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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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正義の執行 ①

 
前書き
明けましておめでとうございます 

 
ユースティティアという女神は、その性質、役割からいくつかの制約に縛られ、同時にいくつかのギフトを授けられている。
では、その役割とは何であるのか。それは、外界のある行いに対してその名を貸していることである。一切の介入はせず、名を貸しているだけ。だがしかし、その行いに対しほんの少しの影響でも与えられるわけにはいかず、故にギリシア神群は彼女に対して制限を課したというわけだ。

まず、彼女の感情、思考回路へ手を加えた。元々の性質である正義、それにおいて重要である善悪を判断する能力は存在する。それに対して発する感情もまた、存在している。

故に、その行いが悪意のもとに行われた善行であると判断することはできる。
故に、その行いが善意の下に行われた悪行であると判断することはできる。
故に、その悪行に情状酌量の余地があるかを判断することはできる。
故に、その悪行に対する罰、償いを如何様にするのかを判断することはできる。
しかしそれらの基準は、決して変化しない。完全に固定されている。

何故ならば。判断する基準は、決して変わってはならないのだから。彼女の名のもとに裁きを決める者はその時々に応じて変化する、基準となる法は場所によって変化する、当然与えられる罰の形も変わるのだが、それでもその大元が変化していては意味がないのだ。
故に、彼女の思考は。善悪を定める感情は箱庭に召喚されたその時点で合意のもと固定されており、これから先成長することは決してない。

続けて、彼女に対してギフトを与えられた。こちらは、非常に単純なものが。
いわゆる不死のギフト。当然神秘がはびこり、修羅神仏がお遊び感覚で虐殺なんぞを行う箱庭の世界には不死を殺す手段などありふれているが、それでも彼女が殺される、箱庭からいない時間を減らすことが可能だ。その瞬間に外界の裁判へ及ぼす影響など、考えたくもない。

そう言った要素から成り立った、箱庭におけるユースティティア。外界の裁判という大きな要素へその名前を貸しているがゆえに、それほどまでに大きな手を加えられた、縛られし女神。

基本死ぬことはなく、死に箱庭から消えた際にもすぐさま召喚されるようシステムを組まれた、代わりの効く女神。

その状況を一人目は自分から提案し、二人目以降はためらうことなく承諾した、イカれた女神。

それこそが、箱庭から絶対の正義を許された、決して私情を挟むことなく、正しく悪を決定することのできる存在。
一輝の言っていた『人類永遠の課題』。その一つ『善悪の基準』の人類最終試練が現れるとすれば・・・その担い手は、彼女である。

はてさて、そんな彼女が、自ら軟禁を望んだ彼女が今回それを破ったのは・・・ありえないはずの精神的変化をもたらされたのは、一体何が原因なのだろうか。



 ========



「んで?その・・・正義の女神サマだっけか?ソイツがウチに何のご用事で?」
「ちょっと十六夜さん、相手が相手なのですからもう少し言葉をですね、」
「いえいえ、構いませんよ、帝釈天の眷属、月の兎さん。(わたくし)の方も唐突な訪問でしたから」

と、コミュニティの応接間にて一輝不在の間リーダーの仕事を任された十六夜の発言に対し、ユースティティアは女神とは思えないほどに寛容な返事を返す。その上で姿勢を正し、頭を下げた。

「その件については今回、失礼な真似をしてしまったこと、深く謝罪いたします。何分(わたくし)も突発的に行ったことでしたから。後日改めて、正式に謝罪させていただきます」
「いえ、そんなお気になさらないでください!ただでさえここ数日多くの神群から届いていて、これ以上は黒ウサギの胃が・・・」
「外界の裁判へ名前を貸している女神さまの正式な謝罪か。何が届くか楽しみだな!」
「ええ、本当にね。当然正式な謝罪だもの、手紙だけではなく物品も届くことでしょうし」
「私としては美味しいもの希望です」
「何を言ってらっしゃるのですかこの問題児様方は!」

