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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第五十五話 管理局との交渉、そして新たな運命の前日   ★

 十一月二十八日。
 今週末にはフェイトの最終公判が待っているが、事実上の無罪判決。
 プレシアの方は魔力の封印や技術協力等はするが幽閉等もされる事もないし、裁判が終われば海鳴に住む事も今のところ順調に手続きが進んでいる。

「フェイト、そろそろ休憩入っていいよ」
「うん。ありがとう」
「士郎君も休憩入ったら?
 また夕方ぐらいから忙しくなるし、休憩入ってないの士郎君とフェイトちゃんだけでしょ」
「そうですね。
 ならとらせてもらいます」
「はいはい。ごゆっくり~」

 そんなエイミィさんの言葉に見送られて休憩室に向かう俺とフェイト。

 と休憩室に近づくと開く扉。

「ん? 士郎とフェイトは今から休憩か?」
「ああ、いない間は頼んだ」
「了解だ。アルフとユーノにも伝えておくよ。
 こちらでも対処が難しいときは声をかける事になると思うが」
「ああ、その時は遠慮なく声をかけてくれ」

 クロノと入れ替わりで休憩室に入る。

 なんで翠屋にエイミィさんやクロノまでいるかというと、二日目にしてあまりの繁盛ぶりに明らかに三人では無理が出てきた。

 というわけで急遽リンディさんに連絡して従業員を確保してもらったのがエイミィさんとクロノの二人。
 勿論それぞれがメイド服と執事服を纏っている。

 そしてさらに一週間後、本局に戻ってきたユーノを加え六人体制で店をまわしているのだ。

 ちなみにエイミィさんとクロノが翠屋を手伝っている関係で数ヶ月前から予定されていた短期航行で一週間ほど本局を離れて、アースラ出張店で働いただけで、それ以外はずっと本局にいる。

 そんな無茶が通るのか疑問に思ってリンディさんとレティさんが一緒に店に来た時尋ねて見たのだが

「従業員の確保をお願いしていてなんですが、局員をこんな事に従事させてていいんですか?」
「その件は心配しなくてもいいわよ。
 上層部があまり本局から出したくないみたいでね」
「出したくない、ですか?」
「気付いているとは思うけど、可能な限り監視下に士郎君を置いておきたいのよ。
 そんなことしても魔術の情報がわかるはずもないんだろうけど」

 との事らしい。
 俺の部屋は勿論、ユーノの部屋、テスタロッサ家、翠屋には解析等で調べる限り盗聴や盗撮出来るモノはなかったが、常に監視機械や視線は感じているので監視されている事は知っている。

 もっともリンディさんの言うとおりこちらに来てから魔術行使は解析だけで投影は勿論のこと強化も使っていないのだから魔術に関して何かわかるとは思えない。
 それでも監視下に置きたいというのは

「持ち得ぬ技術を欲するというのは仕方がない事か」

 魔術という魔導師達が持たない技術を得て、戦力増強したいのだろう。

 リンディさんやレティさんも言っていたが管理局は人手不足のようだしな。

 しかし意外な事もある。

 それは管理局からの勧誘。
 本局に来て、エイミィさん、クロノ、そして少し遅れてユーノが店を手伝ってくれるようになり、店の運用が安定し始めた時に会って話したいという招待状が届いたのだ。

 招待されたメンバーは意外と少なく俺の知り合いとしてリンディさんとレティさん、管理局の代表として五名の計八名と話し合う事になった。

「はじめまして。魔術師、衛宮士郎殿。
 時空管理局本局、クラウン・ハーカー中将と申します。
 この度はジュエルシード事件の証言のための来訪だというのに、このような話し合いに応じてくれた事に感謝致します」

