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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第五十一話 それぞれの思惑と暗躍

 伝書を括り付けた使い魔を見送り、早足で家に辿りつき、自宅の扉をくぐり

「ただいま」

 帰宅の挨拶をしながら鞄を自室に置き服を着替え、手を洗ってから台所に向かいお茶の準備を始める。

 緑茶とお茶受けの準備が整いリビングに湯呑を並べる。
 本日のお茶が緑茶なのはお茶受けがどら焼きのためだ。

 そして丁度並べ終わった時

「邪魔をするぞ」
「お邪魔します」
「いらっしゃい。急に呼びだして悪かったな」

 シグナムと使い魔である鋼の鳥を肩にのせたシャマルがリビングに入ってくる。

 なのはと別れた後、伝書を出したのはシグナム達を呼び出すためだ。
 呼び出した理由は俺が裁判のために本局に行くという事と昨晩の猫の件だ。

 ちなみにシグナム達もこちらの生活で必要最低限の読み書きも覚えたので、今回は伝書で済ませた。
 使い魔を通して声を発するなど、俺には難易度が高く、それをやると他の使い魔に分けるリソースが無くなってしまう。

「で、いきなり呼び出すという事はなにか緊急事態が起きたか?」
「緊急ではないが厄介事ではあるんでな」

 湯呑を置いた二人の表情が硬くなる。

「厄介事というのは?」
「まず今月末ぐらいに管理局の方に俺が行く事なる。
 シグナム、心配するな。
 はやてやシグナムに関わる件ではない」
「む、そうか。すまない」

 管理局と言った時に放たれた敵意を収めながらシグナムが謝る。
 それだけはやての事が心配なのだろう。
 俺としては気にするほどでもない。

「じゃあ、どうして管理局に?」
「時空管理局が魔術師の存在を知ったのがシグナム達と初めて会った時から半月ほど前というのは話したな」
「ええ、初めて会った時に言ってたのを覚えてるわ」
「時空管理局が魔術師を知った原因というのがなロストロギアが海鳴に落ちてその対処に俺が動いたからなんだ」

 それに納得したかのように頷く二人。

「つまりはそのロストロギアの事件の後処理関係という事か」
「そういう事。これが一つ。
 もう一つが昨日何者かが海鳴に侵入した。
 魔術師関係じゃない。魔導師か又はその使い魔だ」

 再び難しい顔をする二人。
 
「魔導師か使い魔かわからないのか?」
「猫の姿をしててね。使い魔なのか変身魔法で猫の姿をしているだけなのか判断がつかなかった」
「でどうするつもりだ?」

 シグナムが問いかける。
 その猫を狩るのかと。
 だけど

「いや、今は手を出さない。
 管理局の関係者なのか無関係なのか。
 それに管理局の関係者なら今回の侵入が管理局全体の意思なのか、一部の人間が動いているのか色々探る必要もある。
 情報は個人的な知り合いに頼めば信用できるはずだ」
「よいのか?
 命を狙われるかも知れんぞ」

 シグナムが心配してくれるが、命を狙われる可能性はかなり低いとみていいだろう。

「管理局は未知の技術である魔術の技能を欲しがっていた。
 俺を始末すれば手に入る保証もない」
「なら手を出す心配はだいぶ低いわね」
「ああ、シャマルの言うとおりだ。
 もし相手が動くとすれば俺が海鳴からいなくなった間だ」

 もし一部の人間が動いているなら俺が海鳴からいなくなった間に調べられる限りのものを調べようとするだろう。

「そうなると衛宮がいない間の屋敷の警護の依頼か?」

 シグナムがやる気を見せる。
 そこはやる気を見せたらまずいと思うんだが……

「むしろその逆だ。
 シグナム達が警護なんかしようものなら、そこからはやての事がばれかねない」
「でもそれだとこの家が危ないんじゃ」
「ああ、衛宮には借りがある。
 変身魔法で姿を変えてやるなど方法はある」

 シャマルとシグナムの言葉はうれしいが頷く事は出来ない。

「それでも余計な危険を背負わせるわけにはいかない。
 屋敷に関しては他人の一切の侵入を拒むように結界を強固にして護る。
 シグナム達は俺が行ってから帰るまで魔法を使わずに屋敷に近づく事も避けてもらう」
「それだけでいいのか?
 いくら強固な結界といっても限度はあるぞ」
「その辺りは問題ない。
 本来魔術師の結界というのは防御のためではなく攻撃のため、やってくる外敵を確実に処刑するためのものだからな。
 この家の結界はそこまで物騒じゃないけどいない間は最大レベルの警戒をするから下手をすればシグナム達すら巻き込まれる可能性があるからな」
「それはいらぬ心配だったな。
 今日の呼び出しの件はこれで全てか?」
「ああ、侵入者の件があるから一応八神家の周りの警戒は最低限しておいてくれ」
「その点に関してはご安心を。
 周囲からばれる事のないように対侵入者用の準備はしていますから」