黒ウサギの右手のハリセン、左手のハリセン、頭のハリセンが炸裂する。客人の前にもかかわらずついクセでやってしまった黒ウサギは一瞬で顔色を青くして、その客神をみる。
箱庭世界、上層の偉い人たちの中には「なんとなく気に入らない」という理由で下層の一地域を滅ぼすくらいのことはして見せる。正義の具現であるとはいえ相手は女神だ。どうなったものかと恐る恐る確認して・・・

「仲がよく、大変素晴らしいコミュニティですね」

なんかすっごく人のいい笑顔であった。ホッと一息ついて、黒ウサギは自分の席に戻る。黒ウサギの胃に、一時の安らぎがもたらされた。すぐに壊れそうな未来も見えるんだけどね、うん。まあ仕方ない。

「それに、(わたくし)はあなた方の功績を評価しています。過去にさしたる悪行もなく、彼の絶対悪の魔王“アジ=ダカーハ”の討伐へ参加、“名無し(ノーネーム)”でありながらその戦いにおいて大きな功績を残す・・・普通にできるものではございません」

と、そこまでいってから何かに気付いたのか。はっとした表情となり、再び頭を下げた。

「申し訳ありません。そのつもりはありませんでしたが、差別的な表現をしてしまいました」
「あ、いえ・・・それについてはお気になさらず。むしろ現状では、ノーネームという名前が売れていますから。他の呼び方をされてしまうと困る面は、正直ありますので」

現状、彼らのコミュニティは差別的意味合いではなく“ノーネーム”と呼ばれている。むしろその名前であるからこそより一層名前が売れているため、そのまま広めていってほしいのだ。
まあ、名前が戻ってきたときはその限りではないのだが。その場合は全力でそちらを広めていく。と言うか、そうしないと下手をすれば黒ウサギが泣くだろう。

「・・・そう言われるのであれば、そのように」

そして。そこまでの事情を察したわけではないだろうが、ユースティティアもまたそれを承諾した。そもそも他の呼び方が存在するわけでもないため、それしかないのだが。それでも、差別用語を使うことへの抵抗はあったらしい。

「んで?俺としてはこのまま女神さまと雑談、ってのも知的好奇心が刺激されるから構わないんだが。本格的に、本題に入ってもらっても?」
「そうですね。では、(わたくし)がこの度、箱庭に来て初めて本拠を出た理由を話させていただきます」

箱庭に来て、初めて。確かに今の箱庭であれば、それはさしておかしなことではない。神群の一神霊がそうやすやすと本拠を出られないようになっていることも、彼らは知っている。だが、それは今の箱庭だからだ。
では、かつての箱庭であれば。それはどうだろう。

ただの殺戮合戦でしかなかった太陽の主権戦争。
義兄弟の絆という尊いモノ(無駄なこだわり)によって喧嘩を売った七天。
人類終末の謎に対する最初の戦いである閉鎖世界(ディストピア)戦争。

これらの、圧倒的悪逆に満ちた世界に『正義』の名を冠する女神を送りださないとは到底考えにくい。一体どのような理由があり、その状況となったのか。必要な戦争で会ったこと、他の神群の事情であること、人類の手で乗り越えなければならなかったことを加味してもなお、何かしらの事情があるのは間違いない。
そして、一体何が起こり、彼女がその束縛から解き放たれたのか。人類最終試練の一つ“絶対悪”の魔王三頭龍(アジ=ダカーハ)の討伐に参加したがゆえに得た知識から、その疑問を飲み込むことはできなかった。

「まず、(わたくし)がこうして自ら外へ出てきたのは。最悪の魔王、悪の具現たるアジ=ダカーハが討伐されたことがきっかけでございます」
「ふぅん・・・アジ=ダカーハ(悪の具現)ユースティティア(正義の具現)だからこそ、俺達に想像もつかない事情でもあるのか?」
「いえ、そんな難しいことではありません。・・・これは閉鎖世界(ディストピア)退廃の風(エンド・エンプティネス)だけではなくかつて魔王であったころの天動説(白夜叉)にも言えることですが、私は『正義』の具現であり、外界における過去、現在、未来全ての裁判の功績を得てしまった弊害として、『あらゆる魔王を無条件に下す顕現』を、そのような『主催者権限(ホストマスター)』を有しております」