 時空管理局の中将にして代表の五名の一番役職が上の人物だが、意外に若い。

「はじめまして。クラウン・ハーカー中将、そしてその他の時空管理局の皆様。
 そして頭をお上げください。
 今回の事はお互い必要な事なのですから」

 互いに向い合い席についたのだが、周囲にいる護衛の局員がピリピリしている。
 周囲を警戒しているのならば気にする必要はないのだが明らかにこちらを警戒している。

「ところでクラウン・ハーカー中将。
 話し合いといっていた割にずいぶんとこちらを信用していないのですね」
「その服装は、衛宮士郎殿の戦闘時の恰好だったはず。
 ならば警戒するなという方が無理ではないですか?」
「デバイスを持っている時点で魔導師にとっては戦闘準備は整っています。
 残念ながら我々魔術師はデバイスのように武器を隠せるような道具を持っていませんので」
「そうかもしれませんが」
「それに今はお互い不干渉が基本ですが、この話し合いの後もそれが続く保証はありません。
 となれば戦闘準備だけはしておくべきでしょう」

 その言葉と共にデバイスを握り、いつでも動けるように構える護衛と立ち上がる向かい側に座る数名。
 それを阻むように

「座りたまえ。
 君達も構えを解きたまえ」

 クラウン中将が構えを解くよう言葉を発した。

「ですが、中将」
「彼は話し合いの後でと言った。
 つまりこちらが技術提供等で強制をしようとしなければ戦闘にはならない。
 それで間違いないですな?」
「ええ、魔術には非殺傷設定などありませんから、無駄に血を流すような事をしたくありません」

 俺の言葉に渋々ながら腰を下ろす数名と構えを解く護衛。

「さて単刀直入に管理局からの要望をお伝えします。
 魔術についての技術提供。
 および魔術師の育成協力。
 そして、衛宮士郎殿ご自身の管理局への所属となります」

 クラウン中将が言う要望は予想通りと言ったところか。
 魔術師育成の協力は予想外だったが。

「ご要望の件はすべてお断りします」
「理由を聞いても?」

 俺の言葉と共に眉を顰める面々だったがクラウン中将だけは表情を変えずに質問を返してきた。
 周りの方々よりも若いといっても中将という肩書は伊達ではないという事か。

「魔術師は技術を受け継ぎ、代を重ねるごとに能力を増していくものです。
 そして受け継がせるのは一世代に一人のみで外部には漏らさない。
 なにより私が管理局に所属する事でのメリットがありません」
「ですが、魔術師の技能と管理局の技術、魔導の技能を集結すればさらなる能力の向上が」
「それは難しいでしょう。
 魔術は概念、魂魄の重さを重要視していますから。
 簡単に言えば年月や歴史の重みが重要になり、科学技術の発展と共に未来に進む魔導とは方向性が違います。
 科学は未来に向かって疾走し、魔術は過去に向かって疾走するものです」

 過去に疾走する魔術と未来に疾走する科学とは向かう方向が真逆なのだ。
 そして、概念などは魔導を使う者には不要な考えであり、理解自体が難しい。
 まあ、実際は魔導と魔術の混合など試した事がないので何ともいえないのだが。

