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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ハリー・ポッター】編
  212 ≪死の飛翔≫


SIDE アニー・リリー・ポッター

それは優勝杯──〝移動(ポート)キー〟に触れて、足の裏が地面を踏みしめるのを感じてから一瞬のことだった。

「ここは…」

「っ! 危ないっ!」

「ちょっ、ロンっ!? 出来れば初めてはベッドが──っ!!」

〝移動〟させられたのはおどろおどろしい雰囲気の墓場で、その所感を述べる前にロンにいきなり抱き付かれる。一瞬で頭の中がヒートしてしまいアホな事を(のたま)ってしまうも、次の瞬間ロンの行動の意味が判った。

――「“服従せよ(インペリオ)”!」

「っ!?」

どこかどもった様な声音が闇夜を切り裂く。途端、ロンの身体からは力が抜けていき次第にボクを抱き締めてくれていた両腕もだらり、と下がっていく。ロンが〝服従の呪い〟に掛けられたのだ。

そしてボクは…

(……ごめんっ)


――“放せ(レラシオ)”! “最大の護り(プロテゴ・マキシマ)”! “強き光よ(ルーモス・マキシマ)”!


ロンの変調を察知した瞬間からボクは行動していた。まずは距離を取るためにロンを5メートルほど〝放し〟、〝盾の呪文〟を掛けてから〝光〟を真上に飛ばし、急ごしらえながらだが光源を確保する。

一応、〝追い払われ〟た際にそこらの墓へと激突してしまう可能性があったロンと、その墓に眠っている死者に対して内心で謝罪を述べておいたが、衝突音らしき音が聞こえなかったあたり、杞憂(きゆう)に終わったらしい。

ぼんやりとだが見えるロンを注視するも、ロンはボクを追撃するような様子を見せない。……取り敢えずこと幸いにロンを〝失神〟させようと、ロンへ杖を向け──ようとしたその時だった。

――「動くなっ!!」

絶叫にも近い怒声。先ほど、ロンに〝服従の呪い〟を掛けた者と同じ声だ。ロンへの対応ですっかり頭から抜け落ちていたが漸く声の主の全貌を確認出来た──のだが、そうは云っても全身をローブで覆っていたので顔は判らなかった。

視線を逸らしていたのは数秒だったのだがロンの〝状態〟が変化しているのに気付く。

……杖を自分の首に当てていた。

(しくったか…)

それを見て対応を間違えたと思い知らされる。先ほどの制止を振り切ってロンを〝失神〟させる事が出来ていれば少なくともロンをむざむざと人質にされるのは防げたはずだったのだ。

「杖をこちらへ投げろ」

「………」

「そ、それで良い“縛れ(インカーセラス)”!」

「ぐ…っ!」

指示通り杖を投げ渡す。そしてあえなく〝捕縛〟され、みのむしよろしく転がされる。辛うじて自由が利くのは杖腕のみと云うこの状況下。……割りと絶体絶命だった。直ぐに殺されないのは不幸中の幸いなのかもしれないが、気分は(さなが)(まないた)の上の鯉だ。

(さて──取り敢えず〝指〟は動かせる)

ともすれば逆に思考に余裕も出来てくるもので、お陰でいろいろととある事を思い出せた。

ボクには奥の手たる〝八火竜(てんせいとくてん)〟も有るし、そもそもロンは〝服従の呪い〟をいつでも弾けると云う事を思い出したのだ。

……今はきっと演技(フリ)で──そんな演技(こと)をしているのは、〝ロンにとって〟都合が良いからだろう。

その証左に脳内に直接ロンの声が響く。ロンからの念話だ。

『アニー』

「(〝演技(フリ)〟だよね?)」

『ああ。それで〝こいつら〟はアニーの…』

「(大体判ってる、ボクの〝活きた〟DNAを必要としてるんでしょ? ヴォルデモートの復活の為に。……そしてその方が〝利〟があるのもね)」

『……話が早くて助かるよ』

全身ローブが置いてあった大きな鍋に火をくべたりと(なにがし)かの準備をしているの横目に見ながらロンと脳内で会話する。

……去年大体同じ時期に見た夢の件に、誰かの(たばか)りよって参加させられる事になった〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟。加えて〝移動(ポート)キー〟だった優勝杯と──さすがにここまで情報が揃っていれば、それらの情報(ピース)を繋ぎ合わせるのは訳ないことだった。

(……全てはロンの望む未来のために──ってね)

「急げ、≪ワームテール≫!」

そんな風に脳内でノロケている間に、≪ワームテール≫と呼ばれ全身ローブ──ピーター・ペティグリューは、抱えていた甲高い声を発するナゾのナマモノに急かされながらも〝THE・黒魔術の儀式〟みたいな儀式を進めていく。

「父親の骨、知らぬ間に与えられん。父親は息子を蘇らせん!」

ペティグリューの命令通り、近くにあった墓の下から〝なにか〟が飛んで行き、大鍋の中に降りかかる。そしてペティグリューは泣き(むせ)びながら懐から銀色に光るもの──短剣を取り出して…

