なお出迎え』の話題になるとジェームズ王は神妙な顔になった。

「王子、先日の、我がアルビオン空軍の無礼、この場を借りてお詫びしたい。申し訳なかった」

 そう言って頭を下げた。

「陛下、頭をお上げください」

「しかし、この無礼、捨て置くわけには行かない。早速、先の計画を立てた空軍卿を解任させたいと思う」

「最近、トリステインとアルビオンとの関係がギクシャクしている事を考えますと、もし解任された、アルビオン貴族内の反トリステインが一気に燃え上がりかねません。僕としてはそれは避けたい」

「王子はそれで良いかも知れぬが、それでは、示しがつかぬ」

「栄光あるアルビオン空軍に、汚点を残すような真似は、僕としても避けたいのです。アルビオン空軍はトリステイン空軍の目標ですから」

「……王子がそこまで言うのならば分かった。今回は訓告のみで済ませることにしよう」

「ありがとうございます」

 マクシミリアンは頭を下げた。

 ……実はこの話には裏がある。
 旅立ちの前に、諜報部に命じてアルビオン王国の各閣僚の情報を調べさせていたのだ。
 その情報によれば、空軍卿はハッキリ言えば無能で、政敵になりそうな者を蹴落としたり旧態依然とした人材を周辺に置いたりと、自分の権威の強化に腐心していた。
 現在、トリステイン空軍は再編の真っ最中である。優秀な人材なら平民でも艦長になれるよう取り計らったし、既存の戦列艦やフリゲート艦、その他の補助艦には、蒸気機関を取り付ける為に随時ドック入りし、昼夜問わず改装が行われていた。
 同盟関係とはいえ、ただでさえ強力なアルビオン空軍とトリステイン空軍とでは、艦艇の数に差がありすぎる。

 数の差を性能で補う為に、今回の空軍卿の解任を阻止したのは時間稼ぎの部分が大きい。

(器が小さいと言わば言え。トリステインの為なら、どんなセコイ事だってするさ)

 とマクシミリアンは開き直った。

 空軍卿は、マクシミリアンとジェームズ王の計らいで罪に問われる事はなかった。

 同盟関係とは、利害が一致した国と国が一時的に手を組んだ関係でしかなく、永遠に続くものではない。

 マクシミリアンにとって同盟国アルビオンですら仮想敵だった。

 ……

 ロンディニウムに到着したその日の夜。ジェームズ王は盛大な歓迎パーティーを催した。

 もちろん主役はマクシミリアンとカトレアだった。
 アルビオン貴族から発せられる、敵意の眼差し無視してカトレアとパーティーを楽しむつもりだったが、思わぬ人物の登場にその計画は脆くも崩れ去った。

「マクシミリアン殿! お聞きしたい事があります!」」

「これはウェールズ王子」

 ジェームズ王の息子のウェールズ皇太子が、マクシミリアンの事をまるで物語の中から現れた人物の様に偶像化させ、マクシミリアンの側から離れなかった。
 ウェールズはこの時、小学校低学年くらいの年齢で、妹のアンリエッタと大して年が変わらなかった。

「先の戦乱において、マクシミリアン殿の指揮する軍勢は電光石火の用兵で、並み居る反乱軍を蹴散らしたと聞きましたが、その時はどの様な事を考えていたのですか?」

「それはですね……」

 色々と尾ひれが付いて、どういう訳かマクシミリアンが指揮していた事になっていた。

「それとですね! ああ! せっかくお会いできたのに、聞きたいことが多すぎるっ!」

 ウェールズは、『嬉しさを抑えきれない』といった風に自慢の金髪をかき混ぜた。

「ウェールズ王子、時間はまだありますよ。落ち着いて」

「はい! ありがとうございます!」

「カトレア。そういう訳だから何処かで時間を……あれ?」

 マクシミリアンはカトレアの姿を探すと、離れた場所でカトレアは緑色の髪の少女をおしゃべりをしていた。

(そう言えばカトレアの同年代の友人の話は聞かないな)

