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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第11話

4月17日、早朝――――



~第Ⅱ分校・教官室~



翌朝、機甲兵教練の直前の時間リィン達はミーティングをしていた。

「―――本日からの機甲兵教練は第Ⅱ分校にとって重要な意味を持つ。合同教練を行う戦術科と特務科、バックアップを担当する主計科共々、万全な状態に仕上げてもらいたい。週末の”特別演習”に向けてな。」

「………了解しました。」

「まあ正直、1日そこらでどこまで仕込めるかわからんが……」

「でも、生徒達が身につけられるよう可能なかぎりサポートします!」

「クク、ガキ共全員は厳しいかもしれねぇが最低でも分校にある機甲兵全てをいつでも実戦投入できる状態にまでは仕上げるつもりだから、大船に乗ったつもりでいていいぜ。」

「うふふ、生徒達の機甲兵の操縦の慣れ次第になるけど、もし一人でも実戦に投入できるレベルまで身につけたら”パテル=マテル”にも生徒達の練習相手をしてもらうつもりよ。」

「教練中に生徒達が怪我などをすれば、治癒術で完全に怪我を治しますので、そちらはお任せ下さい。」

ミーティングを進行しているミハイル少佐の言葉に対してリィン達教官陣はそれぞれの答えを口にした。

「よろしく頼む。さっそく準備に取り掛かってもらおう―――と言いたいところだが。その前にシュバルツァー、確認しておきたい事がある。」

「自分、ですか?」

「ああ、今朝ある運送会社から問い合わせがあってな。昨日、リーヴスに配達に行った折、とある黒髪の青年に業務を手伝って貰ったとか。かの有名な”灰色の騎士”にどことなく似ていたそうだが……?」

ミハイル少佐の問いかけを聞いたリィンは自由行動日に、届ける場所がわからなく困っていた運送業者の配達を手伝った事を思い出した。



「ああ、あの時の……どうにも放っておけなくて……その、何かまずかったですか?」

「……やはり君だったか。町の住民からも似たような連絡が入って来ていたが……」

「アハハ……お兄様らしいというか。」

「支援課にいた頃も率先して雑用を引き受けていたものなぁ。」

リィンの答えを聞いて若干呆れた表情で答えたミハイル少佐の話を聞いたセレーネとランディはそれぞれ苦笑し

「はは、懐かしいな。」

「ふふっ、そんな事があったんだ。………なんだか、わたしもちょっと懐かしくなってくるよ。」

リィンは懐かしそうに支援課にいた頃を思い出し、リィン達の会話を聞いていたトワもリィン同様過去を思い出していた。



「コホン、責めるつもりはないが少しは立場を考えたらどうかね?軍事学校たる士官学院の教官、それも”灰色の騎士”が下らん雑用を引き受けるなど―――」

「―――いえ、私はそうは思いません。それどころか、素晴らしい行いだと思います。」

そして咳ばらいをしたミハイル少佐が呆れた表情でリィンに指摘をしようとしたその時リアンヌ分校長が部屋に入って来た。

「分校長……?」

「ど、どういう事ですか?」

「フフ、要するにシュバルツァー教官は、自ら体現しているのです。”世の礎たれ”―――かのドライケルスの言葉を。」

リアンヌ分校長の言葉を聞いたその場にいる全員はリィンに注目した。

「い、いや、そんな大層な話では……」

「では栄えあるトールズ第Ⅱ分校としてはしかと支えるのが筋でしょう。ひとえに雛鳥たちの今後の成長のためにも―――リーヴスの市民達との”橋渡し”となってもらうためにも。」

「え”。」

「そ、それって……」

「まさか……」

「クスクス、要するに市民達の人気取りの為に設立された”特務支援課”の第Ⅱ分校版って所かしら♪」

「クク、言い得て妙だな。まあ、実際そのお陰で今や”特務支援課”はクロスベルの市民達にとっての”英雄”として有名で、解散した事が今でも惜しまれているぐらいだからなぁ。」

「ハア……俺やロイド達も最初から課長に説明してもらって理解していたが、もうちっと、遠回しな言い方をしてくれないかねぇ。」

リアンヌ分校長の提案を聞いてある事を察したリィンは表情を引き攣らせ、トワとセレーネは目を丸くし、小悪魔な笑みを浮かべて呟いたレンの推測を聞いたランドロスは口元に笑みを浮かべて同意している一方ランディは疲れた表情で溜息を吐いた。