「しもべの肉──喜んで差し出されん。し…しもべは、ご、ご主人様を蘇らせん…っ!」

「っ…!!」

今ほど両手が使えない状況を呪った事は無いだろう。

ペティグリューは取り出した短剣で右腕を大鍋の中に切り落とした。……多少ながらグロ耐性があったのでそれだけならまだ許容出来たのだが、ペティグリューには苦痛に対する耐性は無かったらしく、ペティグリューの絶叫が墓場を支配した。

ひとしきり絶叫したペティグリューはぜぇぜぇ声を荒げながらボクの方へ向かってきて、みのむしみたいに縄でがんじ絡めになっているボクの、辛うじて自由になっていた片腕を取る。

すると…

(かたき)の血──力ずくで奪われ。……汝は…敵を蘇らせん…っ」

「っ…!」

ペティグリューの短剣がボクの腕を切りつけた。ほどなくしてじわり、とシャツに鮮血が滲む。その痛みには何とか耐えられたが、ペティグリューはそれからポケットから出した(びん)をボク傷口に押し付けるようにして、ボクの血液を採取する。

……やはり〝こいつら〟はボクの血を欲していたのだ。

ボクの血を採取したペティグリューは、大鍋のあるところに──血を流しすぎているのだろう、おぼつかない足取りで向かい、半ば予想出来た事だがボクの血を大鍋の中に入れた。

劇的に変化していく大鍋を観察している最中、またもやロンからの念話が入る。

『……大丈夫だったか、アニー』

「(何とかね。……もうこの場に用は…?)」

『殆ど無いな。だからもうトンズラだな』

「(でも、ボクの杖が…)」

『今〝呼び寄せ〟たから心配無し。……縄もほらよ──それから、杖もな』

ロンによって僕を縛っていた縄が切られる。恐らく〝切断呪文〟辺りだろう。ついでとばかりに杖もロンの方からふわふわ、と飛来してきた。こちらは〝浮遊呪文〟とみていいだろう。

「(ん、ありがと。……で、作戦の概要は?)」

『俺が隙を作ってアニーと合流するから、アニーは優勝杯を〝呼び寄せ〟てくれ。カウントはさっきみたいに3、2、1でやる』

「(解りやすくていい作戦だね。……判ったよ、カウントダウンはロンに任せる)」

『よしいくぞ──3…2…』

「“暗き闇よ(オブスクーロ・マキシマ)”」

(速っ!)

ロンの杖先から出てきた純黒の煙が辺り一帯の全てを──大鍋涌いて出てきた人形(ひとがた)にしろ、先ほどボクが出した〝光〟さえも呑み込む。そしてその次の瞬間には背後にロンが立っていて、ボクの肩に触れていた。

(〝瞬動〟かな──じゃなくて、今は…)


――“来い(アクシオ)”!


考察は一旦置いておき、ボクも手筈通りに優勝杯を〝呼び寄せ〟る。……そこで漸く〝移動先〟がちゃんとホグワーツになっているかが不安になるがもう既に時は遅し。一秒もしない内に優勝杯──〝移動(ポート)キー〟に触れたのを感じた。

――「アニー・ポッタァァァっ!!」

最早慣れてしまった、身体の中心部を上に引っ張られる様な感覚。ピーター・ペティグリューを急かしていた声の主の、地を震わせる様な怒声を聞きながらボクとロンは墓場から〝移動〟していく。

……今のところ、ちゃんとホグワーツに帰れるかは定かではないが、一つだけ何となくだが判った事がある。

闇の帝王──ヴォルデモート卿は今夜復活したのだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

次にボクの足の裏が踏みしめた地面はどことなく馴染み深いものだった。いつの間にか(つむ)ってしまっていた目を開ければそこには少々様相を(こと)にしているが、間違いなく【ホグワーツ魔法魔術学校】に()けるクィディッチのピッチの情景があった。

……より正確には、ボク達選手陣が入った迷路の入り口の広場と云えばいいだろうか。

どうやらボクの〝ホグワーツにちゃんと帰ることが出来るか〟と云う不安は杞憂(きゆう)に終わったようだ。

ホッと胸を撫で下ろすのも束の間…

――ワァァァァァアアア!!!!!

〝すわ爆弾か?〟とすら勘違いしてしまうほどの歓声がボクとロンに降り注ぐ。

そして、思い出す。思えば、墓場に〝移動〟させられる前は〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟の決勝戦だったと。

(……そういえば、この場合って優勝はどっちになるのかな…。戻すってきた時はボクが触ったけど…)

ロンとボクは墓場に〝移動〟させられる前は同時に優勝杯を触れたから──と、そんな事を現実逃避気味にそんな事を考えていると、ダンブルドア校長先生に続きロンの──パーシーを除く家族と、シリウスやファッジ魔法省大臣だったかがこちらにやって来る。

「アニー、優勝おめでとう──ダンブルドア、アニーが怪我しているぞ!」

「では医務室へ連れて行かねばならぬな」

「では、私が連れていこう」

シリウスがダンブルドア校長先生とファッジ大臣の話に割り込む。しかしボクにはそのやり取りはどこか非現実的なモノに見えていた。

今日は色々な事がありすぎたから…。

……次第にボクの意識は微睡んでいき──咄嗟に抱えてくれたロンの胸元で意識を手放した。

SIDE END 
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