 魔導と魔術の混合は置いておくとして、管理局はリンディさん達を除き魔術を使うために魔術回路がいる事自体わかっていないのだ。
 
 俺がメリットがないという言葉を否定して説得しようにも魔術の知識もなく、理解もしていない者が説得できるはずがない。
 しばし意見を交わすが、結局

「……わかりました。
 私共も貴方を説得できるカードを持っていません。
 またカードを用意して参ります」

 と意外にもあっさりと引き下がったのだ。

 その後あれから管理局の上層部から何のアクションもなく、強制じみた勧誘もない。
 強制じみた行為をしたらこちらも黙ってはいないのだが。

 もっとも管理局が諦めたというわけでもない。
 リンディさん曰く

「魔術に関する情報が少なすぎて動きが取れないのが正しいわね。
 映像解析や士郎君を監視することで少しでも魔術の情報を得ようとはしてるけど」

 とのこと。
 まあ、俺にとってのメリットがわからないのだから交渉のやりようがないのだろう。

 そんな管理局とのやり取りを思い返していたら

「士郎、その剣」

 フェイトの困惑したような声に現実に引き戻される。
 
 フェイトの視線は俺の胸元に向いている。
 休憩中という事もあり、ネクタイを解き首元のボタンを二つほど開けている。

 普段は休憩中でもネクタイを締めたままだったのだが、先ほどまで調理をしていた事もあり暑さから珍しく首元を楽にしていたのだ。

「その白の剣」

 フェイトの視線が金色の宝石が輝く黒き剣の横にある、赤い宝石が輝く白き剣に向けられていた。

「ああ、これか?」
「う、うん」
「海鳴でフェイトと別れた後になのはに欲しいってお願いされてな。
 遅くなったけど俺が本局に来る時に渡したんだ」
「うう、なのはずるい。
 私が士郎と会えない間ずっと一緒だったのに。
 士郎も士郎だよ」

 えっと……なにやらぶつぶつ呟いているがどうかしたのだろうか?

「士郎!」
「は、はい。何でしょう?」

 フェイトの迫力に反射的に姿勢を正してしまう。

「私となのは以外には渡してないよね」
「? ああ、フェイトとなのはにしか渡してない。
 誰でも渡せるような代物じゃないしな」

 元々が干将・莫耶という夫婦剣であり、惹き寄せあい再び会えるように、互いの絆の証として作ったのだから、軽く渡せるモノじゃない。

「ならいいけど。
 でも今後誰かに頼まれても作っちゃだめだよ。
 いい?」
「えっと」
「い、い、よ、ね?」
「……はい」



 フェイトの言葉に頷く。
 なにやらやけに迫力があった。
 なぜ作っちゃ悪いかはわからないが、作らないようにしよう。

 そんな時

「士郎、休憩中にすまない。
 お客さんだ」
「お客さん? 俺にか?」

 クロノが休憩室に入ってきてそんな事を言った。

 ここに来るお客さんといえばリンディさんや、レティさん、プレシアといったところだかその三人ならクロノがわざわざお客さんという事もない。

 アースラの面々なら顔見知りはいるがわざわざ呼び出す事もないだろう。

 お客さんが誰か思い当たらず、フェイトと顔を見合わせ首を傾げる。

「とりあえず行くか」
「あ、私も行く」

 ネクタイを締め直し、服装をチェックしてフェイトと共にフロアに戻るとそこには

「わざわざ呼び出してすまない」

 クラウン・ハーカー中将が立っていた。
 
 制服を着てはいないが時空管理局の本局の中将が魔術師がいる喫茶店をただ食事に訪れるとは思えない。
 魔術に関する交渉か?

 私服でここなら他の局員に話を聞かれることなく秘密の取引も可能だ。

「実は……」

 クラウン中将の言葉に様子を見守っていたクロノやエイミィさん、フェイト達が息を呑む。

「誕生日ケーキをお願いしたいのだが」
「…………は?」

 今何といった?
 タンジョービケーキ?
 いや、誕生日ケーキか。

「えっとクラウン中将?」
「ああ、今はプライベートだから肩書はいらない」
「ではクラウンさん。
 確認しますが、ここに来たのは」
「娘の誕生日ケーキを頼みに」

 裏取引でも何でもなく本当に注文に来たらしい。

「申し訳ありませんが、当店、本局出張店は今月末で閉店となりますが」
「ああ、それは知っている。
 その……実は娘の誕生日は今日なのだが忙しさにかまけてケーキを注文し忘れていて。
 他の店では断られてね。
 リンディ提督がオーナーの最近噂のこの店を訪ねたというわけなんだが」

 誕生日ケーキとなればワンホール。
 それを当日いきなり欲しいと言われても普通は難しいだろう。
 しかも今お昼は過ぎてもうすぐ三時。

「何時に間に合わせればよろしいですか?」
「七時から家族で誕生日パーティをするから六時半には受け取りたい」
「ケーキのサイズや種類はいかように?」
「サイズはそうだな出来るなら六号。白いケーキもいいが、娘がチョコが好きなんで迷ってるんだが」