 そう思い出して。楽しそうに語らうカトレアを温かく見守る事にした。

「あの! マクシミリアン殿!」

「ああ、ごめん。ウェールズ王子」

「実はお願いがあります!」

「僕に出来る事ならば良いけど」

「その……」

「……?」

「兄上と呼んで良いですか?」

「……へ?」

 素っ頓狂な声で、マクシミリアンは聞き返した。

「その、従兄弟同士ですし、僕には兄弟がいませんし、良いかな? と思ったんです」

「ああ、そういう事……うん、分かった。それじゃ僕もウェールズを呼んでも良いかな?」

「はい! もちろんです兄上!」

 そういう訳で、ウェールズはマクシミリアンの事を兄上と呼ぶようになった。

 その後も、ウェールズの相手をし続けたマクシミリアン。ウェールズは夜も遅いという事で引き上げてしまった。

 ようやく、解放されパーティー会場を見渡すと、周りの貴族達はマクシミリアンと一定の距離を取っていて中々近づいてこなかった。
 その周囲の空気を全く読まず、二人の男がマクシミリアンに近づいてきた。

「こんばんは! マクシミリアン王太子殿下!」

「こんばんは、初めてお会いしますよね?」

「これは、失礼しました! アルビオン空軍所属、戦列艦アガメムノン号艦長のホレイショ・ネルトンと申します。以後お見知りおきを」

「その副官のヘンリーボーウッドです」

「……よろしく」

 マクシミリアンは、先日の『盛大な出迎え』に関係していて、自分にケンカを売って来たと予想した。

「単刀直入に申し上げます、王太子殿下。あの煙を上げて進むフネに、一度で良いですから乗せて欲しいのです!」

 ……が、その予想は外れた。

「え~っと」

「是非、乗せて下さい。お願いします!」

 マクシミリアンは、自分の両手を握って迫るネルトンに、一瞬たじろいだ。

「ダメ」

 が、一言で突っぱねた。

「何故ですか! 嫌ですよ乗せて下さい」

「嫌って何だよ嫌って」

「一度で良いんです! ほんのちょっと!」

「機密なんだからダメ」

「艦長、いい加減に諦めましょうよ。これ以上は、外交問題になりかねません」

「うううう」

「ミスタ・ネルトン。どうしても乗りかかったらトリステインに鞍替えしますか? それなら乗れるようになります」

「むむ……それは」

 流石にネルトンは躊躇した。

「そちらの、ミスタ・ボーウッドもどうでしょう? 我がトリステイン王国は、優秀な人材を随時募集しています。国内外から老若男女、貴賎を問わず、ね」

「貴賎を問わず?」

「そうです、ミスタ・ボーウッド。優秀ならば平民でも艦長になれますよ」

「ううむ、どうしようか」

「ちょっ、艦長! マクシミリアン殿下、大変失礼しました。我々はこれで……」

 ボーウッドは、傾きかけたネルトンを羽交い絞めにして、マクシミリアンの前から去っていった。

「……もうちょっと、突っ込めば良かったかな?」

 優秀な人材を引き抜くことに失敗したマクシミリアンだったが、それほど気にしてなさそうだった。

 ……

 台風一過、人ごみから離れ、一人でアルビオンワインを傾けていると、カトレアと緑色の髪の少女が近寄ってきた。

「楽しんでるようだね、カトレア」

「マクシミリアンさま。ご紹介しますわ。こちら、サウスゴータ家の令嬢、マチルダ・オブ・サウスゴータさんです」

「ご紹介を賜りました、マチルダ・オブ・サウスゴータです。賢王子と名高いマクシミリアン殿下とお会いすることが出来て、大変、光栄です」

 マチルダは恭しく頭を下げた。

「よろしく、ミス・サウスゴータ。これからもカトレアと仲良くしてやってください」

「はい」

「マチルダさんとは、ファッション等、アルビオンで流行っている物を教えてただきましたわ」

「そうか、ありがとうミス・サウスゴータ」

「恐縮でございます。マクシミリアン殿下もカトレア様も、機会がありましたらシティ・オブ・サウスゴータへ是非お越しください」

「ありがとうございます、マチルダさん」

「たしか、この旅行の終盤にモード大公の領地に立ち寄るから、その時に寄らせてもらおう」

「まあ、そうでしたの。それじゃ、マチルダさん、お邪魔させていただこうかしら」

「お待ちしております」

 3人の談笑はパーティーが終わるまで続いた。

 
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