その言葉に。全ての神群のトップ、並びに彼らに並ぶものしか知らされていないその真実に対し、その場にいた面々はそれぞれ驚愕を抱く。当然だろう。もしそれが真実なのだとしたら、対魔王の手段として最大のものであると考えていた顕現、黒ウサギをはじめとする月の兎が持つ顕現であるところの『審判権限(ジャッジマスター)』などとは比べ物にならない顕現だ。
それ故に、彼らは一つの疑問を抱かずにはいられない。
確かに魔王には、人類の乗り越えなければならない試練としての面が存在する。知らなければならない真実が隠されている。だがそれでも、被害が甚大になる前にどうにかする程度のことはできるのではないか、と。
そう問われるのは分かっていたのだろう。女神は、先んじてそれに答える。

「ですが、それをすることはできません。悪逆を尽くす魔王を前にしてしまえば必ず私の主催者権限が発動してしまう。ですがそれをしてはならない魔王が存在しましたから」
「・・・なるほど。そういや、何度も呼んでたっけか。ラスト・エンブリオ・・・『人類』最終試練」
「ああ、そういう・・・人類が乗り越えなければならない試練、だから」
「貴女はそれに会う可能性がなくなるまで、外に出るわけはにはいかなかった」
「ご理解いただけたようで助かります。心苦しくはありましたが、その一時の感情に任せて外界を滅ぼすわけにはいきませんので」

人類の乗り越えなければならない試練を、超越者の力で無理矢理に叩き潰す。箱庭においてそれが発生してしまえば、その終末が訪れることになっている外界では、当然の結果として終末がそのままに訪れる。外界が完全に滅び、箱庭はノーダメージ、とはならないだろう。

「だが、だとすればまだ退廃の風(エンド・エンプティネス)が残ってるだろうが。それについてはどう説明するんだ?」
「あれは例外的な魔王ですから。そも、魔王の烙印もその性質からやむを得ず押されたもの。あれが完全に表れた時点で箱庭の消滅であるという事実も存在しますが・・・絶対悪(アジ=ダカーハ)が討伐された時点でその可能性は限りなくゼロに近づきました」

だから問題なしとした、と。その話にはまだ聞いておきたいことが、特に退廃の風関連で存在したのだが、ひとまず飲み込むことにした十六夜。どうして今になって下層に来たのか、という疑問はこれで解決した。神霊が下層に現れることの難しさは知っているが、それについても何らかの理由が存在するのだろう。仮にその主催者権限が『悪への裁判』という性質であったとすれば、それを行うために下層へ降りてこられないこともないだろう。

「ですので、私はかつての後悔を再びしないために、こうして直接赴かせていただきました」
「かつての後悔?」
「ええ。かつて終末論の具現、人類最終試練の一つであるディストピアを下した金糸雀とその仲間たち。その滅びを知った時の後悔はそれはもう大きなものでしたから」

最凶の魔王、ディストピア。その魔王を討伐したその功績は誰のものかと問われれば、その戦争に参加したものは口をそろえて「金糸雀だ」と答えるだろう。それだけの功績を成した彼女はしかし、ある魔王によってそのコミュニティごと滅ぼされた。ユースティティアの言っていることはこれだ。

「立場上、そして保有している主催者権限の都合から外へ出ることはできなかった。そうと分かっていてもなお、それだけの正義を人間の身でありながら確立させた彼らを死なせてしまったことは・・・どれだけ後悔しても、したりませんもの」

その言葉は、黒ウサギには刺さった。かつての同士、共に過ごした仲間たちの死を悼むその様子は、下手をすれば泣きだしかねない案件である。
また、十六夜と耀もそれぞれに思うところはあった。育ての親と実の親、前者は外界での死であり、後者は未だに生きていると知っていてもなお、その身に起こった悲劇への態度だ。それを何でもないと流せるような人非人でもない。まあ問題児ではあるし、その他にも問題点はあるのだが、それはそれ。今回は議論しないものとする。
故に。話題を次へ進めたのは飛鳥だった。

「それで。冷淡に話を進めることになってしまうのだけど・・・結局のところ、何をしに来たのかしら?人類最終試練を踏破した二人目の人間を『死なせないために保護に来た』、というのであれば私たちも、そして私たち以上に一輝君自身がお断りしますけれど」
「まさか、そのような」

