| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

フルメタル・アクションヒーローズ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第39話 死に損ないのヒーローもどき

 ……あれ……?
 俺、生きてる……のかな……?

 天井を見上げた格好――つまり仰向けに倒れたまま、俺は意識を取り戻していた。どうやら、しばらく気を失っていたらしい。
 死んでないばかりか、記憶をなくしてもいないらしい。俺が撃たれる瞬間のことは、今でも鮮明に焼き付けられている。
 しまいには、「腕輪型着鎧装置」まで俺の手に残されたままだった。古我知さんも詰めが甘いな……いや、俺なんて取るに足らないってことなのか?

 こうして、朧げながらも目を覚ます前から、顔に何かコツコツ当たってるような感じがしていた。何かと思えば……戦いの衝撃による小さな破片が、パラパラと俺の顔に降って来ていたらしい。
 そんな一センチにも満たないような金属片に、俺はたたき起こされてしまったわけだ。ここまで情けないと、もはや笑うしかないな。
 首を上げて辺りを見渡すが、人っ子一人いない。いるとするなら、カプセルの中で眠らされている救芽井の両親くらいか。

「全く、もうちょっとで三途の川でも渡ろうかってとこだったのによ。ははは……あぐッ!」

 目を覚ませば、既に傷は癒されていて――なんて都合のいい話はないらしい。身を起こそうとした俺の感覚神経に、鋭い痛みが走る。
 さらに、喉の奥から込み上げて来るものを抑えられないまま、血まで吐き出してしまった。口元に赤い筋が伸びていくのがわかる。
 そして、痛みの発信源である左の脇腹からは、じんわりと血が滲み出ていた。赤いダウンジャケットを着ているせいで、傍からは見にくいが――撃たれた当事者である俺には、文字通り痛いほどよく見える。

 こんな痛い目に遭って、よく死なずにいられたもんだよなぁ。着鎧甲冑を着ていたとは言え、銃で撃たれた上に、寒い廃工場で意識不明になってたってのに。
 ――俺は、銃撃を受けたショックで気を失いはしたが、金属片が顔に当たった感覚のおかげで意識を取り戻せた。
 それがなければ、助けも来ないような薄暗い部屋の中で、出血と衰弱と冷気でくたばっていただろう。凍死する前に目を覚ましてくれた金属片の皆様に感謝だ。

 さて、意識が戻ったからには出血を抑えなくてはなるまい。もうほとんど止まっているようだったが、万一、これ以上噴き出されたら今度こそ死んじまう。
 俺はダウンジャケットを傷に障らないようそっと脱ぎ、銃創の部分に帯を締めるような気持ちで、袖同士を結び付けた。
 これで傷は完全に塞がれたが、代わりに俺の上半身は黒シャツ一枚になってしまった。敢えて言おう。死ぬほど寒いと!

 ……が、今は傷を応急処置しておくことが先決だ。俺はキツイくらいに袖をギュッと縛ると、ゆっくり立ち上がって辺りを見渡してみた。
 やはり、このフロア一帯は既にもぬけの殻。「解放の先導者」達も機能停止したままで、ピクリとも動けずにいた。
 ここに来たときには引っ切りなしに響いていた機械音が、今はまるで聞こえて来ない。これほど静かだと、かえって不気味だな。

 ……ちょっと待て。古我知さんはどこに行ったんだ? それに、救芽井や矢村は!?
 さっき人っ子一人いないとは言ったが、よくよく考えると、これはおかしい。ふとそれに気づいてあちこちに視線を移すが、彼ら三人の姿は――やはり見当たらない。
 ま、まさか救芽井が……! それに、矢村まで……!?

「……んッ!?」

 目が覚めて早々、ヒーローを気取ってまで守ろうとした二人を見失うとは。そんな自分の失態に焦りながらも、俺はあるものを見つける。
 今ここに存在し、俺が撃たれる前にはなかったはずのもの。それに気がついたのは、周囲の明るさに気がついた時だった。

 俺がここに来たときは、この部屋は薄暗く……十メートル先が見づらくなるような場所だった。しかし、今はフロア全体が明るめになっており、部屋の隅々――それこそ壊れた照明の数まで、ハッキリと見えるようになっている。
 なんだ……? 俺が寝てる間に一体何が――

「さぶっ!?」

 元々、あるのかどうかも怪しい知能を働かせようとした瞬間、俺の全身をクリスマスイブの冷気が貫いた。――心まで。
 ……まぁ、着鎧甲冑を着てるときは暖かかったからな。それに、今は黒シャツだけって状態だし。
 だけど、これはちょっと寒すぎじゃないかい? それに、かなり奥の部屋だってのに風まで吹き込んでるし……。俺は素肌を晒している両腕を摩りながら、その風の入口に視線を送る。

 ――どうやら、その入口ってのが、この明るさの正体だったらしい。
 俺が戦ってた時には、間違いなくなかったはずの、高さ二メートル程の大穴が開けられていたのだ。
 力任せにこじ開けられたのか、その辺りの壁や鉄骨が無残にひしゃげている。これはもしかして……いや、もしかしなくても……!

「うっ、ぐ……! はぁ、はぁっ……!」

 俺は寒さに凍え、傷の痛みに歯を食いしばりながら、自分の身体を引きずるように歩き出す。
 例の穴からは月明かりが差し込んでおり、それがこのフロアの全貌を鮮明にしていたらしい。つまり、この穴からは外に繋がってるってわけだ。

 この穴を潜った先にあるもの……それはきっと、廃工場と隣接した採石場だろう。地元に詳しくない古我知さんが、救芽井達を人気のない場所に連れていくとしたら――そこしか考えられない!

 ……しかしまぁ、辛いもんだよなぁ。
 銃で撃たれるのなんて、当たり前だけど初めてだし。すげー……痛いし。血も出てるし。
 おまけにイブの夜に黒シャツ一枚で死ぬほど寒くて……既に手先に感覚がない、ときた。
 普通なら、即救急車呼んで、早急に病院の暖かいベッドでスリープするものだろう。つーか、出来るもんならそうしたい。

 だけどね、その前にやっておきたいコトってのも、ちゃんとあるわけでして。
 「技術の解放を望む者達」をとっちめないことには、落ち着いて受験勉強にフィーバーすることもままならないんですよ。

 ……だから、これは俺のため。俺のために、救芽井と矢村を……着鎧甲冑の未来ってモンを、助けに行く。
 呼ばれちゃいない、頼まれてもいない、そんなお節介なヒーローだけど。

「それでもあの娘は『お姫様』で……俺は『ヒーロー』、つーことみたいだから、な……」
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