「―――成程、第Ⅱ分校の設立はかなり唐突だったと聞いています。その意味で、住民との軋轢回避は今後の課題と思っていましたが……」

一方リアンヌ分校長の提案を聞いてリアンヌ分校長の意図を理解したミハイル少佐は納得した様子で考え込んでいた。

「ええ、分校長として”次”の段取りは引受させて頂きます。貴方達は今日の機甲兵教練と来たる特別演習に備えてください。」

そしてリィン達に説明を伝え終えたリアンヌ分校長は部屋から去っていった。

「ハハ、なんか余計な仕事を抱え込んじまった感じだな?」

「だ、大丈夫、リィン君?」

「うふふ、ご愁傷様、リィンお兄さん♪」

「ハハ………まあ、なるようになりますよ。とにかく今は分校長の言う通り機甲兵教練に集中すべきでしょう。」

「……道理だな。まあいい、この件については君と分校長の判断に任せる。それでは各自準備を進めてくれたまえ―――解散!」

そしてミハイル少佐のミーティングの解散の号令を合図にリィン達は大急ぎで準備を進め……いよいよ分校初となる機甲兵教練が始まるのだった。



~格納庫~



分校の生徒達全員がミハイル少佐とトワ、レンから機甲兵についての説明を受けている中リィンとランディ、ランドロスは格納庫にある機甲兵達の移動の作業を手伝っていた。

「フン、何とか間に合ったか。教練中は任せる。生徒どもを動かすなりして適宣対応するがいい。」

「は、はいっ……!」

作業の様子を見守っていたシュミット博士はティータに指示をし、指示をされたティータは緊張した様子で頷いた。

「相変わらず無茶苦茶な爺さんだな……それについていけるあの子も大したモンみたいだが。」

「ああ、リベールきっての技術者一家の出身だそうだからな。それにしても、あすがに人手不足だとは思うが……」

「しかも、ロクな訓練もなしに週末に現地に出発だからな。―――最低でも2,3人―――いや、4,5人は実戦でも操縦できるくらいにしてやる必要はあるだろうな。」

一方二人が会話している様子に気づき、作業を一旦中断したランディの言葉にリィンは頷いた後疲れた表情で呟き、リィンの言葉に続くようにランドロスは二人に提案をした。

「おいおい、さすがにそれは無理じゃねぇか?模擬戦ができるようになるのが精一杯だと思うぜ。―――そこん所、ヴァリマールの操縦者であるお前さんはどう思っているんだ?」

ランドロスの提案に呆れた表情で指摘したランディは機甲兵と似たような存在である”騎神”の操縦者であるリィンに意見を求めた。

「……そうだな。リスクはあるが、カンのいい子ならいけると思う。生徒の数は分担するとして……ランディとランドロス教官は交代で”ヘクトル”を使うんですよね?」

ランディの問いかけに対して自身の意見を答えたリィンはランディに確認した後重装機甲兵”ヘクトル弐型”に視線を向けた。



「ああ、若干扱いづらいがパワーがあって俺やそこの仮面のオッサン好みの機体だ。お前さんはヴァリマールじゃなくて”ドラッケン”で教えるんだな?しかも太刀じゃなくて機甲兵用の剣を使うんだって?」

リィンの問いかけに頷いたランディはリィン達と一緒に汎用機甲兵”ドラッケンⅡ”へと視線を向けた。

「ああ、さすがにヴァリマールはお手本にはならないだろうしな。騎士剣術なら父さんからも教わっているから何とかなると思う。」

「はは、そっちの方は頼むぜ。あとは生徒(あいつら)の準備が終わるのを待つだけだが……」

「ま、俺としてはこんな鉄屑に乗って戦うより、てめぇ自身を鍛え上げた方が結果的にはそっちの方がガキ共の為になると思うがな。こんな鉄屑、俺なら木刀でもかる~く真っ二つにできるぜ?」

ランドロスの発言を聞いたリィンとランディは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「例え生徒達を鍛え上げても、こんなとんでもない物を木刀で斬る事ができるアンタみたいな”化物”がそんな次々と生まれるかっつーの。」