 自信満々に頷くシャマル。
 そのシャマルを信頼するかのようにシグナムも頷いて見せる。
 こっちこそいらぬ心配だったか。
 
「なら正式に出発の日付が決まったら改めて連絡するから」
「ああ、ではな」
「お邪魔しました」

 シグナムとシャマルを見送り、湯呑を下げる。
 さて俺の方も結界強化の下準備とかしておくかな。

 地下室に向かい作業を始める。



 それからなのはとの空中模擬戦の日より一週間が過ぎ、放課後に再びなのはの部屋にお邪魔している。
 昨日管理局から通信があり、俺とユーノが正式に管理局に向かう日付が仮決定したため俺達の日程を確認して問題なければそのまま正式に日程が決めるのだ。
 レイジングハートを通してモニターが開き

「やっほ~、久しぶり士郎君、元気してる?」
「お久しぶりです。エイミィさん。
 それなりに平穏に過ごしていますよ。
 リンディ提督とクロノは?」
「もうすぐ来ると」

 そんな事を言っているとエイミィさんの後ろの扉が開き、部屋に入ってくる女性と少年。

「丁度いいタイミングだったみたいね」
「艦長もクロノ君もグットタイミングですよ」

 モニターの中央の席を部屋に入ってきた女性に譲るエイミィさん。

「お久しぶりです。士郎君」
「久しぶりだな、士郎」
「お久しぶりです。リンディさん、クロノ」
「なのはさんも元気にしてる?」
「はい」

 映像越しとはいえ数ヵ月ぶりに見る。
 なのは達は稀に連絡をとっていたようだがタイミングが合わず俺は同席していなかったのもあり最後に話したのは三、四ヵ月前だ。
 ちなみにユーノは日程はいつでも大丈夫という事で一階にいる恭也さんや美由希さんが部屋に近づいたら連絡をもらえるように席を外している。

「フェイト達は?」
「さすがに直接の通信は問題があるから今回はね」
「なるほど。では裁判の状況を詳しくお聞きしたいのですがよろしいですか?」
「勿論よ。エイミィ」
「はい」

 エイミィさんの返事と当時に映し出される資料。
 文字は全て日本語になっていることから恐らくエイミィさんが頑張ってくれたのだろう。

 表示された資料に目を通していく。
 フェイトとアルフはプレシアの命令という事と最後に管理局に協力したという事で保護観察でほぼ確定しそうである。
 プレシアに関しても今回の事件の発端であるアリシアが眠りについた事件において圧力等の上層部の関与と局員内からの情状酌量を求める意見があること。
 そしてプレシア自身協力的ですでに研究等の技術提供や協力をしており幽閉されフェイトと会えなくなる心配はなさそうだ。

「フェイト達の今現在の状況を見る限り自由は保障されそうですね」
「ええ、あとは士郎君とユーノ君に証言台に立ってもらえば問題なくいくと思うわ」
「わかりました。それにしてもクロノ」
「なんだ?」

 リンディさんからクロノに視線をむける。
 クロノは何か言いたい事があるのかと若干眉をひそめるが

「いや、まさか半年でここまで持ってくるとは大した物だと思ってね」
「ふん。君に乗り込まれでもしたらいい迷惑だからね」
「おや~、クロノ君顔が少し赤いよ~。
 士郎君がそんな事言うとは思ってなかった?」
「ほうっておいてくれ、エイミィ」

 クロノは相変わらずエイミィさんには勝てないか。

「それと士郎君、一つお願いがあるのだけど」

 穏やかな空気の中リンディさんだけは難しい表情を浮かべていた。

「なんでしょう?」
「管理局から今回証言するために本局に来る際に上層部と話し合いの場を設けてほしいの」

 やはり魔術関連か。
 まあ、リンディさんの表情から何となくは予想していたけど。

「話し合いの場というのはジュエルシードを壊した槍を渡せとかそういう事ですか?」
「武装もだけどなにより魔術技術の提供に関するものだと思うわ。
 あと私達以外はジュエルシードを破壊した槍の存在は知らないわ」