相手は神霊。故にその発想はぶっ飛んでいかねない。それ故に同盟や加入ではなく連れ去るという可能性を考えたのだが、相手は真っ先にそれを否定した。

「本人の望まない形で連れ去るなど。よほどの事態がない限り、そんな誘拐のような真似はできません。仮にも『正義の女神』としてあるものですから」
「・・・よほどの事情があったらするのね」
「その時は、まあ。そうしなければその存在によって平和が脅かされるというのであれば、殺しはともかく、管理程度は考えます。一般に罪あるとされる行為も、時と場合によってはそうでなくなる。明らかに罪ある行為だったとしても、親兄弟を殺された報復であれば、ある程度軽減されてしかるべきです」
「あら、箱庭の正義は基準が緩いようね」
「何でもかんでも頭ごなしに否定することは、正しき行いではありません。少なくとも私の中の基準とは相反しますから」
「失礼する。遅くはなったが、よろしければ」
「あら、どうもありがとうございます。レティシア・ドラクレア」

と、そのタイミングでレティシアが人数分の紅茶と茶菓子を持ってきたので、ユースティティアから話を断ちそれを受け取る。それなりに財政の豊かになったノーネームのメイド長が揃えたそれらの品は、まあ一応女神相手に出しても粗相にはならないだろうなというレベルのものだ。そして、それに文句を付ける性格もしていない。
もしかすると。甘いものが好きだったのかもしれない。そう思わずにはいられない勢いでケーキを食べきり紅茶を飲み干し、笑顔をより深めたのちに。失礼しました、と言ってから話を戻した。

「改めて、(わたくし)の目的をお話させていただきます。ノーネームに来た目的の一つ目は、此度の英雄と会うことです。こちらは、お恥ずかしながら好奇心からですが」
「そちらについては、今日まさにギリシア神群のところへ招待されているはずですが・・・」
「はい、存じております。知ったのはこちらに来た時なのですが・・・残念です。そうと知っていれば、もうしばらく残っていたのですが」

と、そう残念そうに言って。しかしその割にはすぐに立ち直る。言っていた通り、好奇心からでしかなかったのだろう。それ故に、あきらめもつく。
では好奇心からではない目的は何なのか。それもまた、その場で伝えられる。

「ですから、ノーネームを訪れた二つ目の目的。それを済ませてしまいましょうか」

そういった彼女の手に現れたのは、一つの天秤だった。弁護士バッチに印されている、裁判所におかれている像の持つそれ。その後に目隠しをつけ、像の持つ二つ目のアイテム剣を手に取って・・・目隠し越しにはっきりと、レティシアを見る。

(わたくし)の目的。それは、私の役割を実行することです。もう二度と、比類なき悪逆を許さないために」

天秤をレティシアに向けて天秤をつきだす。たったそれだけの行動で、その場にいる人間は身動きを封じられた。

「この場にいる全ての者に問います。今から上げる人物のうち、今本拠にいる人物を述べなさい。本拠にいない人物については知っている範囲においてその行方(ゆくえ)を答えなさい。なお、この問いには明らかな人物も含みます。裏を疑わず、ただ真実のみを答えるように。
一人目。レティシア=ドラクレア。
二人目。クロア=バロン。
三人目。ペスト。
四人目。ヤシロ=フランソワ一世
五人目。鬼道湖札」

上げられるのは、現在ノーネームに所属している元魔王の名前。それを問うのは、『正義』の名を冠し、裁判の功績、その全てを預かる女神。その意図に気付いたレティシアは、素直に答えた。

「・・・レティシア、即ち私は今まさに目の前に。
ロリコ、失礼クロアは同盟コミュニティとの連絡、その後にウカノミタマ様へ神格をいただけないか相談へ行くことになっている。
 ペストは前リーダージン=ラッセルと共に行方不明に。
 ヤシロと湖札は、現リーダーと行動を共にしている」
「そうですか・・・。まあ、クロア=バロンは元から問題なしと確信しています。ノストラダムス、鬼道湖札は心配ですが、鬼道一輝と行動を共にしているのであれば問題ないでしょう。黒死斑の魔王は問題ですが、知らないのであれば仕方ありませんね」