「というか”機甲兵”を”鉄屑”呼ばわりするのは、さすがにこの分校の教官の発言として、かなり問題発言だと思うのですが……」

我に返ったランディとリィンはそれぞれ疲れた表情で指摘した。



「そういや、リィン。ラジオの”アーベントタイム”の件、もしかしてお前さん達もメンフィル帝国から既に聞いているか?」

「!あ、ああ。という事はランディとランドロス教官も……?」

ある事を思い出したランディの問いかけを聞き、ランディも”アーベントタイム”の事について知っている事に気づき、ランディとランドロスに訊ねた。

「おう。昨日の夜に、ルイーネから直通の連絡が来たぜ。クク、内戦の件で散々な目に遭ってエレボニアから逃げておきながら堂々とラジオ番組に舞い戻ってくるなんざ、中々肝の据わった女のようだな、”蒼の深淵”とやらは?」

「ったく、正体隠すつもりがあるんだったら”皇妃”のルイーネ姐さんを呼び捨てで呼ぶなっつーの。……それにしても容姿とかもデータで送られてきて確認したが、あんなスタイル抜群かつ美人なお姉さんが”蛇の使徒”とはねぇ。しかも昨日俺もたまたま”アーベントタイム”を聞いて声を知ったけど、メチャ好みの声で、俺のドストライクのお姉様じゃねーか!例え戦う相手が綺麗なお姉様や女の子でも分校長や”鉄機隊”みたいなおっかない連中よりも、ミステリアスかつ妖艶な雰囲気を纏っているっぽい”蒼の深淵”のような連中がよかったぜ……」

「ハハ………その言葉は絶対に分校長の前で言わない方がいいと思うぞ。(というか会った事もないのに、よく雰囲気とかわかるな……それにしても”鉄機隊”か。分校長が”碧の大樹”の件が終わった後、分校長は自分がリウイ皇帝陛下とイリーナ皇妃殿下に仕える事とその理由を説明して、”鉄機隊”の解散を宣言した後”神速”を含めた”鉄機隊”の隊士達は分校長について来なかったそうだけど………彼女達も”結社”の残党として活動しているんだろうか……?)」

ランドロスのある言葉を聞いて呆れた表情で指摘したランディは気を取り直した後真剣な表情で会った事もない人物の予想を口にした後疲れた表情で溜息を吐き、リィンは苦笑しながらランディに指摘した後かつて戦ったある人物を思い浮かべて、その人物のその後について考え込んでいた。



その後準備が終わり、”機甲兵教練”が始まった。



2~4限、機甲兵教練――――



~グラウンド~



「はあ、本当に機甲兵に乗るハメになったなんて……………」

教練がある程度終わり、休憩時間で生徒達がそれぞれ初めて乗る機甲兵について話し合っている中ユウナは疲れた表情で肩を落とした。

「その割にはノリノリで基本操縦はクリアしていたみたいですが。」

「ああ、僕よりも早く慣れていたくらいだったな。クロスベルの警察学校でも乗った事は無いんだったよな?」

「あ、当たり前よ。機甲兵は警備た―――ううん、クロスベル帝国軍に配備されていて、警察(あたしたち)に機甲兵が配備されるなんてありえないわよ。警察(あたしたち)の基本理念はクロスベルが”自治州”だった頃と一緒で、クロスベルの各市内の治安維持と自治しゅ―――いえ、帝国法の選守なんだから。まあ、警察学校で導力車の運転はしてたから、そのお陰かしら?一度掴んだらスムーズに動かせちゃったというか………」

ジト目のアルティナと困惑の表情をしているクルトの指摘に疲れた表情で答えたユウナは気を取り直して苦笑しながら答えた。

「運転間隔の延長か……天性のカンかもしれないな。」

「わたしは若干つまずいたので素直にうらやましいです。どうもクラウ=ソラスと比較してしまうみたいで…………」

「フフ、わたくしもアルティナさん同様ユウナさんが羨ましいですわ。わたくしなんて”教官”でありながら、”機甲兵”の操縦はそれ程上手くないのですから。”竜化”は例え姿が”竜”になっても自分自身の身体ですから、どんな風に動かせばいいのかわかりますから、アルティナさんのようにわたくしの”竜化”した際と機甲兵を比べてしまうんですもの……」