 白い生クリームケーキがいいが、チョコも捨てがたいが。
 なら

「………ホワイトチョコでデコレーションを。
 通常のスポンジにチョコのスポンジを間に挟んだ三層。
 スポンジの間は生クリームとイチゴといった感じでいかがでしょうか?」
「ホワイトチョコか。
 それで頼めるかな?」
「かしこまりました。
 午後六時半までには必ず」
「じゃあ、また六時半に」
「はい。またのお越しをお待ちしております」
 
 クラウン中将を見送る。

「その士郎、三時間半で大丈夫なのか?」
「ふ、これぐらいの無茶をやれぬで何が執事か。
 しばらく厨房から出てこれないと思うが頼んだぞ」

 在庫からケーキの作成は十分できる。
 注文を受けたからには完遂するのが鉄則。
 さあ、戦いの幕は上がった。

 挑むとしよう。




side フェイト

 士郎が厨房にかかりっきりになり戦力が減るから心配だったんだけど、ある意味それは裏切られた。

 なぜなら

「カウンター、ホットサンドとカフェモカのセットあがったぞ」
「うん。ありがとう」

 士郎は確かに厨房から出てこなくなったけど、ケーキ作りの合間に注文を受けた調理もやっている。

 普段の調理でさえ無駄な動きがない素早いものなのに、今日はさらに段違い。

 一切の無駄を省き、何をするにも最速最短で、だけど手つきは丁寧で一切の妥協がない。

 すごいんだけど何かが間違っている感じがどうしても拭えなかった。




side 士郎

 時間は六時。

 最後の仕上げのデコレーションももうすぐ終わる。
 余裕を持ってケーキは渡せそうだ。

 そんな時

「失礼する」

 厨房に入ってくる一人の男性。
 
「クラウンさん。ここはスタッフ以外お断りですが」
「フェイト・テスタロッサさんにも言われたけど、二人だけで話したい事もあったものでねリンディ提督に許可をもらったよ」

 二人だけで話したい事ね。
 それにリンディさんの許可が出てるなら断るわけにもいかないか。

「そこに椅子があるので使ってください。
 もうすぐデコレーションが終わるので」
「作業をしながらで構わないよ」
「そうですか」

 クラウン中将に厨房の中にある作業用の丸椅子を勧め、再びデコレーションの作業に入る。
 中将は椅子に腰かけて静かに話し始めた。

「単刀直入に話そう。
 管理局は未知の技術である魔術の技術を知りたい。
 だが君にとっては管理局に技術を教えるメリットがない。
 逆を言えばこちらに技術を教えることでメリットがあれば技術の提供をしてくれるという判断でいいのかな?」
「そうですね。
 技術を教えるほどのメリットがあれば」
「だから考えていた。
 魔導を研究して使用する管理局が魔術師である君に何を提供すればよいのかと。
 しかしその答えが全く見えてこない」

 当然だろうな。
 リンディさんとレティさん達を除き与えた魔術の知識は俺が武装転送系の魔術を使うという事であり、魔術師自体については触れてもいない。

「当然だな。
 君の技術に目がいき基本的な事が全く分かっていなかったのだから。
 あえて頼もう。
 君の魔術技術については一旦置いておくとして、魔術の基礎知識というのを教えてほしい。
 魔術を使うのには何がいるのか。
 魔術師は何を望むのかを」

 潔いというか、はっきりとした人だ。
 知識を知らなければ交渉以前の問題。
 だが知識がない。
 ならば当事者にあえて聞こうというのだから。
 
「魔術は等価交換が基本。
 教えて貴方は何を私に与えれる?」
「第97管理外世界が関係しているであろう今起きている事件について」

 なぜここで第97管理外世界、地球が出てくる?
 それにジュエルシードの件ではなく、今起きている?
 デコレーションの作業をやめて、中将に振りむく。

「十一月の初めごろから魔導師の襲撃事件が起き始めた。
 襲撃といっても襲われた者は負傷こそしているが命には別条はない。
 それに金品の被害もない」

 命を狙うでもなく、金品を奪うわけでもない。
 なら何を目的にした襲撃だ。

「奪われたのは魔力。
 魔導師が持つ魔力の源リンカーコア。
 さら痕跡や状況から恐らく一級捜索指定のロストロギアが関わっている可能性がある。
 そしてその被害の中心となる世界が」
「第97管理外世界だと?」
「そうだ。
 現在第97管理外世界は魔術という未知の技術が少数ながら存在するという特殊な状況下であるため知っている者もほとんどいない情報だが」