では、一人だけでも、と。そう告げた彼女は、言葉を紡ぐ。

「罪状、同族殺し、通称“串刺しの魔王”。殺害人数は甚大、その方法は残虐。いかなる理由があろうとも、許されるものではありません」
「ごもっともだ。その件について、私に一切の言い訳はないよ」
「ではそれについてはこれで。次に、この罪に対してそれを雪ぐだけの行動をしているか」

目を隠した女神は、その事実を告げる。

「当然、否です」
「ちょ、ちょっとお待ちを!」

しかし、それに対して黒ウサギは反論する。飛鳥、耀の二人もまた、それに同意する表情だ。

「確かに、事情があったとはいえレティシア様の行ったことは許されないことです。ですが、それに対する禊としてご自身に、様々な制限をかけました!ユースティティア様のおっしゃっていたディストピア、アジ=ダカーハ双方の戦いにも参戦しておられます!当然その他の魔王とも幾度も、自分の命をかけて」
「確かに行動の中身はその通り。ですがそれは、度合いによってその罪を軽減させるだけのことは出来ても、雪ぐことはできません」


「その者の罪。それを雪ぐだけの禊を決めることが出来るのは、まず第一に『被害者』。第二に、そして被害者の要求が過度なものであった時いさめることが出来るのは、それだけの権限と責任を持つ者だけです。それ以外の者によって決められたものなど、なんの意味もなさない。自分で定めたものなど、論外もいいところです」


人を定めることが出来るのは、本人以外。自分にだけは、自分を定めることはできない。


彼女は、はっきりとそう告げた。自分で自分を見たとき、それを本当に正しく見ることが出来る者は存在しない。
驕り、本来より高く定める。
自らを低く見て、圧倒的にダメな者とする。
過剰な例はこれだが、程度の差こそあれ、物によって変わりこそすれ、必ずこのようになる。これも自分には自分を定めることが出来ない理由の一つだ。だが、大きな理由でもない。
最大の理由は、非常に単純。

「どのような社会であろうとも。人は、他者の中でしか生きられない。人は、他者の評価でしか定まらない。そのようにできているのですから」

そう、ただそれだけのこと。本来は賢神にして善神でありながら、魔王の烙印を押されたクロア=バロンがいい例だろう。少なくとも現代においていうのなら彼が魔王の烙印を押された際、双方の主張において正しいのは彼のものであった。だがそれでもその他多くの神群は逆の主張をし、魔王の烙印を押し、現に魔王となった。

「彼女の罪状について、その全てはこれで終わりとします」

その言葉とともに、ユースティティアの手の天秤が傾いた。
傾いた。天秤である以上、次に行われるのは逆側へ釣り合う質量を乗せること。
一方へ乗せられたのは罪の総量。であればもう一方へ乗せる物は。

「続けて、罰を述べます」

そう、罰だ。釣り合うだけのそれをもって、その罪は真に雪がれる。
彼女の言に従うのなら、それを決める最大の権利を持つのは実際に彼女の主催者権限(ホストマスター)が初めて発動された時の被害者、串刺しにされ死んだ吸血鬼たちだろう。だが、それはもういない。
なら、次にそれを決められるのは。それだけの権利と責任能力を持つ者だけ。

例えば、白夜叉の身分の保証人となった仏門のように。
例えば、ジャックの決意を持って後見人となった聖人ペトロのように。
例えば、外界において逮捕から裁判、刑の執行を許された者たち、そのシステムのように。

そして、その行為。全裁判の功績を持ち、感情的成長の要素が極限まで薄くなっている正義の女神、ユースティティアは。その行為をする者として、最適である。なにせ、彼女の主張は正しい。絶対に正しくなるよう、そう制限され、束縛されてきたのだから。