ユウナの説明を聞いたクルトが感心している中アルティナは複雑そうな表情で答え、アルティナに続くようにセレーネは苦笑しながら答えた。

「え、え~と……アルティナはともかく、セレーネ教官の悩みは何か色々と違うような気がするのですが……」

「というか何気にとんでもない事実を聞いてしまった気がするのですが。」

セレーネの発言に冷や汗をかいたユウナはジト目で、クルトは疲れた表情でセレーネに指摘した。するとその時生徒達の様子を見守っていたリィンが操縦するドラッケンとランディが操縦するヘクトルは互いの機体に視線を向けて頷いた後それぞれの操縦席からリィンとランディが生徒達にある提案をした。



「よし―――少し早いが簡単な模擬戦をやるぞ!」

「レン教官、”パテル=マテル”も呼んでもらって構いませんか?」

「うふふ、了解♪来て――――パテル=マテル!!」

ランディの声の後に聞こえたドラッケンから聞こえるリィンの問いかけに頷いたレンはかつて”リベールの異変”の際結社から奪い取ったゴルディアス級戦略人形―――パテル=マテルの名を呼んだ!すると格納庫からパテル=マテルが現れ、ドラッケンとヘクトルの横に並び、その様子を見守っていた生徒達は驚いたり口をパクパクさせていた。

「な、な、な、なんなのアレ~~~~~!?」

「――――ゴルディアス級戦略人形”パテル=マテル”。4年前の”リベールの異変”にてレン教官が結社との戦いの最中で、結社から奪い取った人形兵器です。」

「そう言えばその話は兄上から聞いた事があるな………まさか、あれ程巨大な人形兵器だったなんて想像もしていなかった。」

「ア、アハハ……まさか本当に朝のミーティングで言っていた事を本気で実行するなんて、何気にランディさんやお兄様もスパルタですわね……」

ユウナは他の生徒達同様口をパクパクさせた後驚きの声を上げ、ユウナの疑問にアルティナが冷静な様子で答えている一方、クルトはある事を思い出して呆けた表情でパテル=マテルを見つめ、セレーネは冷や汗をかいて苦笑していた。



「これから俺とランディ、パテル=マテルを操作するレン教官が交代で君達2名の相手をする。呼ばれた者は前に出てくれ。まずはユウナ、クルト!」

「って、いきなり!?」

「……折角の機会だ。見極めさせてもらおうか。」

リィンに名前を呼ばれたユウナは驚き、クルトは静かな闘気を纏いながらで呟き

「お二人とも、ファイトです。」

「フフ、頑張ってください。」

アルティナとセレーネは二人に応援の言葉をかけた。

「へぇ………?」

「ふふっ……」

一方その様子をそれぞれの場所からアッシュとミュゼは興味ありげな様子で見守っていた。



その後それぞれドラッケンに乗り込んだユウナとクルトのペアは協力してリィンが操縦するドラッケンを戦闘不能まで追いやった。



「や、やった……!」

「いや…………(ギリッ)」

リィンが操縦するドラッケンが戦闘不能になる様子を見たユウナが自分達の勝利に喜んでいる中、何かに気づいていたクルトは悔しそうな表情で唇を噛みしめた。

「……いい感じだな。今の感覚を覚えててくれ。」

するとその時リィンの称賛の声が聞こえた後リィンが操縦するドラッケンは立ち上がった。

「余裕か……」

「ふむ、流石ですね。」

リィンが手を抜いて二人と戦った事に気づいた生徒達は驚いたり感心したりしていた。

「よし、お次はウェインにレオノーラだ――――」

その後次の模擬戦が始まり、次の模擬戦が始まった頃、機甲兵から降りたユウナとクルトはアルティナがいる所に戻った。



「お二人とも、お疲れ様でした。」

戻って来た二人に対してアルティナは労いの言葉をかけ

「く、悔しい~っ……!途中から手を抜かれてるって気づいてたのに……!」

「こちらは初搭乗だ。気にする必要はないさ。(………手を抜かれてたとはいえ、やっぱり納得いかないな……どこか手ぬるいというか甘さがあるというか………)」

リィンに手を抜かれていた事にユウナは悔しそうな表情で声を上げ、ユウナに慰めの言葉をかけたクルトは複雑そうな表情で考え込んでいた。するとその時、大きな音が聞こえ、音に気づいたユウナ達が視線を向けるとパテル=マテルに敗北した2体のドラッケンの様子があった。