 俺が管理する世界に関係する今起きている事件で機密性の高いものというわけか
 
 中将に背を向け、デコレーションを再開する。

「魔術を使うのには魔術回路という疑似神経が必要となり、先日の交渉で話をしたと思いますが、魔術師は技術と知識を受け継ぎ、代を重ねるごとに能力を増します。
 私は違いますが、魔術師は基本的に根源、こちらでいうアルハザードへ辿りつくのを目的としています。
 基礎の基礎としてはこれぐらいですか」
「衛宮君は違うのか?」
「私は……」

 私が何を目指すのか……
 気が付けば元いた世界からこの世界に渡ってもう半年が経とうとしている。

 だが再び正義の味方を目指すのかまだ道も定まらない。

「……目指す先を探している途中かな」
「そうか」
「はい。
 さて、デコレーションも出来た。
 カウンターで待っていてください。箱に入れてお持ちします」
「わかった。
 ありがとう」

 厨房から出ていく中将。

 『幸せになりなさい』
 『掴んでみせよ』

 向こうの世界から旅立つ時に言われた二人の言葉を思い出す。

「……答えはいまだ見えずか」

 いまだに進む道も答えも見えない自分が情けなくなるが、考えて簡単に答えが出るなら苦労はない。

「箱に入れるか」

 ため息を吐きつつ、箱を取り出して、デコレーションを壊すことないように丁寧に箱にケーキを納めはじめた。




side リンディ

 クラウン中将が厨房から出てきて、隣のカウンター席に腰掛ける。

 クロノが置いたミネラルウォーターを飲んで大きく息を吐いた。

「どうでした?」
「魔術回路と魔術師が目指すモノについては教えてもらったが」
「が?」
「衛宮君が求めるモノはわからなかった、いや彼自身が答えをまだ見つけきれていないというのが正しいかな」

 クラウン中将の言葉に何も返事が出来ない。

 士郎君の本質を垣間見た事が一瞬とはいえある私は管理局の提督という立場だけど何も言う事は出来ない。

「これは独り言だから答えたくなければ答えなくてもいいし、答えたからといって何かあるわけではない。
 リンディ提督は士郎君について報告書以外の事も知っているのでは?」
「……知っています。
 ですが」

 管理局の人間としては失格なのかもしれない。
 それでも

「士郎君を裏切る事は出来ません」

 彼の信頼を裏切る事はしたくない。

「独り言だと言っただろう。
 彼は何か私などが想像もつかないような過去を持っているだろうし」

 クラウン中将がそんな事をつぶやく。

 さすが若いながらも現場からの評判も高い中将だと内心感心する。

「お待たせしました」
「ああ、ありがとう。
 無茶を頼んですまなかった」
「いえいえ、エイミィさん、会計を」
「は~い」

 箱に詰めたケーキを渡してレジにいるエイミィに会計を頼む士郎君。

「では、また」
「はい。ありがとうございました」

 立場上また会う確信がお互いあるのだろう。
 そんな会話をかわし、クラウン中将を見送った士郎君だった。




side 士郎

 クラウン中将に誕生日ケーキを依頼された二日後、十一月三十日の十五時にて『翠屋~本局出張店~』は惜しまれながら閉店。
 当初は十八時閉店だったのだが最終日という事もあり来客数が過去最大となり、完売という喫茶店としては珍しい閉店だった。