 なに?
 どういう事だ?
 確か……海鳴に戻る際にジュエルシードを破壊した槍は管理局の干渉を牽制のために公開するという話だったはずだが。

「情報提出の前に私の個人的に信用できる人に見てもらったのよ。
 その時にね、ジュエルシードを破壊した槍の情報を出した時に上層部がどう動くかわからなかいって意見が出たの」
「つまりはジュエルシードを破壊した槍の情報を公開するのが必ずプラスに働くとは限らないと」
「ええ、今現在は現状維持の体勢だけどもし強硬な手段をとるとなったら牽制として槍の情報は公開するわ」
「わかりました。その件はそちらにお任せします」

 リンディさんの言葉に頷く。

 それにしても現状、管理局全体としては現状維持という方向で動いているがあくまで全体としてだ。
 こういう組織だと派閥等はあるだろうし、派閥の中には強硬派もいるだろう。
 
 そう考えると先日の猫は強硬派の関係者と考えた方がよいか。

「でそちらに行くのはいつに」
「今月の25日でいいかしら」
「承知しました。準備はしておきます。
 それと要望と報告が?」

 俺の言葉に首を傾げるリンディさん達となのは達。

「まず要望としては収入ですね。
 ここにいない間バイトも何もかも休むので収入を得られる仕事をいただければ」
「そっか、士郎君の生活費ってバイトの収入だもんね」
「そうね。裁判の間短くても一ヶ月ぐらいはかかるものね。
 なにか準備しておくわ」

 これで向こうでの収入も確保できる。
 そしてもう一つの報告は

「先日、海鳴に何者かが侵入しました」
「「「「「えっ!?」」」」」

 俺の言葉に全員が目を丸くする。

「士郎君、どういう事?」
「先週、屋敷の近くまでこちらを観察しているモノがいました。
 ユーノのように姿を変えていたのか、アルフのように使い魔なのかは判断がつきませんが猫の姿をしていました。
 これだけいえばこちらの言いたい事はわかっていただけましたか?」
「侵入者の調査でいいかしら?」
「はい。
 あと一応確認しておきますが、今回の侵入者は管理局全体の意思で動いていますか?」

 その言葉に

「それはあり得ない」
「管理局側としては海鳴には不干渉が基本です。
 もし入る場合は士郎君の要望通り事前に連絡と許可を得ます」

 慌てて否定するクロノとリンディさん。
 
 この様子を見る限り本当に知らないようだ。
 となるとやはり管理局の一部の人間が独断で動いたか可能性が高いか。

「こちらとしては後手に回ることしかできませんので警戒はしておきますが、調査はお願いします」
「わかったわ。何かあったらすぐに連絡を頂戴ね。
 ではまた25日にね」
「はい。お待ちしてます」
「なのはさんも元気でね」
「はい。25日にはお見送りに行くので」
「ああ、また」
「じゃあね~」

 リンディさん達との通信が終了した。

 それにしてもジュエルシード事件が終わったとはいえ、はやて達の事や管理局とのつながりなどややこしい事も多い。
 なかなかうまくいかないモノだ。

「ねえ、士郎君本当に大丈夫なの?」

 通信が終わった後も考え込んでいる俺をなのはが心配そうにこちらを見ている。

 なのはの頭を撫でながら

「大丈夫だよ。
 逃がしたのも相手への警告のためと管理局に海鳴に侵入したものがいる可能性がある事を意識させて海鳴への侵入をさせないための牽制も兼ねているから」
「ならいいけど」
「ありがとう、なのは」

 なのはの気持ちに感謝する。
 シグナム達にも正式に日付が決まったから話しておかないとな。

 それに学校とバイト関連の連絡もだ。
 準備は色々とある、しばらく忙しくなりそうだ。




 そして士郎が色々と25日に向けての準備を考えている時、管理局側も少々慌ただしく動き始めていた。




side リンディ

 裁判の話しは滞りなく進んだし、こちらの準備としては士郎君とユーノ君の滞在準備と士郎君からの要望の収入を得れる仕事を確保することぐらい。

 証言の内容などは前に調書をとらせてもらった時に記録したものと同じものだからそれほど準備もいらない。

 だけどここにきて大きな問題が起きた。

「クロノ、レティに連絡をとって強硬派の動きを調べて見てもらって」
「了解です」
「なら私は先週に第97次元世界と周辺世界への転送をおこなった局員の調査をしますね」
「お願いね」