「ま、参りました……!」

「さすがだねぇ………!ランドロス教官達と違って、実際に乗って操縦もしていないのに、あれを躱せるなんて!」

眼鏡の男子生徒―――ウェインと緑色の髪をポニーテールにしている女子生徒―――レオノーラはそれぞれ自身の敗北を認め

「うふふ、レオノーラは初めてとはいえそこまで使いこなした時点で”上出来”よ。ウェインはまずは基本操縦を徹底的に練習して、基本操縦をマスターする事ね。」

パテル=マテルを操作していたレンは二人に対してそれぞれの評価をした。

「次はそうだな……アッシュにゼシカ、行けるか?」

「ええ………!望むところで―――」

「ハッ、お断りだな。」

そしてリィンに指名された蒼髪の女子生徒―――ゼシカが頷きかけたその時アッシュが予想外の答えを口にした。



「………………」

「ほう?」

「フゥン?」

「え、えっと……?」

「おい、アッシュ………」

「ちょっと貴方、どういうつもり……!?

アッシュの答えを聞いたリィンは真剣な表情で黙ってアッシュを見つめ、ランドロスとレンは興味ありげな表情をし、セレーネは戸惑い、ランディは目を細めてアッシュを睨み、ゼシカはアッシュを睨んで問いかけた。

「ああ、お前さんとの共闘に文句があるわけじゃねえよ。せっかく模擬戦をするんなら面白い趣向がいいと思ってなァ。――――ランドルフ教官、ヘクトルを貸してくれねえか?どうせだったら一対一でシュバルツァー教官の胸を貸してもらいたいと思ってね。」

「そいつは……」

「―――いいさ。その条件でやってみようか。」

ゼシカの問いかけに答えた後に提案したアッシュの言葉にランディが答えを濁しているとリィンが了承の答えを口にし

「ハッ………!」

リィンの答えを聞いたアッシュは不敵な笑みを浮かべた。一方その頃リィンとランディは機甲兵同士の内線でアッシュの提案について話し合っていた。

「……おい、いいのか?」

「ああ、差し支えがなかったら。折角やる気になっている事だし、水を差すのも勿体ないだろうしな。」

「やる気ねぇ……まあいい。せいぜい鼻っ柱を折ってやってくれよ?」

その後ランディはヘクトルから降り、ヘクトルに乗ったアッシュはドラッケンを操縦するリィンと対峙した。



「なんなのよ、アイツ………さすがに生意気すぎない!?」

リィンの操縦するドラッケンとアッシュの操縦するヘクトルが対峙している様子を見守っていたユウナはアッシュの態度に対して不満の声を上げたが

「ユウナさんは人のことを全く言えないと思いますが。」

「むぐっ………」

ジト目のアルティナに指摘されると気まずそうな表情で黙り込んだ。

「………………」

一方クルトは真剣な表情で黙って2体の機甲兵を見つめた。



「クク、礼を言うぜ。シュバルツァー教官どの。折角だから英雄サマの凄さを直接味わってみたくてねぇ。」

「別に構わないが……いきなりヘクトルで大丈夫か?パワーがある分、扱いは難しいから初心者にはハードルが高いぞ?」

「ああ、そうみたいだな。だが――――コイツを使うには少しパワーが必要なんでな……!」

そしてリィンの忠告に対してアッシュが不敵な笑みを浮かべて答えたその時ヘクトルは先端が赤く光り始めたヴァリアブルアクスを振り上げた!

「なっ……!?」

「その距離では―――」

「いや……!」

アッシュの行動にユウナやアルティナが驚いている中すぐに察したクルトが血相を変えたその時、ヘクトルがヴァリアブルアクスを振り下ろすと何と鎌の形態をしている刃が伸びてドラッケンに攻撃をした!

「ええっ!?お、斧が”伸びた”……!?」

「奇襲用のギミックだと……!?」

「あら、やるじゃない♪」

「だぁっはっはっはっはっ!”戦”ってモンをよく理解しているようだな、悪ガキよぉ?」

ヘクトルの奇襲攻撃にセレーネとランディが驚いている中、レンとランドロスはヘクトルを操縦するアッシュに対して感心していた。一方ドラッケンを操縦するリィンは間一髪でヘクトル奇襲攻撃を回避した。