 そして十二月一日よりアースラスタッフ一同は次元航行任務に着任に伴って俺も仕事場を『翠屋~アースラ出張店~』に変わり、生活もアースラに移動した。

 で、明日はテスタロッサ一家の裁判最終日を迎えようとしていた。

 そんな中俺達はというと

「じゃあ最終確認だ」

 アースラの食堂で裁判最終日の確認を行っていた。

 メンバーは俺とクロノ、フェイト、アルフ、プレシア、ユーノの六名。
 六名だがうち三名、俺が執事服で、フェイトとアルフも相変わらずメイド服なのでなんというか奇妙な光景だ。

 ちなみにアースラ出張店ではデザート系のみで、テーブルまで運ぶ必要ないので店の運営としてはかなり余裕がある。
 余裕がある中でフェイトとアルフに手伝ってもらっているのは会議中やブリッジなどにお茶などの配達があるためだ。
 クロノとエイミィさんに関してはさすがにアースラ内でスタッフが執事服&メイド服では問題なので着ておらず、ユーノは三人で大丈夫なら着たくないとのことで私服である。

「なんだか恰好が締まらないが、ゴホンッ!
 今回はフェイトとアルフもプレシアと一緒に被告席に入ってもらう。
 裁判長からの問いにはその内容通り答えてくれればいい」
「ええ」
「はい」
「わかった」

 俺達の恰好を見て咳払いをして裁判の手順を伝えるクロノとそれを確認しながら頷くプレシア、フェイト、アルフ。

「で僕と士郎とそこのフェレットもどきは証人席。
 質問の回答はそこにある通り」
「了解した」
「うん。わかった……って、おい!!」

 日本語訳された質問の回答を確認しているとフェレットもどき……もといユーノがテーブルを叩いた。

「なんだ?」
「誰がフェレットもどきだ。誰が」
「君だが、なにか?」

 クロノも「なにかおかしなことを言ったか?」みたいに平然と返すあたり心得ている。

 まあ、普段エイミィさんからからかわれているから、たまにはからかう側に行きたいのだろう。

「そりゃ、動物形態でいることも多いけど、僕にはユーノ・スクライアって名前が」

 などなど
 熱くなったユーノとクロノが向かい合っている中

 俺とプレシアは

「プレシア達が海鳴で住む事も問題なくいきそうだな」
「ええ、おかげでね。
 でも大丈夫なの?
 貴方の魔術の研究や私達が住む部屋とか」
「部屋に関しては余っているし家具も最低限揃えてからこちらに来てるから問題ない。
 研究といっても俺の場合、属性が剣だから工房自体は離れだからな。
 それはそうと向こうに住むようになったら魔術の礼装で魔法が使えるかとか色々試してみたいのがあるんだが」
「あら、奇遇ね。
 私も色々聞きたい事があったのよ」

 プレシア達は俺の研究を見ている疑いがあるという事で、海鳴で暮らすのだからこれからなのはやフェイト、はやて、シグナム達にも俺の技術が生かせるかどうか色々調べたり検証したいの事実だ。
 そういう意味ではプレシアがこちらで暮らす事は助かる。

「なにやらそっちで物騒な話が聞えたような気もしたが、僕は何も聞いていないからな」
「ん? そっちの話はもういいのか?」
「ああ、僕が言ったのは場を和ませる軽いジョークだから」

 軽いジョークか……ユーノはやけにクロノを睨んでるが

「プレシアは管理局への技術協力と魔力封印で士郎の下で自由を、フェイトとアルフは事実上の判決無罪、数年間の保護観察という結果は確実だけど、受け答えはしっかり頭に入れておいてくれ」
「「はい」」
「わかったわ」
「了解した」
「……はい」

 クロノの言葉に返事をする俺達。
 それにしてもユーノとクロノは意外と相性が悪いのか?

 そんな疑問を考えつつ、店に戻る中で先ほどリンディさんに確認した、相変わらず続いている魔導師の襲撃事件が頭の片隅から離れることはなかった。 
 

 
後書き
オリジナルキャラクターの本局中将登場。

どちらかといえば士郎の寄りの人間です。

キャラクタ設定については士郎の設定も合わせて近いうちに載せます。

貫咲賢希さんからの挿絵追加しました。

それではまた来週お会いしましょう。

ではでは 
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