 クロノとエイミィに指示を出して私も情報収集のために部屋を後にする。

 それにしてもいずれ起きるであろうと予想はしていたけど予想よりもはやい。
 どんなにはやくても士郎君が証言のためにこちらに来ている時に海鳴に侵入するぐらいのもだと思っていた。
 だけどその予想は裏切られ海鳴の侵入どころか、士郎君の屋敷の近くまで行っている。

 侵入した者の目的も気になる。
 魔術技術がどのようなものか調べるために屋敷に侵入しようとしたのか、それとも士郎君の身柄を狙って監視していたのか。
 だけど後者は可能性は低い。
 なぜなら士郎君が監視されているのに気がつかないとは思えない。

 その他にも気になる事はある。
 海鳴に侵入した事自体問題だけどなにより今回の事が強硬派全体が動いているのか、それとも強硬派の一部の人間また単独で動いているかだ。

 一部または個人の勇み足なら管理外のしかも局内で注目を集める次元世界への転送行為となれば完全な隠蔽は難しい。
 だけど強硬派全体が一体として動いているなら尻尾をつかむのは難しいだろう。
 あとは士郎君の情報自体が管理局内で機密扱いだから可能性は低いけど外部のフリーの魔導師に依頼された場合も考えられる。
 そしてなによりも

「もし全体で動いているとなると覚悟をした方がいいのかもしれないわね」

 強硬派全体で動いているなら最悪士郎君が証人としてこちらに来た時に何らかのアクションがある可能性が高い。
 話し合いならまだしも想定できる最悪としては士郎君に対する襲撃だ。

 そうなれば一戦交える覚悟はいる。
 そして戦いになればテスタロッサ一家は間違いなく士郎君側につくだろう。
 プレシアさんには魔力封印がされているが士郎君なら封印を外す手段を持っていても不思議ではない。

「だめね。
 悪い事を考え始めると」

 悪いイメージを考え始めると思考の悪循環に陥る。
 これはまずいと思い頭を軽く振り、大きく息を吐く。
 そんな時

「どうかしたのかね? リンディ提督」
「グレアム提督」

 廊下でグレアム提督と偶然会った。
 だけどいいタイミングよね。
 長く管理局にいて『時空管理局歴戦の勇士』という通り名を持ち、現在は顧問官として顔も広い。
 それに信頼できる味方なのだから伝えておいた方がいいでしょうね。

「魔術師、衛宮士郎君の件で問題が」
「問題?」
「はい。海鳴の衛宮士郎の館の傍まで侵入した者がいると」

 私の言葉に眼を見開くグレアム提督。

「その情報はどこから?」
「衛宮士郎君自身からです。
 つい先ほど今度の裁判の証言台の日程の連絡の際に調査依頼を受けました」
「なるほどな。
 リンディ提督の意見としては何者だと思う?」
「恐らくは強硬派の者か、可能性は低いですが雇われのフリーの魔導師かと」
「ふむ、だろうな。
 なにか情報が入ったら連絡をいれよう」

 話して正解だったわね。

「はい。お願いします」

 一礼してグレアム提督と別れ、当初の目的の情報収集に向かう。




side グレアム

 リンディと別れた後、すぐさま部屋に戻る。

「「父様?」」

 先ほど部屋を出た私が戻ってきた事に首を傾げるリーゼ達。

「衛宮士郎からリンディ達に先日の侵入の件が伝わった」
「もうですか?」
「ごめんなさい。父様」

 先週の出来事がもうリンディ達に伝わった事に驚くアリアと自分の責任だと謝罪するロッテ。

 だがロッテを責める事は出来ない。
 確かに不用意に衛宮士郎の家に近づいたが危険を承知で海鳴に侵入させているのだ。

 いつかばれてリンディ達に話しがいく事も覚悟していた。
 予想外というなら衛宮士郎の裁判関係のせいで予想より早く話しがリンディ達に行ったことぐらいだろ。

「ロッテ、気にする必要はない。
 だがリンディ達がどこまで情報を掴んでいるのか把握する必要も出てきた。
 大変だろうが頼んだぞ」
「「はい」」

 まだ管理局に闇の書がばれるわけにはいかない。
 闇の書を永久封印するための氷結の杖デュランダルもまだ完成していない。
 衛宮士郎の動きに注意しつつとリンディ達に悟られないようにやっていくしかないのだ。 
 

 
後書き
まず公開したつもりが下書きにチェックが入ったままでした。
ごめんなさい。

水曜日祝日だったので今週は2話更新です。

それではまた来週。

ではでは 
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