「やりやがる……!だが先手はもらったぜ!」

その後ドラッケンはヘクトルの先制攻撃を連続で受けてしまったが、すぐに立ち直り、余裕な様子でヘクトルを戦闘不能に追いやった。



「はあ~………なんとか凌いだか。ていうか最初の”あれ”、さすがに汚すぎない!?」

模擬戦の様子を見守っていたユウナは安堵の溜息を吐いた後アッシュの奇襲攻撃を思い出し、不満を口にした。

「確かに、開始の合図の前でもありましたし。」

「ああ………武を尊ぶエレボニア人の風上にも置けないやり方だ。(だが、あの瞬発力と虚を突いた奇襲は……)」

ユウナの意見にアルティナと共に頷いたクルトはアッシュのヘクトルの操縦の腕前について考え込んでいた。



「チッ……しくじったか。」

「おい、アッシュ・カーバイド!開始前の奇襲はともかく、あのギミックはなんだっつーの!?昨日、追加で届いた装備だが……なんであんな仕掛けを知っている!?」

アッシュがヘクトルが飛び降りるとランディが血相を変えてアッシュに駆け寄ってアッシュに問いかけた。

「偶然ッスよ、偶然。振ったらたまたま飛び出ただけさ。シュバルツァー教官、胸をかしてくれて感謝ッス。また機会があったらよろしくお願いしたいもんだぜ。」

「ああ、いつでもいいぞ。ちなみに先手後のラッシュはちょっと大雑把過ぎたな?一撃一撃を的確に繰り出せば次にも繋げやすくなるだろう。」

「………ケッ………」

ランディの問いかけを軽く流したアッシュは不敵な笑みを浮かべてリィンに感謝の言葉を述べたが、リィンの指摘を聞くと舌打ちをしてその場から離れた。

「おいコラ、アッシュ……!……ったく、すまねぇな。どこか危なっかしいヤツだとは思っちゃいたんだが。」

「はは……結構な問題児みたいだな。だけどあの天性のバネ―――鍛えれば相当強くなりそうだ。」

「ああ、そいつは同感だぜ。」

その後、機甲兵教練は午前中のうちに一通り終了し……昼食後、興奮も覚めやらぬうちに週末の”特別カリキュラム”について生徒達全員に伝えられるのだった。



~軍略会議室~



「っひょおおおっ、マジか!?専用列車に乗って、サザ―ラント州へ遠征やて!?」

「うわ~、なんだかワクワクしてきましたねぇ♪」

「で、ですが入学したばかりでどうしていきなり………」

「……まあ、それが命令ならこっちは従うのみだけど。」

「金曜日ということはあまり準備期間もないな………」

「えっと、食料とか現地調達できるのかな……?」

「フフフ、豊かな山の幸がさぞや期待できそうだな……!」

「―――出発は金曜の夜、それまでに為すべき準備をクラスごとに決めてある!担当教官の指示に従って備え、英気を養うこと―――以上だ!

”特別カリキュラム”の説明を受けた生徒達が様々な反応を見せている中ミハイル少佐は冷静な様子で説明を続けた。



「うーん、入っていきなり地方での演習だなんてねぇ。サザ―ラント………エレボニアの南西の州だっけ?」

「ええ、ここからだと列車で数時間ほどですね。ちなみに”第二都アルトリザス”は14年前の”百日戦役”にてアルトリザスと隣接しているサザ―ラント州の中心部の都市である”白亜の都セントアーク”がメンフィル帝国軍に占領、そしてメンフィル帝国領となった為、新たなサザ―ラント州の中心部の都市となった場所です。」

「へ~、じゃあお隣はメンフィル帝国の領土なんだ………って、メンフィル帝国の領土になった経緯や今のエレボニアとメンフィルの関係を考えると色々な意味で大丈夫なの!?」

自分の質問に答えたアルティナの話を聞いたユウナは呆けたがすぐに我に返り、表情を引き攣らせて指摘した。

「サザ―ラントか………(………懐かしいな。)」

(えっと、たしかリベールで2番目に近いエレボニアの地方で、そのお隣はリベールのハーケン門に一番近いメンフィルのセントアーク地方だったっけ。あ、ということは………)

(ハッ………聞いてた通りの行き先か。行ったことはねぇハズだが………ひょっとしたら……)

「ふふっ………」

一方クルトは懐かしそうな表情をし、ある事に気づいたティータは目を丸くし、アッシュは考え込み、アッシュの様子に気づいたミュゼは微笑んだ後再びリィン達教官陣に注目した。



そして数日後”特別カリキュラム”の演習地に出発する日の夜が訪れた―――――


 
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