「罪状への罰は、死です。死をもって罰の執行となる。ここに私は、そう判断します」

カタリ、と。天秤はその言葉を持って釣り合った。持ち主以上の公正さを表す機器が、その真実を告げた。

「ここに天秤は成りました。続けて、罰を執行します」
「なっ・・・!?」

目隠しは外れ、天秤はしまわれ、剣を持って立ち上がる。その(かん)にレティシアは何もない場所から現れた鎖によって縛られ、封じられている。あとは剣でもって罰を下すだけ。そして、女神にその行為へのためらいはない。当然だ。そうあるよう、縛られている。
だから。それに抵抗することが出来たのは。ここまでをその唐突さから見ていることしかできなかった。また、その罰が『死』だとは考えていなかった、彼女の同士である。

「ざっけんな、クソ女神!」

逆廻十六夜の足が女神の側頭部へ当たり、壁を突き破ってその者を部屋から叩きだす。

「黒ウサギ!ヤツの主催者権限に対して審判権限は使えるか!?」
「へ、ちょ、十六夜さん、」
「いいから早く答えろ!このままだと、レティシアが死ぬぞ!」

その言葉で、未だに動けずにいた三人は状況を理解する。彼の言うとおり、このままであれば確実にレティシアを殺される。それは許されない。
だが、リーダーのいない場でこれほどの女神に喧嘩を売って大丈夫なのかと、一瞬の思考。が、その結果はすぐに出た。そして、それはその結論をとうに出していた十六夜と全く同じ。

一つ、一輝がこの場にいたとしたら、理由は異なったとしてもこの女神に敵対している。
二つ、そもそもアイツもさんざん迷惑をかけてきているのだ。早速できたコネを使ってギリシア神話に頭を下げてこさせればいい。
以上、問題なし!

「不可能です!黒ウサギの審判権限は『魔王へ対抗する』ための手段!相手が絶対の正義としてある以上、発動することは不可能です!」
「了解。んじゃ臨時リーダーとして決めるぞ。時間はないから文句は無しだ」

ギフトカードから黒のロングコートをはじめとする各種装備を取り出し身に着けながら、方針を決定する。

「黒ウサギ、今の音でさすがにガキどもが混乱してるはずだ。そいつらを落ち着かせて避難。求道丸とかグリーとかにも手伝わせろ。飛鳥はアルマとディーンつかってその護衛。何が飛んでくか分からねえ。避難先は“サウザンドアイス”の蛟劉のとこ」

事態はそれなりに大きい。万が一に備え、前もって階層支配者をこちら側につけるか、そうでなくとも事情だけは知らせておくべきだ。

「んで、俺と耀でアイツを・・・」

言うべきか、一瞬悩んだ。だが、先日決めたところだ。
逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀。この三名でいずれ、鬼道一輝を倒すのだと。
であれば、この程度は乗り越えてもらわなければ困る。この行為程度は、受け入れられなければならない。
レティシアを縛る鎖を力づくで破壊、狙われている以上は残すわけにもいかないため気絶させてから黒ウサギへ投げつけ、その言葉を告げる。

「アイツを、殺す」
『了解!』

飛鳥と黒ウサギは、応接間をでて廊下を走る。何かあったと子供たちが察したのなら、その場で混乱するか、冷静に避難するか、頼れる者の元へ向かうか。であれば廊下を通って向かうのがベスト。
そして、十六夜と耀は。先ほど開いた大穴から飛び降りる。汚い話、一輝のポケットマネーを含めればもう一回建物を立て直すくらいは余裕で出来る。避難さえ終われば、本拠内で暴れることに躊躇う必要はない。

「・・・同士をかばう気持ちは分かります。故に、それを悪だとはしません。これ以降の抵抗についても、それは同様です」
「へぇ、そいつはありがたいね。だが、あまりにも緩すぎないか、女神サマ?」
「貴方の国でもあったと思います。自らの手で自らの罪の証拠を消すことは罪にならず、また親族が罪人をかくまうことも罪にはならない。(わたくし)にも、それなりに人情はあります」
「・・・だったら、見逃してくれてもいいと思うんだけど」

耀の提案に対して、女神は間髪入れずに否定した。

「それはできません。また、罪には問いませんが、抵抗するのであればある程度傷つくことは覚悟してください」

その言葉を合図とし。二人は不敬にも女神へと牙をむく。
 
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